ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
31   パソコン修理ミス −時事問題でISOを考える(番外編)−  <62-01-31>
(1) 故障と修理の経緯
   打ち続く各種の誤作動に堪り兼ねて5/7、説明書に従いパソコンのハードディスクを購入時の状態に戻す”初期化”を「リカバリCD-ROM」を用いて行ったところ動作途中でエラーメッセージと共にパソコン動作が停止した。メーカーのサポート窓口の電話指示により「DISKPART」なる操作を行ったが問題解決せずハード故障と診断され、5/9現品引渡し、5/12 マザーボード、メモリー不具合が原因との報告を受け、同部品取替え修理依頼した。5/13修理後の現品受領し初期化操作を行ったが、以前と同様の段階でエラーメッセージと共にパソコン動作が停止した。苦情を申立て、修理契約に基づく早急な訪問修理を求めたが、当方の都合のつく休日、夜間は対応不能との問題を含め5/14、5/17、5/18、5/19のファクスによるやりとりを経て、5/20の訪問修理でハードディスクを交換してやっと初期化に成功した。
 
(2) 時事問題で考えるISO9001
   延べ14日間、メール送受信、資料作成が不能となりメルマガ先月号の発行も時期を逸するなど業務上大きな打撃を被りメーカー不信をつのらされた。これは時事問題というより個人の経験ではあるが、直ったとして返納されたパソコンが直っていなかったという単純な修理ミスと8日間も費やした問題解決へのメーカーの対応に関して、ISO 9001の意図や要求事項との関係で考えてみたい。
 
(3) 顧客要求事項の決定
   第一は、修理目的が顧客が依頼したはずの「リカバリCD-ROMによる初期化を可能にすること」ではなく「DISKPARTからのリカバリを可能とすること」と受け止められていたことである。ISO9001は、顧客が求めるサービス要求事項を明確にし(7.2.1a)項)、契約締結前に確認して記録に残しておく(7.2.2項)ように規定している。この場合、診断結果の連絡を兼ねた「お見積書」への修理を承諾する旨の顧客の記名を以て修理契約が締結されており、その「お客さまご依頼内容」欄には「DISKPARTからのリカバリ不可」と製品要求事項が明記されている。従って、顧客の「そんなことは頼んでいない」との異議に対してメーカーは「お見積書」を提示すれば自らの正当性を主張できる。これが規格要求事項の意図である。しかし、顧客はサポート窓口に相談した経過から「それは自分が頼んだことではない」と、「お見積書」記載の修理目的には納得しない。「顧客要求事項が顧客と合意され満たされた場合でも、それが高い顧客満足を確実にするとは限らない*」(ISO9000 3.1.4項 参考2)と言われるように、顧客が合意した証拠を提示してもその内容が顧客の想いと異なる以上は法律的にはともかくも商取引上では意味がない。顧客要求事項は顧客満足向上の観点で決定されなければならず、これを確実にするのはトップマネジメントの責任である(5.2項)。
   
(4) 製品の監視測定の記録
   次に修理サービスの品質に関してはISO9001では、試験、検査を行うこと、合否判定基準への適合の証拠を残すこと、製品の出荷を許可した人を記録すること(8.2.4項)が規定されている。メーカーに「検証の方法や直ったと判断した基準とその証拠」を求めたが最後まで直接的回答がなかった。規格要求事項は、後に不適合製品が発見された場合に原因を追求するために、また、出荷時には間違いない品質であったことを顧客に主張するために必要であるから規定されている。修理後の検査結果で問題なかったのなら、顧客の初期化操作が正しくないか又は出荷、輸送における品質の保護(7.5.5)に問題があったことが疑われる。検査結果の記録がないなら、このメーカーは初期化不能の原因について白紙の状態、つまり、直す当てのないまま無謀にも、今度問題を起こせば致命的状況に陥りかねない顧客訪問修理を敢行したのである。
 
   また、現品に添付されてきた「診断・修理報告書」の「テストプログラムによる機能確認」が検査の記録であるとするなら、これにはCPU、表示、ハードディスク、CD-ROMの機能確認したとのレ点がつけられているだけであるから、これでは初期化が可能となったかどうかの検証をした証拠にはならない。ISO9001は、製品実現の計画で製品に必要な検証について定め(7.1c)項)、これに従って製品を監視及び測定すること(8.2.4項)を規定しているが、「検証」とは「規定要求事項が満たされたことを客観的証拠で以て確認すること」(ISO9000;3.8.4項)である。この場合「規定要求事項」とは「リカバリCD-ROMによる初期化を可能にする」ないし「DISKPARTからのリカバリを可能にする」であるから、テストプログラムによる単体の機能確認は技術的に必要な検証に相当しないはずだ。ISO9001のこれら要求事項は、検証手順がなく検査せずに出荷すれがこのような品質不良を引き起こすから規定されているのである。
 
(5) 出荷後に発見された不適合製品
   第三に、ISO9001は苦情申立を受けた場合「その不適合による影響又は起こり得る影響に対して適切な処置をとること」(8.3項)の必要を規定している。この場合は、顧客が直ったはずのパソコンが使用できずに被っている業務上の支障を緩和する処置をとることであり、一刻も早いパソコン完全修復の努力である。また、完全復旧までの間の代替パソコンの提供は顧客の損害を最小限にし、また、修理ミスへの悪感情を緩和するのに効果的である。 しかし、修理訪問日程にさえ自社都合を優先させる対応に鑑みると、このメーカーには自らの不始末が顧客に与えた迷惑に想いを致す習慣や能力がないということであり、苦情処理手順が確立していないか、あっても顧客重視となっていないということだ。
   
(6) 品質方針の周知
   JAB統計によるとこの大手パソコンメーカーは子会社、事業所など 92 ケ所でISO9001の登録を取得しており、修理サービスを担当した会社もそのホームページで登録取得を謳い、「魅力ある商品、サービスの提供」「お客様起点の品質と納期を確保し、競争力のある商品を提供」を品質方針に掲げている。ISO9001は、トップマネジメントが品質方針を全社に伝え、理解させること(5.3 d)項)の必要を規定しているが、そうでないとトップマネジメントの意向に沿った業務が行われないことにもなるからである。実際、この品質方針にそぐわない自己都合起点の、顧客軽視の修理品質保証、苦情処理が事業活動とその顧客対応の前線で行われている。
 
(7) 顧客満足の意義
   結果的にこの大手メーカーはこの顧客の次のパソコン購入先候補からはずれる可能性が高くなった。ISO9001を品質改善運動の如く捉える解説が少なくなく、マネジメントシステム構築として規格要求事項に対応する形式的業務が組織に持ち込まれている。しかしISO9001は実は、顧客を獲得するか失うかという組織の日常の現実に関するマネジメントの在り方を規定しているものである。
H17.7.1(修:7.3, 11.5) 
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