ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
54  量販・市場型製品の設計開発
−7.3項(設計及び開発)の適用は逆効果

<36-01-54>
1.7.3項の適用除外
  多くの組織がISO9001の7.3項(設計・開発)に基づく手順を持っており、設計開発計画書や検証、妥当性確認、レビューといった形式を持ち、会議や記録と承認印の押印というような形式を実行するようになっている。自らの商品戦略に基づく品揃えの製品を注文に応じて製造又は在庫から引き渡すような量販・市場型製品産業でもその新製品開発に対して7.3項を適用していることが多い。例えば レストランの秋料理シリーズや ホテル の期間限定宿泊パック のようなサービスの開発にも適用が必要とされている。これは一般に、認証審査で「事業が顧客の指定の通りの加工を行うことである」というような、いわゆる下請け形態の事業組織でないと7.3項の適用除外が認められないからである。
 
2.設計開発活動
(1) 製品実現活動の一部
  規格では個々の注文を受付けて、製品を創りあげ、顧客に引き渡すための一連のプロセス(業務)は『製品実現』と呼ばれる。7章は標題が『製品実現』であり、製品実現にだけ関係するプロセス(業務)を7.1〜7.6項に取り上げて、それぞれの効果的な実行のための要件を規定している。設計開発活動は7.3項に取り上げられているから、規格の意図の『設計・開発』とは『製品実現』の活動の一部であることが明白である。すなわち、7.3項の設計開発活動は、申込みを受けた特定の注文の製品を創りあげ顧客に引渡す活動の一環として、受注した個々の製品について行われる。例えばプラント工事、産業用機械製造、戸建て住宅建築のような形態の事業で行われる設計開発活動である。
 
(2) 設計開発活動の目的
  規格の定義*1では設計開発活動とは『要求事項を製品の規定された特性又は仕様書に変換する一連のプロセス』である。この場合の『要求事項』とは7.2.1項で決めた『製品に関連する要求事項』であり、注文書などに示される「顧客のニーズと期待」の意味である『顧客要求事項』を種々の観点からの「製品に関する必要条件」に変換し表したものを指す。7.3.項ではこの「製品に関する必要条件」は『設計・開発へのインプット』に相当し、従って「製品に関する必要条件」とは製品の『機能及び性能』の必要条件が主体であることがわかる(7.3.2項)。また、『特性』とは、あるものやある事がどのようなものかを表す指標の意味であり*2、この場合は製品の「仕様」を指す。規格の『設計・開発』は簡単に言えば、注文の製品に対して顧客が必要とし又は期待している機能や性能など「製品に関する必要条件」を基礎として、それを実際に実現する製品の構造や機構など「製品の仕様」を考案し、決めることである。
 
  例えば食品包装機械製造業では、「顧客のニーズと期待」は省力化、多品種混合生産、騒音規制適合であり、「製品に関する必要条件」は取扱い可能品種と性状、箱の材質と形状、必要な箱詰め能力、要員数、騒音水準であり、これを満たすように設計開発活動によって機械と部材・部品の構造、適用材料、形状、性能、更に、制御ソフトや付帯設備等の「製品仕様」を決める。戸建て住宅建設業では、「顧客のニーズと期待」は所有する土地に老親と小中生の二人の子供とエコで大地震に耐えて安楽に過ごすことであり、「製品に関する必要条件」は家の造り、間取り、照明やコンセントの位置、内装であり、これを満たすように設計開発活動によって基礎や木組み、屋根の構造、内外壁、窓や扉、給排水や電気配線など詳細な「製品仕様」を決める。
 
(3) 規格の規定
  製品実現活動では、この設計開発活動で決めた「仕様」の製品を創りあげ、創りあげた製品が間違いなく決めた「仕様」を満たしているかどうかを試験や検査で確かめて顧客に引き渡す。設計開発活動で決めた「製品仕様」が「製品に関する必要条件」を満たしていなければ、製品を受取った顧客は発注した意図と異なる製品を受け取ることになる。
組織は注文の受付けに際して顧客の意図の「製品に関する必要条件」を顧客と合意していなければならず(7.2.2項)、これを基礎に顧客に引き渡すべき「製品に関する必要条件」を判断し決定しなければならず(7.2.1項)、これを満たす具体的な「製品仕様」を設計開発し(7.3項)、この「仕様」の製品を『製造及びサービス提供』活動によって創りあげる。
 
