ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
39   毎日実施するマネジメント・レビュー   −誤訳と誤解 <62-01-39>
1. マネジメントシステムの見直し
   ISO9001/14001両規格とも、トップマネジメントが一定の間隔でそのマネジメントシステムを見直す必要を規定している。 標題に倣うとこれが「マネジメントレビュー」である。 英語をそれ自身何の意味も含蓄しない片仮名にしただけの翻訳なので、どういうことかわからない。  しかし両規格とも旧版では「経営者(層)による見直し」と和訳していたので、新版でもその和訳を継承してそのような意味に受けとめられている。 ただ、この和訳でもどのように、何のために見直すことなのか、なぜ必要なのかはわからない。 因みに検索エンジン googleで「management review」を検索しても、特定の固有名詞としては抽出できないから、この用語は両規格に特有のものであると思われる。
   
   このマネジメントレビューについて日本では、年に1回や2回では十分でないとか、最低月1回は必要だとか、毎日やるのがよいとかの解釈が発表され、また、管理責任者がトップマネジメントに報告する場であるとか、月例の品質或いは環境会議を活用してよいとか、トップマネジメントが日々に例えばクレーム 処理の報告を聞き指示を出すことがマネジメントレビューだというような説明がある。 しかし、これら説明はマネジメント・レビューの本質について触れず、「経営者の見直し」という言葉からあれこれ解釈しているに過ぎない。原英文の誤訳とそれに伴って派生した誤った解釈という日本の形式主義の規格解釈の典型のひとつである。
 
 
2. 原英語の正しい解釈
   この問題では、JIS翻訳が原英語の management review のmanagement を「経営者(層)」の意味に受けとめたことが間違いの根本である。 すなわち、management review のような2つの名詞から成る言葉は英文法上では群名詞であり、その用法では第一語は第二語を修飾する形容詞的働きをし、特に第二語が行為を表す名詞の場合には第一語はその直接目的語に相当する(2)。 従って、management reviewは「management (経営者)が review する」ではなく「management (マネジメント活動)を review する」の意味である。
 
   ここに、review とは「再び見る」であるから、「見直し」でよい。 ただし、 review は動詞では「顧みる、過去を振り返る」、名詞では「一定期間の行事としての総合的検分」の意味である(1)。 そのような観点から「マネジメント(活動)を見直す」ことが「マネジメントレビュー」であるから、それは「マネジメント(活動)を過去に遡って総合的に検分する」という管理の仕組みのひとつとしての定例的な見直し行為ということになる。
 
 
3. マネジメント(活動)の見直し
    ほとんどの事業組織は、1年を期間的単位として事業の管理を行っている。これは法人の収支を計算する単位や課税所得計算のための単位が1年であり、それぞれ「会計年度」、「事業年度」と呼ばれ、事業活動の単位をこれらに合致させることが一般的であるからであろう。 どの組織も、会計年度末には収支を締め切り納税額を計算するが、その前提としてなぜそうなったかを分析し、次年度はどのような収支になるのか予測する。大抵の組織では年度末の収支を管理するために、年度初めに販売目標を設定しているし、更に生産や経費の目標或いは予算を設定しているところも多い。 このような場合は、年度末の収支分析は年度初めの目標つまり計画との差異に焦点を当てて、差異の原因は内的な能力や努力の問題と外的な問題つまり事業環境の変化とに分けて分析される。 このような年度末の収支検討の結果は、次年度の目標やその達成のための対策や取組み事項などの計画に反映される。 組織によって対象の広狭、活動の明確さに差異があるにせよ、ほとんどすべての組織で年度初めには方針や業務計画が立案され、年度末には実績、実情の総合評価、つまり、1年間のマネジメント活動の見直しが行われている。これが規格の意図するマネジメントレビューである。
   
   
4. マネジメントレビューの特徴
    規格では「レビュー」を「対象がその目標の達成にふさわしいか、適切か、有効かを決定するために行われる活動*」と、行為の中身を重視して定義(5-b)している。 このため、規格は要求事項の記述の中で「マネジメントレビュー」を特徴づける表現を所々に用いている。 これらからも「マネジメントレビュー」が年度初めに設定した計画との対比で年度末に実績、実情を総合的に評価、検討するという「マネジメント(活動)の見直し」のことであることを確認することができる。
   
(1) 計画との対比に関する評価
    例えば、規格は「マネジメントシステムを評価すること」がマネジメントレビューだとしている(6-a)(7-a)が、この評価とは「品質方針、目標の達成に関連しての評価」であると規定(4-a) (5-a)している。 つまり、「見直し」が年度初めに設定した方針、目標などの計画がどうなったかの分析、検討であるということである。
 
(2) 次年度取組みの方向づけ
    また規格は「方針、目標の変更を含むマネジメントシステムの変更の必要性の評価を行う」べきことを規定(6-a)(7-a)して、マネジメントレビューの目的が当面する課題の抽出であることを示唆している。 そして、マネジメントレビューの結論が次年度の方針、目標或いは重点取組事項に繋がるものであるということは、「方針、目標及びマネジメントシステムの他の要素の変更に関係する決定及び処置を含む」(7-a)、或いは、「アウトプットを組織の品質業績改善の計画に使用する」(8-a)という記述からわかる。
   
(3) 非日常の行為
    トップマネジメントは日々に自ら或いは会議で又管理責任者等の報告や得た情報によって個々の問題を判断し決定を行い指示を出している。年度末の総合検討は、これら問題を含むマネジメントの実績と実情を全体的に評価することであり、日常的業務とは別の非日常の業務である。 規格はこれを「公式の評価」(4-a)であると表現し、TC176による刊行書 ”TC176からの助言”(3)ではマネジメントレビューを、「個々の問題から一歩引き下がって、品質マネジメントシステムの全体を見渡す」ことであると説明している。
   
