ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
56  社内校正は規格不適合−しかし活用すべし  <36-01-56>
0、概要
 
ここ

 
 
1、社内校正
  ISO9001では『国際又は国家計量標準にトレーサブルな計量標準に照らして校正を行う」と校正に関する要件が規定されている(7.6項)。これに応えて大規模な組織を中心に多数の計測器を使用している組織では、いわゆる「社内校正」が行われている。これにより外部の校正機関に出して校正合格証をもらう手間と費用を大きく節減している。社内校正では一般に、社内で資格認定された校正員が、1年或いは2年といった通常の校正間隔で社内の各部署で使用されている計測器を集め、保有する計量標準に照らして精度を検査して、校正合格証を付与する。最も例の多いのは ノギスやマイクロメーターであり、計量標準としては購入し保管している公式の校正済証のあるブロックゲージを用い、手順や作業場の空調管理など校正体制への配慮もされている。
 
  社内校正の要点は、ブロックゲージを何年かおきに校正機関に出して校正合格証を取得し、これを計量標準として使用することであり、この形式が『国際又は国家計量標準にトレーサブルな計量標準に照らして校正を行う』ことであると考えられている。審査員は、ブロックゲージの校正実績と保管の状況を確認し、ブロックゲージが複数ある場合にはノギスやマイクロメーターの校正記録に使用したブロックゲージを特定できるような記述、例えば、ブロックゲージの識別番号が記録されているかどうかを確認する。
 
  しかし、『トレーサブル』のこのような理解は計量管理の国際的枠組みと用語の定義に照らして正しくなく、この社内校正の計量標準使用の形式は計量管理の国際標準であるISO10012-1,-2に基づいて書かれているISO9001の規定の意図『トレーサブル』ではない。規格の意図のISO14001では『校正された監視及び測定機器が使用され、維持されていること』としか規定されていないが「校正」の意義は同じであるから、社内校正はISO14001でも不適合である。但し、社内校正をやめて全面的に校正機関での校正に切り換える必要はなく、逆に規格の意図の校正と計測器、測定値の信頼性を高める合理的で安価な方法として大いに活用すべきである。
 
 
2. 校正
(1) 校正の意義
  そもそも「校正」とは当該の計測器による測定値が国際合意の絶対的に正しい計量値、つまり、真の値と同じになるように計測器の精度を維持することが目的である。規格の校正は、計測器の性能劣化を追跡管理する手段であり、使用によって測定値が真の値からずれていく状況を監視し、真の値となるように測定値を修正するために行うよう規定されてる。
 
(2) トレーサブル な計量標準
  校正は計測器の測定値と真の値との差を明らかにする作業であり、このために絶対的に正しい真の値を体現する世界でひとつの標準に照らして計測器の測定値を評価する。しかし、例えば日本国内だけでも使用されるノギスやマイクロメーターの数は膨大であり、すべてをひとつの国際長さ標準に照らして校正することは不可能である。このため、これを基礎として国家標準のブロックゲージが作製され、これを基礎として校正された複数の二次標準が作製され、更にこれを基礎として校正された多段階のそれぞれ多数の三次標準などの実用標準のブロックゲージが作製されている。どの段階のどのブロックゲージも国際長さ標準の体現する真の値との差及び確からしさが明瞭である。計量管理用語ではこのような計量標準の性質を「トレーサビリティ」と呼び、トレーサビリティ を有する計量標準を「トレーサブル な計量標準」であると呼ぶ。
 
(3) 校正の信頼性
  校正機関では依頼されたノギスやマイクロメーターマイクロメータの校正をこれら実用標準たるブロックゲージを用いて行う。社内校正で使用するのもこれら実用標準のひとつである。世界のどのノギスやマイクロメータ-もこのような「トレーサブル な計量標準」で校正されている限りは、同じものを測定すれば同じ測定値を得るというのが論理である。
 
  但し、このように正確無比なノギスやマイクロメータ-であることが確実であるためには、校正が「トレーサブル な計量標準」を用いて正しく行われることが必要である。すなわち、正しい真の値であるという測定値の信頼性は、校正が正しく行われたという校正の信頼性が基本である。どのノギスやマイクロメータ-でも同じものなら同じ測定値であるはずであるとの測定値の信頼性の確立には、校正の信頼性を確保する枠組みが必要となる。これが、認定機関が校正機関の能力を審査し認定し、認定された校正機関により校正されたノギスやマイクロメータ-の測定値なら正しい真の値であると認めようとする国際的合意の枠組みである。規格の意図の『国際又は国家計量標準にトレーサブルな計量標準に照らして校正する』とは実務上は、この国際的枠組みで認定された校正機関が校正することを意味しているのである。すなわち、日本では計量法に基づく「指定校正機関」またはJABがISO/IEC17025に基づいて認定した校正機関に校正を依頼することである。
 
