ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
28   いいとこ取り」のEMS     −いつでも組織は悪者  <62-01-28>
    日本ではISO14001の2000年版改定の要点として、環境方針(4.2項)や環境側面(4.3.1項)に関する「活動、製品又はサービス」の「又は」の「及び」への変更が大きくとり上げられ、これは組織が本業に係わる重要な環境側面を除外した取組みで登録を取得することを阻止することが狙いであると説明されている。旧版の「又は」という表現が悪用されて、活動、製品、サービスのどれかの環境側面に取組むだけでよいという解釈を許し、環境側面の特定時に「いいとこ取り」を行う組織があったということである。このような例として、「紙、ごみ、電気中心の本来業務と遊離したEMS」が挙げられ、この種の環境マネジメントシステムへの登録証発行が数少なくないことが示唆されている。説明は、規格の抜け穴を探す不届きな組織が多かったが、もう許さないぞという組織に対する非難と警告を含蓄している。
   
   実際に「いいとこ取り」の登録取得があったとすればゆゆしきことである。なぜなら、「いいとこ取り」の環境マネジメントシステムは地球環境に対する組織の責任を果たすことを狙いとしていないから、組織が日頃社会に及ぼしている環境悪影響は放置されたままであり、一方で登録証を掲げ環境改善に精一杯の努力をしていると偽って社会や利害関係者からの恩恵に与っているからである。そして、このような組織の環境マネジメントシステムも審査機関による審査に合格してきたということであれば、持続的発展の枠組みとしてのISO14001規格や審査登録制度に対する社会的信頼は地に落ちかねない。
   
   「いいとこ取り」許さずの説明は、「いいとこ取り」が組織の悪智恵であると断ずる一方で、旧版の規格解釈上はこれを認めざるを得なかったと暗に言い訳をしている。しかし、ISO14001の規格解釈についてはTC207の音頭で世界的に整理が行われ、日本では2000年にISO14001解釈委員会報告として3件の規格解釈のまとめが公表された。然るに「活動、製品又はサービス」の「又は」が「いいとこ取り」を許容するものかどうかの解釈は、同委員会が「規格の誤った解釈を避けるために規格の策定された意図を説明する」ためとして選び、正しい解釈を同報告書で整理した3件の問題には含まれていない。また、JABはISO14001と審査登録制度の普及を目指して問題点を討議するJAB/ISO14000シンポジウム(非公開)とその結果報告主体のJAB/ISO14001公開討論会を毎年開催している。2001年のシンポジウムの標題は「審査登録制度の信頼性と有効性」であり、2003年12月の副題には「EMSを本業で展開しよう」が掲げられているが、この場を含めて「いいとこ取り」が正面から問題視された形跡はない。にもかかわらずJABはそのホームページで、「重要な環境側面を除外した形でシステムを構築し、あたかもすべてが認証取得したかのようなアピールを防止するため」と改定の趣旨を説明している。更に日本で刊行されるISOマネジメントシステム専門誌には規格の理解やマネジメントシステム運用に関する種々の問題がとり上げられ、関係者の解説が掲載されている。雑誌への露出の機会を独占する権威者、識者、関係者が、「いいとこ取り」をとり上げ警鐘を鳴らし或いはこれを是認せざるを得ない事情について苦しい胸の内を吐露した形跡を確認することができない。
   
   関係者の問題意識にあったにもかかわらず組織の悪智恵を阻止できずに、結果として日本に「いいとこ取り」が存在したということは事実として確認できないのである。日本のISO取組みにおいてはTC207国内対策委員会を頂点とする一握りの関係者が規格解釈を独占し、識者、審査員、コンサルタントと順送りに解釈が引き継がれて、規格導入組織自体はこれを唯々諾々と受け入れてきた。登録証発行を目的化した規格解釈の大勢に組織は規格解釈に対する自律性を事実上喪失させられているのが現実である。このような組織が規格の文言の抜け穴を自ら探し出して「いいとこ取り」をして、その上で審査員の問題指摘を押し返してその解釈を貫いて登録証を得るというようなことは考えられない。「いいとこ取り」はコンサルタントの誘導であり、審査員の認めるところであり、それらに枠組みを与える権威者、識者、関係者の意に沿ったものであったと考えるのが自然であろう。
   
    今になって「いいとこ取り」をした悪者を取締まる警察官の役割を気取ってどうするのだろうか。メディアで報道される登録取得組織の環境或いは品質不祥事によってISOマネジメントシステムの枠組みの有用性に対する社会的信頼は既に大いに揺らいでいる。不祥事に対しては組織の悪意ないし過失を一次原因として審査や制度に対する批判を辛うじて逃れてきた。しかし、「いいとこ取り」の環境マネジメントシステムへの登録証発行が事実であるとすれば、例え抜け穴探しの組織が悪いとしても、それは審査機関や制度の機能不全と見做なされ、社会のISO離れを加速することは必定である。制度の機能不全を認めるこのような規格改定説明が、規格と制度を生業の具としそれ故にその存立に最も利害を有するはずの権威者、識者その他関係者によってなされていることが何とも奇妙である。「いいとこ取り」許さずの論調は、何であれ問題は受審組織にその責めを負わせて自らは絶対不可侵の立場において日本のISO14001取組みをリードし或いはお墨付きを与えてきたそれら関係者の言動と軌を一にするものであるが、社会のISO離れを引き起し自らの立場を危うくすることに気づいていないように思える。
H17.3.29 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所