ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
23   遂に全国誌に登場、
「"要求事項" は "必要事項"」という真実
 <62-01-23>
    多くの企業は 「規格が要求しているからと品質マネジメントシステムを構築しているが、 ISO9001の要求事項には "こういう仕事の仕方が必要" と書いてあるに過ぎない」と、雑誌 "日経ものづくり" 2004年 11号は「ISO9001失効の裏側」と題する解説記事で述べている。日本では、規格の「要求事項」を審査登録のために “規格が組織に要求する事項” であるとするかの規格理解と要求事項解釈が大手を振っており、“規格の要求である” として神のご託宣の如き、根拠や理屈抜きの要求事項解釈が疑問を呈されることなくまかり通っている。 従って、「要求事項」の上記のような意味の理解が全国的な雑誌に記載されたのは筆者の知る限りこれが初めてである。また、この記事のため筆者は最初に取材を受けたが、記事の主張が取材結果の反映であるなら、筆者の "ISO 実務の視点" の規格理解の考え方が初めてこのように直接的表現で外部に採り上げられたということになる。
   
   「要求事項」はISO原文の requirement の和訳であるが、この “要求” という日本語が一人歩きして、「〜は規格の要求である」 とか 「規格は〜を要求している」という規格解釈が広く行われている。 最近の各誌のISO14001改定関係の記事でも 「〜を要求することになった」 とか 「要求が〜に変わった」などの説明が幅を利かせている。 しかしながら、規格の requirement の定義(ISO9000 3.1.2)は、need or expectation (必要とされるもの又は期待されるもの) であって、明らかに “要求” ではない。 英語としての requirement の一般的な意味も、例えば、something that you need or want 及び something that you must have in order to do something である(1)から、”何かに必要” という意味であって、”要求” ではない。従って、規格の requirement は ”要求”事項ではなく、”必要事項” ないし “必要条件” という意味であると理解するべきである。 「要求事項」は適切な日本語訳ではない。 なお、他の辞書(2)では、need と an essential condition の他に act of requiring も挙げているから、”要求すること” の意味もあるのだろうが、規格の文脈では need(必要性)、an essential condition(必須条件)の方である。
   
    ISO9001、14001の両規格は、組織と製品に利害を有する顧客をはじめとする諸関係者のニーズと期待を満たす品質の製品の供給、或いは、環境保全を組織が行うことに関する国際的な指針を示す。 「要求事項」は、このような効果的な品質保証をするため、或いは、効果的に環境影響を低減するために組織が行わなければならない “必要事項”、或いは、行うべき仕事に対する “必要条件” である。 「要求事項」は仕事に対する “必要条件”であるから、 「・・・すること」等の表現で規定されていても、何をしなければならないかではなく、なぜそれが必要かという観点で解釈を行うことが正しい。 組織の実際の仕事のしかたにそのような要素が含まれ、或いは、そのようになっているのかを考えることが、規格の組織の業務への適用の基本である。そして組織は、単に “必要条件” を満たすのではなく、品質保証、環境影響低減に関する利害関係者のニーズと期待に応えるのに “十分な” 程度に “必要条件” を満たして仕事を行わなければならない。 “日経ものづくり” の記事の「ISO9001は必要条件であって十分条件ではない」という記述はこの意味である。
   
   逆に、組織が “必要条件” たる「要求事項」に沿って “十分な条件” で、つまり、効果的に業務を行えば、利害関係者のニーズと期待に応えるのに必要な品質保証、環境影響低減を実現することができる。登録証は、組織がそのように必要な仕事を行っており必要な結果が達成されていると信じてよいという利害関係者に対するお墨付きである。これに関して “日経ものづくり” の記事は、「一定の品質保証の仕組みを整えて、それにのっとって仕事をしていれば ”品質が保証されるはず” と考える」と、国際貿易における品質保証がISO9001制定の狙いであることを記し、「管理体制と製品の品物は別物だ」と言っていては「ISO9001に対する信頼はなくなってしまう」と品質不祥事を起こした企業に問題提起している。後者に関しては筆者は、システムの品質と製品の品質は別と言ってはばからない審査機関があるとして指摘した。日本では、登録証の意義は何か、登録証を得た組織の責任は何か、登録証を発行する審査機関の責任は何か等の議論がほとんどないから、審査登録制度の意義をここまで正確に述べた全国誌を筆者は知らない。記事のこれらの部分も筆者が取材を受けたことの反映であるとすれば、“ISO 実務の視点” のこの論点も初めての全国デビューである。ただし、筆者の名で引用されている「審査登録機関が製品の品質まで保証してもいいはず」とのコメントは筆者の考えと合致しないことを明確にしたい。
   
   日本のISO取り組みの問題点のほとんどすべての背景に requirement を 「要求事項」と翻訳し、”要求” を一人歩きさせたことがあるというのが、筆者の見方である。そもそもISO規格を翻訳したJIS規格をその日本語で解釈することは、ISOの国際規格の枠組み(3)を無視した誤った規格取り組みなのである。 深刻なことは、”要求”事項の誤解に代表され、及び、そこから波及する、規格と審査登録制度の本質の議論の欠如、理屈抜きの規格解釈、日本語による条文解釈、実務と乖離した形式主義、有効性を対象外とする認証審査等々のISO取り組みの数々の問題が、この世界をリードする識者、権威者に始まることである。 筆者の “ISO 実務の視点” はこの現実に対する問題提起である。この度の “日経ものづくり” の記事は ”ISO 実務の視点” のようないわば業界秩序に反する見方、考え方をも取り入れて、問題ある現実に確かなメスを入れたものと考えることができ、取材を受けた時点での商業雑誌に対する悲観的な期待を覆すものであった。
 
参考文献    (英文文献及び *印は筆者の翻訳)
(1) ISO9000 3.1.2
(1) Oxford Advanced Learner’s Dictionary
(2) Webster’s Encyclopedia of Dictionaries
(3) IEC GUIDE21:国際規格の地域規格または国家規格としての採用
H16.10.31 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所