ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
26   要求事項の意図と要求事項の表現  <62-01-26>
    ISO14001の2004年版の発行に関して、「ここが変わった」との解説が賑やかである。大概の説明は「明瞭性と両立性が改定の趣旨であるが、要求事項にも変更がある」というものであり、海外でもこのような表現で改定が説明される例が少なくない。加えて日本では「旧版の抜け道を阻むために要求事項が改定された」として「改定版では〇〇が認められなくなる」というような極端な解説を初め、審査をする側の立場からの種々の改定解釈が喧伝され、審査をこう変えるという各審査機関の見解が雑誌に特集されている。
   
   ところで、「要求事項」はJIS規格で使用されている日本語である。ISO英原文ではrequirement であり、これは「必要な又は欲しいもの(something that you need or want)」(2)の意味である。 実際、ISO9000の定義(3.1.2項)でも「必要とされるもの或いは期待されるもの」(need or expectation )」(2)である。 ISO規格の requirement は決して「要求」ではない。また、規格作成に関するISO/IEC指令(1-1)によると、ISO規格の規定(若しくは条項) (provision)には、 requirement, recommendation, statement の3種類があり、この内の requirement は「適合のために遵守しなければならない或いはそれからの乖離が許されない基準(合否判定基準)を表現する」ものである。 つまり、requirement とは「必要条件」「遵守基準」というような意味であり、マネジメントシステムの場合では、ISO9001/14001の狙いを達成するよう組織が品質又は環境マネジメントを効果的に実施するのに「必要な条件」、或いは、「遵守する必要がある基準」という意味である。
 
   同じISO/IEC指令はまた、requirementに関して、枠組みとかそれがどんなものかというような言葉ではなく、出来る限り性能あるいは達成目的を現す言葉で表現されるべきことを規定(1-2)している。 すなわち、requirement は、必要条件或いは遵守基準を、目指し又は達成すべきものの合否判定基準、として記述されたものである。規格条文は「〇〇すること」という表現で記述されているが、「〇〇するという状況」或いは「〇〇する目的」が実現しているかどうかの判断基準が要求事項である。海外文献ではしばしば、「要求事項の意図(intent of requirement)」 という言葉が出てくる。規格条文の「〇〇する」ことではなく、「〇〇する」ことの意図が大切なのであり、それが requirement なのである。
 
   例えばISO14001の文書管理の要求事項のひとつである96年版の4.4.5 c)項の「環境マネジメントシステムが効果的に機能するために不可欠な業務が行われているすべての場所で、関連文書の最新版が利用できること」は、2004年版では「該当する文書の適切な版が、必要なときに、必要なところで使用可能な状態であることを確実にする」と変わった。文章は随分変わったが、その業務を誰がいつ行っても同じ手順で行われ同じ結果が得られるようにするという「文書に基づく業務遂行が必要である」という「規格の意図」には何ら変更がない。つまり、要求事項の記述、表現は変わっても、要求事項の意図には変更がない。ISOマネジメントシステム規格の概念においては、このような場合は「要求事項に変更はない」というのが正しい理解であり表現なのである。この変更については日本の解説者ですら、変更はISO9001との互換性のためにその文書管理(4.2.3 d)項)の記述がそのまま採用されたもので、「要求事項の変更」ではないと説明している。この場合の「要求事項の変更」は、「要求事項の意図の変更」の意味で使われているのであろうから、日本でも「表現の変更」と「意図の変更」が区別されている例である。
   
    一方で4.4.5項の2004年版には「外部からの文書を明確にし、その配布が管理されていることを確実にすること」(4.4.5 f)項)と「外部文書」が加わったのを「要求事項の追加」と受けとめる解説があるが、これは「表現の変更」を直ちに「要求事項の変更」と受けとめる例である。外部文書であれ、それを業務に使用するには「必要なときに、必要なところで使用可能な状態」(同 d)項)を確保する必要がある訳であり、f)項には規定されていないが外部文書も更新があるならば当然それは「該当する文書の適切な版」(同 d)項)でなければならない。先のc)項と同じく、文書に基づく業務遂行という規格の意図は何ら変わっていないが、表現をISO9001の4.2.3項と同じにするとこういう記述になってしまっただけである。表現は変わったが要求事項は変わっていないのである。
 
   ISO14001の改定作業開始にあたっての「既存の文章に対する如何なる変更も、ISO14001に要求事項を追加することにならないで、規格使用者の理解と実践を助けるものでなければならない」とのTC207の決議は、正に、「要求事項の表現(条文)」は変えても「要求事項の意図」は変えないということを意味している。日本では「要求事項」を登録証発行のための代償としての「規格の要求」と受けとめられており、条文の「〇〇すること」に文字通りの何らかの明確な形式を伴う対応をすることが「規格の要求」を満たすものと考えられている。そして、条文の日本語をどのように考えるかが規格の解釈であるから、条項や条文の変更はすなわち「要求事項の変更」と受けとめられる。従って、ISO14001の2004年改定には多くの要求事項の変更が含まれるという認識になる。
   
   「要求事項の意図」を顧みず、「規格の要求」を条文の日本語に見出そうとする日本の規格解釈の常識に従うなら、ISOマネジメントシステムが機能しないで組織の重荷となるだけでなく、5年毎の規格改定の度毎に「変わった変わった」と大騒ぎをしなければならない。
 
   
<註釈: ISO/IEC指令、4.2項 Performance approach について>
   ISO/IEC指令 第二部の国際規格の起草及び構造に関する規則(1)の4項には、ISO/IECの発行する規格等の文書の作成に関する原則が規定されている。 現行版は2002年7月1日施行の第4版である。これは、1997年発行の第三部を下敷きに改定され、この時に1992年発行の第二部にあった標題 performance approach の条項が4.2項として追加されたと、その巻頭に記されている。
   
   岩本威生氏は、その著書(3)の中でこれを同指令 第二部、第2版(1992年)の5.2項「性能へのアプローチ」として、ISO中央事務局が最近強調している規格作成のポイントであり、ISO9001の2000年版改定の記述の変更の多くがこの規定の採用による表現上の変更であると説明している。
 
  4.2 Performance approach
   Whenever possible, requirements shall be expressed in terms of performance rather than design or descriptive characteristics.
 
   Performance は、how well orbadly you do something, how well or badly something works(2) であるから、出来栄え、機能する程度という意味である。 一方、Design は、arrangement,drawing/plan/model(2) であるから、ものごとの骨組みや枠組み、構造といった意味である。 Descriptiveとは、どうあるべきかの基準、判断を伴わないものごとがどのようなものかを言う(2) との意味で、characteristics は 特徴、特質、特性と訳されるが、ISO90001の定義(3.5.1項)では「特徴(distinguishing feature)」である。
   
   Performance approach の意味するところは、「必要な条件」或いは「遵守する必要がある基準」たる「要求事項」は、枠組みとかそれがどんなものかというような条件、基準の形で表現するのでなく、出来る限り、性能あるいは目的達成の程度を表す条件、基準の形で表現されるべきである、という意味であると思われる。マネジメントシステムに関して簡単に言えば、あれをする、これをする、ではなく、このような状況を実現、維持する、こんな結果を出す、という規定であるべきだということである。
   
   
引用文献   (英語文献及び*印は筆者の和訳)
(1) ISO/IEC指令 第二部、国際規格の起草及び構造に関する規則 第4版、2002;  3.10項(1-1)、4.2項(1-2)
(2) Oxford Advanced Learner’s Dictionary
(3) 岩本威生: ISO9001:2000 解体新書、日本規格協会、2001.7.13; p.33
H16.12.31 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所