ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
45 内部監査の不適合はすべて是正処置が必要か
          −認証審査が強制するJIS和訳条文解釈

 <36-01-45>
(1) 内部監査の不適合と是正処置
   日本では、内部監査で発見された不適合のすべてに是正処置をとることが必要とする規格解釈が一般的である。しかし監査の規格ISO19001(1)では、監査員は収集した監査証拠を監査基準に対して評価して「適合又は不適合」の判断を下し、場合により「適合だが改善の余地がある点*」を指摘してもよいと規定されているだけである#1。最終会議#2の目的として「該当する場合には、被監査側の是正処置計画作成期限を承諾すること*」と是正処置に触れられているが、これを監査員がすべての不適合に是正処置を要求しなければならないと読むことはできない。 また、ISO9001、14001両規格とも発生した又は発見された不適合に対する是正処置のあり方を規定しており、内部監査の不適合に対する是正処置をも包含するはずであるが、不適合のすべてに是正処置を実施しなければならないとは書かれていない。むしろ、「発見された不適合のもつ影響に見合うものであること」(8.5.2項)、「問題の大きさ及び生じた環境影響に見合ったものであること」(4.5.3項)と、必要に応じて実施すべきことを明確にしているし、ISO9001では原因究明の後に是正処置が必要かどうかを評価しなければならない(8.5.2 c)項)ほどである。実際にも、組織で発生したクレームや社内不良、設備異常や作業異常のすべてに是正処置がとられている訳ではない。認証審査もこの状況を是認している。
 
(2) 内部監査 JIS和訳条文解釈
  それにもかかわらずなぜ内部監査の不適合だけは“指摘=是正処置”という解釈が広く鵜呑みにされるのであろうか。第一は、認証審査がすべての不適合に是正処置を要求するという実態がこの解釈の受入れを容易にする土壌となっている。第二に、ISO9001の内部監査のJIS和訳条文に縛られていることに起因する。すなわち、94年版の規定(4.17項)は「監査で明らかになった不備について、時宜を得た是正処置を取ること」、2000年版(8.2.2項)は「発見された不適合及びその原因を除去するために遅滞なく処置がとられること」となっている。これら和訳文では確かに、“発見された不備、不適合については是正処置を取らねばならない”と読むことも可能だからである。この条文の故に認証審査では内部監査のすべての不適合に是正処置をしなければ不適合となる。この条文の存在しないISO14001でも同じ解釈が運用されている。この解釈に組織が縛られるのは認証審査による強制が大きい。
 
(3) 形骸化した内部監査
  ISO9001,14001の内部監査は、マネジメントの諸業務が定められた通りに効果的に行なわれているかどうかの体系的な監視として行なわれるものであり、組織の隅々まで目の届かないトップマネジメントが各部門の業務遂行を管理するための手段である。内部監査員は、各部門の業務が方針に則って確立され、実行されているかどうかを証拠によって判断し、トップマネジメントに報告するのが責務である。トップマネジメントは報告によって組織内の業務遂行の実態と問題点を把握し、不祥事や品質又は環境事故、重大クレーム、或いは、顧客の離反、利害関係者の支持の喪失に繋がるなど経営に打撃となる問題の顕在化を防ぐため必要な処置をとることができる。しかし、“不適合=是正処置”という解釈に縛られる内部監査では、発見された問題は“不適合”と“改善事項”又は“観察事項”に分類し、“不適合”なら是正処置が必要であり、“改善事項”は“不適合”ではないからその取扱いは被監査側の自由に委ねられる。 そして、是正処置を実施しなければならない被監査側の立場を慮って、“不適合”の件数を絞り、他の多数の不適合は“改善事項”と位置づけることが行なわれている。経営の方針や狙いに反し、逸脱するような業務が行なわれているのに、不適合ではないが“改善の余地”があるという評価をトップマネジメントに報告するなら、内部監査の意味がない。だから内部監査が、人々の意識においても、実際の実行においても形式だけになっている。“経営に役立つ内部監査を”というような突拍子もない議論が出て来ざるを得ないほどに、ほとんどの組織の内部監査が形骸化し、認証審査に合格するための必要条件としての形式に堕しているのは、“不適合=是正処置”という解釈に自縄自縛となっているからである。
 
