ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
64 8.5.3項  予防処置 実務の視点による
ISO9001:2000の解説(新版) 
35-02-64
8.5.3  予防処置
[第1節]
 [第1文]   組織は、起こり得る不適合が発生することを防止するために、その原因を除去する処置を決めなければならない。
 [第2文] 予防処置は、起こり得る問題の影響に応じたものでなければならない。
[第2節] 次の事項に関する要求事項を規定するために、“文書化された手順”を確立しなければならない。
a) 起こり得る不適合及びその原因の特定
b) 不適合の発生を予防するための処置の必要性の評価
c) 必要な処置の決定及び実施
d) とった処置の結果の記録(4.2.4参照)
e) とった予防処置の有効性の レビュー
 
 
1.要旨

  本項は8.5.2項と共に、品質マネジメントの業務実行における問題の解決のための処置としての『予防処置』の実行と、それが効果的であるための処置の実行と管理の要件を規定している。
 
  決められた通りに業務を行い決められた結果を確実に出すための業務実行管理の活動における業務実行と結果の監視測定(8.2項)によって、将来に決められた通りではない業務実行と結果又は製品が生じる可能性が検出された場合には、必要に応じてその発生を未然に防止する『予防処置』をとらなければならない。その予防処置が問題の発生の確実な防止という点で効果的であるためには、予防処置はa)〜e)項が含まれなければならない。予防処置の手順は文書に明確にし、手順の通りに是正処置を実行し管理しなければならない。
 
 
2. 背景 及び 関連事項
2-1. 是正処置と予防処置
(1) 不適合への対応処置
  規格では、発生した不適合の再発防止を図る処置は『是正処置』と呼ばれ、将来に起こることが予見される不適合の発生の未然防止を図る処置は『予防処置』と呼ばれる。94年版でも「製品、プロセス、品質システムに関する不適合」(4.1.2.1)に対して『是正処置』『予防処置』を行なうこと(4.14)が規定されていたが、事実上は不適合製品の発生と顧客への引渡しを防止する観点の処置として規定されていた。例えば、両処置の実行を検討する切掛として「顧客の苦情及び不適合報告書の効果的な取り扱い」(4.14.2 a))、「製品の品質に影響を与える工程及び作業、特別採用、監査結果、品質記録、サービス報告書及び顧客の苦情など適切な情報源の使用」(4.14.3 a))が規定されていた。
 
  08年版では、品質マネジメントの業務がそれぞれ決められた通りには実行されず、決められた通りの結果や決められた通りの製品が得られないことを無くするためにとる処置はすべて是正処置又は予防処置であり、苦情など品質マネジメントの一連の業務の総合的結果で実現を図る狙いの顧客満足の通りではない顧客の受け止め方を無くするためにとる処置も是正処置又は予防処置である。更に、マネジメント レビュー(5.6項)の結果で品質方針及び組織の品質目標(5.3項)を変更し、この実現のためにとる経営施策たる処置(5.6.3項)も「是正処置」か「予防処置」のいずれかである。経営戦略や経営施策が起きてしまった事情や状況に対応するものなら是正処置であり、将来に起き得る事情や状況に対応するものなら予防処置である。
 
  規格の是正処置、予防処置は、例えば次のような分けることができる。 これらは相互に重なり合った概念であり明確に区分できるような違いではないが、 @Aは通常の概念の是正処置、予防処置であり、AB は実務的には経営戦略や経営施策のことであるが、08年版ではこれらも是正処置、予防処置に位置づけられている。
 
@ 異常或いは事故: 業務実行や結果が所定の通りでなく、業務実行管理上あってはならない個々の事柄や状況。
   例えば、特定の苦情や特定の業務実行ミスの再発防止、特定の特性の水準の悪化傾向に鑑みての特定の異常発生の未然防止、
A 問題或いは問題点: @の異常も含み、放置すると業務の効果的実行に悪影響が及ぶ可能性がある事柄や状況。
  例えば、月別検査不良率の増大傾向への歯止め、危ぶまれる狙いの顧客満足の年度目標実現 への対応、他組織の事故に鑑みての類似問題発生の可能性検討
B 課題: 必要な顧客満足の狙いの維持と実現を図るために経営上取り組まなければならない事柄や状況。
  例えば、時代の変化に対応しての品質方針の変更、品質方針変更に伴って決めた経営施策、狙いの顧客満足の達成度の向上を図る経営施策
 
