ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
102       日常点検表の管理者承認印   ― 百害あって一利なしの形式  <62-01-102>
1.日常点検表 
  業務の実行管理の手段として様々なチェックリスト方式の点検又は確認の書式が用いられている。これは、やるべきことを間違いなくやる、或いは、間違いなくあるべき姿又は状態であることを確実にする効果的な管理の形式である。例えば、始業前の計測器の点検、設備や工具の点検、特定領域立入り時の服装や装備の点検、温度など作業環境の点検、或いは、特定作業又は特定設備運転の条件の点検等々の日常点検表である。この日常点検表の多くに見られる書式は、縦に点検又は確認すべき項目が列記され、横方向に1週間や1ケ月単位の日付など点検・確認時期の欄がある表形式である。担当者が当該項目を点検・確認し、定められた以外の状況、或いは、あってはならないことや状態、つまり、異常がないと判断した場合はその証拠の○印又はレ点を表の各升目に記入する。
 
  多くの日常点検表には、用紙の右上には管理者の承認印の欄がある。1週間や1ケ月毎に記入完了した用紙は現場から回収され、管理者が押印し、ファイルに保管される。
 
  認証審査では日常点検表が無くても直ちには不適合指摘にはならないが、承認印のない点検表書式には首を傾げられ、承認印の抜けが見つかると、いわゆる観察事項としての指摘にはなる。逆に、承認印のある完全な日常点検表が整然とファイルされているのを見せると審査員は当該の事項がちゃんと管理されていると判断する。また、このような日常点検表の運用の仕組みがないと、当該事項が管理されている証拠がないという指摘になることもある。
 
2.規格要求事項としての日常点検表の承認
  ISO9001/14001のいずれの文書管理の要件にも、日常点検表のような文書に管理者の承認が必要とするものは見当たらない。すなわち、規格の文書化の意図に則ると、日常点検表はこれこれを点検・確認しなさいと要員に指示する文書であり、○印やレ点の記入された日常点検表は決められた点検・確認を実行したこと、異常がなかったと判断したという業務実行報告書であり、規格では記録文書である。管理者の承認が、指示内容が適切であることの承認、つまり、『文書が適切かどうか』を吟味承認であるなら、使用前の日常点検表に押印しなければならない。記録たる業務報告書である記入済日常点検表の内容には管理者による適切かどうかの判断の余地はない。実際に管理者は、点検・確認が間違いなく行われたということを確認したという想いで押印しているのだろうから、「承認」欄への押印であっても実体は管理者のこの日常点検表は確認を終えたという自身の覚えに過ぎない。
 
  規格は日常点検表もそれに対する管理者の確認も規定していないから、確認の覚えの押印が抜けていることを以てそれだけで不適合という指摘はあり得ない。審査員は、相当複雑な条文解釈をしなければ、これを不適合とする根拠の条文を引き出すことはできないはずである。しかし、審査員の指摘を鵜呑みにする審査現場の今日の状態においては、規格の規定でなくとも、品質マニュアルやそれが引用する組織の手順書に規定があれば、それとの差異は不適合になるという論理で指摘され、組織は受け入れる。
 
3.管理の手段としての日常点検表の承認.
  管理の目的は定められた通りに業務が行われ、定められた通りの業務結果を得ることが目的であり、換言すれば問題を起こさないようにすることである。管理者の責任の基本は問題を起こさないように要員の業務実行を管理することである。管理者が日常点検表に基づいて点検・確認を行わせるのはこの一環の行為であり、当該業務或いは後工程で何かの問題を起こさせないようにすることが狙いである。点検・確認を行わせるのは、単純が定めた点検・確認を行うと、相当の頻度であってはならないことや状態が見つかり、もし、これを見逃せば相当の可能性で何かの問題が起きるという状況にあるからである。
 
  日常点検表の管理者の押印欄は、担当者が指定した点検・確認を確実に行っていることを管理者が確認することを忘れさせないために設けてある。管理者がなぜこの確認を忘れてはならないかは、担当者が点検・確認を怠ることが少なくないからであろう。問題を起こしてはならないという責任意識から管理者は、命じた点検・確認を担当者が抜けなく行うことまで監視しなければならないと考えて、日常点検表を確認するという手順にしたのであろう。それなら、点検・確認がちゃんと行われたかどうかの確認は毎日の点検・確認の時刻の直後に行わなければならないというのが理屈である。問題が起きてしまったかもしれない1週間や1ケ月後に確認しても手遅れである。
 
  このように無意味な管理が疑問なく続けられているのは、実際に問題が起きていないからであろう。つまり、もともと問題が起きる可能性がないのであり、点検・確認をまともに行っても管理者が検出しなさいと指定した異常が見つからないのである。点検・確認も日常点検表の記入もその抜けの管理者による確認も必要がないのである。管理者がこんな無駄なことを コンサルタントや審査員の言うままに行うのも、規格順守を登録証取得条件と誤解しているからであろう。
 
