ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
61 8.4項  データ分析 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-61
8.4  データ分析
[第1節]
 [第1文] 組織は、品質マネジメントシステムの適切性及び有効性を実証するため、また、品質マネジメントシステムの有効性の継続的な改善の可能性を評価するために適切な データ を明確にし、それらの データ を収集し、分析しなければならない。 
 [第2文] この中には、監視及び測定の結果から得られた データ 並びにそれ以外の該当する情報源からの データ を含めなければならない。 
[第2節] データ の分析によって、次の事項に関連する情報を提供しなければならない。
a) 顧客満足(8.2.1参照)
b) 製品要求事項への適合(8.2.4参照)
c) 予防処置の機会を得ることを含む、プロセス及び製品の、特性及び傾向(8.2.3及び8.2.4参照)
d) 供給者(7.4参照)
 
   
1.要旨
  『分析』は『監視及び測定』(8.2項)により検知した情報に基づく評価、判断の活動であり、情報検知と共に品質マネジメントの管理業務の基本要素である。本項では、品質マネジメントにおける判断や意思決定を関連する情報を分析した結果に基づいて行なうことの必要を規定し、効果的な品質マネジメントであるためにデータ分析が必須の事項を取り上げている。
 
  組織の存続発展に必要として品質方針及び組織の品質目標(5.3項)に決めた狙いの顧客満足を確実に実現させるために、品質マネジメントの各業務がそれぞれの狙いの結果を出しているかどうかの業務実行状況、及び、狙いの顧客満足が実現するか又はしているかどうかに関して検知した情報(8.2.1, 8.2.3, 8.2.4項)及びその他品質品マネジメントに関係する情報を分析し、評価する手はずを整え、手はずに則って正しい判断と意思決定をしなければならない
  
  
2. データ 分析 (背景及び関連事項)
(1) データ 分析
 本項は、品質管理活動への統計的手法の使用の必要を規定していた94年版の4.20項(統計的手法)を、すべての業務の実行管理における意思決定を科学的に行なうための「データ分析」の必要に拡大された。規格執筆者のひとり(21ak)は、94年版の予防処置に関して「原因を検出し、分析し、除去する…」と記述されていただけの「分析」が、品質マネジメントシステムの有効性の判断や改善の余地の特定を目的とする「データ分析」に拡大されたと説明している。 この「データ分析」は、品質マネジメントのプロセスアプローチ/PDCAサイクルの管理/Cと継続的改善/Aとの間をつなぐ活動であり、監視測定などで得た情報から問題を抽出して、必要な対応処置に結びつける機能を果たす。この対応処置は規格では、修正処置#40、是正処置#41、予防処置#41である。
  
  『データ(data)』は事実の発見や判断のために使用される情報のことであり(101)、 規格では データ 分析に供される情報のことである。『分析』はTC176指針では「複雑な何かを種々の単純要素に分解すること」(6)である。 すなわち規格の「データ 分析」は、関連する種々の情報の中から物事の本質、事実、真の姿を探し出す活動である。何事であれ判断や決定、つまり、意思決定が正しく効果的なものであるためには、データ 分析で見出した正しい事実に基づいて行なわれなければならない。ISO9001の要求事項の基礎を構成する「品質マネジメントの原則」は、事実に基づいた意思決定の必要を明確にし、これに関して「効果的な決定は データや情報の分析に基づいたものでなければならない」と「データ分析」の意義を明確にし(131b)、指針規格(132p)では、経験と直感を踏まえた筋道の通った分析の大切さが強調されている。 データ分析の必要の規定は実質的に、物事を正しい事実に基づいて判断することの必要を指し、単なる勘や直感により誤った事実認識や判断に陥ることを戒めるものである。
 
(2) 統計的手法
  94年版(4.20)の統計的手法の使用を必要とする規定は、世界最初の品質保証規格とされるMil-Q-9858規格に遡ることが出来る。これが以降の欧米の品質保証規格に受継がれて、ISO9001にも織り込まれたものと思われる。 すなわち、Mil-Q-9858A規格では、「製造管理」の規定の中に「統計的品質管理及び分析」を標題とする条項があった。この規格制定当時(1959年)の米国では、品質不良の発生を防ぐ品質管理の考え方や統計的手法が発展の途次にあり、兵器購入者の国防省が供給者に不良品を納入させないためにこの最新の科学的品質管理の実行を求めたのであろう。
 
