ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
38   ISO機能不全の構造要因:
 
 (副題)  制度に反対する本当の理由
            −規格協会のISOコンサルタント登録制度は誰のためか(その5)
 <62-01-38>
1. 機能しないISOマネジメントシステム規格
   日本でISO9001/14001がその意図の通りに機能していないことは今や業界の常識(24)である。 どうすれば機能するのか、役に立つのかのといったことが公然と語られるようになった(1-a)(2)(3)(22)。 最近の耐震構造計算偽装問題などISO登録取得企業の不祥事に関して審査登録制度や審査登録機関への世間の風当たり(11)(23)も強まっている。
 
   日本適合性認定協会(JAB)は毎年、ISO9001、14001の運用状況のアンケート調査(25)(26)をしている。この中で組織がISO9001を導入した目的として回答している主要な項目は、自社品質管理システムの基盤確立の他、製品・サービスのパフォーマンス向上、参入条件の確保と拡大、取引先・親会社の要求である。 また、ISO14001に関しては、環境保全活動の全社的取組み、地球環境への社会的責任、企業イメージの向上という回答が上位を占めている。 これらの回答からは、組織が顧客満足の向上や環境保全努力への利害関係者へのアピールを通じて事業を発展させたいという規格導入の狙いが明確である。
 
   然るに、確立したマネジメントシステム が狙いの実現に有効に機能してきたかどうかの問いに対して、機能しているとの回答は ISO9001については ”大いに” と ”かなり” を合わせても60%に達しない(25)。 そしてこの数値は調査開始以来 5年もの間全く変化していない。 ISO14001についても最初の調査(26)で機能しているとの回答は60%弱であった。 その後の調査からはこのような直接的な質問がなぜかなくなっている。 しかし、状況が改善されたとは思えない。 このように日本では、規格の狙いの実現を目指して規格適合の システムを確立し運用して、且つ、認証審査を受けて規格適合のお墨付きの登録証を得たのにもかかわらず、システムは狙い通りに機能していないというのが現実である。
 
   日本規格協会の創設した コンサルタント登録制度は、このようなISO機能不全の原因がシステム構築支援に当たる コンサルタントの能力不足、或いは、不良コンサルタントの存在にあるとする認識に立つもののようであるが、これには風説以外の何の根拠も提示されていない。 このような根拠のない認識が公的機関から持ち出され、それを口実に的外れの管理の強化が図られる業界にお馴染みの仕組みこそ、日本のISOを機能不全としている業界秩序の在り様、つまり構造要因を如実に反映したものと考える。
 
   
2. 規格の意図、狙い
   ISOの説明では、マネジメントシステム規格の規定は組織の マネジメントに関する規範である。それは規格作成者の創作ではなく、世界の企業の成功体験を基礎としたものである(13)。 規格には、組織で実践され効果的であることが実証され、適切な最も最新の論理と手法であると世界の マネジメント分野の専門家が認め合意した マネジメント実務の諸要素が採入れられている(13)
   
   例えばISO9001の品質マネジメントとは、「顧客の品質に関するニーズと期待を満たすために組織が行うこと(12)」であり、組織が依存する顧客の支持を強固なものとして事業の繁栄を図る(15)ことが狙いである。それには、組織は変化する顧客や市場のニーズと期待を適切に掌握し、それを満たすように製品・サービスを絶え間なく改善し続けることが必要である(16)。 ISO9001は、組織がそのような顧客満足の高い製品・サービスを恒常的に提供する能力を持ち続け、改善する(17)ために、組織が則るべき規範を規定している。 規格の各条項はマネジメントに関係する業務を意味し、条文ないし規定は規範を各業務に対する requirement (JISでは”要求事項”) つまり、必要条件(14)として表現したものである。
 
   組織が規格に則って業務を効果的に行えば、品質不良や苦情を減らし顧客の心をとらえて競合する他組織に伍して市場競争に勝ち残り繁栄することができる。 ISO9001規格は製品・サービスの品質向上により事業発展を図らんとする組織に対する道しるべである。
   