  管理者が本当に点検・確認の抜けのない実行を効果的に確認しその覚えを残したいなら、確認したことの覚えの押印欄は用紙の右上ではなく、点検・確認記入の表の各点検・確認の欄に設ける必要がある。管理者は、点検・確認の時刻の直後に現場を回って、担当者に点検・確認結果を聞きながら、「よし」と押印する。このことで担当者は点検・確認の重要さを認識し、忘れてはならないと自覚を強めることになる。1週間や1ケ月後に、あの日の○印が抜けていたと注意しても担当者は頭は下げても腹の中は「それでどういう問題があったの」と管理者への不信を高める方向にしか進まない。
 
  問題を起こさないという責任感で仕事をしている管理者が点検・確認の実行が本当に大切と考えるなら、1週間や1ケ月毎の事後確認と押印の形式を履行するとしても、毎度の点検・確認毎の直後確認が出来ない広い業務範囲を持っていても、現場に全く出かけない訳ではないから、現場に出れば、各日常点検表に抜けがないかに注意して見回るはずである。審査で現場に掲載された日常点検表の記述忘れが指摘されるというのは、管理者がこのような視点で現場を回っていない証拠であり、日常点検の実行を大切と考えておらず、決められた形としての日常点検表の確認の押印をしている証拠である。
 
3.日常点検表の承認の真の問題点
  さらに問題なのは、管理者による日常点検表の確認行為が担当者による点検・確認という決められた手順が守られないことがあるという状況での問題発生防止対策であることである。組織の業務実行管理の枠組みというのは、決められた手順は順守されるということが前提である。管理とは手順を決めることにより、皆が勝手気ままにやることによる結果のばらつきを減らすことである。決められたことが守れない状況は、皆に勝手気ままにやらせるのと同じである。業務実行管理というのは、手順の不順守の管理ではなく、統計的ばらつきのような人為的に制御できない技術的、自然科学的要因による手順の詳細条件の逸脱や手順が想定しない異常な結果の管理が目的である。要員が決められた通りに業務を行っていることをいちいち管理者が確認しなければならないというのは、正に管理不在の状況を意味する。
 
  ISO9001/14001の両規格の品質保証・顧客満足/地球環境保全追求のための各規定も、それを満たすよう組織が定めた手順は確実に実行されるという前提で書かれている。規格が依拠するPDCA/プロセスアプローチの考えの監視測定も要員による手順不順守の管理が目的ではない。規格の、手順の文書化(4.2/4.4.4,4.4.5項)、情報連絡(5.5.3/4.4.3項)、責任権限(5.5.1/4.4.1)、要員の職務能力や認識(6.2/4.4.2項)や管理された状態での業務実行(7.5.1/4.46項)等の規定は、決められた手順が確実に守られるようにするための手段として書かれている。定められた手順は要員により確実に実行されるという業務風土の中で、必要な結果が必ず出るように手順を決め、その通りに実行されて狙いの結果が必ず出るように、人知の及ばない或いは想定外の問題の影響を受けないように業務実行を管理するというのが、規格のPDCA/プロセスアプローチの意図である。
 
4.管理者の正しい対応
  管理者が定めた点検・確認の抜けに本当に問題意識を持っているなら、なぜ点検・確認をするという単純な業務が易々と抜けてしまうのかに目を向けるべきなのである。そもそも規格の意図の体系的で組織的な業務実行の素地のない場合を除き、本件に焦点を絞ると、まず第一に担当者が指定された点検・確認の効力を認めておらず、やってもやらなくても問題が起きるかどうかには関係ないと思っているからであろう。第二に管理者が点検・確認の実行を本当に大切であると思っていないと感じているからであろう。第三にこの意識の中では往々にして担当者は管理者から期待されていることが日常点検表への記入であると感じている。第四にまともな場合は、点検・確認をしようとしても出来ない事情がある。
 
  本件に関しては、管理者の問題意識の解決策として日常点検表という形式が適切かどうかをまず考えてみなければならない。どのような業務であれ、決められた通りの結果を確実に出すためには、決められた手順の通りに業務が実行できる状況であることを点検・確認することが必要である。これが大切な場合にはその業務実行の手順に含めることが必要である。しかしこの場合でも、チェックリスト方式の日常点検表を用い、点検・確認したという証拠を記入するという形式が必要かどうかとは別である。考えてみて必要でない、或いは、別の形式や方法の方が適切と思われるなら、日常点検表をやめることだ。やめても規格不適合にはならない。
 
  管理者は問題意識を担当者に理解させ、問題意識に対応し担当者も納得する真に適切な対応策を決めることが必要である。その上で、管理者が本気であることを担当者に感じさせる行動をとることである。
 
5.結論
  日常点検表とその管理者による事後承認の押印という管理の形式は、規格の意図に反する問題対応の形式である。規格にはこれを明示的に規定する条文はなく、規格がこれを業界用語で『要求している』という解釈は誤りである。この形式には問題を起こしてはならないという管理者の責任意識が感じられず、考えればすぐわかることだが実務的にも問題発生の防止に意味がない。担当者には○印やレ点を記入することが仕事という誤った意識を拡げ、机の前に座って現場、現実を見ない安易な管理者を認めることになる。また、外見の不適合の指摘に安住する審査員を増やし、認証制度のいい加減さを拡げ、規格はこんな事を『要求』しているのだと規格の価値が低下する。組織にとって最悪の事態は、管理者の安直な思考や同様の空虚な管理の形式と無責任意識が、組織のあらゆる管理に拡がっていくことである。
H24.2.25 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所