ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
 付加価値のある審査(Value-added Audit)  <62-01-03>
  付加価値のある審査、あるいは、審査の付加価値についての議論が近年少なくない。 この問題は、認証審査の質に対する受審側の疑問や期待に応える形で審査機関側が採り上げるようになった感があるが、これは審査とコンサルティングの分離の原則から本質的に微妙な問題である。それだけに、問題が雑誌の話題にも採り上げられるほどに重要視されるようになった背景には、ISOマネジメントシステムの認証登録が増えると共に激化する審査機関間の競争や審査機関とシステム運用の利益を実感できない受審組織の不満の増大などの背景があるように思われる。
 
  "付加価値のある審査" とは恐らく、米国の "Value-added Audit" の翻訳であり、その概念を引き継ぐものと思われる。米国の雑誌 Quality Digest は、2001年7月号で審査登録機関の顧客組織による格付け評価を発表しているが、その評価の6つの尺度のひとつに Value-added を含めている。"Value added"は事業活動が創造する価値、つまり日本語では「付加価値」である。しかし記事ではこれを"value-added"という形容詞にして使って、"Value-added audit"を「単なる審査を越える付加的サービス」という意味であると定義している。従ってこれを「付加価値のある審査」と和訳しては真意が伝わらないし、現在の審査活動が何の価値も生んでいないかの誤解も与える。 例えば「追加的価値のある審査」との日本語を当てるべきである。そこでこの問題を考える時は、適合性審査やISOマネジメントシステムに関する第三者審査の目的や意義を明確にすることが大切である。
 
   まず規格における「監査」の定義であるが、これは「監査証拠を収集し、それを客観的に評価して、監査基準が満たされている程度を判定するための体系的で、独立し、文書化されたプロセス*」(JISQ19011 3.1)である。 ISOマネジメントシステムの監査(審査)における監査基準とは、それぞれ対象とする規格であるから、監査とは「組織の品質、または、環境マネジメントシステムがそれぞれの規格の要求事項を満たしている程度を判定する活動」である。 評価、判定の結果が「監査所見」(同 3.3)であり、これには「監査基準に対する適合も不適合も示すことができ、また、改善の機会も示し得る」(同項 備考)。そして、監査結論では、「マネジメントシステムの規格要求事項への適合の程度」に加えて、「マネジメントシステムの効果的実施、維持、改善」を扱うことができる(同 実用上の手引きー監査結論)。つまり、審査員は、単に適合か不適合かの判定をするだけでなく、優れた点や改善の余地のある事項についても組織に提示することができる。審査登録機関の行なう審査活動を律するJAB R1007-2001(品質システム審査登録機関に対する認定の基準)でもこれを制限する規定はないから、合否判定に加えて改善の余地のあるマネジメントシステムの問題点を示すということは認証審査の一部であると考えることができる。これを追加的価値と見ることは適切でない。
 
   前記の雑誌記事には、北米の35審査登録機関が加盟するIAAR(認定審査登録機関協会:筆者訳)が協会として "追加的価値のある審査" に取り組んでいることが報告されている。 記事は "追加的価値のある審査"の例として、規格要求事項でなくとも欠点は指摘する、改善ないし合理化できる問題を指摘する、維持が煩雑または困難なシステムの部分については黙っていない、実際の業務に価値の認められない或いは規格が必要としていない文書や作業は指摘する、を挙げている。しかし、改善の指摘ではどのように改善或いは修正するかについては述べないと明言しているから、これなら認証審査の通常の範疇である。記事は「もし組織が我々から得るのが壁に掲げる登録証だけであって、組織の財務上の利益の改善に寄与できなかったなら、我々は失敗したことになる」とのIAAR傘下のQuality Certification Bureauの副社長 J.Press氏の発言を引用している。これなら"追加的価値のある審査"である。しかし、どのような審査の指摘が財務上の利益をもたらすのかには触れていないから絵に書いた餅である。
   