      
3. 日本の規格解釈
   ところが日本では、規格の規定たる要求事項は審査登録のための組織への要求である。 そして、例えばISO9001の場合は、「買い手から見て売り手はこうあってほしい(4)」という顧客の要求を、規格が顧客に代わって要求している(5)と説明されている。 然るに、規格条文の解釈においては、規格は、製品の改善は要求していない(7-a)(8)し、顧客満足も顧客要求をかろうじて達成する程度でよい(7-b)と強調される。 また、継続的改善と言っても、規格の要求は パフォーマンスの改善には及んではおらず、要求レベルに達していなくとも少しでも良くなればよい(10)し、改善と呼べる活動をやめなければよい(7-c)のである。
 
   これが規格が代弁する顧客の要求であるなら、顧客は品質不良の減少やニーズに合致する製品をさほど望んでおらず、組織が改善の振りをしてくれれば製品の良し悪しは問わないと言っているということである。 不幸なことに、このような顧客は現実には存在しないから、組織が規格を導入してその規定たる要求事項に従って業務を行っても、その現実の顧客を満足させることはできない。 規格を導入した組織の半数が顧客満足向上とその御利益を実感できないというJABの調査結果(25)(26)は当然の帰結である。
   
   さらに、規格の要求は「最低限」であるから、規格要求事項に合わせて構築した品質マネジメントシステム はそれだけでは役に立たず効果がない(1-b)(3)という解釈も公に語られる。 これは規格の本質に関するISOの説明に反し、規格の効果或いは規格が狙いの機能を発揮することを頭から否定する解釈である。 この解釈ではJABアンケート調査(25)にあるように、自社品質管理システムの基盤確立や製品・サービスのパフォーマンス向上を目的にして規格導入をした組織が間違っているのである。規格の規定の システムが機能しないのは当たり前なのである。
 
   
4. 審査登録制度の目的、効能
   ISO9001の登録審査では、規格要求事項の欠落、又は「組織の製品の品質に関して重大な疑いを生じる状況」が不適合(21)であり、そうでなければ登録証が発行される。  登録証は、組織が規格の要件を満たして業務を行っていることを保証することであり、組織が顧客の必要を満たす製品、サービスを提供する能力を有するという安心感を顧客に与える手段である(18)。  登録証は公正な第三者たる審査登録機関が顧客や市場に対して保証するお墨付きである。  それ故に登録証は、初めての相手との取引や輸出の場での未知の相手との取引において組織の製品、サービスに対する安心感を与え(19)、また、国際貿易や サプライチェーンの企業間取引において効果的に利用(20)されることができる。
 
 
5. 日本の審査登録制度に関する理解と実態
   しかし日本では登録審査は”システム審査”であるとされ、業務の”仕組み”の規格適合性の審査であり、パフォーマンス つまり実行状況や成果は審査の対象外である。 登録証はシステムの品質保証であって製品の品質保証ではない(11)ということが殊更に強調される。  しかも規格要求事項を満たすだけでは規格の狙いを達成できないといいながら(1-b)(3)、審査は規格要求事項との適合性しか評価しないから、審査に合格したといって何を意味するのかわからない。 従って、日本の登録証は顧客を安心させる審査登録機関の「お墨付き」ではないと言われ、登録証をもらっても顧客に信頼してもらうようになるために「設備投資」をしたという印に過ぎない(3)と意味づけられる。
 
   一方で審査は受審組織の顧客や社会のために「組織の適合・不適合を判断する」こと(6)であるとして、組織に対する社会的監視機能であることが強調されている。 受審組織は審査登録機関の顧客ではなく、監視の対象である。しかし、組織がその業務や製品、サービスに不祥事を起こしても審査登録機関には顧客や社会に対する責任はない。
 
