ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
27   マネジメントシステムは経営のツール ?    -大いなる錯覚-  <62-01-27>
    日本では「マネジメントシステムは経営のツール」とする見解が広く認められている。曰く、マネジメントシステムを「経営のツールとして活用する」「経営の改善、成果をあげるためのツールとする」「体質強化、経営改革のツールとして応用する」等々である。 また、これに関連すると思われる規格解釈に、ISO9001、14001規格を品質改善活動や環境改善活動の規格と捉えたり、システムを「仕組み」と捉えるかの見解や説明があるが、いずれも広く唱えられ肯定的に受けとめられている。しかし、これは大いなる錯覚である。
   
   ツールとはtool の片仮名英語と思われるが、 tool は「工具」の他「何かを達成するのを助けるもの」の意味(1)である。 経営管理学にある「用具」と同じで、「経営のツール」とは「経営の手段」ということを言っているものと思われる。
 
   経営とは組織の発展のための「組織の在りよう」つまり、事業の方向、戦略を決める活動であり、株式会社では取締役会がこれを担う。この経営の目標を効率的、効果的に達成するように組織の事業活動を統率、管理する活動がマネジメント(management、管理)であり、一般に代表取締役たる社長を頂点とするトップマネジメントがミドルマネジメント、ロアマネジメントの各管理者(manager)にそれぞれ日常業務としての責任と権限を委ねて実行せしめつつ、これを方向づけ制御している。  日本では、専務、常務など役付き取締役、業務担当取締役、あるいは取締役部長などの使用人兼務取締役など取締役会メンバーがトップマネジメントを構成して、組織内の業務の執行の任に当たっているので、しばしば、トップマネジメント活動のことが経営と呼ばれる。
   
   一方、システムとはある目的のために必要な種々の要素が集まり相互に関連して機能している状況にあるその全体のことを指す。例えば公共交通のシステムとは、種々の経営主体の鉄道やバスの路線が相互に乗換え用の駅があり、乗り継ぎダイヤが整備され、相互乗り入れがあり、利用者が種々の目的地に速く容易に到達できるような状態になっているこれら諸交通機関のことを示す。交通システムは交通体系とも呼ばれ、その連結した諸路線は路線網と呼ばれる。
   
   ISO14001や96年版のISO9001のではそのマネジメントシステムの要素は「組織の体制、計画活動、責任、行為、手順、プロセス及びその他の資源」である(2)(3)。 ISO9001の2000年版ではプロセスアプローチの考えから、システム要素はプロセスであり、マネジメントシステムはマネジメント活動のプロセスが相互に関連づけられて実行されている状態でのそれら諸プロセス全体のことである。マネジメントシステムではプロセスとは業務のことであり、ある業務がどのようなものかはその実行の手順で表現され、手順はそのために「必要な組織の体制、計画活動、責任、行為、手順、プロセスなどの諸資源」で以て表現される。 3つの規格の定義におけるシステム要素の違いは単なる表現上のものに過ぎない。 従ってマネジメントシステムとは、ISO9001の2000版の「諸業務のシステム(system of processes)」(4)とか 96年、2000年両版の「諸業務のネットワーク(network of interacting processes)」という概念(5)(6)に従って実体的には「諸業務の有機的集合体」、また、表現上では「マネジメントの業務体系」と理解するのが実務的である。
 
   このように、マネジメントシステムとは業務という能動的なものを要素とし、それら諸業務がマネジメントの目的の達成を図るように相互に関係して実行されている状況のそれら諸業務の全体のことである。トップマネジメント活動を「経営」と呼ぶ習わしに従うなら、マネジメントシステムは経営システムと呼ばれ、実体は経営のための諸業務の有機的集合体である。すなわち、マネジメントシステムは経営の手段や用具ではなく、経営の活動そのものである。「仕組み」も資源の内のひとつであり、ISO14001や96年版ISO9001の表現ではシステム要素のひとつに過ぎず、「仕組み」はそれ自身マネジメントシステムではない。
   
   日本ではこのような本質に係わる見解でもいわゆる権威者に発すると、吟味されることなくメディアを介し、或いは人づてに拡がっていく。どんな規格解釈も説明も検証されることなくありがたく受け入れられる。適合性評価専門委員会(7)は機能しない日本のISOの原因を「審査機関、コンサルタント、企業間の馴れ合い審査の負のダウンスパイラル」と見るが、業界に蔓延する権威主義と無思考依存主義の「負のダウンスパイラル」こそが本当の問題であると思う。
 
 
参考文献  *印 及び 英語文献は筆者の和訳
(1) Oxford University Press: Oxford Advanced Learner's Dictionary, 6th Edition
(2) ISO14001:2004  3.8項(環境マネジメントシステム) 参考2
(3) ISO8406:1994  3.6項(品質システム)
(4) ISO9001:2000  0.2項(プロセスアプローチ)
(5) ISO9000-1:1994 4.7項(組織におけるプロセスのネットワーク)
(6) ISO/TC176: プロセスアプローチに関する指針、Fig.6、N544R、 4 Dec. 2003
(7) 適合性 評価部会: 管理システム適合性評価専門委員会報告書 H15.5
H17.3.10 
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
サニーヒルズ コンサルタント事務所