ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
52 最新版管理に不要で無益な文書管理台帳  <36-01-52>
1.文書管理台帳
 いわゆる手順書の最新版管理(ISO9001 4.2.3項/IS〜14001 4.4.5項)を目的に、いわゆる文書管理台帳を作成し、手順書のファイルの最初に綴じておくことが多い。文書管理台帳とは、ファイルに綴じられた手順書の一覧表であり、これにそれぞれの手順書の作成年月日と改定毎の版名や年月日を記録する帳票形式の文書である。組織によっては、文書番号や作成、改定の承認印まで含まれている。
 
  このような改定の経緯を記録し管理する文書管理台帳を作成しないで手順書をファイルするだけでは、それら手順書がそれぞれ最新版であるこということがわからないという不適合指摘をする審査員も少なくない。文書管理台帳という形式は、94年版ISO9001で『文書の最新版の状態を明確にする台帳又は同等の文書の管理手順を定めること』という文書管理の規定(4.5.2項)に対応してほとんど一般化されていたものであるが、この規定のない00年版、08年版やISO14001に関してもこれを必要と主張する人々が少なくない。
 
2.文書管理台帳を必要とする論理
  このような人々、なかんずく審査現場の審査員には、目の前にそれぞれの手順書がファイルされているのを見ても、或いは、それらのどれかがその後に改定されているのに、配付されなかったり、受け取られなかったたり、受け取ったがファイルに綴じ忘れたりしているかもしれないという心配があるのだろう。文書管理台帳が必要と言うのは、これがあれば、ファイルに綴じられた各手順書の改定版名や年月日が文書管理台帳のそれらと一致することを以て、ファイルされた手順書が間違いなく最新版であると判断できるという理屈なのであろう。
 
  このような文書管理手順では、手順書が改定された場合には、文書管理台帳にその改定版名や年月日が追記され、当該改定手順書と共に配付され、配布先ではその手順書ファイルの文書管理台帳と当該手順書の旧版が改定新版と差し替えられる。審査員は、このファイルに綴じられた手順書の改定版名や改定年月日を文書管理台帳のそれらと照合し、一致するから手順書は間違いなく最新版であると安心する。
 
  しかし、文書管理台帳がない場合に手順書改定版の配付、受領、差替えの忘れを心配するのなら、文書管理台帳がある場合は手順書と文書管理台帳の両方の改定版の配付、受領、差替えの忘れを心配しなければならないというのが理屈である。この配付、受領、差替えの忘れがあるかもしれないという前提に立てば、ファイルに一緒に綴じられている文書管理台帳と手順書が共に改定前の旧版である可能性もある。従って手順書と文書管理台帳の改定版名や年月日が一致しても、その手順書が最新の改定版であるかどうかはわからないのである。文書管理台帳がなければ心配だが、文書管理台帳があってその改定記録と手順書の改定版名や年月日とが一致するから当該手順書が最新版であると安心する、というのでは理屈が立たない。
 
  また、文書管理台帳は作成元で保管し、審査員が配付先のファイルの手順書の改定版名や年月日を作成元の文書管理台帳の改定記録と照合して最新版であることを確認するために用いるという理屈もある。しかしこれなら文書管理台帳がなくても、作成元の保管する原本と照合すれば済むことである。
 
  翻って、品質マニュアルや環境マニュアルは、配付先で単独で書架に保管され、或いは、ファイルに綴じて保管されるが、いずれの場合も品質マニュアルや環境マニュアルの最新版の管理のための文書管理台帳を作成し保管している組織はまず存在しない。しかし、品質マニュアルや環境マニュアルに管理台帳がないから最新版であるかどうかわからない、不適合だと言う審査員はまずいない。手順書なら心配だが品質マニュアルや環境マニュアルなら文書管理台帳がなくても本当に最新版かどうか心配にはならない。このような論理矛盾に気付かず、手順書に文書管理台帳が必要という審査員を初めとする人々の認識には理屈がなく、94年版ISO9001の規定の『台帳』という言葉をただ鵜呑みにしているに過ぎないようにも思われる。
 