  ISO9001の初版と94年版(4.20)では、統計的手法使用の目的を「工程能力及び製品特性の水準の明確化とその管理、検証」と規定していた。これは不適合の防止のために統計的手法を使用するということであるから、Mil-Q-9858A規格の考えと同じである。しかし、94年版でも要求事項適用の指針を示す規格(138g)では、「近代的統計的手法が組織の業務のどの観点からの管理にも重要である」と、品質管理の手法に留まらない統計的手法の意義を認めている。この指針では、統計的手法を適用できる分野として、工程能力調査や抜取り検査などの他に、市場分析、製品設計、設備保全への適用の可能性を挙げており、品質管理で生まれ発達したPDCAサイクルの考え方や統計的手法が他の分野にも拡がっていく様子を読み取ることができる。更に、同指針は、統計的手法の適用分野として「データ分析、実績評価と不適合原因分析」も挙げており、諸情報を分析して物事の本質や真実を抽出する普遍的な手法としての適用にも触れている。
 
  00年版では、統計的手法の役割は、ばらつきの概念を基礎とする問題解決と改善に寄与することである(131p)と位置づけられている。 製品実現の工程の業務に限らずすべての業務実行と結果にはばらつきがある。 統計的手法は、このばらつきの性格、程度、原因を明確にし、特定の原因がもたらす問題を解決し、又は、もたらす可能性のある問題を予防することに役立つ。00年版では統計的手法は、品質マネジメントのすべての業務と結果の問題解決にも適用できる効果的な情報分析の手法と位置づけられている。
 
 
3.規格要求事項の真意  
(1) 組織は、品質マネジメントシステムの適切性及び有効性を実証するため、また、品質マネジメントシステムの有効性の継続的な改善の可能性を評価するために適切な データ を明確にし、それらの データ を収集し、分析しなければならな い。
                                                                      [第1節][第1文]
   『品質マネジメントシステムの適切性及び有効性』は5.6.1項の『品質マネジメントシステムが引き続き、適切、妥当かつ有効である…』や8.1 b)項の『品質マネジメントシステムの適合性』と同じことであり、規格に少なからず見られる条文表記の不統一である。ここにJIS和訳『適切』は適当$24、『妥当』は十分$23という意味である。趣旨は、品質マネジメントの実績とその結果である品質マネジメントシステムの現状が事業維持発展に必要な顧客満足の実現という観点から「適当か、十分か、効果的か」を判断することである。つまり、品質マネジメントの業績管理とその基になる日常業務管理における情報評価と判断のことである。
 
  規格の『改善』は、業務実行又は結果に問題がある場合に対応処置をとって問題解決することを意味する。この対応処置は規格では『是正処置』(8.5.2項)又は『予防処置』(8.5.3項)である。これを品質マネジメントのプロセスアプローチ/PDCAサイクルの繰り返しによって繰り返し行なうことが『継続的改善』である(8.5.1項)。JIS和訳『評価する』の英文は“evaluate”であるから、評価して判断するという意味$69であり、意思決定をすることである。また、英文を率直に和訳すると「どこに、どの点で品質マネジメントシステムの有効性の改善があり得るのかを評価し、判断する」であり$70、5.6.1項の『品質マネジメントシステムの改善の機会の評価』と同じ意味である。つまり、品質マネジメントの業績管理とその基になる日常業務管理における情報評価と判断によって、狙いの顧客満足の実現又はそのための狙いの業務結果が出ない、或いは、出ない可能性がある場合にはどこに問題があるのかを見つけるという意味である。
 
  『適切なデータ』は適当な$45情報という意味であるから、条文の趣旨は、業務実行管理及び品質マネジメントの業績管理において、狙いの顧客満足の実現に向けて業務が所定の通りに実行され、所定の結果が出ているかどうか、また、それら業務の総合的な結果として品質方針及び組織の品質目標(5.3)項)に表された狙いの顧客満足が実現しているかどうか、更に、そうでなければどこに問題があるのかを正しく評価、判断するために必要な情報を決めて、収集し、分析しなければならない。組織は、品質マネジメントシステムの計画の一環として、この データ 分析に利用する情報源、使用するデータ、それらデータの収集方法、及び、データ分析の方法を含む データ分析実行の手はずを整え、それに則って データ 分析を行なわなければならない。狙いの顧客満足を確実に実現させる効果的な品質マネジメントであるためには、データ分析は少なくともa)〜d)項の管理のために行なわなければならない。
   
(2) この中には、監視及び測定の結果から得られた データ 並びにそれ以外の該当する情報源からの データ を含めなければならない。                                                                         [第2文]
  データ 分析は、業務実行管理のための『監視及び測定』(8.2項)の結果の情報だけでなく、その他の関連情報源から得る情報をも対象としなければならない。監視及び測定の結果の情報とは、業務実行管理のための監視測定(8.2.1〜8.2.4項)で検知することが定められた情報であり、マネジメントレビューで評価するかことになっている顧客や供給者からの情報、また、競合他組織や市場、顧客動向、技術動向に関する情報など品質マネジメントに影響を及ぼす可能性のある変化(5.6.2 f)項)に関する情報含まれる。
JIS和訳『それ以外の該当する情報源』は原文に忠実には「その他の関係のある情報源」であり、組織の品質マネジメントに関係のある情報を発信し又はそこから情報を入手できる情報源のことである$26-2。 この情報源には、顧客との非公式接触、新聞報道、各種専門誌記事、同業者間情報などがあり、意図的、定常的に収集するのではなく随時、突発的に入手する情報のことであり、組織の事業を取り巻く環境に聞き耳をたてることと考えるのがよい。
   