(2) 改善の処置
  08年版では、決められた通りに業務を行い決められた結果を確実に出すための業務実行管理の活動を、『監視及び測定』『分析』『改善』の3つの段階の活動に分割している(8.1項)。この内の『監視及び測定』は物事の状態、程度に関する情報を検知する活動であり、『分析』はこの情報を基準に照らして評価し、適否又は合否を判定する活動であるが、これにより所定の通りでない判定された業務実行と結果又は製品の再発防止を図る処置が是正処置で、このような問題を予見して発生を未然に防止する処置が予防処置である。両処置は、業務実行管理の活動の『改善』の段階の問題発生防止の処置であり、プロセスアプローチ/PDCAサイクルの継続的改善/Aに相当する。
 
  規格は4.1項で、品質マネジメントの各プロセスの実行を監視し、測定し、分析して(同 e)項)、『これらプロセスについて、計画とおりの結果を得るため、かつ、継続的改善を達成するために必要な処置をとる』(同f)項)ことを規定しているが、この『必要な処置』が是正処置又は予防処置であり、これら処置によって現存又は予見される支障或いは問題、課題を解決することが「改善」であり、この繰り返しが「継続的改善」である。 例えば「トップマネジメントは是正処置が改善の道具として使用されることを確実にすべきである」という説明(132r)もあるように、00年版では是正処置、予防処置をとることと、プロセスや製品の改善、或いは、品質マネジメントシステムの継続的改善とは同義語である。
 
 
2-2. 予防処置と修正
(1) 予防処置
  『予防処置』は起きることが予見される不適合を抽出してその発生を未然に防ぐ処置のことであり、問題が起きる前に処置をとって問題の発生を防ぐ問題の未然防止処置である。 これを規格は『起こり得る不適合又はその他の望ましくない起こり得る状況の原因を除去するようにとられる処置』と定義#41し、是正処置との違いをその『検出された不適合』を『起こり得る不適合』に変えて表現している。但し、例えば、管理図法による品質管理では、指標値が管理限界を逸脱した場合に実際の異常や事故の起きるのを防止する処置をとるが、この処置は通常は異常や事故の未然防止処置とは呼ばず、管理限界逸脱に対する再発防止処置と呼ぶ。また、規格の意図の予防処置は、問題の未然発生防止処置と言っても単に予見される問題の発生を防ぐ一過性の問題対応は含まず、その問題が将来にも二度と起きないことを確実にする処置である。日本語の「予防処置」も原文の“preventive action”も、一過性の問題対応を含む広い概念の問題の未然防止処置を意味するから、規格の予防処置が規格特有の用語、概念であると理解するのがよい。
 
  規格の『予防処置』は、その問題が将来にも二度と起きないことを確実にする処置であるから、この意味で『改善』の処置である。これを規格は用語の定義で、『不適合の原因を除去する』と表現している。実務においては、『予防処置』のつもりが修正処置に過ぎないことのないよう十分に注意しなければならない。 ただし、問題の原因の追求と原因を除去する方法は問題発生の可能性と発生防止の必要な程度に応じて適当なものとすることが大切である。
 
  是正処置では問題解決の方法が最も重要であるが、予防処置では将来に起きる可能性のある問題を抽出することがより重要である。 起きる可能性のある問題は、業務実行と結果の変動の日常的管理から、また、組織の業績及び市場動向の傾向の管理など時代の変化を読み取ること、更に、他組織に生じた深刻な事故や事態に鑑みての類似の問題の評価などから、それぞれ抽出することができる。 マネジメントレビュー(5.6項)は品質マネジメントの業績の定期的な総合検分であり、変化する事業環境及び組織の業務能力から予見される戦略的な問題を抽出することが重要な目的である。設計開発の適当な段階で行なわれる設計開発のレビュー(7.3.4)は、設計開発活動の現状を評価して将来に起きる問題を抽出し、所定の設計開発結果が得られるように設計開発活動を方向づける活動である。 効果的な「予防処置」を行なうには、管理すべき起き得る問題を明らかにし、その兆候を検出するための必要な情報の収集と分析、評価、判断の手順を確立することが必要である。
 
