ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
日本のISOマネジメントシステム規格への取組みは
審査合格優先で、お手軽?
ISO9001:2000 解説書
 日米比較
55-01-01
 
1.はじめに
  海外で発刊されている解説書を日本の解説書と比較することによって、世界標準たるISOマネジメントシステム規格に対して、海外でどのように取組まれているかの一端を伺い知ることができると考えた。  今回は米国で発売のISO9001:2000に関する解説書について調査し、米国でのISOに対する取組みの実状を日本との対比において考察した。
2.調査方法
   対象とした解説書は、ウェブ書店の最大手である米国のアマゾンドットコム社の、日米両国のウエブサイト
(米国=http://www.amazon.com 及び 日本=http://www.amazon.co.jp)で、"ISO"及び"ISO9001"で検索した書籍の内、発行月日が2000.6月〜2003.1月のものである。なお、米国書籍は英語のものに限り、日本書籍は翻訳書を除外した。米国 56件、日本 87件の書籍が対象となった。
   解説書の中身、著作の意図を、標題から推定した。推察の精度を一定にするために、筆者が実際に中身を承知している書籍についても標題のみからの判断とした。
3.調査結果
(1) 書籍の主題
(表1)(図1)
 標題が 「ISO9001:2000」あるいは「〜の解説、手引き」等となっている書籍は規格の説明が主題であり、「〜の構築、導入、認証取得、文書化」等はシステム構築を主題としていると推定した。同じように、標題に含まれる言葉から、内部監査、その他のシステム運用、システム活用に係わるもの、及び、ISO登録制度の説明と、各解説書の主題を分類した。
表1.  標題から解説書の主題を推定
主題を窺わせる標題中の表現 推定される
主題
日本の解説書 米国の解説書
「ISO9001」など規格名のみ(7)
〜の解説(3)、解釈(7)、理解、
改定のポイント
解体新書;       計20
「ISO9001」など規格名のみ(8)
〜の解釈(3)、解説(2)、理解、手引き(4)、要覧(3)、
解体(2)、解明、よくある質問;         計25
規格の説明
〜の構築(9)、つくる、導入(3)、実現、
認証取得(7)、取得・取る(4)、登録、
マニュアル・規定作成(4)、対応(2);    計32
適用、決まりを満たす(4)、適合化(2)、移行、
認証、〜の設計、
文書化・マニュアル(6)、ひな型(2);         計18 
システム構築
内部監査(4)、監査員、自己評価;
〜の実践(2)、運用、レベルアップ
事故防止(2)                  
計12
品質監査(4)、内部監査(2);  
顧客満足(3)、実例;                   計10           
システム運用
「会社が変わる」など各種標題;     計10 「システムと業績」;                  計1 システム活用
審査機関の選び方、本審査問答集、審査はこう変わる、ISO審査;                 計4                               0 受審
〜から〜まで(3)、しくみ(2)、
すべて、導入実務;              計7
登録、手続き;                       計2 認証取得制度の説明
                          計2                               0 その他
87 件 56 件 合計
 日本の書籍で最も多い主題は、システム構築(全体の37%)であり、この他システムの運用やシステムの活用などを初め実践面の解説本が多くて全体の 62%を占め、規格の説明は 23%に過ぎない。しかし米国では、規格の説明を主題とする書籍が全体の半数近くを占め(45%)、実践面の解説は 52%である。
  単純に考えると、日本は実践偏重、米国は理論重視で実践とのバランスがとれた構成であると言える。
   
  図1.解説書の主題   日米比較
(2) システム構築(表2、表3)
