ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
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42   スキル評価表と力量の明確化  −無意味な形式  <36-01-42>
1. スキル評価
  ISO9001:6.2項(人的資源)の要求事項に関連して、TPMの設備保全要員や生産現場の要員の人材育成管理で使用される”スキル評価”の手法が多くの組織で採り入れられている。ここで使用される”スキル評価表”は直接には同6.2.2 a)項の「要員に必要な力量を明確にする」への対応であるが、審査ではこの”スキル評価表”の運用と教育訓練の記録を示せば「要員は力量があること」をはじめ6.2項のすべての要求事項を満たすとみなされる。

 
2. 力量
  規格の「力量がある」は原英語ではcompetentであるから、「(何かを行うために)不可欠な又は適切な能力がある」(1)、「何かを首尾よく又は必要な程度に行うのに十分な技能、知識を持っている」(2)の意味である。そして、「力量(competence)」はそのような能力(2)とか、そのような状態であること(1)を意味する。この「何か」とは規格では「製品品質に影響がある仕事」であり、個々の要員に命じ、委ねた業務、つまり、職務のことであるから、「力量」とは職務遂行力(4)のことである。規格では各要員に特定の業務を与えることを「責任及び権限を定める」(5.5.1項)と言うので、「力量」は各要員に定められた責任及び権限、つまり職責を全うする能力のことだとも言える。
 
  この力量の有無は「(学校)教育、(組織内での)教育訓練、(特別な)技能及び経験(職務経歴)」(6.2.1項)を基準として判断すればよい。職務遂行力があるとは、ある要員がその職務を所定の手順に則って実行し、所定の結果を出すことができるという意味だが、規格ではそれが上の4つの事実によって裏付けられる(demonstrated)場合に「力量がある」と言う。
 
 
3. 資源マネジメント
  6章は「資源マネジメント*」の要求事項を規定している。適切な資源なくしては品質マネジメントシステム は機能しない(6)。 品質マネジメントシステム を目的通りに機能させるには「必要な資源が何であるかを決定し、使用できる状態とする*」(6.1項)ことが必要であり、6.2項では資源としての要員に関して力量と認識という2つ概念を提起している。そして、品質マネジメントシステム を機能させる、つまり、不良品を発生させず、また、顧客満足向上を図る上で必要な力量を組織内で充足させておくためのPDCAサイクルを規定したのが 6.2.1 a)〜c)項である。
 
 
4. 力量確保の管理
(1) 必要な力量の決定
  組織は品質マネジメントの実行を含む効果的で効率的な事業の推進に必要な力量を常に確保しておかなければならず、このためには現在に必要な力量及び将来に必要になるだろう力量を現状と比較(ISO9004;6.2.2.1項)し、今よりどのような種類のどのような水準の力量が必要になるかを分析して、組織に、各職場に、時には特定の要員に不足する力量或いは必要な力量ないし力量ニーズを決定しなければならない。これが6.2.1 a)項の「必要な力量の決定*」である。
 
(2) 力量が不足する要因
  このように力量が不足となる要因には、事業戦略や事業計画に伴う将来の力量の必要、要員の異動や退職に伴う力量の消失、事業の方法や設備の変化に伴う新たな業務に関する力量の必要、個々の要員の職務遂行実績から判明した不足している力量、要員の力量を規制する法改正に伴う新たな資格取得の必要などが考えられる(ISO9004;6.2.2.1項)。また、新人採用や職場異動に際してはそれら人々には力量が不足しており、規格が規定する是正処置(8.5.2項)、予防処置(8.5.3項)として、また内部監査(8.2.2項)の結果からも不足する力量が明確になることがある
力量の必要性は最終的には マネジメントレビューでの評価に供され、充足すべき力量とその方法は マネジメントレビューの結論に含まれなければならない(5.6.3 c)項)。
 