(2) 修正処置
 不適合には、一般に2種類の観点からの対応が必要である。 ひとつは、検出され或いは発生した不適合によって生じた、或いは、生じる可能性のある悪影響を除去又は緩和するように不適合を処理することである。これは規格では『不適合を除去する処置』と定義されるから、『修正処置』のことである#44。予防処置に関連しても予見される問題の発生を回避するための一過性の対応は修正処置であり、問題の原因を無くして二度と発生が予見される事態も生じないようにする処置が予防処置である。
規格では、発生した不適合製品(8.3項)、内部監査の指摘(8.2.2項)、業務実行状況の監視測定で検出した問題(8.2.3項)にのみ、修正処置をとる必要のあることを具体的に規定している。
 
 
3.規格要求事項の真意
  組織は、品質マネジメントのすべての業務が定められた通りに実行され、所定の結果が確実に得られるよう、業務実行を管理しなければならない。 この管理では、所定外の業務実行や結果が検出された場合(8.5.2項)だけでなく、そのようなことが将来に起きることのないよう、起き得る問題を予見して、『計画どおりの結果を得るため、かつ、継続的改善を達成するために必要な処置をとる』(4.1 f)項)ことが必要である。 このために組織は、品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)の一環として、予見される所定外の問題を未然に防止する対策処置のための手はずを、整えなければならない。 これには、どのような問題に対してどのような種類、性格の未然防止処置を適用するのかを明確にしておかなければならない。
 
  この問題発生の未然防止処置は規格では『予防処置』と呼ばれ、予防処置をとる活動は、品質マネジメントの各業務のプロセスアプローチ/PDCAサイクルの継続的改善/Aに相当する問題対応の活動であり、規格では『改善』の活動である。08年版の予防処置は、通常の日常業務実行管理上での異常や事故、或いは、問題や問題点の顕在化の未然防止対策だけでなく、時代の変化に対応しての品質方針の変更、品質方針変更に伴う経営施策、或いは、狙いの顧客満足の達成度の向上を図る経営施策などの経営戦略に係わる意思決定としての処置をも含む概念である。
 
  予防処置も 規格では『プロセス』であり、自身もプロセスアプローチ/PDCAサイクルに則って実行管理されなければならない。予防処置が効果的なものであることを確実にするためには、予防処置はa)〜e)項の要件を満たして実行され管理されなければならない。しかしそれら本項の規定は、実質的に94年版(4.14)の規定を継承しているので、日常業務実行上の予防処置以外の予防処置には、言葉通りに条文を解釈したり、その結果を機械的に適用することは必ずしも適当でない場合。 本項の規定が規格の概念の『予防処置』を効果的なものとするための要件であるとの観点から各規定の趣旨や狙いを汲み取って、それぞれの種類や性格の『是正処置』に応じた要件又は必要事項としてその実行管理の手順に反映させることが大切である。
 
(1) 組織は、起こり得る不適合が発生することを防止するために、その原因を除去する処置を決めなければならない。
                                                                                                         
[第1節 第1文]
  起きる可能性が予見される問題が実際に起きることを防ぐためには、その原因を除去する予防処置をとることが必要である。
  
(2) 予防処置は、起こり得る問題の影響に応じたものでなければならない。           [第2文]
  予防処置をとるかどうかやどの程度の処置をとるかは、問題発生の可能性の強さとその場合に被る可能性のある品質マネジメント上の損害、或いは、狙いの顧客満足実現に対する支障の深刻さで判断することが必要である。 「起こり得る問題の影響に応じたものでなければならない」は94年版(4.14.1)ではもう少しわかり易く、「問題の深刻さに見合う程度であり、予想される リスク に釣り合った程度でなければならない」と表現されていた(4.14.1項)。 問題の未然防止処置の内容を決めるに当たっては、当該問題の発生の可能性、発生した場合の影響や損失と、未然防止処置に必要な投資や費用、必要な手間、結果として生じる コスト増、他の事項への悪影響などとの均衡を考慮しなければならない。
  