  次に第三者審査は、組織のマネジメントシステムの規格への適合性評価の手段であり、適合の証拠として審査登録機関は登録証を発行する。登録証は、組織の品質または環境マネジメントの業務が ISO9001またはISO14001に沿って効果的に実行されていることを顧客や社会に保証するものであり、このことによって顧客や市場に、組織の製品ないし活動がそのニーズと期待に応えるものであるとの安心感をもたらすのである。ISO文書(ISO中央事務局:ISOと適合性評価)は、適合性認定は組織、顧客、規制当局の3者に利益を与えるものとし、登録証を得た組織の受ける利益として、組織の製品が市場での競争力を高めること及び登録証を要件とする事業機会に参入することができることを挙げている。組織は登録証を買っているのであって審査という活動に対価を支払っているのではない。組織が審査機関に求めるのは登録証の発行であり、登録証の市場や顧客取引における有効性、つまり、登録証に対する市場や顧客の認知、信頼性の高いことである。如何に審査という活動の価値を高めても、製品たる登録証に価値が見出されなければ受審組織は満足しない。審査の結果として適正な結論を出すことが審査登録機関の顧客や市場から負った唯一の責任であり、適正な審査が"選ばれた供給者"となる利益を組織に与える。これがうまくいった上での審査の"追加的価値"の議論が出るべきであって、登録証を得たことへの利益が実感できないという不満への対策に審査の追加的価値が持ち出しても問題解決にはならない。
   
   更に審査機関と受審組織の専門性と責任を分別して考えることが必要である。規格は成功を納め世界的に認められた最新のマネジメントの理論に基づいている(ISO中央事務局:ISO9001/14000謎解きの旅,[基本];汎用的マネジメントシステム規格)。規格の規定は組織の多くの管理者によって実践され、あるいは、効果的実行を目指して習得され、試みられている現実のマネジメント業務の考え方と手法を共有している。マネジメントやマネジメントシステムに関する専門性は受審組織の管理者が身につけており、審査員はその資格取得のための研修内容でも明らかなように審査の専門家である。審査員はマネジメントシステムの規格適合性の評価に長けているが、マネジメントの専門家の管理者に対してマネジメントシステムの機能上の改善点を指摘できると思うのは論理的でない。現実の審査で審査員の判断と指摘がほとんど絶対的な力を発揮しているのは、規格のマネジメントシステム の実体と認証登録制度の狙いについての正しい理解が組織の管理者に欠けていることにある。実際に財務上の利益をもたらすような改善指摘を審査員の業務として結果責任を問われることになった場合に、これに堪えて審査員を続ける審査員や審査機関がどれほどあるであろうか。審査員の指摘は適合性の視点での改善の余地の指摘の域にとどまらざるを得ないはずである。これなら認証審査の範疇であるから"追加的価値"と称するのは適当でない。
   
 システムの機能上の欠陥指摘を審査の"追加的価値"として、この実行を目指そうとする動きには、審査登録機関の組織に対する誤った優越意識の匂いがする。また、"追加的価値"を"付加価値"と呼ぶ安直さは論理性のない業界の言動の象徴であり、大言壮語に類する"審査の付加価値"説は実現するかどうかや結果責任を顧慮しない官僚的形式主義の現れにも見える。日本適合性認定協会(2001.12月)や日本工業調査会(H14.12.11)の公式調査でもISOマネジメントシステム導入の効果を認める組織は半数に過ぎない。これは、組織の品質または環境マネジメントが規格に従って効果的に実行されていないことを組織自身が認めているということである。受審組織の関係者と周辺に増大する審査や審査員あるいは審査登録制度に対する不満と不信の解消には、このようなシステムの存在を許さないような審査機関の取組みではないだろうか。日本のISO取組みが審査合格優先の形式重視であることは巷に氾濫するISO解説書(関連情報)にも明らかであるが、審査自身も登録証の効果を顧みない形式に偏ったものとなっている。機能しないシステムの存在を許さないような審査こそが、適合性評価制度の枠組みの中で本来の "価値ある(valuable)審査" であり、そのような登録証を発行して初めて審査が"付加価値(value added)の創造"に与ったと言える。少なくとも受審組織が審査の追加的価値(additional value)の提供を望んでいるとは思えない。
H15.9.30(見直し改訂 2006.5.27)  修2006.6.25 
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