ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
    記録の意義  <62-01-09>
   ISOマネジメントシステムに関して組織が抱く問題意識の筆頭が、文書量の多さとその管理の手間の煩雑さであることはよく知られている。「文書」という表現で「記録」については直接的に言及されることが少ないものの、この問題意識には実態としては、とるべき記録の多さとその保管管理の手間の問題が含まれている。 規格における記録の意義は、「要求事項への適合」と「マネジメントシステムの効果的運用」の証拠である。認証審査は組織のマネジメントシステムについて正にこの両者を確認することであるから、組織にとって記録は認証審査への重要な備えであり、合格への対応手段である。審査合格を優先するISO取組みでは、審査員の判断を容易にするための種々の形式が組織の実務に取込まれがちであるが、記録に関してはあまり実務上の意味があるとは思えない多くの記録と長い保管期間の設定というのがその代表である。 そして記録を審査合格の手段としてしか見ていないために一方では、組織にとって必要で有益な記録が紙屑となり、或いは、記録化されることすらなく闇に消えているという実態がある。
   
   記録とは「のちのちに伝える必要から、事実を書き記した文書」(広辞苑)であり、規格でも「達成した結果を記述した文書」(ISO9000;3.7.6)である。 事実や実績を記したものだからこそ、「実施した活動の証拠を提供する文書」(同)たり得るのである。業務に関する事実や実績を記した記録は、ISOのいわゆる品質記録、環境記録の規定とは関係なく、従来から組織の業務の効率的かつ効果的な実行に活用され、重要な役割を果たしてきた。 即ち、組織における記録とは、組織の歩み、諸業務の実行方法と結果、また、ある時点の諸事象の実態を書き記したものである。記録は、組織内の多くの人々の間で知識や情報を共有し、諸事象に共通認識を形成させることに極めて重要な役割を果たす。共通の知識や認識をもった人々の間での議論や問題検討は一般に無駄なく効率的である。 更に、事実を留めるという記録の本質は組織の種々の業務に有効に活用することができる。例えば、人々の個別の記憶や勘に頼らないで事実に基づいて下される判断や決定は適切で間違いが少ない。また、問題が起き、或いは機会があって必要な関係事項を調査した場合にこれを記録にしておけば、次の同種の問題検討の際に再調査するという二度手間を省くことができる。 それに、新しい問題に取組む際或いは何かの問題解決策の検討の際に、過去の類似した問題への取組みの記録を参照することは、その取組みの作業を効率化するだけでなく、過去と同種の失敗を回避することを可能とする。 組織の実務において、人が代わったために他の人が過去に実行したと同じことを繰返し発想し実行するという堂々巡りに陥ることが少なくないが、記録の参照はこのような愚を効果的に排除する。
 
   記録はそれ自身が価値ある情報であるが、多くの記録を生データとして種々の目的での分析に供することでその有用性を一層高める。データ分析によって、個々の記録が代表するそれぞれの事実の裏に潜む真実を炙りだすことが可能であり、個々の記録ではわからなかった事実を見出すことができるからである。 多くの重大な問題の根はデータ分析によって光を当てられ、多くの重要な改善の芽がデータの分析によって見出されている。データ分析は記録の価値を飛躍的に高める。当然、データ分析の結果の記録は利用価値が高い分だけ生データの記録以上に保管の重要性は高い。
 
   規格は証拠としての記録の活用についてしか要求事項を定めていないが、種々の場面で記録の採取と利用についての重要性を示唆している。 ISO9001では 8.4項(データの分析)において、データ分析によって真実を発見して、マネジメント戦略(顧客満足向上施策)や日常管理(予防処置発動)の判断に活用することを規定しているが、データ分析の元とするのは「監視測定の結果及びそれ以外の情報源から得られたデータ」であり、すなわち「記録」である。 しかし、このためにどのようなデータを記録として採取し保管管理するのかは何も規定していない。 ISO14001でも 4.3.1項(環境側面)で必要性が示唆されている初期環境影響評価において「記録のレビュー」(ISO14004;4.1.3)が推奨されているから、そのような記録は普段から採取、管理しておかなければならないということである。また、両規格のマネジメントレビュー(経営層による見直し)や是正処置、予防処置の元となる情報が組織の実績、実状を表す記録を主体とするものであることは行間に読み取ることができる。更に、ISO9001の2000年版の品質マネジメントシステムの原則の g)項(意思決定への事実に基づくアプローチ)は記録のデータ分析の大切さとその活用が規格の意図であることを明確にしている。 実務の場においては記録は事業活動の基本のひとつであるが、規格もシステムの適合性と効果的実施の証拠以上に記録の価値を認め、その作成、維持と活用について意識していることは明白である。業務に関する事実や実績を記した記録は業務を効果的かつ効率的に行なうことに様々な観点で有用である。 ISOマネジメントシステム規格の要求事項における記録の役割は、記録の本来の有用性に比較してほんのわずかな部分に過ぎない。 とるべき記録の種類と内容及び保管期間を規格要求事項への適合のみを考慮して定めるのは適切とは言えないし、 これは規格の意図でもない。
   
   例えば、合否判断基準を数値で表した検査項目欄に「合格」とのみ記した検査記録帳票を検査合格の記録(ISO9001;8.2.4)とすることは登録審査で問題にされないのが普通であるが、「合格」の文字に代えて実際の測定値を記入する方が記録のデータとしての価値は格段に高まる。「合格」では適合の証拠としかならないが、測定値ならデータ分析に供することによって要因の分析が出来、また、傾向管理によって予防処置に結びつけることが可能となる。 「合格」の記録は顧客からクレームを申立てられた際に使用するためであるから、製品出荷後直ちに顧客で使用されるような場合は保管期間はキリのよい1ケ月として十分である。丁寧に識別、ファイルして何年も保管しても意味がない。一方、測定値の記録ならデータ分析に供するに十分な期間は保存することが必要であり、データ分析結果はその利用価値のなくなるまで相当長い期間保存することが組織の利益である。組織の活動の歴史であり長期的観点での戦略的判断の元となるマネジメントレビュー(経営層による見直し)の記録をわずか5年や10年で破棄するのは愚の骨頂に等しい。言った言わなかったの争いを防ぐだけの契約内容確認の記録(ISO9001;7.2.2)を後生大事に1年も3年も保管し、一方で万一の裁判で有利な証拠に使用できる住民の苦情と対応の記録(ISO1401;4.4.3)をあっさりと3年や5年で処分するというのも一般論としては奇妙である。
   
   組織では、事実や実績を記した記録に基づいて議論や検討、又、判断や決定が行なわれる。そしてその結果も記録とすれば、記録は組織の歩みと共に積み重ねられる。業務手順の制定や改定の根拠も記録の中に残される。 記録は組織の経験と知見、技術の集積である。 文書は組織の業務の競争力であるが、その源泉は記録である。しかし ISO両規格とも業務の適合性と効果的実行の証拠としての記録しか要求事項を規定していない。業務を効果的かつ効率的に行なうことに必要な、或いは活用できる記録こそが実務では大切である。何をどのように記録し保管するのか活用するのかは、規格要求事項を越えた判断が必要である。 ISO各規格のために記録の管理が大変と嘆く組織は、実務に使用していない記録がないか、及び、機械的に決めたとしか思われないほどに実務での活用と無関係な永過ぎる保管期間の定めがないのかを点検するべきである。
H16.2.29 
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