ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
32   規格協会のISOコンサルタント登録制度は誰のためか  <62-01-32>
(1) QMSコンサルタント選定、利用の指針規格
   ISO10019(品質マネジメントシステム コンサルタントの選定とそのサービス利用のための指針)が今年1月に制定され、6月20日にはこれを翻訳したJIS10019が発行された。この規格は、組織がISO9001システム構築に係わるコンサルタントを選ぶ際の指針を示すために策定されたものであり、コンサルタントに必要な能力と倫理的側面が詳しく規定されている。コンサルタントを規格の規定する条件毎に評価することで組織は適切なコンサルタントを選ぶことができる。これが規格の狙いである。
 
   ISO9001やそのシステム構築ということ自体についても知識が十分でなく、ましてやどのようなコンサルタントにどのような支援を期待できるのかわからない組織にとって、世にあまた居るいわゆるISOコンサルタントから適任者を選択する際に、この規格は大いに参考になると思われる。筆者が原案段階の規格のコンサルタントに対する要件を抜粋してウェブサイト”ISO実務の視点”に引用してきたのもこの理由からである。
 
(2) コンサルタント登録制度の創設
   ところが、日本規格協会はこの規格を利用して「一定基準を満たすコンサルタント」を登録し公開する事業を10月に開始する予定で、既にこのための「認証・登録センター」なる組織を設置している。その趣旨説明(1)によると、ISO19001がコンサルタントの具備すべき能力や資質についてよく整理しているので、これを参考にして規格協会が基準を定め、これを満たすコンサルタントを登録し、その情報をウェブサイトで公表することで、支援を必要とする組織が適切なコンサルタントを探し出せる環境を提供するということである。
 
   説明では、組織が「コンサルタントの力量を見極めて的確なシステムを経済的、効果的に構築できる」ようにすることが目的とされている。直接的な表現を避けているが、関係者の問題意識(2)から、組織が力のない不純な、いい加減なコンサルタントを起用し、或いはいい加減な仕事で騙されるのを防ぐのが目的であることは明らかである。このために規格協会がコンサルタントの能力を評価して「一定の基準を満たすコンサルタント」を選定するというのであるから、優秀でなくとも一定の業務能力を持ち、従って、一定の業務品質が期待できる「優良コンサルタント」を峻別しようとするものである。
 
(3) 一定の基準を満たすコンサルタント
   発表された登録手順によると、「一定の基準を満たす」とはISO10019を参考にして定められた種々の知識、力量、資質、実績を当のコンサルタントが習得、保持しているということであり、これを同協会が判定する。この内の各種の知識ないし技術の習得についてはいずれも、審査員資格証又は研修セミナーの受講証があれば基準を満たしたと判定される。個人的資質とコンサルタントとしての力量や実績に関しても雇用者など業務上の関係者、つまり内輪の人間の推薦書や証明書があればよい。つまり、経歴証明書に加えて約15通の受講証、証明書、推薦書、誓約書を提出すれば「一定基準を満たす」と認められる。「一定基準を満たすコンサルタント」とは実際には「一定の事実を一定の方法で証明したコンサルタント」に過ぎない。
 
   しかもこの「証明」も公正な第三者による客観的なものではない。すなわち、登録基準はISO9001の研修機関の研修セミナーの受講証をのみ有効としているが、規格協会は来年から研修機関承認の権限をJABから引継ぐことになっているからこの受講証はいわばお手盛りの証明であり、他の登録要件の推薦、証明も業務関係者という内輪の人間によるものである。これなら不良コンサルタントであれ誰であれ、出費を厭わず、推薦などの依頼で他人を煩わすことに頓着しなければ「一定基準を満たすコンサルタント」と認めてもらうことができる。不良コンサルタントの排除という登録制度の趣旨と関連づけて同協会が掲げる「一定基準を満たす」が、「一定の能力或いは業務品質」を保証するものであるとはとても考えられず、狙いのように不良コンサルタントと優良コンサルタントを峻別できるとも思えない。
 
   実際、「一定基準を満たすコンサルタント」をうたう一方で同協会は、登録がコンサルタントの能力を保証するものとも、コンサルタントの提供する業務と結果の品質を保証するものとも言っていないのである。同協会が登録制度の効用として組織に提示しているのは、「組織がコンサルタント候補と出逢い、その能力に関する予測や絞込みができ、複数のコンサルタントを比較検討できること」だけである。
 
(4) 組織の利益
   さりながら、登録制度を作り運用するのは、著名な公益法人であり、かつ、ISO9001審査員認証機関である日本規格協会である。世にコンサルタントを登録、紹介する団体は数多いが、日本規格協会の「認証・登録センター」が「一定基準を満たして登録したコンサルタント」と聞けば、組織を含む一般社会は登録コンサルタントに優れた能力、人間性と業務品質を期待する可能性は高い。しかも規格協会自身もコンサルタントに対する制度の効用を説くに、「能力、力量、経験を自負しているコンサルタントの活動の機会を増やす」と述べてはばからないから、世間が登録されるのは優良コンサルタントに限られると思い込んでもやむを得ない。
 
   同協会が、登録がコンサルタントの能力や業務品質の保証と明言しないのは、不良コンサルタントの排除さえできないという登録制度の限界を認識しているからであろうが、登録制度の存在意義を否定することになるから登録の意味を正確に明かすことはしない。これが「一定基準を満たすコンサルタント」の実体である。規格協会は不良コンサルタント排除の目的にさえ無力な制度を一定の能力或いは業務品質の保証という世間の誤った希望的理解に適うかに装っているならまやかしの誹りを免れない。この登録制度はコンサルタントを探す組織に有益でないだけでなく、組織に看板に偽りありの困惑と実損さえもたらす可能性も潜めたものとも考えられる。
   
