ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
48  ISO14001に特有ではない「環境側面」という概念
 <36-01-48>
1. 誤解、混乱
   日本で多くのISO14001取組みが「環境側面」という言葉に惑わされている。「環境側面」が何か特別な概念、或いは、ISO14001に特有のもののようにも誤解されもする。JIS和訳が「“著しい”環境側面」という奇妙な日本語を使っていることも、これに輪をかけている。日本では、何のための環境マネジメントか、その環境管理では何をどのように管理するのかを棚上げして、「環境側面」が一人歩きするような規格取組みとなっていることが大半である。最たるものが、4.3.1項の趣旨が著しい環境側面を抜けなく抽出して文書に登録することであるとする受けとめであり、多くの組織で人々が著しい環境側面とやらの特定に血眼になっている。認証審査でも大抵の場合、著しい環境側面登録簿の存在が問われ、その更新の手順が文書化され、その通りに見直しが行なわれていることを示せば審査員を満足させることができる。例えばそこに有益な環境側面として「製品の設計開発業務」が記述されておれば審査員はご機嫌である。
 
2. 環境側面とは
 
多くの誤った規格解釈の背景にはJISの誤訳を含む不適切訳があるが、この場合はそうではない。「側面」の原文は“aspect”であるから、「環境側面」は正しい和訳である。すなわち、“aspect”は「状況、考え方、問題等の特定の部分、又は、特徴*1」であり、日本語では「要素」「側面」である。「この本は都会生活のすべての要素(側面)を扱っている*2」というように使われる(Oxford Advanced Learner’s Dictionary)。一方、日本語の「側面」とは「様々な性質をもったものの、ある一部の面」のことであり、「彼には意外な側面がある」というように使われる(広辞苑)。
 
  こちらのJIS和訳では意味が通じないが正しく翻訳すると、規格の「環境側面」とは「組織の活動、製品・サービスの環境と係わり合いを持つ要素*3」である(3.6項)。すなわち、業務と製品の環境影響を発生させる側面のことである。例えば、ボイラー廃ガスの排出で大気汚染という環境影響が発生しているから、組織の種々の業務の内でボイラー運転作業には廃ガス排出という「環境側面」があるということである。このような環境影響と「環境側面」との関係を規格の付属書Aでは、「環境側面」と環境影響とは一種の因果関係であると説明している(A.3.1項)。「環境側面」が原因で環境影響が結果である。
 
3. 管理活動の常識と実態
  一般に事業組織の経営活動では、事業の維持発展のために様々な観点からその業務実行と結果を制御する管理活動が行なわれている。管理の目的は、必要な業務結果を出すことであり、狙いを満たさない業務結果の出るのを防止することである。管理活動では狙い通りでない業務結果は不良とか異常と呼ばれる。体系的で組織的な管理活動では、不良を出さず必要な業務結果を確実に出すように業務実行の方法や基準、条件を決め、業務をその通りに実行し、狙いの業務結果が得られるよう業務実行と結果を監視して、問題を正し、不良発生を防ぐという管理のPDCAサイクルが廻される。
 
  最も普遍的な管理活動である品質管理は、業務の実行結果である製品品質の不良の発生を防ぐことが目的であり、このために製品品質に影響を及ぼす業務、つまり、品質不良の原因となる業務の実行を管理する。例えば、製品Aの組立て業務の内の部品BにCをボルト結合する作業が製品のガタという品質不良の原因となり得る。これをISO14001流に表現するなら、組立て業務にはボルト結合するという「著しい品質側面」があるということになる。品質管理では、ボルト結合が常にきちっと行なわれるように、作業方法や締めつけ圧力などの作業条件を決めて、その通りに作業が行なわれるように管理する。すなわち、「品質側面」を管理する。品質管理活動は品質の管理が目的であり、業務結果の品質不良の発生を防止することである。この手段として品質不良の原因の業務に係わる「品質側面」を管理するのである。
 
  どの管理活動も実態はそれぞれの「側面」を管理することである。品質管理活動もその実態は「品質側面」の管理だが、どの組織でもこれを「品質管理」と呼んできたし、今も呼んでいる。これは実務の常識であり、ある活動を手段で呼ぶより目的で呼ぶ方が理に適っている。そして、品質に影響する業務を「品質側面」に係わる業務などと面倒くさい表現はしない。だから、ISO9001の中の品質管理の部分でも「側面」という表現は用いられていない。例えば『製造・サービス提供の管理』(7.5.1項)とは、組織の活動のひとつである製造・サービス提供業務の実行による不適合製品の発生を防止する管理である。ISO14001流の表現では、『製造・サービス提供の「品質側面」の管理』である。その規定の『製造・サービス提供を計画し、管理された状態で実行する』は、ISO14001の4.3.1と4.4.6項の表現に倣うと『製造・サービス提供の「著しい品質側面」に係わる作業を特定し、……計画し、規定された条件で実行される』となる。
 
  同様に、業務実行によって発生する要員の怪我を防止する管理活動は労働安全管理と呼ばれる。怪我を品質管理の品質不良に準えて呼ぶなら「労働安全不良」である。放置すれば労働安全不良を発生させかねない業務の側面である例えば製品Aの組立て業務の内、中間製品Eを置場Fまで運ぶ作業では、輸送機の転倒による重大な労働安全不良発生の可能性がある。労働安全管理では、輸送機への中間製品Eの積載方法や走行通路を決めて、その通りに作業が行なわれるように管理する。ISO14001流表現では、組立て業務には中間製品の輸送という「著しい労働安全側面」があり、労働安全不良発生の発生防止のためにこの「労働安全側面」を管理するということになる。労働安全マネジメントは「労働安全側面」を管理する経営の活動である。労働安全衛生マネジメントシステム規格OHSAS18001では、労働安全不良は「事故」と呼び、輸送作業には「危険源」があり、輸送機転倒という「リスク」が潜在していると表現する。この方が実際の労働安全管理をよく表していて理解し易い。
 
4. 誤解、混乱の回避
 「環境側面」というJIS和訳は正しいし、適切である。「環境側面」の管理という表現も、管理の実態を表すという点で間違いではない。「環境側面」がISO14001に特有の概念かの印象を持たれ、解釈や取り扱いに混乱や誤解が見られるのは、「環境側面」なる概念が組織の一般の管理活動の中では意識されておらず、そのような言葉が使われていないからである。ISO14001を正しく理解するには、一般の管理活動の実務の概念、思考によって条文を読むことであり、「環境側面」という言葉を使わないことである。
 
  すなわち、環境マネジメントは『「環境側面」を管理する』(3.8項)のでなく『組織に起因する環境影響を管理する』経営の活動である。『活動の著しい「環境側面」』は『著しい環境影響の原因となり得る活動』であり、『製品・サービスの著しい「環境側面」』は『製品・サービスに起因する著しい環境影響』と読み替えるのがよい。4.4.6項は『方針、目的・目標を逸脱する状況』、つまり、環境影響不良を発生させないように、業務実行を管理するべきことを規定している。4.5.1項は、業務に起因して発生する環境影響が実際にどのような水準であるかを監視測定すること、4.5.3項は発生した環境影響不良に対する修正や再発防止対策の実行について規定している。「環境側面」から離れると規格がよくわかる。
 
 
*1:a particular part or feature of a situation, an idea, a problem, etc.
*2:The book covers all aspects of city life.
*3:element of an organization’s activeities or products or services that can interact with the environment
H22.9.18 
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
サニーヒルズ コンサルタント事務所