   日本のISO9001審査登録制度では、規格が組織の製品・サービスの品質や顧客満足の向上に機能しないという前提で、しかし規格の要求事項への適合のみの判断で合否が決められ、登録証が発行される。 よって、登録証は組織の活動や製品・サービス への信頼性とは関係ないし、 登録取得企業が不祥事を起こしても不思議でもない。 当然、審査登録機関の責任でもない。 審査登録制度のこのような理解と運用も、制度設立の目的やISOの説明に反し、登録制度が機能することを頭から否定するものである。
   
   
6. 日本のISO機能不全の原因
   このように、日本の規格解釈と審査登録制度理解は、規格や登録制度が機能することを否定する考えの上に立っている。  この解釈や理解は規格と登録制度の意図と大きくかけ離れているだけでなく、説明には論理性や一貫性がなく卑近な言葉を使うなら無茶苦茶でもある。  しかし、これらの解釈や見解は審査登録制度の管理機構を通じて審査員、コンサルタント、組織の管理者などISO実務を担う当事者に教え込まれる。  規格や登録制度が機能することを否定する考えに立って、規格に従った業務を、組織が実行し、 コンサルタントが指導し、審査員が審査し、審査登録機関が登録証を発行している。  日本でISOマネジメントシステム が機能しない原因はここにある。
 
   
7. ISO機能不全の構造要因
   問題は、規格と審査登録制度に関する解釈が業界指導層の専決事項となっていることである。  規格作成関係者を中心とするこれら指導層の指導は、企業の マネジメント手法として発達し効果的と認められて規格の要素として採入れられた内部監査、是正処置や購買管理、ISOと無関係に学問としても確立している監査や監査手法、或いは、ISOでも マネジメントシステム規格とは技術分野が異なる位置づけにある適合性評価の在り方にまで及ぶ。
 
   これら見解は絶対であり、批判されることはもちろん、問題が提起され或いは議論がもたれる機会も場もない。  規格と制度の実務を担う者は、常に一方的に指導層の見解を拝聴し承る側であり、せいぜい質問をする存在である。 ISO専門誌もこれら指導原理に沿った記事しか掲載せず、業界には健全な ジャーナリズム が存在しない。  指導原理と異なる見解の表明は「首をひねるような、もっともらしい内容の解説をする自称専門家」とか「商売拡大のみを目指しているとしか思えないコンサルタント」として切って捨てられる(8)。  この権威主義と関係者をこれに従属させるように機能する登録制度管理機構が日本のISOを機能させない構造要因である。
 
   
8. 負のスパイラル
   規格協会がISOコンサルタント登録制度に関して引用する日本工業調査会の報告書(22)では、日本のISOが当面する問題として、安価に登録証の入手を望む組織の増加による登録制度の信頼低下が進む「負のスパイラル」が挙げられている。 これまでもJABの調査報告書では組織の半数しかシステムが機能していると答えない状況を 「"機能してきた"とするものが51.7%で、半数を超えた(25)」と肯定的に認めてきた。 この報告書でも委員会が実施した登録取得組織へのアンケート調査結果を記載しているが、ISO9001 では顧客の評価向上、製品・サービスの質の向上、品質システムの基盤構築といった登録取得目的を達成したと判断する組織は55%に過ぎない。  通年のJABのアンケート調査と全く同じ結果である。  しかし、これを遺憾とすることもなく、この背景や原因を分析した形跡もないまま、「負のスパイラル」が持出され、その原因を審査機関の倫理性、審査員とコンサルタントの能力不足に帰している。  この報告書の作成の中心メンバーは業界の指導層と登録制度管理機構の人々である。  結論がお手盛りとなるのは初めから決まっている。
   
   この報告書の提唱に基づく施策がこれまでいくつか実施されているが、今日までISOの機能不全が少しでも改善したという話は聞かないし、それを検証した形跡もない。  明らかなのは、JABの審査登録機関に対する管理権限の拡大、資格更新手続きの形式増加という審査員登録機関の業務拡大、研修機関での資格更新用研修需要の増加など登録制度管理諸機関の事業と利益の拡大及び官僚的形式主義の顕著化である。