(3) 次の事項に関する要求事項を規定するために、“文書化された手順”を確立しなければならない。   [第2節]
  条文の英文は「次の手順に関する必要事項を明確にした文書化された手順を確立する」の意味である$1-3-1。 a)〜f)項は効果的な予防処置であるために踏むべき手順が プロセスアプローチ(計画-実行-管理-継続的改善)又はPDCAサイクルの順に箇条書きで示されたものである。すなわち、a)〜c)項前半は是正処置の計画に係わる手順であり、c)項後半とe)項は実行、f)項は管理と継続的改善に係わる手順である。 それら各手順に関する必要事項とは、各手順の中に含まれ、明確にされなければならない事項という意味である。 必要事項とは例えば、具体的な作業やその方法、基準、責任者などであり、それを明確にしておかなければa)〜e)項の各手順が効果的に実行されることができないと考えられる事項のことである。
 
  予防処置には、品質マネジメント上の問題解決に係わるもの、日常業務における異常や事故の再発防止に係わるものなど、対応する問題に応じて種々の種類、性格の予防処置が存在し得る。どのような予防処置であってもそれが効果的で意図したように問題を解決することができるためには、a)〜e)項の手順のすべてが間違いなく踏まれなければならない。 組織は、これらa)〜e)項の各手順を具体的にどのようなものとする必要があるかを決めなければならない。そしてそれら手順が効果的に実行され管理されることを確実なものとする(4.2.1 c)項)ために、文書化しなければならない。
 
  a)〜e)項のすべての手順を一連のひとつの手順として定める必要はなく、それぞれが関連する業務の手順の中に別々に含めてもよい。 例えば、a)〜e)項の手順の中の承認や記録管理の責任は、各部門や管理者の責任権限の規定の中で包括的に明確にする文書化もあり、日常業務上の様々な異常や事故を扱う独立した手順書が策定されることもある。規格の意図は、すべての予防処置について必要なすべての手順が必要な程度に、しかし、抜けることなく、組織の文書のどこかに規定されているようにすることである。
  
(4) 起こり得る不適合及びその原因の特定   [ a)項]
  品質マネジメントのすべての業務が定められた通りに実行され、所定の結果が確実に得られるようにするためには、放置すると現実のものとなってしまう可能性のある問題を抽出し、予見することが必要である。このa)項は94年版(4.14.2 a))では『不適合の潜在的原因を検出し、分析し、除去するための適切な情報源の使用』として表現されていた。 そして、情報源としては『製品の品質に影響を与える工程及び作業、特別採用、監査結果、品質記録、サービス報告書及び顧客の苦情』が挙げられていた。予防処置は専ら製品の不良の未然防止の処置として取り扱われていたが、起き得る問題を抽出するための情報管理の必要性が明確に規定されていた。の記述がなくなった。
 
  00年版では『起こり得る不適合を特定する』との表現になり、すべての種類の異常や問題の未然防止処置となったが、業務実行と製品特性に生じる問題の未然防止のためのデータ分析の規定(8.4 c)項)があり、情報の収集と分析によって予防処置の必要が見出されるという予防処置の本質に変化のないことがわかる。
 
  効果的な未然防止処置のためには、放置すると起きてしまう可能性のある問題、つまり、未然防止処置をとる必要のある問題を明確にし、その原因に係わる事項に関する情報を監視測定することが必要である。問題の予見を抜け落ちることのないようにするために、それぞれの異常や問題の未然抽出に必要な情報の収集と分析、評価、判断の手順と責任分担の明確化が不可欠である。品質管理で用いられる管理図法は、業務実行と製品の情報から問題が起きる可能性を統計的に判断する手法である。
 
  原因の追求の深さはとるべき未然防止処置の程度に見合ったものでよい。問題が起きる可能性の評価と原因の判断は、データに基づいた客観的なものでなければならない。監視測定して得たデータの評価に加えて、場合によっては別の試験、試行、試作、シミュレーション、統計分析などによる評価が必要になる。未然防止処置の場合は、原因の方が起き得る問題より先に抽出されることもある。例えば、問題に係わる要因の変動の監視測定をし、その変動から起き得る問題を推定する場合などである。足の長い製品に起き得る異常はその工程条件実績の傾向から判断され、現行製品への将来の顧客満足の低下は市場における顧客のニーズと期待の変化を把握することから予見される。
  
