ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
51    必要があってはならない文書の定期見直し  <36-01-51>
1. 文書の定期見直し
  文書管理の一環として、毎年又は何年か毎の文書の定期見直しを行うことにしている組織がある。これは、1996年初版のISO14001に『文書が定期的にレビューされること』という規定(4.4.5 b)項)があったことから、96年版でISO14001を導入した組織がそのまま引きずっているのであろう。ただし、このような規定のない04年版でISO14001を導入した組織やISO9001導入組織にも、この定期見直しを規定している例が少なくない。しかし、規格の文書化の論理の点では、このような文書の定期見直しは論理矛盾であり、あり得べからざることである。そして実務的には、やっても意味がないし、定期見直しをしなければならないという状態はあってはならないことである。
 
2. 文書化の目的
  規格が文書化を必要としているのは、組織の必要を確実に実現するよう体系的で組織的に業務を行うには、業務実行の方法や基準、合否判定基準、従うべき規範を文書に表しておくことが効果的であるからである。すなわち、多くの人々が協働する組織で口頭の業務指示や業務連絡では、「言った、言わなかった」「聞いていない」或いは、聞き間違い、記憶違い、記憶の薄れ、思い違いなどの問題が起きる。これを文書で以て行い、人々が文書に則って業務を行うようにすることにより、決められた人が決められた方法で業務を行い、必要な結果を確実に出すことが可能となる。規格はこのことを、文書化が『組織内のプロセスの効果的な計画、運用及び管理を確実に実施するために必要』『環境マネジメント システムの計画及び運用のために必要』であると表現している(ISO9001 4.2.1 d)項//14001 4.4.4 e)項)。
 
  業務実行の手順や決まりを所定の必要な結果が最も間違いなく、効率的で安全で経済的に出るように定め、人々にこれを遵守して業務を行わしめることにより、組織は狙いの経営目標を効率的に確実に達成し、必要な業績を上げることができる。規格ではこれは、組織の事業の維持発展に必要な顧客満足/環境保全の状況を実現することである。文書の中身は、人々に命じ又は必要に委ねられる業務の指示であり、人々が業務実行に際して遵守すべき事項である。人々は直接的であれ間接的であれ、文書を用い、文書に定められた方法で業務を行っている。文書の内容はすなわち、組織の業務の実態である。
 
3. 文書の改定
 
業務実行又はその結果、或いは、製品に放置できない問題が生じた場合には原因を調べて再発防止対策、すなわち、規格では是正処置がとられる。是正処置とはすなわち、業務実行の方法や基準など手順を変更することである。文書で以て業務を行う組織では、改善した手順を関連する文書に反映させない限り、対策処置は実行されることはない。04年版ISO14001の『是正処置及び予防処置』に関連しての「環境マネジメントシステム文書の必要な変更を行うことを確実にする」との規定は、変更した手順を直ちに文書化すべきことを言っている。両規格最新版の『文書はレビューする。また、必要に応じて更新する』は、手順を変更した場合に、それに関連する業務の手順が文書化されているならその文書を見直し、必要により関係個所を書き換え、或いは、新しい記述を追加することを意味する。規格が必要とする文書の見直しとは、業務実行又はその狙いの結果に係わる手順を変更する時に行うべき見直しである。規格の意図の文書化を行っている組織では、文書とその内容は人々の行っている業務の内容といつの時点でも合致していなければならない。
 
4. 定期見直しの問題点 
  文書を定期的に見直すというのは、定期的にしか手順を変えないということであるから、問題があっても決められた時期までは対策をとらないということだ。或いは、手順を変えても文書の改定は一定の時点まで待つということであれば、業務が文書に依らず記憶や口頭で行われていることになるから、文書化に関する規格の狙いや意図に基本的に反する。これでは経営目標を確実に達成する体系的で組織的な業務実行ということにはならない。実務的には使用しない文書を作成し配布し保管するという手間隙だけの文書化である。
 
  ISO14001の初版の『文書が定期的にレビューされること』の意図についてのTC207や規格執筆者の説明は見当たらない。初版の規定が、例えば製作指示に用いる製品図面や購買品発注に用いる仕様書のような文書が製品や購買品の変更によって使用されなくなったのにいつまでも文書として保管されている状態を整理するというような観点であるとすれば、それなりに実務的に意味を持ち得る状況もあったと思われる。しかし、組織で実際に定期見直しを行うことにしているのは、規定書や業務要領書などと呼ばれる手順書である。手順変更時の文書の見直しや改定をその都度行った上で更に定期見直しをしているとの主張もあるが、定期見直しの対象が手順書であれば定期見直しは手順書の改定忘れの発見のためということになる。
 
  文書を改定し、承認し、必要なところで必要な時に使用できるよう配布や掲示、保管するように定められた規格の文書管理の詳細要件(4.2.3/4.4.5項)は、文書の内容と人々の業務実行をいつの時点でも一致させるための必要条件である。これを遵守すれば手順書の改定忘れは起きることはない。規格の意図する文書化と文書管理が行われている組織では、文書の定期見直しの必要はあり得ないのである。あり得ないのに見直しをするというのは、無駄以外の何者でもない。文書の定期的レビュー の規定は04年版で削除された。
 
5. 審査
 
ISO9001では初版以来一度もこのような要件が規定されたことはない。効果的な品質/環境マネジメントの要件としては不適当或いは不要ということである。実際、今日では定期見直しはまず審査の対象とならない。ただし、文書の定期見直しをやることにしている組織では、文書管理台帳を設けて定期見直しを行ったことを記録しており、審査ではこれを証拠として審査員に定期見直しの実行をアピールすることがある。しかし無駄な業務だと知っているのは組織の管理者達であるから、大抵は審査前の準備として文書管理台帳の見直し欄に機械的に印鑑を押したものである可能性が高い。逆にまじめに見直しをして改定忘れに気付いて改定したというような組織があるかもしれない。どちらの場合も規格の意図に反し、本質的には不適合指摘が免れない行為であるが、審査員は組織の良い点を褒めるよう指導されているので「よくやった」とうなずくのかもしれない。

 
引用文献( *印及び英語文献は筆者の和訳)
H23.11.6 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所