(4) 監査所見と監査結論
  内部監査の“不適合=是正処置”という解釈は、ISO19011の監査の「監査所見」#3と「監査結論」#4が区別されず、或いは、内部監査が「監査所見」を出すものと誤解されていることにある。すなわち、「監査所見」とは「収集された監査証拠#5を監査基準#6に対して評価した結果」であり、不適合とおぼしい個々の「監査証拠」を「監査基準」に照らして適合か不適合かを評価した結果に過ぎない。これら「監査所見」の監査の目的に照らしての判断が「監査結論」であり、これを得るために内部監査が行なわれる。ここに、両規格の内部監査では、監査の目的は関連諸業務の方針、目標への適合性を検証することである。監査チームとしては、「監査所見」にいくつかの又は多数の不適合があるにせよ、全体として品質又は環境マネジメントの狙いの実現に支障があるのか、狙いを逸脱する問題が発生する危険があるのかを判断すること必要である。この結論が「監査結論」であるが、品質又は環境マネジメントを規格要求事項に則って確立し、文書化し、実施し、維持し、継続的改善する(4.1/4.1項)ことに トップマネジメント が コミットメント (5.1/4.2項)している組織では大抵の場合は、問題なしと言う結論になるはずである。しかし、問題なしと言う「監査結論」が時に、「監査所見」で不適合と判定した特定の事象の修正と是正処置を必要条件とすることはあり得る。両規格が規定する内部監査での是正処置は、このような「監査結論」の中の不適合に関係する是正処置である。放置すると経営に打撃となる問題が顕在化する危険があるから、是正処置は「速やかに」実施されなければならないのである(2)。「監査所見」の他の不適合の個々は、差し当たり経営に深刻な影響は考えられないというのが監査チームの結論である。個別の部門の内部監査でこのように判断された不適合も、組織全体に拡がっているとすれば別の判断をしなければならないこともあり得る。これは監査プログラムの管理責任者#7、つまり、組織の内部監査を統括する責任者の責任事項#8である。
 
(5) JIS和訳解釈による縛りの解消
  内部監査の本質に鑑みれば、JIS和訳文がどうであれ、内部監査の“不適合=是正処置”という解釈は生まれようがないのである。しかし、現実にはISO9001条文を根拠とする認証審査から来る縛りが存在する。但し、この縛りはJIS和訳の生んだ幻であり、2008年版ISO9001では消えることが期待できる。すなわち、原英文を読むと、このISO9001新旧両版の条文$1,$2が“不適合に是正処置をとる”ことではなく、“是正処置は速やかに実施する”ことを規定するものであることがわかる。すなわち、該当条文が原英文に忠実に和訳されれば、94年版は「監査で明らかになった不備に関する是正処置を、時宜を得て行なう」、2000年版は「発見された不適合の原因を除去する処置が遅滞なくとられる」となる。これなら、条文の意図がすべての不適合に是正処置を実施する必要を規定するものではないという規格解釈をもう少し受け入れ易くさせる。そして、誤解を招く表現の改善を主目的とする2008年改訂のDIS版では「必要なすべての是正処置が遅滞なくとられる」と記述が変更される。この記述によって、内部監査の不適合には是正処置が必要なものと必要でないものとがあり、それを決めるのは組織であるということが改めて明らかなものとなった。
 
(6) ”経営に役立つ”内部監査へ
    認証審査は規格への適合性評価が目的であり、厳密に規格の規定、つまり、要求事項に準拠することが必要である。認証審査では規格条文として記述されていない事項が満たされていない状況を不適合とすることはできない。従って、現在のDIS記述がISO9001の2008年版として確定した場合は認証審査が、「監査結論」として是正処置が必要と判断された不適合以外の不適合に是正処置の実施を強制する根拠がなくなる。内部監査員は晴れて、組織の利益のために「監査証拠」を評価し、不適合は不適合とする「監査所見」をトップマネジメントに報告することができる。内部監査員には不適合の格付けごっこを裁く調整力ではなく、不適合の発生の背景とその影響の深刻さに対する洞察力が求められることになる。内部監査員は、当該の不適合の存在する状況で本当に方針、目標等に示される経営の狙いの実現に支障がないかどうかを、是正処置の技術的又は業務能力上及び経済的な困難さ又は負担をも考慮して、判断しなければならない。そして、例えば不祥事や重大クレームの抑止が組織の方針であるなら、これが発生した場合には関係する内部監査の「監査所見」や「監査結論」との関係が評価され、内部監査の有効性が吟味され、監査員の能力や監査手順の改善を図る処置の要否が検討されることでなければならない。内部監査はお遊びでも、認証審査のための形式でもなく、この意味で本来、“経営に役立つ”ものなのである。
 
 
原文
$1 ISO9001:1994 4.18
“The management personnel ….shall take timely corrective action on deficiencies found during the audit”
$2 ISO9001:2000 8.2.2
“The management..…shall ensure that actions are taken without undue delay to eliminate detected nonconformities and their causes”
 
引用規格条項
#1 ISO19011, 6.5.5
#2 ISO19011, 6.5.7
#3 ISO19011, 3.4
#4 ISO19011, 3.5
#5 ISO19011, 3.3
#6 ISO19011, 3.2
#7 ISO19011, 5.1
#8 ISO19011, 5.6
 
引用文献( *印及び英語文献は筆者の和訳)
(1) ISO19011:2002: 品質及び/又は環境マネジメントシステム監査のための指針
(2) D.Hoyle: ISO9000 Quality systems Handbook,Butterworth-Heinemann,2001; p.569
H20.5.6 
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