(3) 力量の充足
  不足する力量は教育訓練か採用など他の処置により充足し(同 b)項)、それを確実にするためにそれらの力量充足処置の有効性を評価し(同 c)項)、この結果は次の力量ニーズの決定に反映させる。このPDCAが規格の意図する力量確保の枠組みである。
 
 
5. 力量確保の管理としての”スキル評価”
(1) “スキル評価”とは
   ところで、一般の”スキル評価”では、職場単位に業務とそれを構成する作業の内容を分析して、職場の業務の遂行に必要な要素作業や要素技能を細分して取り出し、これらのひとつひとつに関する各要員の習熟度を3〜5段階に格付けする。これに基づいて各要員の育成計画が策定され、教育訓練などによって習熟度の向上が図られ、その結果は定期的に評価され各人の格付けが変更される。
 
(2) “スキル評価”の評価
  この”スキル評価”を6.2項の必要な力量の確保の要求事項に関連して適用することは的を得たこととは言い難い。第一に力量とは職務遂行力であり、規格でも「知識と技能を活用する証拠で裏付けられた(demonstrated)能力*」と定義(ISO9000;3.9.12)されているように、所定の業務を行う総合的な能力のことであるから、力量の要素に過ぎない知識と技能毎の習熟度を評価しても力量の評価にはならない。各要員に委託している職務つまり責任及び権限と無関係に、職場の業務の要素知識と技能の習熟度を表した”スキル評価表”では、各要員が与えられた業務に力量があることの証拠とならない。更に、”スキル評価”は現在の要員の能力の向上しか対象としておらず、規格の意図する幅広い力量ニーズを扱っていない。”スキル評価”は人材育成には役立つ手法であるのかもしれないが、力量確保の管理にはほとんど無力である。
 
   
6. 結論
   規格の6.2項は、要員の職務遂行力たる「力量」という概念を提示し、業務を委ねる各要員が必要な種類の必要な水準の力量をもっているようにしないと、品質マネジメント を効果的に行って不良品防止、顧客満足の向上を達成し市場競争に生き残ることはできないという経験的事実を指摘し、論理を明確にしたものである。そして、どのようにすれば必要な力量の確保を実現できるかということに関しては、力量の有無の判断基準(6.2.1項)、力量充足のPDCAサイクル(6.2.2 a)〜c)項)及び力量を充足した証拠の記録の維持(同 e)項)の3つの要件しか示していない。
 
   規格の規定は力量確保のための絶対的必要条件であって、それらを規格の要求と捉えてそれぞれに対応する何かを何らかの方法で行えばよいというものではない。多くの組織で“スキル評価表”と手順書改訂周知の教育記録を中心とする記録とを以て、6.2項の審査に堪えているが、規格の6.2項に関する論理や示唆や想いや、従って要求事項の意図、品質マネジメントの狙いの達成の観点では、無駄で無意味な形式であるに過ぎない。
 
   規格の論理と要求事項の意図を顧みず、ひたすら個々の要求事項の日本語に対応する形式を整備することで足れりとする。6.21 a)項のJIS和訳「必要な力量を明確にする」は原英文では、determine the necessary competence であるから、”スキル評価表”に表すのでなく、何が必要か決定することである。何のために「明確にする」必要があるのかを考えないで、誤訳をそのままに”スキル評価表”に明確にしたという規格要求対応型ISO取り組みの典型である。
 
   
引用文献( *印及び英語文献は筆者の和訳)
(1) Merriam-Webster’s Collegiate Dictionary
(2) Oxford Advanced Learner’s Dictionary
(3) 新村 出:広辞苑、岩波書店
(4) 安藤黎二次郎他:ISO9001ここがわからない、日科技連出版、2001.11; p.129
(5) TC176: ISO9001 for Small Businesses,ISO中央事務局、2002.6; p.81
(6) D.Hoyle: ISO9001 Handbook 4th Edition, Butterworth Heinemann; p.305
H18.7.4 
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