(3) データ の分析によって、次の事項に関連する情報を提供しなければならない。                               [第2節]
  データ分析の程度は費用対効果の観点も入れて、必要に応じたものでよい。 しかし、a)〜d)項に関しては、必要な対応に関する意思決定が的確に行なわれるように、データ分析によって問題点と対応策を抽出しなければならない。 なぜこの4項目かということの説明は見当たらないが、どのような組織でもその必要な顧客満足の実現にとりわけ重要な意味をもつという観点で取り上げられていると受けとめるとよい。また、これら4項目に関する判断と意思決定が、収集した情報を一瞥するだけの単なる勘や思いつきで行なうことができる程に簡単なものではないことを示唆する規定であるとも受けとめられる。
  
  94年版では「工程管理」(4.9項d)に関連して、工程能力と製品特性の管理に対して統計的手法を適用することが効果的であると規定されていた(4.20.1項)。 この品質管理上の規定は00年版では、本項のb)、c)項に係わる データ 分析を必要とする規定に継承されている。

@ 顧客満足            [ a)項]
  8.2.1項(顧客満足)で収集する情報をそれぞれの狙いに目的に照らして データ分析し、個別の観点から及び総体として顧客満足の実績が狙いの通りであったか、事業維持発展のための必要を満たしてしるかどうかを明らかにし、実績における問題点、将来に顕在化する可能性のある問題点を抽出し、更に、各問題にどのように対応すべきかを明らかにしなければならない。 この データ分析の結果は、品質マネジメント の諸業務の実績の良否を総合的に表し、品質マネジメントシステム の有効性の程度を示す。 この情報は マネジメントレビュー の最も重要な情報(5.6.2 c)項)である。情報は、トップマネジメントが他の関連する情報と合わせて分析し、品質マネジメント上の対応に関する戦略を含む正しい意思決定を行なう(5.6.3項)ことができるような内容でなければならない。
 
A 製品要求事項への適合                   [ b)項]
  この「製品要求事項」は、製品実現の計画で定めた「製品の品質目標及び要求事項」(7.1 a)項)のことであり、「製品要求事項への適合」は、製品の合否判定で合格していることを意味している。 この データ 分析 は、不合格の発生を製品実現の計画で目標とした水準内に維持する品質管理の一環であり、日常的な活動である。 合否判定の記録(8.2.4項)が情報源である。 データ分析により、不合格の発生が所定の水準又は範囲を逸脱していると判断される場合は、いわゆる工程能力が不足しているか、或いは、所定外の要因が加わったか、既存要因の影響度が変化したかである。 データ 分析では、この原因を明確にし、製品実現の計画の変更、又は、要因の変動に対する是正処置などの対応処置など、問題解消のための必要な処置を明らかにしなければならない。品質管理の統計的手法は、この種の データ 分析の手法として開発され、発達してきた歴史があり、効果的な種々の手法がある。
  
B 予防処置の機会を得ることを含む、プロセス及び製品の特性及び傾向                       [ c)項]
  JIS和訳『予防処置の機会』は「予防処置の必要の可能性」であり$32-1、『予防処置の機会を得ることを含む』の英文は“including opportunities for preventive action”であるから、業務実績と製品品質の実態と傾向を予防処置が必要となるかどうかの観点を含めて『プロセス及び製品の特性及び傾向』のデータを分析するという意味である。
  
 日常業務管理においては、要因とその影響度の意図しない変動によって業務実行のばらつきや結果の出来ばえ、製品の品質が変化する可能性がある場合は、その変化を管理するために、関連する工程業務の実績と製品の特性の時系列的変化とその傾向に関して データ 分析をしなければならない。この データ 分析は、それら業務実績と製品品質の水準を管理することが目的である。この管理では、これら水準が管理限界を逸脱すれば、それを正す処置をとり、水準の変化の傾向から将来に狙いの顧客満足の実現に支障となる問題が起きる可能性を抽出し、その変化の原因を特定して、問題を起こさないように処置をとることが必要である。問題の未然発生防止の処置が規格の『予防処置』(8.5.3項)である#41-2。
 
