ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
49  なぜなぜを5回繰り返す是正処置
 <36-01-49>

   是正処置とは再発防止対策のことである。不適合の原因を取り除かない限りは不適合は繰り返し発生する。規格が是正処置を「検出された不適合又はその他の望ましくない状況の原因を除去する処置*1」と定義(3.6.5項)しているのは、このためである。これを受けてか、審査でも解説書でも、不適合の原因の追求のしかたに力点が置かれる。是正処置では表面的な原因ではなく、根本にある真の原因を除去することが必要だと力説される。そして、真の原因を見つけるために「なぜなぜ」を5回繰り返すことが必要だと言われる。例えば、ある書類へ英数字の転記ミスによって製品に不良が発生したとすると、なぜなぜ分析では転記ミスの原因は元帳票の英数字の見誤りか転記の際の書き誤りであり、その原因は要員のうっかり、文字の過小や不鮮明、元帳票読み取りから転記までの間の記憶の薄れであり、その原因は要員の資質、職責意識の希薄さ、元帳票の英数字欄の過小、プリンターインクのかすれ……であり、その原因は……、となる。どんな是正処置にもこんなことをやり、1回目や2回目ではなく、高回数のなぜなぜの結果に対して対策をとると審査員はご機嫌である。しかし、「なぜなぜ」を5回繰り返すことは規格の意図ではない。
 
   第一に、なぜなぜ分析とは、問題解決の普遍的な論理を製造現場の不良の再発防止対策で実践できるよう形をつけられた一種のQC手法を指す。規格では、品質マネジメントの8原則*2のひとつに「効果的な意思決定はデータ及び情報の分析に基づいている」が取り上げられているように、問題をかんや直感で安易に判断することが戒められている。規格が、論理的、体系的な思考や問題処理を基礎として書かれていることは間違いない。しかし、「なぜなぜ分析」が規格の要求事項として明記されている訳ではなく、国際規格が「なぜなぜ分析」という特定の国の特定の分野で適用されている単なる手法を念頭におくことも考えられない。この手法を用いないと論理的、体系的な思考や問題処理ができないということではない。是正処置には「なぜなぜ」を5回繰り返すことが必要だとする主張には根拠がない。
 
  第二に、是正処置ではどの不適合に対しても広く深く原因を追求すること、その上で根本的な原因に対する対策をとることが必要であるという意味で、5回のなぜなぜを求めているのが問題である。是正処置は問題の再発防止が目的であり、原因追求はその手段である。効果的な対策処置が考案できればよいのであって、原因追求を一律にどこまでしなければならないというのは論理的でない。是正処置により不適合の再発を絶対的に防ぐことが必要であり、そのために根本原因に対する対策が必要だとするなら、これも経営管理の常識に悖り、規格の意図にも反する。
 
  組織の実務では、業務の実行と結果に不適合が生じることは避けられない。どんな不適合も起こさない業務実行と管理は論理上は可能であっても、これには要員の資質や教育、業務実行の方法、使用する設備、手順遵守の管理業務などに厳しい条件を課すことが必要であり、その分はコスト上昇として事業推進を妨げる要素となる。起きた問題の再発防止についても同じであり、再発防止対策が再発ゼロを図るものでなければならないということではない。上記の転記ミスの例では、不良製品が顧客に引き渡されないようにすることは絶対ではあるが、不良が出荷前の工程で発見できる、手直しが可能、速やかに代品製造が可能、不良品廃棄損失が小さいなどの場合は、転記ミスの相応の発生は許容できる。ミスの頻度が極めて少ないなら、人間が読み取ることが根本原因だとして、バーコードリーダーの電算機システムを導入するという是正処置は経営判断として適切ではない。関係者への注意喚起や簡単な確認の手順を追加するだけで十分な場合もある。
 
  再発防止対策は、再発の可能性の大きさ、発生した場合の問題の深刻さ、及び、対策に要するコスト負担を勘案して、必要で十分な程度でなければならない。換言すると、再発防止対策は、それによる再発の可能性とその再発した場合の影響が組織の狙いの品質保証、顧客満足の実現に支障をきたさない範囲内であって、かつ、最も実行負荷が小さいものでなければならない。このことをISO9001規格(8.5.2項)は「是正処置は、検出された不適合のもつ影響に応じたものでなければならない」と規定し、ISO14001規格(4.5.3項)も「とられた処置は、問題の大きさ、及び、生じた環境影響に見合ったものであること」と規定している。これは、すべての不適合についてなぜなぜ分析を5回繰り返すという考え方の明確な否定である。
 
  すべての是正処置に対してなぜなぜ分析を行ない、1回目や2回目ではなく、高回数のなぜなぜの結果に対して対策をとることを求める審査員も、その対策が効果的であるかどうかにはほとんど関心を示さない。例えば審査では一般に、苦情の是正処置の有効性を対策実施後の一定期間のクレームの再発の有無で評価するというような手順が規格適合として認められる。このようにクレームの再発があってもしかたがないような不確かな是正処置を行なうことは規格の意図ではないはずだ。ISO9001でもISO14001でも、日本の規格取組みにおける是正処置では、その再発防止という目的が忘れられ、再発防止対策を考案するための不適合の原因追求が目的化している。審査では原因追求の手法の是非にのみ焦点が当てられ、なぜなぜ分析が必要とまで言わなくとも推奨される。是正処置を繰り返しても苦情や品質不良が減らないとすれば、この形骸化した是正処置が原因である。
 

*1:筆者の和訳。 JIS和訳は「検出された不適合又は検出されたその他の望ましくない状況の原因を除去するための処置」
*2: 品質マネジメントの原則、g)意思決定への事実に基づくアプローチ、ISO9000,0.2
H22.10.8 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所