ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
30   経営者に対する内部監査は必要か?  <62-01-30>
(1) 経営者に対する内部監査
   ISO9001,14001両規格が規定する内部監査に関して、経営者、つまり、トップマネジメントに対する監査が必要かどうかについて未だに議論がある。この議論では結論の要か否かを導く理由がそれぞれに付けられているが、命題の「経営者に対する内部監査」という概念に対する問題指摘がない限り、どのような議論も空虚に響く。
 
(2) 業務監査 
   すなわち「経営者に対する監査は必要か」という表現は、経営者を監査の場に引き出して問い質すという状況を想定しており、恐れ多くも担当者の内部監査員がそんなことをしてよいのかという素朴な躊躇を反映している。しかし規格が規定する内部監査は業務監査であり、業務監査は組織の業務の実行状況や成果を調査し、基準に照らして判定する活動である。内部監査では「人の行う業務を調査する」のであって「業務を行う人を調査」するのではない。「経営者を監査する」という概念は、監査という活動の本質の正しい理解からは出て来ないものである。
   
(3) 監査の質問
   また、「経営者に対する監査」が躊躇される理由は監査を「面談し質問(時には詰問)すること」との誤解から生れるものと思われる。監査で監査員は調査すべき命題に関して適否を判断できるのに十分な監査証拠を収集しなければならない。この監査証拠を収集する方法は監査手続き、正確には監査技法と呼ばれ、会計検査では、実査、立会、確認、質問、視察、閲覧、突合せ、分析、比較等々がある。質問はこれら監査技法のひとつに過ぎない。しかも、質問に対する回答は間接証拠であって監査証拠としての証拠力は文書やその他の物理的証拠に比べて元々強いものではなく、ましてや当事者からの回答であるならその証拠力は格段に弱い。問い詰めるよりももっと良い証拠集めの方法があり、口頭回答より有力な監査証拠は沢山ある。確かに質問は監査で広く適用される監査技法であるが、通常は回答という監査証拠を収集するためではなく他の証拠力の強い監査証拠を入手するための手段としての適用である。監査はすなわち質問による不適合の証拠の発見に努めることであるという認識も、監査活動の実際を正しく理解していないことから生じる誤解である。
 
   監査の本質や実際に立ち返って考えると、「経営者に対する監査」ではなく「経営者の業務に対する監査」である。そして、経営者の業務の監査であっても経営者への質問は必須ではなく、当事者の口頭回答より有力な監査証拠はいくらでもあるからこれを追求する他の監査技法を適用する方が効率的である。内部監査が「経営者」を対象とするのかどうかという議論はまず、監査についてのこのような理解に立った上で行わなければならない。
 
(4) 監査の特質と必要性
   そこで内部監査という活動であるが、これは元来日常的に組織の隅々までは目を行き届かせることのできないトップマネジメントが、マネジメントシステムとして各層の管理者に委託した諸業務の実施状況を内部監査員に命じて批判的に調査させ報告を受ける活動である。トップマネジメントによる組織の監視手段のひとつであり、内部統制の一環の活動である。規格でも内部監査の目的は規格適合性と諸業務の効果的実行を調査し判定することと規定されている。効果的な実行とは、トップマネジメントが「方針」として示した意図及び方向づけに沿って業務が行われ、その目標が達成されているということである。内部監査は、トップマネジメントの想いを組織内で実現させることが目的であり、そのための組織内業務の実行状況のトップマネジメントによる監視活動である。内部監査は本質的にトップマネジメントの業務遂行を監視することを目的としていない。
 
   規格の意図においては例えば、トップマネジメントは品質、環境方針を設定し或いはマネジメントレビューを実施するということをトップマネジメント自身が決めて、マネジメントの効果的な実行を組織内に公約し自分自身に誓っている。トップマネジメントたる者、誰に監視されるまでもなくこれを実行することは間違いない。現実のマネジメントにおいてもそうであるが、自らの責任を実行したかどうかを部下である内部監査員の調査と判定に委ねるというようなトップマネジメントはあり得ない。
   
   ところでISO9001,14001両規格が規定する品質、環境方針の組織内関係者への周知というトップマネジメントの責任を例にとると、これに関してトップマネジメントがとった行動や処置は内部監査の対象外である。しかし、組織内で各人がそれぞれトップマネジメントが意図する必要な程度に方針を理解し実践しているかどうかを調査し判定するのは内部監査の範疇であろう。もちろん、この監査のために経営者に面談、質問する必要はなく、してもあまり意味はないのは明白である。
 
(5) トップマネジメントの業務実行の監視
  トップマネジメントの業務実行状況を監視するのは、例えば株式会社の場合は、取締役会、株主総会の責任である。トップマネジメントは組織の経営の目的の実現を図るようマネジメントシステムの確立と実行の責任を、取締役会、株主総会から負っているからである。例えば、方針が適切か、マネジメントレビューの決定が適切かどうかは、取締役会や株主総会が決議しその実行(商法では「執行」)をトップマネジメントに委ねた経営の方針や戦略或いは計画(規格では「組織の目的」)に適うかどうかであり、この最終的な判断はトップマネジメントではなく取締役会や株主総会の責任に属す。トップマネジメントの業務に関する監査は経営監査と呼ばれて業務監査と区別される。経営監査が内部の監査員により行われても、上位者、下位者、第三者の三者の存在で成立する監査の原則(2)に照らすと、業務監査でトップマネジメントが報告を受けると違って、監査員が調査し判定した結果は取締役会、株主総会に報告される。
 
(6) 空虚な議論   
   日本ではISOマネジメントシステムが組織の業務を日々に管理(マネジメント)する活動の一部であることの理解が希薄で、ボトムアップ的な、また、トップマネジメントも役割を担って参画する品質或いは環境改善運動であるかの如く捉えられがちである。この中で内部監査はこれら改善運動の実施状況に関する自主チェック、相互注意の活動として扱われることが多い。経営者に対する内部監査要否の議論は、本質の議論を置き去りにした形式的な規格理解を背景としており、それ故に空虚な議論に留まっている。
 
   
引用文献
(1) 西山芳喜: 監査の心構え、http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/2105/kokoro.html
(2) 友杉芳正: スタンダード監査論、中央経済社、H6.11.30; p.19
H17.5.2(修 5.4, 11.5) 
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