ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
34   規格は要求しない  <62-01-34>
(1) "規格の要求"
    日本では「○○が規格の要求である」というような規格解釈が一般的である。規格作成に参画した識者による「旧版では○○を要求していたが、改定版では△△を要求することになった」式の解説が大手を振っている。JAB(日本適合性認定協会)までもが「顧客が企業などに求めたいと思うことを実現するための仕組みや手順について、顧客に代わって企業などに要求している」とISO9001を説明(1)している。
 
(2) 規格の本質
   これは規格の provision(規定) である requirement が「要求事項」と和訳されたことからの誤った規格理解に起因するのであるが、一方で日本人一般の「規格」に対する特有の印象にも関係しているように思われる。すなわち、規格の「規」は「ぶんまわし(矢をまわして円形を描く)、おきて、きまり」を意味する漢字であり、「格」にも「のり、おきて、法則、基準」の意味がある(2)。そして、国語辞典(3)で「規格」とは「定め、標準」である。「規格」という言葉には法律と同様にお上が定めた規制であり、従わなければならない掟であるとの響きがある。
 
   一方、欧米語の「規格」を表す言葉には、掟とか遵守を強制されるというような意味あいは希薄である。英語で「規格」は standard である。Standard は、名詞では「品質の水準、態度の水準」、形容詞では「平均的、正常な」という意味である。また、ドイツ語では norm、フランス語でも normであり、これは「基準、規則、標準」というような意味である。
 
   そもそも規格は工業製品の仕様の統一によって異なる製造者の製品間の互換性を高めるが目的である。今日、規格が国際化に向けた大きなうねりの中にあるのは、「世界各国**に共通の仕様で、製品、サービスの提供を可能にする(4)」ためであり、経済のグローバル化の進展に対応する動きである。このような国際規格の重要性を説く欧米の論調では、
● 規格はその分野の欠くことのできない知識を記述している(5)
● 国際規格は他国で造られた製品やその工程について消費者に情報を伝える(6)
● 先進国が途上国に**規格を通じて技術問題の解決を提供できる(4)
● 規格化により最新情報が公開される結果**、技術革新が促進される(7)
などと、規格の知識情報媒体としての意義が強調されているのが目につく。これらの論調には、本来が仕様の共通化を意図する利害関係者の自主的な取組みであり、これを知識や情報の国際的な伝達手段にまで役割を昇華させ、国際競争に打ち勝つ手段として積極的に活用をしようとする規格に対する想いがよく現れている。強制されるという被害者意識、或いは、強制するという権威主義は全く感じられない。

(3) 規格適用の強制
   規格が初めから強制を意図して作成されるものでないことは、規格作成に関するISO指令(8)に明確に規定されている。同指令 6.6.1.1項には、「規格**はそれ自身、誰にもその遵守を強制するものではない」と記されている。少なくともISO規格に関する限り、「規格が要求している」式解釈が規格作成者の意図に相違することは間違いない。
   
   しかし同指令には、「しかし、例えば法律や契約によって遵守が強制されることにもなることがあり得る」と、規格が強制とか遵守すべき規制になるという場合も想定している。ISO9001/14001の登録制度はこの例である。組織が登録証を得るには、規格の「○○すること」という provision(規定)たる requirement(要求事項)を満たし、それを審査機関に対して実証しなければならない。つまり、組織は「要求事項」への適合を強制される。この場合、「要求事項」は「要求」であるとする論も成り立たなくはない。しかし、顧客との取引条件として登録取得を図るような場合では、「要求事項」への適合を「要求」するのは顧客である。規格が組織に「要求事項」を満たすことを要求するのではない。「要求事項」は顧客の要求として組織が満たさなければならない「必要事項」である。
   
(4) 誤った規格感
   日本と欧米で規格というものに対する理解が異なり、欧米では自らの利益のために活用すべきものと捉え、日本では遵守を強制されるものと受け止められがちなのは、このような「規格」と「Standard」など欧米語との言葉の違いも大きく影響しているように思われる。「規格」という言葉の表面的印象にとらわれず、仕様の共通化による産業活動の発展が目的という規格の本質に立ち返えれば、requirement を「要求事項」と翻訳する愚は避けられたし、「規格の要求」という誤った規格理解もなくなるのは間違いない。
 
 
引用文献 ( *印 及び海外文献は著者の和訳)
(1) 日本適合性認定協会:ウェブサイト、ISO9001って何?、2005.5.10; Q1,
     http://www.jab.or.jp/library/WhatsISO9001.pdf
(2) 林 大: 現代漢語例解辞典、小学館、1992.1.20
(3) 新村 出: 広辞苑、岩波書店、昭和61.10.6
(4) CEN:Press releasees, 21 October 2004, http://www.cenorm.be/
(5) NSSF: press releasee, 20 June 2005, http://nssf.info/Press/index.xalter
(6) ISO中央事務局: Press releasees, Ref.:965, 5 July 2005, http://www.iso.ch/
(7) CEN: News Letter, Editorial, 2003年10月号、 http://www.cenorm.be/
(8) ISO/IEC Directives: Part 2, Rules for the structure and drafting of International Standards, Fifth edition, 2004; 6.6.1.1項.
   
(註) 文献引用の**印は、文意の明確化のため文献の意図を変えないで表現を変えた。
H17.8.31(修 H17.11.5) 
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