ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
46  すべての著しい環境側面に環境目的、目標を設定するのか
 <36-01-46>
1. 著しい環境側面と環境目的、目標の誤解
  日本では一般にISO14001は、継続的改善を図る環境改善運動と受けとめられている。2004年版が従来の“紙ごみ電気”から本業での環境改善への取組みの変換を迫るものになったとの実しやか解説が容易に受け入れられ、著しい環境側面はすべて環境目的、目標に取り上げなければならないという考え方が認証審査に適用されるのも、ここに由来する。
 
 
2. 環境マネジメント
(1) 環境影響、環境側面の特定
  世界標準の環境マネジメントでは、組織は事業活動と製品がもっている環境影響を把握し、その中で地球規模の環境悪化に関係するものを特定することが必要である。 規格は「組織の環境パーフォーマンスに関心を持つか、影響を受ける人又はグループ」を「利害関係者」と呼び(3.13項)、利害関係者のニーズと期待を以て社会的ニーズと考える。 例えば煤煙や水質汚濁など公害型の環境影響であれば利害関係者は地域住民や自治体であり、温暖化ガスや天然資源使用など地球環境型の環境影響であれば社会全体であり、法規制のある環境影響であれば規制当局であり、廃棄物や消費エネルギーなど製品のもつ環境影響であれば顧客や消費社会を利害関係者と見做せばよい。
 
(2) 著しい環境影響、環境側面の決定
  環境影響を特定した組織は次に、それを各利害関係者のニーズと期待に照らして評価し、「著しい環境側面」を選別しなければならない。この「著しい」は“significant”であり、これは影響や効果があるという意味での「重要な」である。「著しい」とは「甚大な」ではなく「重要な」であり、利害関係者のニーズと期待の根拠を伴う強さや深刻さに対応する。この評価は、その時点での環境影響の水準とは無関係に、組織の事業活動が持つ環境影響の本質的な重要性に関して行なわれなければならない。
 
(3) 環境方針の決定
  更に次には、その時点での著しい環境影響の水準と利害関係者のニーズと期待との差異の大きさ、及び、改善に必要な投資費用、コスト、最適技術とを勘案して、どのように継続的改善を行なうことが組織の経営上必要で、且つ、可能であるかを決定する。これは「環境パーフォーマンスに関する組織の全体的な意図及び方向づけ」であり(3.11項)、「環境方針」である。 環境方針には、包括的な取組み方針をスローガン的に掲げられると同時に、著しい環境影響のそれぞれに対する管理と改善に関する組織の意思が具体的に示されていなければならない。これを規格は、「環境方針は環境目的及び目標の設定及びレビューのための枠組みを与えなければならない」と表現している(4.2 d)項)。
 
(4) 著しい環境影響、環境側面の管理
  環境方針に照らしてその時点で環境影響の水準に問題があれば、環境目的、目標に掲げて改善の実施計画を立てる(4.3.3項)ことが必要である。 規格は、この目的、目標は、法規制と著しい環境側面に基づき、技術上の選択肢、財務上、操業上、事業上の必要及び利害関係者の見解を勘案して設定することが必要であると規定している(4.3.3項)。これは、環境方針の設定(4.2項)に関する要求事項として規定されるのが適当とも思われるが、序文の「社会的ニーズと経済的ニーズのバランス」を具体的な要求事項として反映したものに他ならない。
 
  過去の環境対策の結果で、或いは、財務的又は技術的制約のため、その時点での水準で利害関係者の理解が得られるか、理解を求めざるを得ない環境影響ないし環境側面もある。このような環境側面については、その時点の水準を逸脱する異常事態を防止する管理を行なうことが必要である。規格の4.4.6(運用管理)、4.4.7(緊急事態への準備及び対応)や4.5.1(監視及び測定)、4.5.2(順守評価)、4.5.3(不適合、是正、予防処置)はほぼ、この管理の要件として書かれている。
 