 このデータ分析には、特性値の変化が単なるデータのばらつきかの反映か、要因の変動の結果かを判別する手法としての管理図法など統計的品質管理の手法がよく用いられる。
 
C 供給者                                        [ d)項]
  組織の製品の一部となる原料、部品、半製品、製品などを外部から購買する場合は、また、組織の製品に影響する業務、例えば設備機能保全、計測器保守、製品試験など、を外部に委託する場合は、組織が必要とする購買製品・サービスを間違いなく供給者から受け取ることができるよう、供給者と製品・サービスを管理しなければならない(7.3.1項)。 この管理の一環として、供給者が個別又は全体として、組織の必要を満たす能力を有しているかどうかを定期的に評価することが必要である(7.3.1項)。 この評価による問題点の抽出と必要な対応処置を明らかにするために、組織は供給者と供給された製品に関する情報を収集し、データ 分析を行うことが必要である。
  
 データ分析の結果の情報は、必要な対応処置の要求と共に個々の供給者に伝え、所定の製品・サービスが確実に供給される状況の強化に資さしめる。これは、個別の不良に対してとられた対応処置とは異なる観点の是正処置、予防処置である。供給者の能力と実績の組織全体としての問題と対応処置については、マネジメントレビューに供され(5.6.2 c)項)、 必要なら購買戦略や購買施策としての判断と決定(5.6.3 c)項)が行なわれる。
 
 
4. データ分析の実務
(1) 分析
 組織のマネジメントの中の業務実行管理とは実質的に、業務実行と結果の問題点を抽出して必要な対応をとることである。 例えば、問題点が経営上の事項なら経営課題であり、対応は経営方針や経営目標に織り込まれ、製品実現の問題点を抽出する品質管理活動における対応は不良品の処置や再発防止対策などである。 どんな場合も、問題点を抽出するには情報を収集し、分析することが必要である。 必要な対応を決めることはしばしば「意思決定」と呼ばれる。 情報収集と意思決定は管理者の業務の主要な一部であり、「データ分析」は管理者に不可欠な技量である。
 
 業務の実行と結果には不確定要素があり、ばらつきがある。 ひとつひとつの情報はそれぞれの問題を断片を表すに過ぎない。 ひとつの情報がひとつの事実を正確に表しているとしても、それが日々に繰返し行なわれる業務の実態を正しく写しているとは限らない。収集する情報を増やすと一般には、各情報の表す事実は同じではなく、相互に正反対の事実を表す情報もある。その情報自体は正しくとも、ひとつの情報から物事を判断するのは誤った意思決定に繋がる危険がある。問題に関連する様々の情報が表す様々な事実を総合して、ひとつの正しい事実を導き出すのが、データ 分析である。 情報はひとつであれ複数であれ「生データ」である。 データ 分析とは、「生データ」で以て物事を単純に、或いは勘で判断することを戒める言葉である。実務的には データ 分析とは、問題抽出の方法論ではなく、証拠で裏付けられた事実に依拠する思考形態のことを指すとも言える。
 
 データ分析の方法には、特定の統計的手法を用いる方法の他に、パレート 図や ヒストグラム などの形式で データ を処理する方法、或いは、関連する データ の一覧表から問題を読み取るなど様々である。 統計的手法はとりわけ情報の数が多い場合に使用することが効果的な データ分析のひとつである。 マネジメントレビュー で トップマネジメント が諸報告を総合して結論を出し、或いは、定例会議で業務実行に関する報告から問題を抽出するのも データ分析 のひとつの態様である。データ分析の必要な詳しさ、深さ、正確さ、或いは、定性的か定量的かは、当該問題の性格と重要性によって異なり、それに応じた データ分析 の方法が適用される。
 
(2) 統計的手法
 00版では8.1項に、データ分析のために統計的手法の使用を検討すべきことが規定されているが、統計的手法そのものについてはどこにも明らかにされていない。94年版では指針規格#8に統計的手法として、@ 実験計画法と要因分析、A 分散分析と回帰分析、B 有意差検定、 C 管理図と累積分布関数、 D 統計的標本抽出法 が例示されていた。
 
 また、統計的手法の活用に効果的な用具として、日本の品質管理活動では「QC7つ道具」「新QC7つ道具」の使用が推奨される。 前者は、@ パレート 図、 A 特性要因図、 B ヒストグラム、 C グラフ・管理図、 D チェックシート、 E 散布図、 F 層別で、数値データ の統計的処理が主体の中心の品質管理用である。 後者は、親和図法、連関図法、系統図法、マトリックス図法、マトリックス・データ 解析法、アロー・ダイヤグラム法、PDPC法であり、言語データ を取り扱い、全般に統計的手法の要素は希薄である。 後者は効果的な思考促進のための データ 処理の方法という性格が濃厚で、品質管理以外への適用も意図された手法である。
 
 
 
H23.11.7(H27.3.25)
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サニーヒルズ コンサルタント事務所