3.94年版の文書管理台帳の規定
  94年版ISO9001(4.5.2項)に『文書管理台帳』を示唆する規定があったことについては次のように推定される。すなわち、94年版までのISO9001は実質的に輸出産業である機械工業の製品の品質保証に関する指針を規定するものであった。大規模で複雑な機械は多数の様々な機能の装置や部品の集まりであり、その設計作業は装置や部品単位に行われ、それぞれに適宜修正を加えて、個別の仕様や性能条件を満たしつつ、かつ、機械全体としての仕様や機能と性能の条件を満たすよう相互に調整し合いながら設計を修正しつつ進められる。設計作業の過程を通じて個々の装置や部品の設計図面は改定されるから、設計の全体責任者は設計作業の各段階でこの装置の図面は何版、この部品の図面は何版が正しい、つまり、最新版であるかを一覧表で管理することが、混乱を避けるのに効果的である。この文書管理台帳である一覧表は、ある製品がどのようなものであるかを表すものとして図面ファイルの最初のページに綴じられ、製作段階では各図面が様々な段階で使用され、さらに設計変更もあるから、これを管理する手段として使用される。
 
  このような文書管理の方法は00年版では『ある産業分野では構成管理が識別及びトレーサビリティを維持する手段である』というような形(7.5.2 参考)で示唆されている。このような状況が存在しない手順書という文書には、94年版でも文書管理台帳ではなく、『又はそれと同等の文書管理の手順を定める』ことで事足りたのである。
 
4.最新版管理の規定の前提条件
  配付先のファイルにある手順書が間違いなく最新版であることを確実にするには、改定版の配付、受領、差替えという決められた業務がきちんと行われる業務体制が確立していることが不可欠である。ISO9001/14001両規格の規定は、文書管理の規定に限らず、うっかり忘れてしまった又は知っていても放っておいたというような怠慢によって決められた業務が実行されないというようなことはあり得ないという状況を前提としている。文書の配付、受領、差替えという単純で容易な業務が決められた通りに行われるかどうかが心配になるというような業務風土は、規格では「管理されていない状態」であり、実務的には経営不在、管理不在の状況と言う。文書管理台帳のような実行確認の形式が必要と言うなら、他のもっと多くの業務についてもちゃんと実行されたかどうかを確認し、そのようであると第三者がわかるような形式の記録が必要となる。例えば文書管理台帳の続きを考えても、配付先が間違いなく新手順で業務を開始したということが確認できる記録がないから心配だというような不適合指摘になるのではないだろうか。
 
  規格は必要な結果がまちがいなく出るという効果的な経営管理(マネジメント)の在り方を規定している。規格が「〜をしなければならない」と規定するどんな業務も、決められたことがきちんと行われる状況が前提であり、このための必要条件も規格全体として規定している。すなわち、ISO9001/ISO14001が基礎を置くPDCA/プロセスアプローチの原則や責任権限、『力量』 、認識/自覚、コミュニケーション、監視測定の必要条件として表され、業務を「管理された状態で」行わなければならないとも規定している。
 
5.最新版管理の要件
  このような業務体制の下で効果的に最新版管理を行うために必要として規格が規定していることが、『文書の変更の識別及び現在有効な版の識別を確実にする』ための手順を確立し、文書化するということである(4.2.3 c)項/4.4.5 c)項)。このJIS和訳文は適切ではなく、原文*1を英語の意味とこの規定の意図の両面で適切に翻訳すると「文書の改定と改定各版の適用対象が間違いなくわかるようにしなければならない」である。
 
  すなわち、JIS和訳『識別』の英語“are identified”は「見分けがつけられる」の意味であり、日本語の「識別」の「見分ける」ではない。従って、『文書変更の識別を確実にする』とは、文書の変更箇所がどこか、あるいは、何のためにどのような趣旨でどのように変更になったのかがわかるようにすることである。また『現在有効な版の識別』は、例えば、ある文書の改定版がある目的で発行され、旧版と2種類が存在する状況で、それぞれが「改定に係わる現在の状態」、すなわち、どちらが新版でどちらが旧版であるか、或いは、新版はいつからどの業務や製品から有効となるのか、旧版はどうなのかがわかるようにすることである。一般のいわゆる手順書の場合には、改定版に変更内容を明記することと、適用開始の対象又は年月日を明確にすることである。
 
  これが明確でないと、改定版文書の配付、受領、差替えがきちっと行われても、配付先がその最新版を改定の意図の通りに使用することができない。改定版がこの規定を満たすことによって配付先は、従来の手順のどこが変わったかを理解し、必要な時点又は対象からこの新しい手順で業務を行うことが可能となる。規格にはこの用語はないが、その意図の「最新版管理」とは、最新版をファイルすることを確実にすることではなく、最新版で業務が行われることを確実にすることである。
 
  規格の最新版管理の狙いは、最新の改定版がファイルされることではなく、改定された手順で業務が行われるようにすることである。文書管理台帳は規格のこの意図の最新版管理には不要であり、ファイルの最新化手段としても理屈が立たず役に立たない。
 
*1:to ensure that changes and the current revision status of documents are identified
H24.1.19 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所