(5) 環境マネジメントの決算
  経営のサイクルに合わせた一定の間隔で、トップマネジメントは環境マネジメントの方向づけの必要な見直しをしなければならない(4.6項)。 これには「環境マネジメントシステムの監査の結果」と「変化している周囲の状況」と「継続的改善のコミットメント」に照らした評価(96年版4.6項)が必要であるが、これらは具体的には、環境マネジメントの実績、利害関係者のニーズと期待や環境技術の変化、環境影響改善の進捗状況にそれぞれ対応する。 この評価によって必要ならば、環境方針、目的、目標を変更しなければならない。 この変更には、改善された環境影響についてその水準で維持し異常を発生させない管理の手順を確立すること、又は、新たな環境影響の改善を環境目的、目標に組み入れることが含まれる。この環境マネジメントのPDCAサイクルよって、組織が本質的に持つ著しい環境影響を切迫性の高いものから順次、環境目的、目標に取上げて対策をとり、全体環境影響を継続的に改善していくことができる。これが「継続的改善」である。
 
   
3. ISO14001規格の論理
(1) 地球環境保全への取り組み
    ISO14001は事業組織が地球環境保全に対する責任を果たすためのマネジメントのあり方の世界標準を示している。序文では「社会的ニーズと経済的ニーズのバランスをとりながら実行される環境保全や汚染防止の取組みを支援することである(筆者訳)」と規格の狙いが明確に記述されている。規格序文にはこれを含む規格の趣旨が詳しく記述されているが、読まれていないのか日本の諸解説はこれに触れていない。 序文にも不適切な和訳が散見され、上の引用部分もJIS和訳は説得力に欠ける表現であるから、読まれても趣旨が正しく理解されなかったのかもしれない。
 
(2) 著しい環境影響、側面
  規格の継続的改善は、組織が原因となっている地球環境に対する悪影響を、利害関係者のニーズと期待に応えつつ、しかし組織の経営上、技術上で可能な範囲で着実に改善していくことである。地球環境悪化に対して組織に責任のある環境影響が著しい環境影響である。これは利害関係者のニーズと期待という観点から決定することができる。
 
  著しいかどうかは本質的な問題であり、現時点の実際の環境影響が甚大であるかどうかとは関係ない。例えば組織の活動に煤煙生成の原因があり、その影響を受ける地域住民がいるなら、煤煙生成や排出の作業は著しい環境側面であり、対策をとって煙突から煤塵を出していないとしても、煤煙による大気汚染は著しい環境影響である。 現時点では過去の対策の結果で地域住民などの利害関係者のニーズと期待を満たす程度に環境影響が納まっているに過ぎない。 このための管理の要件が4.4.6項と4.4.7項に示されているが、これを逸脱すると許容されない程の大気汚染を発生させることになる。
 
  また、将来に住宅地が更に工場に接近したりして利害関係者のニーズと期待の方が実状を上回ることにもなり得る。組織は常に利害関係者が許容する環境影響の程度の変化を先読みして、環境目的、目標を設定し、必要な程度まで改善し、改善すればその程度を維持することで利害関係者のニーズと期待に一貫して応えることができる。これを実現する枠組みが、著しい環境影響、環境側面の決定とそれらの改善取組みを方向づける環境方針、及び、具体的改善の目標を表す環境目的、目標、更に、改善の司令塔たるマネジメントレビューである。
 
(3) 紙ごみ電気
  事業の性格上、特に紙や電気を大量に使用するなら、今日の通念ではどちらも著しい環境側面である。 しかし、経営上可能な最大限の対策をとった結果で同業他社より優れた水準にあるなら、これらの削減は当面は環境目的、目標にする必要はなく、現状の対策を手順として確立し、その効果的実行を管理することでよい。これしか著しい環境影響がないのなら、これら環境影響の異常阻止を環境目的、目標に挙げればよい。 但し、紙や電気の使用量は、小規模の普通の事務所業務ならしれているから、著しい環境側面とまでは言えないかもしれない。これしか環境影響がないのなら、ISO14001規格を導入する必要はない。
 
  品質改善と違って環境改善は基本的にコストであり、経営の負担である。それでも環境改善に取り組まなければならない程に、地球環境の劣化が進んでいる。ISO14001は、環境と経営を両立させることを図るぎりぎりの努力に対する処方箋である。 法規制であるごみの分別をせず、また、紙や電気使用の削減でコストが下がるのにこれを放置しているなら経営の怠慢である。規格はこれらのためにあるのではない。
H20.7.4 
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