ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
40   米国産牛肉の輸入全面再停止は防げた!
   −時事問題で ISOマネジメントシステム を考える(番外編-2)−
 <62-01-40>
1. 危険部位混入
   輸入再開したばかりの米国産牛肉に除去すべき危険部位の脊柱の混入のあったことが成田空港の検疫所で発見された。 事件は、再び輸入の全面停止という異例の事態をもたらし、この問題が起きた原因と政府の対応を巡って政治問題化している。
   
   ISO9001は品質不良品を顧客に出荷しないようにする業務の在り方を規定しているから、事件を品質不良牛肉の問題とすると、日米政府を含む関係諸組織がISO9001の教えに沿って業務を行っておれば事件と引続く混乱は起きなかったはずである。事件の背景に潜む問題を、ISO9001の規定、つまり、「要求事項」と和訳されている requirement (必要条件)に照らして考察する。
   
   
2. 供給者の評価、選定
   輸入再開以前に現地の食肉処理施設などを現地調査するとの閣議決定が守られなかったことが国会で明らかになった。一旦は謝罪した農水相であるが、後に、「施設の安全性は米国が責任をもつ」ことになり、また、「輸入再開後でないと実効性のある調査ができない」ためだったとして閣議決定の趣旨の逸脱ではないと答弁を覆した (1/30夕)。
 
   ISO9001では、組織の製品品質に影響する物品、サービスの購入は、その品質特性など必要な事項を間違いなく満たす能力をもった供給者を選んで行うべきことを規定している(7.4.1項)。 組織が初めての製品、サービスの購入或いは初めての供給者からの購入を行う場合には、設備、要員、管理体制など供給者の能力が組織の必要を満たすに十分かどうか評価して、選定することが必要である。評価、選定が恣意的、刹那的なものとならないよう、組織はこの評価、選定の基準を定めておかなければならない。
 
   政府が計画した輸入再開前の現地調査は本来この趣旨に適う手続きであった。 輸入予定の食肉処理施設を調査して、日米政府間合意の日本向け食肉処理及び検査基準が守られる状況にあるかどうかを適切な評価基準で評価し、輸入可能な食肉処理施設を選定しておくことが必要であった。 これまでの米国の説明では米国農務省の検査官に日本向け基準が不徹底であったのが原因ということであるから、食肉処理施設の処理、検査体制を調査すれば、この施設の基準遵守能力がないことは簡単に見破ることができた。 ISO9001の教えに則っておれば、今回の事件はまず起きなかった。
   
   
3. 製品の検査と記録
   危険部位混入の発見で政府は間髪をいれず全面輸入停止という異例の処置をとった。同時に市場では、スーパーが陳列棚から米国産牛肉を撤去し、食肉、外食業界の出荷、販売停止も拡がった(1/21)。 米国では「ブレ-キ故障が見つかったため日本車の輸入を全面禁止するのと同様の愚行」と全面禁輸への不満が大きくなってきた(1/31)。
 
   ISO9001では、「製品実現の適切な段階で製品の監視及び測定すること」として、出荷前に製品が定めた品質であることを検査や試験によって検証するべきことを規定し、また、その結果の記録を維持するよう規定している(8.2.4項)。また、組織はその記録の必要な保管期間を定め、その間必要に応じて検索し使用することができるような状態で維持しなければならない。
 
   発見された不良牛肉の原因が米国政府の説明のような特定の検査ミス(1/21夕)であるなら、既に輸入されたその他の牛肉の多くは問題ない可能性が高い。 規格は、検査の記録が「合否判定基準への適合の証拠」(8.2.4項)となるようなものでなければならないと規定している。 米国の食肉処理施設は、起きた検査ミスの性格と原因に鑑みて出荷検査記録を見直して、出荷済のそれぞれの牛肉の安全性を評価することができる。 不安のあるものは回収し、安全性に確信をもった牛肉については、顧客、この場合は日本政府、に、安全性を認めてもらうよう働きかける。 検査記録が証拠として科学的に信頼できるなら、日本政府を納得させられるかもしれない。
 
規格が検査記録の維持を求めるのは、このような場合に使用することが目的である。 組織は検査や試験を行ったなら、単に「合格」の印を表記するのでなく、どのような合否判定基準に照らしてどのように評価しなぜ合格と判断したのかがわかるような記録を残すことが必要である。 米国食肉加工施設に対する信頼が確立しており、適切な検査記録があったなら、全面禁輸の処置は必要なかった。
 
   
4. 購買品の受入検証
   検疫所で発見された脊柱つき牛肉は一目瞭然のお粗末なものであった(1/21)。 政府は輸入済み牛肉に危険部位が混在していないか自主的な調査をするよう輸入した商社や国内の処理業に要請した(1/23夕)。
 
   ISO9001では組織は顧客満足向上を図るために販売する製品に必要品質を、法令その他の規制の有無を含む4つの観点から決定(7.2.1項)し、そのために購入する物品に必要な条件があればそれを明確にして供給者に発注すべき(7.4.2項)ことを規定している。 仮に米国産牛肉を販売するスーパーに焦点を合わせると、スーパーは消費者のニーズであるBSE安全性のため、販売予定の米国産牛肉が日米合意の輸入条件を満たしたものでなければならないことを明確にし、商社ないし国内処食肉処理施設に発注する際には輸入条件遵守を明確に要求しなければならない。
 
   そしてISO9001では組織は、購買品の受取りに際しては、規定した条件が確実に満たされているかどうかを検査その他の方法で確認しなければならない(7.4.2項)。 輸入に際する検疫は、個々の牛肉の安全性を政府が輸入者に代わって検査をしているのではない。 スーパーは輸入条件が遵守されたことを確認してから、陳列棚に並べることが必要である。この確認がどの程度のものか、どのような方法かに関して規格は、「購買製品が最終製品に及ぼす影響に応じて」と規定している。 米国の管理体制に疑問符がついていたのだから、平時より特に確かな受入検証が必要だった訳だが、一目瞭然の不良は平時の検証でも見つけることができなければならない。受入検証が確かだったら、あわてて陳列棚から撤去して販売を見合せ、売上増加の機会を失うようなことにはならなかったかもしれない。
   
   
5. ISO9001の規定
   ISO9001は、不良品を出荷しないための業務の在り方を規定している。それは品質で以て世界の市場で成功した日本企業を中心とする体験を基礎とした論理の体系である。 規格の規定のことをJISは「要求事項」と和訳しているが、それは組織への「要求」ではなく、組織に「必要な」条件である。組織が規格の必要条件を満たせば、今回の事件のような品質不良は生じない。
 
   
(註) 記事はすべて日経新聞。 (12/23)等は発行日付。
2006.1.4 
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