(5) 不適合の発生を予防するための処置の必要性の評価     [ b)項]
  この英文は「不適合の発生を防止する処置が必要かどうかを判断する」という意味である$73-1。すなわち、組織は予見される問題と原因に鑑みて、何らかの問題発生の防止処置をとる必要があるかどうかを評価し、判断しなければならない。これは、必要な未然防止処置が抜けなく行なわれるために、また、発生の恐れのない又は可能性の小さい問題や発生しても影響の小さい問題に無駄な処置をとることを避けるために欠かせない手順である。 この評価と判断の責任者、判断の承認に必要な手続きなど、間違いない判断が行なわれることを確実にするための観点から必要な事項を手順に織り込まなければならない。
 
  放っておいても発生する恐れのない不適合には例えば、品質管理における統計的に有意でない製品特性の許容範囲を逸脱する見掛けの変動や、他組織で生じた問題や状況と同じ原因があるが、関係する諸要因が管理されている場合などである。 再発しても影響の小さい問題への対応は対策処置の費用との均衡が再発防止処置の必要性の判断の要素となり、特に、品質マネジメント上の戦略的な課題対応には、費用対効果の関係や他の課題や問題との優先順位が重要な判断材料となることがある。
  
(6) 必要な処置の決定及び実施     [ c)項]
  『必要な処置』とは文脈から未然防止のために必要な処置である。 上記(5)で問題の発生が見込まれ、その防止処置が必要と判断された問題については、必要な未然防止の処置を決め、実行に移さなければならない。必要で十分な未然防止処置が時宜を得て確実に実行されるという観点から、未然防止処置の決定と承認、及び、その実行の責任など必要な事項を手順に含めなければならない。
 
  未然防止処置の内容もつまるところ、業務の改善、資源の改善又は製品の改善である。 これは手順と使用する資源の変更であり、実際的には手順書の改訂、設備の新設や改造、製品の設計開発、供給者の変更、要員の教育訓練の実施などであり、品質方針と品質目標の変更を伴うこともある。「必要な処置」は、上記(1)のように不適合の影響に見合った程度に問題の発生を防止できる処置でなければならない。
 
  未然防止処置の決定と承認は、その処置によって問題の原因がなくなり、問題が発生することはないということが確かめられた上で行なわれなければならない。これは何らかの方法で処置の予想される結果を評価し、その客観的証拠に基づいての判断でなければならない。この判断のためには、例えば、試験的または仮に処置をとり、或いは、シミュレーション、過去の実績との机上比較を行い、製品特性の試験や製品の検査、データ収集、手順実行状況と結果の観察、関係者の見解聴取、討議で出された意見などの情報を得て、データ分析することも必要である。 問題の発生防止ができるということを確かめ、判断する方法は当該問題の発生防止の重要性に応じても異なるが、例えば次のような方法が考えられる。
 
@ 購入原料の特定不純物の水準の変化による製品特性の許容範囲逸脱の可能性に対する未然防止処置では、不純物含有率と製品特性の関係を調査し、製品特性の水準が元に戻るような不純物含有率の管理基準を設定する。
A 他組織で露見した手順遵守不徹底の職場風土に起因する品質不祥事に照らして行なう未然防止処置では、同様の重要手順の遵守管理の実態を特別チームで監査し、監査証拠により問題の有無を評価し、結論として期間社員の職務責任拡大の場合の手順遵守の危うさを予見する。これを受けて未然防止処置として期間社員採用時の手順教育の強化と重要手順実行を記録させる仕組みを当該部門責任者が決め、監査チームが有効性を評価する。
B 見込まれる同一年代要員の一斉退職による職場の職務遂行力不足に対する未然防止処置は、欠員充足計画と要員の教育訓練計画及び設備自動化計画であり、これが適切であることは責任者又は関係者が評価し判断する。
C 年々進む顧客層の変化により将来に魅力を失うことが予見される特定製品に関する未然防止処置は、製品のデザインの変更であり、この判断の適切さと新顧客層のニーズと期待を満たす新デザインを責任者又は関係者が検討する。検討には必要により市場調査や製品模型のモニター調査や販売店意見を採り入れ、重要製品なら経営者が最終判断する。
  
(7) とった処置の結果の記録    [ d)項]
  この記録は上記(6)の未然防止処置を実行に移す手順の次の手順として規定されているので、実行に移した未然防止処置たる業務と手順の実際の実行の結果を表す データ の記録であると受けとめられる。未然防止処置を実行に移した後には、その実行結果を監視測定しなければならない。この データ は、次の(8)の未然防止処置の実行管理に用いられる(21am)。 また、事後に実際に問題が発生した場合の原因追求のために、この データ の記録を維持しなければならない。
 
