ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
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44  "有益な環境側面"の誤謬  −ISO14001導入で負う環境責任とは
 <36-01-44>
1. 有益な環境側面
   ISO14001 4.3.3項は、組織が“著しい環境側面”を決定することを規定している。日本の諸解説はこれに関連して“有益な環境側面”又は“良い環境側面”“プラスの環境側面”をとり上げることの大切さを強調し、登録審査でも普通この状況が確認される。ここに“有益な環境側面”として例示されるのは一般に、製品の省エネや長寿命化設計、また、エコ商品の開発など設計開発部門の活動、或いは、廃棄物再利用や分別回収の活動であるが、更にグリーン調達やエコ製品の販売、はたまた環境ボランティア活動や環境教育、禁煙運動までも“有益な環境側面”とするなど解説は多様である。
 
2. 解釈、取扱いの誤謬
   しかし、このような“有益な環境側面”の解釈や取扱いが、規格の意図に沿ったものとはとても考えられないし、ISO14001取組みを無意味な形式におとしめる無責任な規格解釈の典型でもある。
 
(1) ISO14001規格の意義の観点
   第一に、ISO14001の意義である。事業活動は人の生活を豊かにするのが目的ではあるが、本質的に天然資源の収奪であり環境破壊を伴う活動である。地球規模の視点に立つと、後者による環境への悪影響が前者の目的の達成を危うくするになりつつあるというのが世界の共通認識である。1991年、BCSD(持続可能な発展のための産業人会議)を通じて世界の経済人が国際規格の作成をISOに要請した(1)のは、経済発展と地球環境維持を両立させるための産業界の環境保全責任を明確にし、その果たし方についての世界共通の規範(2)を確立するためであった。ISO14001に定める組織の環境責任とは、事業に伴う環境影響をその利害関係者のニーズと期待に応じて、又、財務上、技術的に可能な限りに管理し、改善することである(規格序文)。ISO14001を実践する組織は世界万民の財産である地球環境に負った責任を果たす組織であると認められ、その故に社会の利害関係者から認められ、支持されて、人の生活を豊かにするという事業目的を達成し、事業を発展させる機会をもつことができる。このような狙いのISO14001に取組む組織の責任が“有害な環境側面”にあり、“有益な環境側面”は本筋でないことは明らかである。
 
(2) 汚染防止の活動との混同の観点
   第二に、例示される“有益な環境側面”の多くが“有害な環境側面”を改善する活動と同じである。例えば材料屑を原料として再使用する工程は、それ自体は環境に有益であるから“有益な環境側面”であろうが、実際には材料屑という廃棄物の削減対策として実施されているから、「継続的改善」(3.2項)の「汚染防止*」、つまり、「有害な環境影響を低減するために、あらゆる種類の汚染物質又は廃棄物質の生成、排出又は放出を回避、低減又は制御する、工程、操作、技法、材料、製品、サービス又はエネルギーを使用する活動*」(3.18項)である。「環境や社会に有益な影響を及ぼす活動」が“有益な環境側面”であるとして、このような有害な環境影響の改善の対策を含めるのなら、排水処理、排煙集塵、防音壁、排ガス浄化装置など公害対策がすべて“有益な環境側面”となってしまう。
 
(3) 付随する有害な環境側面の観点
  第三に、森林事業や水田農業、或いは、廃棄物処理業や資源再生業など、事業自体が森林保全や生態系保存、或いは、廃棄物の不法投棄や土壌、水質汚染の防止或いは天然資源の節約など、地球環境保全の要素を有するとして“有益な環境側面”に準え、売上拡大を図ることが環境改善であると説く解説もある。しかし、前者は過剰な伐採又は過剰な農薬使用という“有害な環境側面”と裏腹であり、後者も事業遂行にはエネルギー消費初めそれなりの“有害な環境側面”を有している。“有害な環境側面”を放置して“有益な環境側面”を強調しても利害関係者の理解も支持も得られない。
 
  事業活動による環境悪化が進むのは、環境対策が基本的にコストであり、それに見合う事業上の利益が得られないからである。ISO14001の規定する組織の環境責任とは、利益を損なっても資源を投入しても“有害な”環境影響を改善することである。事業が環境保全に資するとして売上拡大を図るのは事業戦略或いは営業管理の問題であり、ISO14001導入せずとも実行できる。因みにISO14001導入の目的として省エネルギーによる利益を挙げる考えも、同様に当を得たものでない。
 
(4) 環境影響の定義の観点
  第四に、環境教育や禁煙運動となると、規格の「環境影響」とは何も関係ないし、「環境側面」には当たらない。「環境影響」とは「組織の環境側面に起因する環境変化*」(3.7項)であり、「組織の事業活動をとりまくもの*」(3.5項)である「環境」と「係わり合いをもつ組織の活動、製品又はサービスの要素*」(3.6項)が「環境側面」である。影響や効果が組織内部にとどまる活動や製品、サービスには規格の「環境側面」は存在しない。
 
(5) 要求事項の条文の観点
  第五に、“有益な環境側面”という概念や表現は要求事項を定めるISO14001のどこにも存在しないし、付属書Aの利用の手引きにも登場しない。恐らくは「環境影響」の定義(3.7項)の「有益と有害によらず」という文言から出てきたものと思われるが、規格は「著しい環境影響をもつか、もち得る環境側面が著しい環境側面」と説明(3.6項 参考)するだけで、“有益な環境側面”の説明は一切ない。
   
   確かにISO14004にもこれをうかがわせる記述がある。すなわち、4.2.2項で「環境側面は有益か有害かを問わず環境に影響を与え得る」と説明し、環境影響の例として「原材料の消費又は再使用」を挙げている。また、実践の手引きのステップ3として、「現実の及び潜在的な、また、プラスの及びマイナスの環境影響を特定すること」と記述し、環境側面の例示に「製品の減容化のための改造」を含めている。しかしこれは、特定した環境側面(ISO14001 4.3.1 a)項)から著しい環境側面を決定する際(同 b)項)に、“有害でない”という意味で用いられる表現や概念に過ぎない。決定した著しい環境側面をどのように管理し或いは改善していくのかを考える場合の環境側面に関する概念ではない。実際、ISO14004の同項の著しい環境側面の特定やその改善に関する環境目的及び目標の項(4.2.5項)には“プラスの環境側面”の記述も例示もない。
 
   少なくとも、ISO14001が4.3.1項で、“有益な環境側面”を必ず特定しなければならないとの文面は存在しない。そして、“有益な環境側面”の情報を文書化しなければならないとか、文書化した最新の著しい環境側面の情報に“有益な環境側面”が含まれていなければならないとは書かれていない。規格条文からも“有益な環境側面”の特定や文書化が必要であるという考えは正しくない。
 
3. 規格導入で負う環境責任
  日本ではISO14001の意義が顧みられることはなく、全員参加の環境改善運動の仕組みとして規格条文に、業界権威に始まる様々な安易な解釈が行われ、規格の意図と無関係な形式が多く持ち込まれている。ISO14001への取り組みの多くは、地球環境への組織の責任を棚上げした登録証取得ゲームと化している。深刻化する地球環境の保全に対して組織に期待されている環境責任とは、諸解説の説くような“有益な環境側面”を一覧表に記載することではない。
 
 
引用文献  ( 文中の*印及び英語文献は筆者の和訳)
(1) 潟eクノファ:ISO14001シリーズ規格発行の背景、www.technofer.co.jp
(2) J.Cascio他: ISO14000ガイド、日本規格協会、1996.12.16; p.22
H18.12.30 
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