  日本のシステム構築の解説書 32件の内過半数の 18件(56%)までもが、「認証取得、ISOを取る」等の言葉を標題に掲げている(表3)。 そして、20件(62%)が「〜のつくり方、作成法、手法・技法」など、解説書がシステム構築作業の方法や手法を説明するものであることを明確にしている(表2)。 つまり、システム構築の解説書の過半が、認証取得のためにどのようにシステムを作り上げるか、或いは、どうすれば審査に合格するかの方法や形式を説明するものであるということになる。
   米国では、システム構築を主題とする解説書 17件の内、「認証(certification)のため」と謳ったのは1件(6%)のみであり、方法・手法の説明を強調する解説書も 2件(12%)にすぎない(表2)。 しかも、日本の「構築」の意味で用いられる「set up, develop, establish, design」を標題に含む解説書は1件(design)のみである。 代わりに、「適用(application)」、「決まりを満たす(implement)」(4)、「適合化(compliance)」(2)、「文書化(documentationなど)」(4)件、「品質マニュアル」(2)と表現されている。
  米国では、システムを作る(構築)の概念は希薄で、組織の業務を規格要求事項に「適合」させ、 この「適合」を実証、確認するための文書化が作業の主体となっていると推察できる。
表2. システム構築の手法、方法の説明であることを強調する解説書
システム構築の手法、方法を窺わせる標題中の表現
日本の解説書 米国の解説書
〜のつくり方、〜の進め方(3)、作成法、取り方、手法・技法(3)
構築法、構築マニュアル、導入マニュアル、取得マニュアル、作成読本
〜の極意、〜のコツ、事例・実例(4);      20/32(62%) 
ひな型、道具とモデル;
                              2/17(12%)
(3) 認証審査に対する意識(表3)(図2)
  上記のようにシステム構築の解説書の過半が審査の受験参考書然としている日本では、規格の説明の解説書にも認証審査対応を標題に含むものもあり、審査合格のための審査機関の選び方という受審対策の書籍まで刊行されている。日本では全解説書の32%が、標題で認証審査や審査合格に言及している。
 しかし、米国では審査登録制度を扱う解説書を含めても、「認証(certification)や登録(registration)」を標題に含むのはわずかに 3件(5%)である。米国の解説書は規格の認証審査という側面にはほとんど重きを置いていないと言える。
  認証審査に関連して日米間のもうひとつの明確な差異は、米国の解説書には「適合化(compliance)」という言葉が見られる(4件)が、日本では全くないことである。
 米国ではISOへの取組みは「業務の規格への適合化」を意味するのに対して、日本では審査合格を目指した「システム構築」であるようだ。 
 
表3. 認証審査や審査合格を意識した解説書
推定主題 標題中の認証審査や審査合格を意識した表現
日本の解説書 米国の解説書
規格の説明 解釈と対応、 解釈と審査、認証機関が教える;  計3/20                  計0/25
システム構築 認証取得(10)、認証、ISOを取る(2)、取得、審査、
審査登録、構築と審査、審査員が教える;    計18/32
認証(certification)    計1/17
その他 ISO取得のために、取れるものも取れない、
認証取得のため、認証取得実践手法、
認証取得のポイント、審査はこう変わる          
計6/35
認証(certification)
登録(registration)    
計2/14
合計 27/87(31%) 3/56(5%)
(4) 著作の力点(表4)(図3,4)
 多数の解説書が発刊される中で著者がどのような点を読者に訴えて購買を求めようとしているのか、著者の著作の力点について、標題中の言葉から推定した。
  日本の解説書の25%は、内容のわかり易さに力点が置かれているのに対して、米国の解説書では 1件のみが内容の簡潔さを、1件が理解の良さをそれぞれ主張しているに過ぎず、読者が容易に理解できるということはほとんど重要視されていないように見える。
  一方、内容の豊富さや充実した様を標題で主張する解説書は、日本では 5件(6%)だが、米国では10件(18%)と 3倍である。