  事後に必要となるかもしれない種々の観点からの未然防止処置の評価には、上記(4)(5)の調査や原因特定の記録、上記(6)の未然防止処置の決定と承認の記録、更には、下記(8)の未然防止処置の実行管理の記録など、未然防止処置に係わる一連の記録が必要となる可能性が高い。予防処置に係わる手順には、事後に必要となるであろう一連の情報が必要な時に利用できるよう、記録の作成と維持管理に関する責任などの必要な事項を含めなければならない。
 
(8) とった予防処置の有効性の レビュー     [ e)項]
  00年版では『予防処置において実施した活動のレビュー』と和訳されていたが、英文では「とった予防処置のレビュー」であった$74。 この「レビュー」の原文は“review”であり、それでよいかどうかを再評価するという意味である$3。 この「とった予防処置の レビュー」は94年版(4.14.3 d))の『予防処置が効果的であることを確実にするための管理を適用する』に相当する手順であり、とった未然防止処置により問題が狙いの通りに発生することのないように、その処置の実行を管理することである。 00年版では予防処置の実行管理を プロセスアプローチ/PDCAサイクル(計画/P-履行/D-管理/C-継続的改善/A)の管理と継続的改善に関係する規格用語である「レビュー」を用いて表現している。予防処置に係わる手順には、とった未然防止処置が効果的なものであることを確実にするための管理に関する必要事項を含めておかなければならない。
 
  未然防止処置の実行管理では、未然防止処置として定めた業務や手順が定められたように実行され、その結果が狙いの通りであるかを監視測定し、必要によりその情報を データ分析して、所定外の結果が検出されれば、問題として表面化する前に未然防止処置としての業務や手順又はその実行を正さなければならない。「とった予防処置の レビュー」は、規格では「予防処置」というプロセスの「プロセスの監視及び測定」 (8.2.3項)活動に相当する。 同項のプロセスの監視測定の要件に照らすと、「予防処置」たる未然防止処置の監視測定の方法や方式は、様々な種類、性格のそれぞれの未然防止処置の目的と問題発生の重要性に合った「適当な方法」でなければならない。 また、そのような方法の監視測定で検知する情報は、未然防止処置として必要な狙いの業務結果が確実に出るのかどうかを判断できるようなものでなければならない。更に、業務結果に問題があり、問題が実際に発生する可能性が考えられるなら、その未然防止処置としての業務や手順に対して必要な「修正処置」「是正処置」をとらなければならない。
 
  未然防止処置として必要な狙いの業務結果とは、そのような結果であるなら当該問題の原因をなくすることができたと判断され、従って、将来的に問題が発生することはないだろうと判断することができるような業務や手順の実行結果のことである。 これは、上記 (5)の未然発防止処置としての決定の際に、その業務や手順によって問題を発生させることがないと、どのように評価し判断したかに関係する。すなわち、「とった予防処置のレビュー」たる未然防止処置の実行管理では、上記(6)の処置の実行結果のデータを、未然防止処置として有効であることを判断した上記(5)のデータ と照合し評価することによって、実行されている未然防止処置によってその後に問題が発生することはないであろうことを確かめることができる。 この「とった予防処置のレビュー」の方法の例には、つぎのようなものが考えられる。
 
@ 予見される製品特性の許容範囲逸脱の未然防止処置は、購入原料の不純物含有率の管理基準の設定であり、これにより監視測定する製品特性の水準が狙いの方向に復帰していることを確かめる。必要により原料が管理基準を満たす状況をも確かめる。製品特性の水準が回復しない場合は管理基準の見直しをする。
A 他組織の手順遵守不徹底の職場風土に照らした特別な内部監査の結果の未然防止処置は、期間社員採用時の手順教育の強化と重要手順実行を記録させる仕組みの確立であり、新採用社員に対する新教育が狙い通りに実行され、所定の記録が適切につけられていることを、責任者が実行状況の検分、関係する記録の確認、担当者や要員への聞き取りにより確かめる。
B 見込まれる職場の職務遂行力不足に対する欠員充足計画と要員の教育訓練計画及び設備自動化計画という未然防止処置は、規格の人的資源充足活動(6.2.2項)に相当し、規格の要件に則って各計画を実行管理し、結果が各計画の狙いを満たすものであることを責任者又は関係者が確かめる。
C 予見される顧客層の変化による特定製品の将来の売れ行き不振に対する未然防止処置は新デザイン製品の設計開発であり、設計開発活動を規格の要件(7.3項)を満たして行い、製品が狙いのデザインであることを確かめる。この評価には必要により、試験販売、モニター調査、アンテナショップ展示、販売店意見聴取などによる市場の評価を含める。結果に問題が生じることのないよう、設計開発活動の途中結果は適切な段階で「設計開発のレビュー」に供される(7.3.7項)。
 
