ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
18   規格解釈は誰のためか? −旧版誤訳を糊塗するISO14001改訂説明  <62-01-18>
    ISO14001では、組織はその活動、製品、サービスの環境側面を管理することによって著しい環境影響の継続的低減を図る。この基礎となる環境側面の特定に関して 4.3.1項は、「組織が管理でき、かつ、影響が生じると思われる(中略)環境側面を特定する」べきことを規定している。この環境側面の解釈としては、環境側面には「組織が直接管理できる環境側面」と「組織が影響力を及ぼすことができる、つまり、間接的に管理できる環境側面」の2種類があるとするのが一般的である。
   
   しかしこれは条文の日本語解釈としては無理がある。なぜなら、「○○かつXX」というのは「○○であり、同時にXXである」の意味であるから、「かつ」でつながれた前後の「○○」と「XX」とを異なる2種類の環境側面と解釈することはできない。また、「影響を生じる」というのも「何が、何に」が記述されていないので日本語としては意味不明である。これを「組織が影響力を及ぼすことができる」と解釈するには相当の理屈が必要である。
   
   にもかかわらず、この解釈は規格解釈としては適切である。なぜなら、ISO14001の英語原文のこの部分は「the environmental aspects (中略) that it can control and over which it can be expected to have an influence」であり、ここに it は組織のことだから正に、組織が「管理できる」と「影響力を及ぼすことができる」という2種類の環境側面が規定されているからである。 JISQ14001規格は「ISO14001を翻訳し、技術的内容(中略)を変更することなく作成」(JISQ14001 0.1)した規格であるから、その解釈は翻訳文たる日本語に囚われる必要がない。むしろ意味不明の場合は原文に立ち返るのが本筋である。原文の「have an influence over 〜」は「〜に影響を及ぼす」であり、「影響を生じる」という和訳は不適切というしかなく、「かつ」と合わせて誤訳の類である。
   
   ところで環境管理規格審議委員会のISO14001解釈委員会はその質問1にこの問題を取り上げ、「組織が直接的に管理しているものに加えて組織の活動などが客観的に見て何らかの影響力を行使できると判断される範囲のものという意味であります」と回答している(2004.4.28)。 2種類の環境側面説が公式解釈ででもあるということである。しかしこの回答では、「環境側面そのものに組織が管理できる要素という意味合いがあることを踏まえて環境側面の範囲を考えますと」が前記結論の前置きである。解釈委員会が2種類の環境側面説を正しいとする判断根拠なのであろうが、これでは「かつ」がなぜ「〜に加えて」の意味になるのか説明がないから説明になっていない。また、回答は、原英文には全く触れていない。 結論自体は正しいのだが、論拠を示さないまま、「かつ、影響を生じる」が「〜に加えて影響力を行使できる」を意味するのだという判定である。解釈委員会は規格を如何様にも解釈する権限を有するが如き説明に思える。
   
   2004年の改定に関しても最近DISをベースに幾つかの解説が発表されている。改定版でこの 4.3.1項の「影響力を及ぼすことができる環境側面」に関する英語条文は 「over which it can be expected to have an influence」から「those which it can influence」と変わった。 これは「影響力を及ぼすことができると思われる環境側面」から「影響力を及ぼすことができる環境側面」へと、表現が単純明快になっただけである。海外の解説は、条文の変化に触れないか、触れても表現の明確化としか説明していない。 英語で条文を読む読者には解説者が説明するまでもない変化である。
   
   ところが日本では、この新条文を「組織が管理できる環境側面及び影響力を発揮できる環境側面」と和訳して、この和訳文と現行版の「管理でき、かつ、影響が生じると思われる環境側面」との違いを根拠に、1章と4.3.1項のこの部分の条文の変更が意味のあるものとして説明されている。 中には、現行版の「管理でき、かつ、影響を生じる」では「管理できる側面の中の影響力を及ぼすことができる側面」との誤解を生じやすいので、改定版のように記述が変更になったとの説明まである。
   
   規格は国民の環境保全のニーズに応え、持続可能な発展を図る組織の努力に対する指針である。 規格作成や規格解説に携わり或いは規格の使用や普及を生業とする者は、自らの規格解釈の社会的責任を自覚しなければならない。 責任ある立場にある者ほど、恣意的な規格解釈や説明は慎まなければならないし、説明には根拠を明示するべきであり、立場上知り得た情報は自らの主張の一部としてでなくそのまま公開するべきである。本来、規格解釈は規格使用者に委ねられるべきであり、組織や国民、地球環境の利益に資するように行なわれなければならない。
H16.7.31 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所