  特に、日本では、規格を説明する解説書の50%までもがわかり易さに力点をおいており、中身の質で他書との違いを訴える解説書は 2件(10%)しかない。 米国ではこの比率は各々、4%と40%と全く反対であり、米国の解説書は規格の深遠な論理を如何に詳細に説明するかに腐心している。
 
     
表4. 著作の力点に関する主張
推定主題 著作の力点を主張する標題中の表現(同一解説書中に複数表現もあり)
日本の解説書 米国の解説書
規格の説明 よくわかる(2)、きちんとわかる(2)、ひと目でわかる、早分かり(2)、わかりやすい、体系的によくわかる、かんたん解釈、
入門(2)、図解(3)、図説、
簡潔に
解体新書、
利益をもたらす解釈
要覧(Handbook: 3)、AからZまでの手引き、ぎゅう詰め(In a Nutshell: 2)、解体(2)、
分析、謎解き(Demystify)
システム構築 やさしい(2)、図解
教科書(2)
その他 早わかり、すぐわかる、よくわかる(2)、必ずわかる、みるみるわかる、すぐに役立つ、
入門(3)、図解(4)、マンガ、
監査が容易になる
ハンドブック、〜のすべて、プロの内部監査員用 要覧(Handbook)、
4.まとめ
  名は体を現す。中でも書籍の標題は中身を正確に反映していると考えるのが妥当である。特に売るための書籍の標題には、著作の中身や意図を表す最大限の工夫がこらされているはずである。また、ウェブ書店のリストに掲げられている書籍は、読者のニーズに合致しよく読まれている証である。日米両国で販売されている書籍の標題から、両国のISOへの取組みの実状を比較、推察することは、大筋で間違いないと考えることができる。  今回の調査では、日米両国におけるISOへの取組みの基本に大きな相違があることが窺える結果となった。
   日本の解説書の 62%はシステムの構築はじめ実践面を説き、規格の説明を主題とする書籍は 23%に過ぎない。システム構築の解説書の 56%が認証審査を標題に掲げ、62%はその合格のための手法、方法を扱う書籍である。また、規格の説明の解説書の 50%が内容のわかり易さを強調し、内容の豊富さを主張する標題をもつのは 10%に留まる。
  米国では、全体の 45%が規格の説明を主題とする解説書であり、その 40%は内容の豊富さを強調する標題となっている。システム構築の解説書でも、「認証」や「構築」を標題に持つ書籍は各 1件(6%)に過ぎず、方法や形式を説明するものも 11%である。そして、「構築」の代わりに「適用、決まりを満たす、適合化」や「文書化」が使われている。
  日本の解説書では、システム構築作業が規格への取組みの中心を成し、認証取得がシステム構築の事実上の目的となっている。そしてシステムの構築が、審査合格のために要求事項にどのように対応しなければならないかという手法、形式の問題として取扱われている。著作の力点は、これら手法、形式を如何に容易に読者に理解させるかという点に置かれている。
  米国の解説書は、規格の理解に重きを置いている。解説書は規格を深遠な論理の体系として、著作の力点を解説の詳しさ、拡がりに置いて読者の関心を誘っている。システムを作り上げる(構築)という概念が希薄であり、認証審査をほとんど全く意識していない。
  このような事から、日米でのISO取組みにおける決定的な違いを窺い知ることができる。すなわち、米国では、規格を経営の活動に対する論理の体系たる指針と見て、規格とその論理を大切にする。 規格への取組みは、組織の業務を規格の論理に適合させることであり、適合させた業務を文書に記述することが作業の主体である。適合化の結果が審査合格であるから、はじめから認証取得を目指すような意識はない。  日本でも規格は経営の道具であるとする考え方は普通であるが、実際には規格を認証取得の条件とみなして、経営の活動を要求事項への対応という誰でもが簡単にわかる形式的なものに転化してしまっている。規格の論理を深く顧みる事なく、一足飛びに認証取得に走り、審査合格の形式を整えることが、ISOへの取組みとなっている。規格や制度の本質をはずれた、認証取得偏重のお手軽な取組みと言わざるを得ない。
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