 
   
9. OMSコンサルタント登録制度
   日本規格協会のコンサルタント登録制度は日本のISOを機能不全にしている構造要因の申し子である。 発想はコンサルタントの管理を図る権威主義であり、中身は書類が整えば能力を認めるという形式主義であり、無能な登録コンサルタントによる組織の被害には責任をとらないという無責任主義であり、結果として機関益がもたらされる。 この制度は日本のISOの機能不全の現実を一層強固なものとし状況を悪化させ、さらにその対応として審査登録制度管理諸機関に新しい権限と権益の芽を生み出すという過去の”スパイラル”の反復である。 日本経済の発展のためにISOの健全な発展を願う者として、日本規格協会が強行する「QMSコンサルタント登録制度」には反対しなければならない。
 
 
引用文献( *印及び英語文献は筆者の和訳)
(1) 福丸典芳: アイソムズ, 2004.9号, p.24-27; a-p.27, b-p.24
(2) 加藤重信: アイソムズ, 2005.11号, p.22-25
(3) 大和田孝: JIA-QAねっと, Vol.1,Aug.2004, p.8
(4) 飯塚悦功: JRCA NEWS, vol.5,no.1,p.7-11; p.8
(5) JAB: ”ISOって何?”、JABウェブサイト, 2005.5.10; p.2
(6) 飯塚悦功: JRCA NEWS, vol.4,no.2(2005.3),p.1
(7) 日本規格協会: ISQ9001:2000 解説”, 規格書巻末; a-p.39, b-p.35, c-p.43
(8) 飯塚悦功他: ISO9001要求事項、用語の解説”, 規格協会,2002.10.15; p.32
(9) 福丸典芳: ISOMS, 2002.1号, p.12-16; p.14
(10) 加藤重信: 月間アイソス、2001.4号、p.83-109; p.102
(11) 森 幹芳: アイソムズ, 2004.4号, p.12-15; p.15
(12) ISO中央事務局: “品質マネジメント“, ISO Cafe, ISOウェブサイト;
(13) ISO中央事務局: ”汎用マネジメントシステム規格”, 謎解きの旅, ISOウェブサイト;
(14) ISO9000: “requirement”, 用語の定義, 3.1.2項
(15) ISO9000: “顧客重視”, 品質マネジメントの原則,0.2 a)項
(16) ISO9000: “品質マネジメントシステムの論理的根拠”, 2.1項
(17) ISO9001: “規格の狙いの領域*”, 1.1項
(18) ISO Guide62: 0.2項
(19) ISO中央事務局: “ISOと適合性評価”, 社会と市場, ISOウェブサイト;
(20) ISO中央事務局: 新聞発表, Ref.:954, 4 April 2005
(21) IAF: ISO/IEC指針62に対するIAF指針 2版, G.1.3.1項
(22) 日本工業調査会: 管理システム規格適合性評価専門委員会報告書(案),H15.4.25;
(23) 日本適合性認定協会: “JAB Notice No.05制定原案意見募集”, H17.11.28;
(24) 日経ものづくり編集部: “ISO9001失効の裏側”, 同誌、2004.11, p.117-122;
 
<規格協会のISOコンサルタント登録制度は誰のためか>
38. 反対しなければならない理由
(ISO機能不全の構造要因)−(その5) ISOコンサルタント登録制度
36. 必要理由が取替えられた訳は?
−(その4) ISOコンサルタント登録制度
35. 何を公平に ”評価” するのか
−(続々) ISOコンサルタント登録制度
33. 理屈の通らない必要理由の説明
−(続) ISOコンサルタント登録制度
32. 規格協会のISOコンサルタント登録制度は誰のためか

H17.12.10 (修 H17.12.24) 
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
サニーヒルズ コンサルタント事務所