ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
21   審査のばらつきは受審組織が原因  <62-01-21>
    ISO規格取組みに関する問題点としてしばしば採り上げられるのが審査のばらつきである。これは、審査員が変わると以前と違う指摘を受けたというような受審組織の体験に、納得できない指摘が少なくないという不満が入り交じり、審査員が受審組織の業務を知らないからではないかとの憶測が加わった問題意識のように思える。従って一般には、審査員の規格解釈能力や審査対象業務に関する知識に原因があると言われている。
 
   しかしながら規格解釈について言えば、現実に様々な規格解釈が発表されている一方で自身の規格解釈を公にして審査を行う審査機関はない。審査員資格を得るための研修でも主体は監査技法であり、種々の規格解釈を比較検討する機会はない。審査員はそれぞれ独自に自身の解釈を構築することにならざるを得ない。これでは審査員によって規格解釈が異なるのは当然であり、異なった不適合指摘となることも避けられない。問題を審査員の資質の問題に帰しても解決にはならない。
   
   また、審査員は過去の実務経験に基づいて"専門性"の認定を受けている。審査機関は派遣する審査チームの中に対象業種に専門性を認定された審査員を含めなければならず、いなければ審査員の他に"専門技術者"を随行させなければならない。当該業種に疎い審査員のために誤った不適合指摘がなされることがないような制度となっている。もしそのような審査員がいて不適切な指摘をしたとすれば審査員を選んだ審査機関が責めを負うべきことになる。
   
   基本に帰って審査という活動の本質に照らすと、審査のばらつき、つまりは審査員とその指摘に対する受審組織の不満そのものが当を得たものではないのである。 ISOマネジメントシステムの監査(1)(2)は、客観的証拠によって監査基準が満たされている程度を評価する活動である。問題点と判断基準が誰の目にも明確であるという点で、監査は本質的に審査、受審の両者に公平性が保証された活動である。 ISOマネジメントシステムに関する審査の規格(3)によると、審査員は不適合指摘に際してはその根拠となる証拠を提示し、被監査者の合意を得るあらゆる努力をしなければならない。そして意見の相違がどうしても解決できない場合は、審査員は監査報告書にこのことを明記することが必要である。 登録可否の判定をするのは審査機関内に設置された判定専門の機関であるから、このような不適合指摘を含む監査報告書がその審議に影響を及ぼすことは必至である。更に審査機関として認定されるには審査機関は、受審組織からの異議申し立て、苦情、紛争を受付け、処理する手順を持たなければならないことになっている(4)。 この記録は維持されてJABによる審査機関の認定審査に供される。受審組織は納得のいかない指摘に泣き寝入りする必要はない。
   
    指摘に不満を抱きながら受審組織が受け入れているのは、審査員が規格解釈の権限を有するという誤った認識が審査員、受審組織の双方にあるからではないのだろうか。そうだとすればその背景にはISO規格というものに対する誤解があると思う。日本では規格の要求事項を審査登録を求める組織に対する"規格の要求"であるとの認識が一般的である。審査登録のためと言われると受審組織にとっては何が正しいのか判断する基準がない。審査員なら資格を有するのだから判断基準をもっているのだろうと推測する。従って、審査員が規格解釈の主導権を握ることになる。一方で、様々な規格解釈が発表されてもいずれも判断根拠は示されず、日本語条文に隠された神様のご意思を読みとったかの如くの結論の提示のみである。これではどれが正しいかの議論は出来ないから、実際そのような議論は全くなく、各解説者の言い放し聞きっぱなしの有り様で、中でもTC176やTC207の国内関係者のお説が権威をもつ。このような状況で審査員も受審組織もよくわからないまま、自身で理解できる部分の形式的解釈を自身の解釈としていく。審査では、審査員が「規格が要求している」と理屈抜きの不適合指摘をしても、受審組織は訳がわからなくとも神様の御託宣ならやむなしと平伏し指摘を受け入れる。審査と受審側の間の意見の相違やその解決のための議論は生まれようがない。
   
   しかし、規格は効果的なマネジメントであるための必要条件を規定した、過去の成功体験に基づく理論の体系である。規格解釈は組織にとって必要かどうかの観点で行われるべきであり、組織の利害に関する問題であるから本来、受審組織が主体的に規格解釈を担わなければならない。実際問題として組織が審査員の指摘に不満を感じるのは、見解の相違があるからである。恐らくは、受審組織が必要でないと思っている業務や文書や仕組みを審査員が要求していると感じられるからであろう。それなら組織は納得のできるまで反論するべきである。規格は成功の道しるべであり、規格が組織の足を引っ張ることを要求することは本質的にあり得ないと受審組織は信じてよい。受審組織は自らの利益にならない指摘には反論するべきである。監査はそういうものであり、登録制度も反論を受入れるようになっている。
   
   審査のばらつきの責任をひとり審査員に押しつけるのは正しい問題認識とは思えないし、これで問題解決が図られることは期待できない。 審査のばらつきは、それを許容している受審組織の側に本当の原因があると考えることができる。審査のばらつきは、規格と審査の本質を顧みずにひたすら登録証の入手を追い求める組織の安易なISO取組みのつけであると思われる。

(1) ISO9000:2000, 用語の定義、3.9.1
(2) ISO14001:1996, 定義、3.6
(3) ISO19011:2002, 現地監査活動の実施、6.5.5他
(4) JAB R100-2001(JISZ9362-1996), 異議申立て、苦情及び紛争、2.4
H16.9.18 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所