ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
    システムを構築する ということ  <62-01-07>
    ISO9001,14001の両規格に関して「システムを構築する」という言葉を頻繁に見聞きする。「構築」とは、「構え築くこと」「建築あるいは土木工事を行なうこと」である(広辞苑)から、「ISOマネジメントシステムを構築する」と聞くと「ISOマネジメントシステム」が何か形のある造形物であり、無から有を創り出すかの如く感じてしまい易い。この結果、「システム」なるものが、文書や記録、書式、帳票、台帳、一覧表など一連の書類から成るものであり、新たな「業務の仕組み」を創り上げ、マニュアルや手順書に記述することが「システムの構築」であるかの錯覚を抱くことになる。 実際、マニュアルや書類のファイルの作成がシステムの構築であるかの極端な説明まで存在する。
   
   そもそも「システム」とは何なのだろうか。「システム」とは「体系化された一連の、何かを行なう考え、理論、方法」とか「相互に結びつけられた又は一緒に機能する、一連のもの又は装置」(OALD)という意味の「system」のカタカナ英語である。ISO9000(3.2.1)では「相互に関連づけられた又は相互に作用する、一連の要素」と定義されており、JISZ8115の日本語としての「システム」の定義も同じ趣旨である。要するに、多数の概念やものがばらばらに集まっているのでなく、特定の機能を果たすためにそれらが有機的に結びつけられた状態、つまり、有機的集合体のことである。そしてマネジメントシステムを構成する要素は規格では、「組織の体制、手順、業務、資源」(ISO8402 3.6)であり、「組織の体制、計画活動、責任、行為、手順、業務、資源」(ISO14001 3.5)であると具体的に示されている。 因みに ISO9001の2000年版ではプロセスアプローチの考えからシステムとは「諸業務(プロセス)の有機的集合体」である。従って、システムの要素とは、入力、出力、手順や方法、資源などを明確にして実行される各業務の活動のことである。ただ、これは表現上の違いだけであって、2000年版でも94年版でも要素もシステムも実質は同じと考えてよい。
   
   このように規格の「マネジメントシステム」とは、マネジメントという活動を遂行するために組織が用意し、管理して運用、使用するすべてのもの、概念のことである。それには設備や材料のような物質も含まれるが、人の能力や意識も含まれ、手順、技術や責任と権限など目に見えないもの、或いは管理、教育、情報伝達など行為も、規則や仕組みもシステムの要素である。システムとは、これらの有機的集合体であり、ひとことで言うなら、マネジメントの業務の活動の体系のことである。日本語では「業務体系」と呼ぶのが適切であると思う。 規格の「システム」は、「構築する」という表現が示唆するような姿や形のある造形物ではなく、概念的な存在である。

   実際、「構築」という用語は規格でも関連文書でも用いられていない。これに相当する規格の用語は「システムを確立する」である。即ち、ISO9001では「この規格の要求事項に従って品質マネジメントシステムを確立すること」(4.1)、ISO14001でも「環境マネジメントシステムを確立すること」(4.1)と要求事項が定められている。この「確立する」は「establish」であり、この英語について実用英語大辞典(海野ら編)は「〜を設立する、創立する、開設する、制定する、樹立する、確立する、立証する、〜の地位を確立する」との訳を並べている。英英辞典では「恒久的な規則とする」「確固たらしめる」「存立をもたらす」(Merriam-Webster's)などであり、また、「永く続かせる組織やシステムを開設(start)又は創設(create)する」ことだとする説明(OALD)もある。「構築」が無から有の形あるものを造り上げるという意味になるのと違って、「確立(establish)」はあいまいな或いは存在しなかった概念的なものを明確にし確固たるものにするというような意味である。日本語の「確立する」も「しっかりとうち立てること」(広辞苑)の意味であるから、「establish」の和訳として適切である。
   
   例えば産業廃棄物たるごみの処理に関する法規制に全くとらわれない組織は希有であろうし、どの組織も品質や顧客に無関心では事業を維持できないことは常識である。今日、事業運営の上で品質や環境に関して何の処置もとっていないというような組織はまず存在しない。ほとんどの組織で何らかの品質或いは環境マネジメントを行なっており、規格用語では「品質或いは環境マネジメントシステムを有している」ということである。規格が意図する「システム構築」作業とは、これら既存システムの実態を整理して明確にし、規格の要求事項と比較してその差異を把握し(gap analysis)、差異を埋める(close the gap)ことである。規格要求事項を満たす品質或いは環境に関するマネジメントの業務体系を明確にし確固たるものとすることが「システムを確立する」ことなのである。
   
   規格はシステムを「構築せよ」とは言っておらず、「確立せよ」と言っている。それは「マネジメントシステム」は既に存在しているので、組織が行なうべきことはそれを規格要求事項に適合させること、つまり、規格が規定する必要条件を満たすことである。全く存在しないコンピューターシステムを新たに設計し導入する場合などでは、 英語では「develop」である。 この場合は「システムを構築する」という表現になるのかもしれない。 しかし、ISO マネジメントシステムの場合の「システムを構築する」という表現は、少なくとも規格やそのマネジメントシステムに関する誤った概念を育む土壌と なっているという点で不適切である。 筆者も適切でないと思いながらも定着した「システムを構築する」という表現を使っているが、このような不適切な表現や概念が易々と定着して しまうのは、「マネジメントシステム」とは何ものであるのかという基本問題が論じられることがないまま、審査合格の方法論が幅を利かせる日本のISO取組みの実態と無関係ではない。
H16.1.17(修 H16.1.20;H16.2.6;2006.6.25)
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サニーヒルズ コンサルタント事務所