  ところで、規格は『レビュー』を「対象事項がその所定の目標の達成という観点で適当か、十分か、又は、有効かを判定するために行なわれる活動」と定義している#23。 この定義による『とった予防処置のレビュー』では、当該未然防止処置が問題の発生防止という狙いに対して有効であるかどうかだけではなく、適当か、及び、十分かの観点をも加えた、品質マネジメントの業務としての総合的評価を行なうことが必要である。 すなわち、どのような処置であっても再発防止として新たな処置をとることは一般に、コスト や能率に悪い影響を及ぼし、或いは、別の不具合や業務実行上の支障を発生させ又はそれらを助長することに繋がり兼ねない。問題再発防止に意を注ぐ余りに、過剰な処置になることも多い。未然防止処置は「不適合の原因を除去する処置」であるだけでなく「起こり得る問題の影響に応じたもの」でなければならない。 未然防止処置の実行管理は正確には、各問題の未然防止処置を問題の発生を防ぐ処置として有効である上に、適当で十分であることを確実にする管理である。
 
  なお、00年版の『予防処置のレビュー』が08年版で『予防処置の有効性のレビュー』に改訂されたが、この変更は、04年版ISO14001の規定の記述に倣ったものであり、規格の意図の変更ではないとされている。 これについて改訂作業の関係者(32)は、元々『レビュー』には有効性を評価することを含んでおり、『有効性』という語句を挿入しても新たな要件を追加することにならないと判断して変更したと説明している。 従って、08年版の『有効性』は、『レビュー』の定義#23のように適当、十分、有効の3つの観点を総合した「有効性」であると解するのがよい。
 
  『とった予防処置の有効性のレビュー』は、予見した問題を実際に発生させないための管理である。繰返し製造の製品の苦情や日常業務上の問題の未然防止処置なら日常的な「レビュー」が必要であり、狙いの業務結果が出ていない場合は問題が実際に発生してしまわないように速やかにその未然防止処置を見直さなければならない。品質マネジメント上の戦略的な未然防止処置なら一般に、一定期間後の体系的レビューがよい。 未然防止処置の実行管理は、その処置により以降も問題発生はないだろうということが客観的に判断されるまでの間だけ続けられる。 一定の売上高や苦情発生率など、未然防止処置によって実現を図る目標が別に設定されている場合は、この実現の見通しが明確になるまで未然防止処置の実行は管理される。実務における未然防止処置の実行管理は、それぞれの未然防止処置に関しては暫定的な、特別の業務である。
 
  未然防止処置としての管理が終わった後には、未然防止処置として定められた業務や手順は、品質マネジメントシステムの通常の業務やその手はずのひとつとなり、監視及び測定」(8.2項)などそれぞれ所定の方式により管理されることになる。特別な管理が終わったのちの一連の未然防止処置は、品質マネジメント全体の業績のひとつの指標として評価に供されることが必要である。 未然防止処置は必要な顧客満足を実現する組織の業務能力を向上させる改善の処置である。 品質マネジメントの活動の中でどのような未然防止処置がとられ、問題や悪影響がどのように効果的に解消し又は抑制でき、品質マネジメントシステムの改善にどのように寄与したかの観点からの一連の未然防止処置を評価することが大切である。規格はこのような「とった予防処置のレビュー」を マネジメントレビューが対象とするべき事項のひとつと位置づけている(5.6.2 d)項)。トップマネジメントは、重要な未然防止処置は1件毎に、その他は一定期間内の各種の未然防止処置をそれぞれ全体として、適当、十分、有効の観点から評価しなければならない。
 
 
 
H27.4.5
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サニーヒルズ コンサルタント事務所