ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
29   審査機関の顧客は受審組織ではないという考え方
                                −権威主義の露呈
 <62-01-29>
    審査機関は受審組織のために審査するのでなく、その組織の顧客のために審査するという考え方がある。つまり、審査機関の行う第三者審査たるISOマネジメントシステム審査の顧客は受審組織ではなく、審査結果を活用する受審組織の顧客であり、社会であるという主張である。この主張は、受審組織は登録証を安直に入手することを望んでいるという組織性悪説によって立ち、適合性審査は組織の不正防止が目的かの考えに立っているように思える。代金を支払って審査を依頼する組織こそが認証登録制度に係わる機関、人々の顧客ではないのだろうか。
 
   そもそもISOマネジメントシステム規格の基本概念は、顧客や社会など諸利害関係者のニーズと期待を満たすよう製品を提供し或いはその活動を行うことが、組織とその製品が顧客や社会に受入れられ支持を得るために必須であるということである。。ISO9001/14001両規格は、組織が品質或いは環境に関してそれを実現するのに必要なマネジメント活動の在り方を、各種業務に関する必要条件(「要求事項」)として規定している。組織のマネジメント活動がこれら必要条件を満たして効果的に実行されているかどうかが「規格適合性」である。組織は、その業務の規格適合性を中立的立場の権威ある第三者に実証してもらうことによって、組織の活動と製品が顧客や社会のニーズと期待を満たしたものであることを訴え、その支持を得ることが可能となる。
 
   ISO規格適用の枠組みとしての第三者審査の目的は「組織のマネジメントシステムが効果的に履行されているとの保証を組織と顧客に与える(1)」ことである。 認証審査は規格導入の必要条件ではない。銀行に対する金融検査のように組織の事業活動の監督が目的でもない。組織が審査機関による審査を受けるのは、自身のマネジメントシステムの規格適合性を顧客や社会に訴えるために、その権威ある証としての登録証を入手するためである。 認証審査は、審査機関が組織のマネジメントシステムの規格適合性の判断というサービスたる製品を提供し、受審組織はその判断の証たる登録証を対価を支払って受け取るという商取引である。規格の定義では「製品を提供する組織又は人」は「供給者」であり(ISO9000 3.3.6項)、「製品を受け取る組織又は人」の「顧客」である(同 3.3.5項)。 審査機関はじめ認証登録制度の諸機関、人々は、受審組織に製品を提供する「供給者」であり、その「顧客」は紛れもなく受審組織である。組織の顧客や社会は製品たる登録証を受け取るでもなく対価も支払っていないから、この商取引では部外者であり、審査機関の顧客たり得ない。
 
   この商取引においては、監督行為を含蓄する「審査(監査)」という言葉が使われている。しかし、供給者が顧客を監査するというのは監査理論の範疇には存在しない。監査は目的ではなく、登録証という製品の実現の手順として一般の監査理論で確立した監査手続きや監査技法が援用されているだけと考えた方がよい。認証登録制度の枠組みにおいて審査は手段であり、目的たる製品は組織のマネジメントシステムの規格適合性の保証たる登録証である。 審査機関が顧客たる受審組織に提供するのは審査サービスではなく、規格適合性判断の証の登録証である。審査機関の最大の責務は審査の質の向上ではなく登録証の品質向上である。受審組織は登録証を顧客や社会に示して組織の活動と製品への支持を求めるのであるから、それには顧客や社会がISO規格や認証登録制度の意義を理解し、かつ、審査機関の発行する登録証に対する信頼感をもつことが必要である。顧客や社会が信頼しない登録証は組織に何の価値も生まない。登録証の社会的認知及び信頼性こそが、審査機関の製品の最も重要な品質である。
 
   審査機関など認証登録制度に係わる諸機関、人々による、「審査機関の顧客は受審組織の顧客であり或いは社会である」という主張は、自らの役割を受審組織の不正を取締まる警察官に擬していることの現れである。しかし、ISO規格導入組織が認証審査を受けるかどうかは自由である。組織がISO規格に学んで効果的にマネジメントを実施してその利益を得るには「認証登録は必ずしも必要ではない(2)」のである。認証審査は、組織がその結果得られる登録証に審査費用に見合う価値があると考えるから審査機関に審査サービス発注するという純然たる商行為である。認証登録制度は受審組織監督の仕組みではなく、天賦の監督権限をもつものではない。銀行事業の継続のためには回避できない金融検査と違って、登録証の効果がないと判断した組織はいつでも認証審査を受けることを停止できる。認証登録制度は受審組織に利益をもたらして初めて生きていくことができる。認証登録制度は供給者として、その製品である登録証の有用性、つまり、顧客や社会が組織を選ぶ指標としての信頼性を確実なものとするよう努め、顧客たる受審組織の期待に応えなければならない。
 
   
引用文献    文中の*印及び英語文献は筆者の和訳
(1) ISO中央事務局:多忙な管理者のためのISO9000,
     http://www.iso.ch/iso/en/iso9000-14000/basics/basics9000/basics9000_1.html
(2) A.Bryden(ISO事務総長): ISO新聞発表, Ref.:945, 10 Jan. 2005
H17.4.5 
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