ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
  文書のスリムとシステムのスリム化  <62-01-08>
    最近、いわゆる簡易版ISOマネジメントシステム導入の問題点の先頭にいつも挙げられるのが文書管理の煩雑さである。 一般には、システム構築とは文書作成のことであり、規格の要求事項を満たすためには多種、膨大な文書や記録が必要であると認識されている。 このことは世界的な傾向でもあったらしく、ISO9000の2000年版改定に当たってのTC176の2つの重要な目標のひとつが「文書の量と詳細さを組織のプロセスの諸活動が所定の結果を達成するのにより関連するものに限定すること」であったと説明されている(TC176:文書化の指針,N525)。 この結果、同2000年版では手順書は6種類でよいことになったなど文書化の要求事項が大幅に緩和されたことになっている。 最近日本では、組織の抱く文書管理の問題意識に対応して、システムや文書のいわゆるスリム化に関する議論が拡がっている。 この議論は無駄や形式の排除から文書の削減、文書化の程度にまでわたっているが、すべての手順をマニュアルに集約したとか、全文書の厚さを○○mmまで薄くしたとの、文書の中身を少なくする方法論が盛んである。
   
   ところで、文書化の目的は多様であるが、基本は業務の標準化のためと思われる。どのように業務を行なうのか、その方法、基準、設備や工具の取扱い、要員間の分担等々、を決めて明確にし、皆がいつもこれに従って業務を執り行えば、常に同じ結果を得ることができる。 業務の結果に問題があれば手順を改め、また、改善をもたらす誰かの経験や提案が採用されればそれを手順の変更に反映させ、これが皆に実行されることにより、結果の改善の実績が組織に定着する。 このようにして組織の業務手順はその業務の目的をより効果的、且つ、より効率的に達成できるように改善されていく。 これが標準化の効果である。 因みに、ISO9001、14001の規定するマネジメントシステムの継続的改善とはこのような種類の業務の改善を意味する。標準化はまた、人事異動や新人の採用に伴う組織の業務能力の低下を防ぎ、退職する熟練者の経験、知識を組織内にひき留め、技能伝承を円滑化することに大きな役割を果たす。
 
   業務の効果的な標準化のためには、業務内容ないし業務の手順を人々の間の頭の中の理解に留めず、文書にして表すことが必須とも言えるほどに重要である。 手順が文書として明確にされているから、要員はこれに従って間違いない手順を習得し、間違いない手順で業務を実行し、手順の遵守は文書との対比によって正しく指揮、管理されることが可能になる。 手順の改善は文書に表されるから、文書とその改定の経緯は、組織の経験や知識、知見の集大成である。 その結果としての最新の業務の手順が、良い結果を効率よく達成するという点で他組織にない組織独特の優れたものであるなら、それは他組織に打ち勝つ競争力そのものである。
 
   このような観点からは、文書化は"広く詳しく"が望ましい。 多くの人に間違いなく理解されるためには細部にわたって詳しく記述する方が間違いない。 組織独自の経験、発想、技術などに発する手順は特に詳しく書くことが大切である。 それらは組織の貴重な財産であり、時を経ても組織内で継承、発展させていくべきものである。 今の作業の方法がわかればよいというのでなく、その背景や考え方がしっかりと引き継がれることができるように詳しく書いておくことが組織の利益である。ただし、業界で常識的な手順や組織内でも常識化したような手順は作業のステップのみ箇条書きのように簡潔に書けばよいし、わかりきったことを文書化してもしかたがない。 組織によっては文書量が膨大となるかもしれない。 文書の量は、組織の業務体系の緻密さ、豊かさを映しているからである。 当然、どこまで緻密な広範な業務体系が必要かは組織の事情によって異なる。 文書化の程度は組織の規模やプロセスの複雑さ等で異なるとするISO9001の見解はこのことである。文書量の多さはそれ自身が悪という考えは正しくない。
   
   文書を業務に用いるといっても、常に文書を見ながら業務を行なうということではない。 主要な手順、或いは、自分の業務に関係する手順は頭の中にいれておかなければそれこそ "仕事にならない"。 だからと言って、文書量は少なくなければならないと考えるのは早計である。 頭に入りにくいのは、手順の複雑さの問題であって、手順を詳しく書いたことによって文書量が多くなったのが原因ではない。 ISO9001の「力量がある」やISO14001の「能力がある」の条件のひとつは手順を知っていることである。そういう人にしか仕事をさせてはいけないという規定である。 手順が高度で複雑なほどしっかり教育訓練し、手順を覚えさせなければならない。 詳しい文書化が教育訓練の効果や効率を高めるのに寄与する。

   しかし、検査基準の寸法公差とか加熱炉の設定温度のような数値は、要員が知っていなければならないことであるが、記憶させるのは効率的ではない。 多くの組織で、手順書のこの基準だけ抜き出して現場に表示したり、作業指示書で個別に明示したり、作業記録用紙に表示しておくなどの工夫がなされている。 大部分の組織で94年版ISO9001の時代の品質マニュアル作成指針(ISO10013 付属書A)を引用した階層別の文書体系を採用しているが、これは本来、複雑な手順を簡潔に理解し易く文書化し、文書量が膨大であっても使い易く、改定し易くすることが目的である。 また、配布台帳や配布・受領書などは文書化の阻害要因をわざわざつくっているようなものである。 文書や文章の多さがもたらす管理の煩雑さは、文書は実務で使用し、頻繁に改定するものであるとの前提に立った考慮と工夫によって改善するべきである。

   文書量が膨大で取扱いが煩雑という問題を、文書化や記述の簡易化で解決せんとする考えは、文書化の意義に悖り、安易の誹りを免れない。 手順が高度で複雑なのに文書量を減らすのは混乱を招くだけである。 本当の問題は、日本で膨大な文書量と管理の手間と費用を嘆く声の背景に、 審査の直前に整えるといったような極端な例も少なくないように、 実際の業務に使っていない文書や記録が多いという事実があることである。 規格要求事項を審査合格の条件とみなす "審査の視点"の規格理解が、 審査合格のための形式を重視して、 要求事項毎に「ここでは○○することが要求されている」と形式的な業務や文書、記録、記述を組織に求めている。 しかし規格は、顧客満足向上或いは環境保全という目的の達成に必要な条件を定めているのであるから、 組織の実務に使わない、役に立たない業務や文書、記録が規格の要求事項であるはずはない。 文書の膨大さと文書管理の手間と費用を嘆く組織にとって必要なのは、 審査合格に必要とされるが実務には不必要と思われる業務や文書をなくすることである。 効果的な業務遂行のための手段となっている文書を削っては逆効果である。
   
   つまり、文書のスリム化とシステムのスリム化は意味も効果も異なるのであり、今日の日本で必要なのはシステムの贅肉を切り落とすシステムのスリム化である。 同じ問題意識から無駄な文書をつくらないとする考え方も雑誌などで取り上げられるようになってきた。 品質保証体系図や文書配布台帳を無くする(西沢隆二氏:ISOMS,2003.7)など賛同できる点も多い。
H16.1.31(改H16.2.6) 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所