ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
  すべては「要求事項」から始まった  <62-01-05>
   日本の解説書では、ISOマネジメントシステム規格の説明において「規格の要求は○○である」「規格は○○を要求している」などの表現が頻繁に用いられている。 JIS9000,JIS14000シリーズ規格では「○○すること」という規定のことを「要求事項」と呼んでおり、これが上記のような「規格の要求」という表現が使われるひとつの原因と推察できる。
   
   ところで、 「要求」という日本語は、広辞苑が「当然であるとして強く求めること」としているように、当事者間で強制力あるいは権利を伴う強い意味の言葉である。 解説書の読者にとって、規格が要求する相手は「組織」であると受けとめられるから、規格が組織に「当然であるとして要求できる」理由あるいは権利は何かという疑問が浮かぶ。 そこで一般に到達する結論は、「組織にあれこれ要求できる」のは「組織をして、認証審査に合格させ、登録証の授与を得さしめる」からではないかということである。こうして、規格要求事項とは「審査合格、登録証授与の代償として規格が組織に"○○をしなさい"と要求している事項」であるという認識が生まれる。
   
   この認識下では、実際に「要求できる権利」を有するのは規格ではなく、審査をし登録証を授与する審査登録制度である。 結果として審査登録制度を担う諸主体が規格解釈の主導権を握ることになり、しかも誰もこれに疑問をはさまないような風土が生まれる。 ベテラン審査員による規格解説講座が貴重なもの視されたりもする。 認証登録のために必要であるという観点で「この要求事項への対応は○○することである」というような"わかり易い"説明の解説書が書架に溢れることになり、規格の意図や論理を説明する海外の解説書は和訳されても売れない。要求事項が登録証の代償であるから、組織はそれが有益か無益かあるいは損失かにかかわらず、そんな規格解釈を唯々諾々と受入れる。 審査員の規格解釈のばらつきを嘆いても、組織の利益かどうかの観点からの反論はしない。
   
   しかし、「要求事項」とは英原語「requirement」の翻訳である。「requirement」は辞書 Webster'sによると、「act of requirement (要求すること)」の他、「need (必要なもの)」と「an essential condition (必須条件)」の意味がある。ISO9000の定義で「requirement」は、「need or expectation (必要とされるもの又は期待されるもの)」であるから、規格では「要求」より「必要」の意味で「requirement」が用いられていると考えられる。すなわち、規格の意図における「requirement」は、「必要なもの」「必要条件」「要件」の意味であり、これを正確に表現するなら「要求事項」ではなく「必要事項」の方がを適切な日本語表現であるといえる。
   
   ところで、「必要事項」であるなら、何のために必要かということが問題になる。上記のように規格は審査登録のためにあるという認識なら、「審査登録のために必要な」事項という意味になるから、「要求事項」と「必要事項」は同じことである。しかし、規格制定の経緯を見ると、JISQ9001にしろ14001にしろ、審査登録制度が先にあって、その条件を規定するものとして規格が作成されたのではない。顧客満足向上(品質保証)、環境保全という必要性が先にあって、それを実現するための効果的な業務の在り方が規格として定められたのである。 規格の規定、すなわち、「requirement」とは、組織が顧客満足向上、環境保全を目指し、効果的に達成するために「必要な」事項なのである。
   
   「requirement」は組織にとっての必要事項であるから、規格解釈はそれが組織にとって必要かどうか、つまり、規格目的の達成のために必要か、効果的かの観点で行なわれなければならない。 ISO中央事務局によると規格は世界の過去の実績と理論に基づいた最新のマネジメントの論理の体系である。 規格は組織に登録証授与のために何事かを強制するものではなく、効果的な業務の在り方を教えてくれているのである。 規格解釈はこの論理の理解に立脚し、目的達成に必要か、役に立つか、の実践的観点で組織が主体的に行なうべきである。第三者審査と認証登録制度の役割は、組織のそのような効果的な業務を行なっていることを顧客など利害関係者に保証することである。
   
   日本工業調査会の公式調査(H14.12)でさえ規格導入組織の半数強しか導入目的を達成していないという。 この日本の現状は、審査合格優先の取り組み、つまり、著者の命名による"審査の視点"に原因があると思われるのであるが、その元をたぐると、「requirement」に「要求事項」という日本語が充てられたことに行き着くように思われる。「要求事項」とは、審査合格のための代償として審査登録機関から「要求される事項」ではなく、規格目的の達成のために組織にとって「必要な事項」である。日英両語とも「要求する」と「必要とする」は似た意味をもつこともあるのだが、「要求事項」の解釈において組織がどちらに受けとめるかは、受け身の強制と前向きの自主性という天と土ほどの違いが生ずるのである。
H15.12.18 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所