 
3. 社内校正の問題点
  ノギスやマイクロメーターの校正とはそれらによる測定値が世界でひとつの長さ標準に照らした真の値であるとの信頼性の確保のためであるが、社内校正は測定値の信頼性確保のための国際的合意の要件を満たしていない。社内校正では「トレーサブル」なブロックゲージを用いたと主張することは可能であるが、当該のノギスやマイクロメータ-が『国際又は国家計量標準にトレーサブルな計量標準に照らして校正』され、その測定値が正しい真の値であると顧客が信じるに足る根拠に欠ける。規格の校正は測定値の信頼性の確保が目的であり、『国際又は国家計量標準にトレーサブルな計量標準に照らして校正する』とは、校正結果のノギスやマイクロメータ-による測定値が正しい真の値であるという測定値の信頼性が客観的に認められるような校正をするという意味である。信頼性のない測定値で品質を保証することはできない。校正の信頼が国際的合意の論理で実証ないような社内校正は規格に不適合である。
 
 
4、社内校正の活用
(1) 社内校正の特質
  しかし、社内校正をやめて校正機関での校正に切り換える必要はない。社内で決めたいわゆる校正基準に照らして異常と判断されたノギスやマイクロメータ-を破棄するか又は校正機関に校正を依頼するというなら規格適合であるからである。また、いわゆる校正基準が状況に鑑みて適切であれば測定値が品質保証に支障を来すほどに正しい真の値からずれることは防止できるからである。

  そもそも計測用語の「校正」とは当該のノギスやマイクロメータ-による測定値が国家計量標準の体現する真の値とどれほどずれているかを明らかにすることである。JISZ9090(校正方式通則)によると校正作業ではまず当該のノギスやマイクロメータ-で測定範囲内寸法のブロックゲージを測定して、測定値とそのブロックゲージの体現する真の値との差、つまり、誤差を求める。これは「点検」と呼ばれる行為である。これを測定範囲内の数点で行い、誤差が予め定められた「修正限界」以下ならいわゆる校正合格であり、そのノギスやマイクロメータ-はそのまま使い続ける。誤差が修正限界以上なら更に測定点を増やして全測定範囲での誤差を詳しく求めてそれを校正係数又は校正曲線の形で明らかにする。これは「修正」と呼ばれる行為である。組織が以降にこのノギスやマイクロメータ-を使用する場合は、ノギスやマイクロメータ-が表示する値をその校正係数又は校正曲線で補正して測定値とすることになる。校正作業の目的は真の値と測定値の差を校正係数又は校正曲線の形で明らかにすることであり、持ち込まれたすべてのノギスやマイクロメータ-を「修正」するのでなく、「点検」によって必要と判断されたもののみ校正係数又は校正曲線が作成される。
 
  社内校正で校正係数又は校正曲線を求めている例は知らない。ほとんどは独自の校正基準を満たしているとの判断で校正期限ラベルを貼り替えるだけでそのまま使い続けられている。ごく稀に校正基準はずれとして当該のノギスやマイクロメータ-が破棄される。日本製のノギスやマイクロメータ-の品質は優れており、誤った使用や特殊な使用がない限り、たかだか数年の使用で劣化するようなことはないという事実が背景にある。このような社内校正の実体は「校正」ではなく「点検」である。
 
  現行の校正基準を厳しい目に改めて「修正」要否の判断基準である「修正限界」として設定し直し、修正限界を逸脱するノギスやマイクロメータ-の処理として廃棄、又は、「修正」以降の「校正」を校正機関に依頼することにすればよい。このように社内校正の位置づけを変更しても、計測器管理という点での結果に変わりは生じない。しかも、こうすることにより『国際又は国家計量標準にトレーサブルな計量標準に照らして校正する』という規格の意図に沿った校正を行っていることになる。簡単に言えば「社内校正」を「校正」と言うなら規格不適合だが、「校正」の前段階の「点検」であるとすれば規格適合である。
 
(2) 効果的で効率的な校正
  一般に校正は一定の決めた間隔で行われているが、この期間では性能劣化が測定値の必要な信頼性を毀損する程は進まないという前提である。従って、校正間隔は安全側に短く決めるのが通例となる。社内で相応に頻度高く簡単な方法で「点検」を行うことが出来るなら、計測器の性能劣化をこまめに追跡管理することができる。これにより校正が必要となるまでに性能劣化が進む時期を正確に予想することができる。不要な校正をしないで済み、かつ、校正に出せば品質保証に支障を来すまでに劣化が進んでいたというような、あってはならない事態を防止できる。

  秤量器の始業前点検として点検用分銅を用いて秤量し、その値で精度管理を行うという方法が秤量器の精度管理として実行されていることがよくある。この場合の始業前点検は校正の「点検」であり、これで異常が生じれば破棄するか校正機関に校正依頼をする。これが校正という手段によって真の値からはずれた測定値を示す不良な計測器を排除するための本来の効率的、経済的な校正管理の方法である。社内校正は実態においてこれと同じであるから、社内校正を実態に鑑みて校正の前段階の「点検」に位置づけるとすれば、社内校正と言われる考え方と手法こそが効率的で経済的な本来の校正管理のあり方ということになる。これに比べると機械的に1年や2年と区切って校正機関にて校正を依頼するという普通の校正管理は不良計測器を使っていたことを後に知るという問題の防止と、校正にかかる手間と費用の両面で問題がある。
H25.6.2(修6.3) 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所