(5) コンサルタントの利益
   普通のコンサルタントにとってはこの登録制度は全くいい迷惑である。登録は任意とされている。しかし、登録制度が機能するには、不良コンサルタントを除くすべてのコンサルタントが登録されることが必要である。同協会は登録を呼びかけるに、「登録されると組織からのコンタクトが増え、実力を発揮できる機会が増える」とその利益を挙げている。これは、登録しないコンサルタントは仕事にありつけないぞとの警告でもあるから、事業基盤の弱いコンサルタントは登録に走らざるを得なくなる。他方で登録をしない優良コンサルタントは、権威ある公的機関の認定する「優良コンサルタント」ではないとの誤解から世間の不信の目に晒される恐れがある。
 
   しかし、登録を希望するコンサルタントは、経歴、知識その他に関する受講証、証明書、推薦書、誓約書等々を集めるという面倒な作業を強いられ、その上に、申請、登録料金を納付し、更に毎年維持手続きと維持料納付を行うことが必要となる。審査員の登録、更新手続きの例を引くまでもなく、コンサルタントの提出する書類の内容の有効性を判定するのは「認証・登録センター」の専決事項だから、コンサルタントは同センターにコンサルタント生命を握られる。この制度がコンサルタントの質の向上に繋がるとの同協会の主張は、みんなが従順なコンサルタントになるという意味なのかもしれない。
   
(6) 規格協会の利益
   掲げられる機能を果たさず、当事者である組織とコンサルタントに利益の実感できない制度ながら、制度の創始者で運用者の日本規格協会には利益が明確である。第一にコンサルタントからの料金収入でコンサルタント登録と紹介の新事業を起こして同協会の事業領域を拡大することができる。第二にコンサルタントに提出させる知識や技術の証明書の多くに研修機関の研修セミナーの受講証を指定することで、傘下の研修機関に事業機会と権益をもたらしている。
   
(7) 登録制度の必要性
   そもそも、このISO10019規格の作成作業を通じて日本は「規格がコンサルタント評価登録に使われ、社会的コストを増すことにつながる」として反対し、「組織がコンサルタントを利用する場合の指針」としての性格に限定されるよう努めてきたのである(3)。 国として、つまり、ISO9001システムに係わる各界関係者の総意がコンサルタント登録制度に反対であったということである。とすれば、関係者全体の利益ないし公益の保護を役割とする公的機関が、関係者の総意に反して、関係者の利益にならず関係者に負担を強いる制度を、自らの権威を利用して押し進めようとしているようにも受け取られる。登録制度が規格協会の利益の追求のためと勘繰られてもしかたない。
 
(8) ISO取り組みへの波紋
   コンサルタントの能力ないし期待できる業務品質を誰かが一定の尺度で測定し評価することが可能とは思えない。案の定、規格協会のコンサルタント登録制度は「一定基準を満たす」と唱えながらも実体は、形式的な推薦書や証明書を提出した証に過ぎない。同協会自身、登録がコンサルタントの一定の能力と期待できる業務品質の水準の証であるとも、不良コンサルタントが排除されているとも明言していない。しかし、役に立たないとも言わず、逆に種々の効用を主張して、実態のない利益を示唆している。一般の民間組織がこれと同じ仕掛けの制度を開設するのには何も問題はない。登録は任意であり、機能しない制度は自然に淘汰される。しかし、著名な公的機関であり審査員認証と研修機関承認の権限を握るISO9001 認証登録制度における行政機関である日本規格協会がこれを行うと、中身を伴わない看板にさえ権威が付随し、無意味と知っている当事者も参加が強制される環境が作り出される恐れなしとしない。実際、規格協会は当事者に何の相談もなく登録制度発足を既定路線化した上でパブリックコメントを募集するという権威主義を実践している。この登録制度が機能しないままで関係者を拘束し、ISO関連事業における規格協会の支配権の拡大に使用されることになる可能性を、日本のISO取組みの健全な発展を願う者として強く憂うものである。
 
(9) 説明責任
   日本規格協会は、登録制度の効用に関して世間に誤解を生まないのに十分な程度に正確に明確にかつ論理的に説明すべきである。何よりも、ISO10019作成時に示されたコンサルタント登録制度無用という関係各界の総意に反する登録制度創設に関して完全な説明責任を果たさなければならない。
 
 
引用文献
(1) 日本規格協会 認証・登録センター: QMSコンサルタント登録スキーム、2005.7
(2) 砂川清栄: アイソムズ、2004.10,p.20-21)
(3) 阿久津 進(日本規格協会): ISOMS-2003.1,P.50-53
 
 
<規格協会のISOコンサルタント登録制度は誰のためか>
38. 反対しなければならない理由
(ISO機能不全の構造要因)−(その5) ISOコンサルタント登録制度
36. 必要理由が取替えられた訳は?
−(その4) ISOコンサルタント登録制度
35. 何を公平に ”評価” するのか
−(続々) ISOコンサルタント登録制度
33. 理屈の通らない必要理由の説明
−(続) ISOコンサルタント登録制度
32. 規格協会のISOコンサルタント登録制度は誰のためか
H17.7.31(修 H17.11.5) 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所