(4) 体系的、総合的な評価
    マネジメントレビューではトップマネジメントが日常的、個別の問題に対して行ってきた判断や決定の再評価をも含めて、次年度の課題抽出に必要な関連するすべての情報を一度に総合的に評価、検討することでなければならない。 規格はこれを「体系的に評価する」(5-a)と表現しており、マネジメントレビューを総合的、体系的な検討とするために必要な要検討事項を「マネジメントレビューへのインプット」(6-b)(7-a)として具体的に規定している。
   
(5) 定例的な行為
    マネジメントレビューの実施に関して規格は、「計画された間隔で」(6-a)(7-a)実施するべきことを規定しているが、これは行き当たりばったりや何かが起きた時に実施するというのではなく、「定例的に」実施(5-a)するという意味である。 実施の間隔については、「頻度は組織の必要に応じて決めるべき」(8-a)であり、「全要素を一度にではなくとも、一定期間にわたって評価を完了すればよい*(7-b)というような説明がある。 実務において年度を半期又は四半期に分けて、それぞれの期末に中間的な総括を行って必要により軌道修正を行うというようなことはよく行われている。 規格の実施間隔の説明は、マネジメントレビューをマネジメントの期間単位の最後だけで実施するものとは限らないという現実を述べているものであろう。
   
(6) マネジメントのPDCAのA
    年度末の実績、実情の年度初めの計画と対比しての総合的な検討は、マネジメント活動をPDCAサイクルに準えるとそのAである。一方、規格のマネジメントレビューの規定は、ISO9001では経営責任を規定する5章の初めに品質方針(5.3項)と計画(5.4項)を置いて最後の5.6項に配置され、また、ISO14001では全体の初めに環境方針(4.2章)と計画(4.3章)を置いて最後の4.6章に配置されている。このように両規格とも、方針や計画の条項をP、マネジメントレビューの条項をAとして配置するマネジメントのPDCAサイクルをその構造としている。
   
   
5. マネジメントシステムとマネジメントレビュー
    マネジメントとは組織の業務或いは事業活動を管理する活動であり、トップマネジメントが各層の管理者を指揮監督して行っている。 マネジメントシステムとはマネジメントの諸業務がばらばらではなく、相互に関係を持ちながら組織的、体系的に行われていることを表す表現である。 これを直訳すれば「マネジメントの業務体系」である。 トップマネジメントは、一定のマネジメントの期間的単位の初めに事業と業務の方向を明確にし計画を立てるが、これは規格ではマネジメントシステムの計画と言う。 トップマネジメントは、そのマネジメントシステムが自身の定めた方向に向けて、即ち、計画通りに履行されるよう日々の業務を管理する。そして、期間的単位の終わりには定例的行為としてマネジメント(活動)を改めて振り返ってマネジメントレビューを行い、次年度の方向づけを行う。 マネジメントレビューを何度かに分けて行うとしても、マネジメントに関係するすべての問題を総合的に検討することであるから、毎日は論外であり毎月実施というのも意味があるとは思えない。
   
    品質或いは環境マネジメントシステムを確立、運用するということは、収支や販売、経費等と同じように品質や環境を組織の事業課題のひとつとして管理するということである。 それまでは収支に関してだけ或いは種々の経営の課題を一緒に年度末総合検討を行ってきた組織でも、品質、環境のそれぞれの課題又は観点からもマネジメントレビューを行う必要がある。
 
 
6. 誤訳と誤解
    日本では、ISO9001/14001規格のマネジメントシステムは品質ないし環境改善活動のひとつの形式である。だからトップマネジメントがこれにどのように係わるかというようなことが議論になる。 この議論の中で、トップマネジメントが規格の規定する業務に関して少しでも判断し指示をしたとすればそれがマネジメントレビューと見做され、それ故にトップマネジメントが年に1回位マネジメントレビューを行うだけではマネジメントシステムへの関与という点で不十分だというような解説が現れる。
   
    review を含む群名詞も規格の他の部分では 94年版ISO9001(4.3項)の「contract review (契約内容を確認する)」、 2000年版(7.3.4項)の「design and development review (設計開発をレビューする)」と、いずれも文法的に正しく且つ意味の上でも適切に和訳されている。 ところがマネジメントレビューの場合は、規格の意図と無関係な「経営者(層)による見直し」と誤訳され、マネジメントシステムという如何なる意味も含蓄しない片仮名英語が生んだ誤解と合わさって誤った解釈が生まれ、意味のない形式だけの業務が生み出された。
   
    JIS和訳には多くの誤訳や不適切な翻訳日本文があるが、いずれも規格の本質や意図に照らして翻訳が行われるなら避けることができたと思われるものである。 マネジメントレビューもその典型であり、マネジメントの実務に関連づけて規格の意図に想いを馳せたなら、英文法上のこの単純な誤りを犯すことはなかったはずである。
   
     
引用文献( *印及び英語文献は筆者の和訳)
(1) Merriam-Webster Inc: Merriam-Webster Online Dictionary
(2) マイケル・スワン(金子稔他訳): オックスフォード現代英語用法辞典,桐原書店,1985;p.320
(3) ISO中央事務局: ISO9001 for Small Businesses; p.75
(4) ISO8402:1994 ;a-3.9項
(5) ISO9000:2000 a- 2.8.3項, b-3.8.7項
(6) ISO9001:2000 a-5.6.1項, b-5.6.2項
(7) ISO14001:2004 a- 4.6項、 b-A.6項
(8) ISO9004:2000 a-5.6.1項
H18.1.7 
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