ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
12   ISO思考停止症の管理者達  <62-01-12>
    日本では登録取得ということが組織が規格を適用することと同義語となっている。登録取得が目的化さえしている。書店では登録取得のノウハウ書が書架を賑わしている。登録取得、審査合格を重視するあまり、あまたある研修会が質の高さを誇るのにベテラン審査員が講師を勤めることを挙げる。審査員の質が問題になり指摘のバラツキへの不満が語られるが、組織は審査員と審査機関の規格解釈に神の啓示の伝達かの如くひたすら頭を垂れる。組織の管理者はISOマネジメントシステム規格取組みに関する限り思考停止症に陥っているようである。
 
   規格は組織の運営管理(マネジメント)に関して人間が組み立てた論理の体系である。ISO文書はこれを「この分野の専門家が最新の適切な考えであると合意した諸要素を採入れたもの」であり、航空、自動車、防衛、医療品などの大規模ないし複雑な業務の組織が過去何年も運用してきたマネジメントの業務体系の「成功例をすべての組織に適用できるようにした」ものであると説明している(ISO中央事務局:ISO9001/14000謎解きの旅、[基本];汎用的マネジメントシステム規格)。 規格は審査機関が登録証の代償として神の威を借りて組織に課する制約ではない。規格は組織が品質、環境に関する事業課題に取組む効果的なマネジメントの在り方を示している。規格はいわば、組織運営の教科書であり、内容は組織の管理者の仕事に対する指針である。
   
   規格は神の神秘でも虚構の論理でもなく、産業界の実際の成功体験に基づいている。要求事項にはひとつひとつ理由があるのである。要求事項の解釈は「規格は何を要求しているのか」を推し量るのではなく、「効果的なマネジメントのためになぜこれが必要なのか」を考えることが出発点であるべきだ。解説書や審査員の説く規格の要求なるものは、組織の運営管理に必要か、役にたつのかの観点で疑ってみるというより、実務に照らして自分で考えることが大切である。規格は組織の実務に不必要な事を強制するものではないと信じることが思考の基本である。「○○をしなければならない」と言われてその通りにするのは楽であるが、思考停止症の誹りを免れない。管理者は日頃部下に対してよく考えて仕事をするように求めている。自分がその意味も理解しようとせず、ただ規格の要求と言われてそのまま部下に実行を求めるのは矛盾する行為であるばかりか、管理者として無責任である。
 
   例えば、ISO9001、14001両規格とも教育訓練の記録を維持すべき旨規定している。この記録はなぜ必要なのか、何に使用するのだろうか。認証審査のために必要というなら、それは規格の性格の根本的な誤解である。組織の効果的なマネジメントに必要と考えられるから記録の維持が規定されている。規格の教育訓練の概念は必要な competence と awareness を各要員に身につけさせる手段のひとつである。JISQ9001では前者を力量、後者を認識、JISQ14001では能力、自覚とそれぞれ違った日本語があてられているが、本質は両規格同じである。仕事のしかたを知らない者に仕事をさせても所定の結果は得られない。この要員にはこの仕事はさせてもよいということが、規格では「要員に力量、能力がある」との表現になる。特定の作業に欠員が生じた場合、管理者は他の要員に必要な教育訓練を施して力量、能力をもたせる。この教育訓練の記録はその要員がその作業に力量、能力があることの証拠となる。つまり、どのような教育訓練を受けたかは、その要員がどの作業に力量、能力があるかを示す指標である。教育訓練の記録を利用すれば、新任の管理者でも多くの部下のそれぞれを間違いない職場に配置し、或いは、作業を命じることができる。現実には多くの組織でマニュアルや手順書の改定に関する教育の記録を分厚いファイルに整然と納めている。一方で新入社員を職場配置するためのOJT方式の教育訓練の記録はあいまいなことが多い。手順書の改定を関係者に周知させることは必要であり、この抜けを防ぐ手段として教育の実施を記録するのは有効であるかも知れない。しかし、この記録を後に誰かが何かの目的で使用することになるのかどうかという観点からは、大抵の組織では不必要な記録ということになると思う。従ってこの記録は規格の要求事項の教育訓練の記録には当たらない。
 
   規格は不可侵の神の啓示ではなく、実業の経験を鑑とする管理者の業務に対する指針である。規格は世界の成功体験を含む最新のマネジメントの論理の体系であるが、日本の物づくりのマネジメントを下敷きとする規格であるので、要求事項の多くは日本の管理者にとってはほとんど常識的である。 ただし、品質、環境管理(マネジメントの意)の他、経営管理学、マーケッティング理論、リスク管理など各種の要素を織り込んだ包括的な論理の体系となっている。やさしいISOとか、すぐわかるISOというようなものでは決してない。しかも、規格は他ならぬ管理者の仕事を規定している。部下を指導監督する管理者たる者、規格を自ら学び自ら考えなければならない。また、その価値のある規格であると思う。
H16.4.18 
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
サニーヒルズ コンサルタント事務所