  7.3項は、機能や性能など「製品に関する必要条件」を満たした製品の構造や機構など「製品仕様」が決められることを確実にするための設計開発活動の管理の在り方を規定している。
 
3.商品企画活動
  一方、量販・市場型製品産業では、例えば金属材料製造業では受注に際して基本的な『顧客要求事項』を鋼材規格名と寸法という具体的な「製品仕様」の形で顧客と合意し、自動車製造業では見込み生産し、注文はカタログ表示の車種と選択可能仕様で受付け、レストラン や ホテル では用意した メニュー や宿泊プラン表から顧客が購入する料理やサービス名を指定するから、いずれの業種でも注文を受け付けた後に設計開発活動を行うことはない。
 
  このような産業では設計開発活動は事業戦略や商品戦略のための新商品企画の一貫として行われ、それは日常の『製品実現』とは別の活動である。新商品企画活動は売れる製品を企画することであり、その成否は顧客の意思表示のない状態で顧客のニーズと期待たる『顧客要求事項』を正しく読み取り、それを「製品に関する必要条件」たる『製品に関連する要求事項』に正しく展開できるかどうかにかかっている。また、設計開発活動の結果で決めた「製品仕様」は『設計・開発のインプットで与えられた要求事項を満たす』かどうか(7.3.3 a)項)だけで適切性を評価、判定するのではなく、売れるかどうかの観点で評価することが必要である。
 
  新商品企画活動を、市場ニーズの把握、製品企画、設計開発、市場評価の4段階に分けるとするなら、7.3項はその内のひとつの段階である「設計開発」に関する要件を扱っているだけである。組織がこのような設計開発活動に7.3項を適用するのは自由であり、意味のある場合もないとは言えない。しかし、新商品企画活動全体を7.3項の『設計・開発』活動であると見做し、7.3項が新商品企画活動全体を効果的なものとするための要件を規定するものと考えることは間違っている。7.3項に規定された要件だけを満たせば、必ず売れる商品が開発されるということにはならない。7.3項は、売れるために必要と判断した性能や機能などを実現する「製品仕様」を確実に決めるためにどうすればよいかを教えてくれるが、売れるという判断をどのようにするかについては何も教えてくれていない。
 
  量販・市場型製品産業の新商品企画活動を7.3項の『設計・開発』活動と見做し、7.3項を適用することは正しくない。
新商品企画活動に7.3項に対応するとされる業務の形式を取り入れ、実行することは無駄である。また、新商品企画活動は7.3項を満たせばよいのだと思い、そのような商品企画活動を行うことは、組織の事業を危うくする。
 
4.認証審査対応
  新商品企画活動が製品実現活動と並行してほとんど日常的に行われている組織では、独自の商品企画開発の手はずが確立しているはずである。このような組織では、商品企画開発部門又はそれら業務を認証範囲から除外し、7.3項の適用除外を宣言すればよい。商品企画開発部門や業務を規格の品質マネジメントシステムに含める方が組織の品質マネジメントの実態に合っている場合は、認証範囲に含めておいて、しかし7.3項は適用除外して商品企画開発部門を認証審査対象外とすべきである。 これにより、二重標準としてトップマネジメントの関心外に置かれている業務や、認証審査のためだけに作成し保管している文書や記録と決別することができる。そして、組織は確立した商品企画開発業務の手はずを、売れる商品の開発に確実に繋がっているかどうかの観点で継続的に改善することに努めるべきである。
 
 
引用文献( *印及び英語文献は筆者の和訳)
*1: ISO9000, 3.4.4
 *2: ISO9000, 3.5.1
H24.4.24 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所