ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
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43     マネジメントシステムにはトップマネジメントの関与が大切か?
       −片仮名英語の弊害−
 <62-01-43>
1. 規格理解の混乱
(1) トップマネジメントの役割、責任

   日本でISO9001/14001マネジメントシステムの効果的な構築と運用にトップマネジメントの関与が不可欠だとよく言われる。ISO9001の2000年版でトップマネジメントの責任と役割が拡大、強化されたとも言われている。言葉遊びをするつもりはないが、「関与」という言葉もそうだし、責任が増えたという表現にもひっかりを覚えるが、理屈から言っておかしな話である。英語圏では何でもない事項が日本では混乱をもたらしている規格理解の多くの背景に、JIS和訳の片仮名英語があると思われる。上記の事例もこの典型である。
 
(2) マネジメントシステム
   すなわち、日本では多くの人が JIS和訳の「マネジメントシステム」という片仮名英語に対して何のことか理解に苦しみ、更には何か規格特有の概念であるかの錯覚をしている人々も少なくない。 解説書でも、マネジメントシステムをISO9000規格の品質マネジメントシステム(3.2.3項)、マネジメントシステム(3.2.2項)、システム(3.2.1項)の定義の言葉をつなぎ合わせて「組織を指揮し、管理するための方針及び目標を定め、その目標を達成するための相互に関連する又は相互に作用する要素の集まり」と説明され、また、システムは仕組みであるとし、マネジメントシステムを規格の要求を満たすための仕組みであるかの説明、更に極端な場合は、マネジメントシステムを規格が要求する特別な環境又は品質改善の運動を意味する固有名詞かの説明もある。
 
2. 日本語による表現
(1) 経営管理
   「マネジメント」の原英語は management と言う簡単な経営用語である。これは、昔から日本でも馴染みのある概念である。経営学では「管理」と和訳され、企業でも財務管理、技術管理など「管理」を当てて機能別管理を行い、また、部門の名称にしてきた。そして今でも manager は「管理メ」である。経営学では経営と管理の違いが厳格であるが、世間一般には組織全体の活動を取り仕切ることを「経営」、その人々(top management)を「経営メ」、そして、その命令により各部門内の活動を取り仕切ることを「管理」、部門の長(middle management)を「管理メ」と呼んでいる。一方、経営学では administration と management の区別、或いは、経営と管理の区分にこだわらない方向で「経営」と「管理」を合わせて「経営管理」と呼ぶようにもなっている。
 
 「経営管理」と言う言葉で、規格の management の定義(ISO9000 3.2.6項)の「組織を方向づけし(direct)、制御する(control)統一性のある(coordinated)活動*」を読むと、なるほどうまく定義されていると合点がいく。「マネジメント」というから何か新しい活動かの錯覚を生むのである。ただし、この定義も規格特有の表現ではなく、英語の management が意味する「幕ニ又は組織を指揮し(run)、制御する(control)活動*」(Oxford Advanced Learner’s Dictionary)を引用したものである。 英語圏では誤解を生む余地がないのである。 同様に日本では「経営」や「管理」という言葉に馴染みがあり、「マネジメント」なる片仮名の新語を用いるより「経営管理」の方が規格の意図を混乱なく理解できるはずである。
 
(2) 体系
   さらに、「マネジメント」に加えて「システム」という片仮名英語が日本人の理解の混乱に拍車をかけているのであるが、これは「体系」のことであるから、「マネジメントシステム」をそのまま直訳すれば「経営管理の体系」である。 この「体系」とは「そのものを構成する各部分を系統的に統一した全体」(広辞苑)である。規格の system の定義(ISO9000 3.2.1項)は「相互に関連づけられ又は作用し合う一連の要素*」であるから、正に「体系」である。定義づけると難しい表現になるが、「体系的」はものごとがバラバラではなく組織的、統一的であることを表すのによく用いられる馴染みのある言葉である。多くの物事がばらばらでなく組織的にある目的に向けて存在し機能している場合に、それら全体は物事のそれぞれを要素とする「体系」である。例えば、乗継ぎ駅、ダイヤ調整、相互乗入れが整備された時に交通機関の集まりは、それぞれの交通機関を要素とする地域交通体系となる。
 
   もっとも「システム」も金融システム、通信システムなどとよく使われるが、人々が意味を深く詮索してきたとは思えない。 だから規格の マネジメントシステムを「仕組み」と受けとめる人が多い。 「システム」ではなく「体系的」の「体系」であると考えて規格の system の定義(ISO9000 3.2.1項)を読むと、概念がよくわかる。
   
   JISが「一連のプロセスをシステムとして・・」と和訳している プロセスアプローチの定義の部分(ISO9001 0.2項)の原文は「a system of processes(諸プロセスのシステム)」である。 規格の マネジメントシステムは「諸業務の体系」である。逆に言うと、マネジメントシステムを構成する要素は「業務」である。一方、規格は マネジメントシステムの定義においてはその要素として組織構造、手順、プロセス、計画活動、責任、方法、資源(ISO8402 3.6項、ISO14001 3.5項)を例示している。しかし、それらに則り又は使用するのが「業務」であるから、要素を業務と見ることと矛盾しない。つまり、マネジメントシステムとは「経営管理の業務の体系」のことである。
 
(3) 経営管理業務体系
   品質マネジメントシステムは「品質経営管理業務体系」であり、環境マネジメントシステムは「環境経営管理業務体系」である。規格の品質又は環境に関する経営管理においては、関係する諸業務がばらばらに行われるのでなく、組織の目標達成を目指す トップマネジメントの意図に沿って他部門の業務との連携の下に各部門の諸業務が統一的、組織的に行われるようにすることが基本であり、このように実行される経営管理の諸業務の体系が規格の マネジメントシステムである。表現するには難しい概念ではあるが、だからこそ何の意味も含蓄しない片仮名英語より、日常で馴染みがあり、それ相当の意味を持っている日本語を使用する方が、理解を容易にし、混乱を招く恐れも少ない。
   
3. 片仮名英語の問題点
(1) 片仮名英語の実害
   「トップマネジメント」の原英語は top management であり、よく用いられる普通の経営用語である。経営用語の トップマネジメントとは組織で 経営管理を業とする層であり、規格(ISO9000 3.2.7項)も定義するように、その中でも最高の立場で組織全体の業務を方向づけ、統制する人々のことである。日本語では一般に「経営層」、新聞等では「経営トップ」と呼ばれる人々を指す。経営管理業務体系の確立や運用は経営層本来の業務であり、責任である。しかも規格の要求事項(ISO9001 5.1項)によって、それに コミットメントしているはずである。「関与」では経営層の責任を果たしていないし、規格不適合でもある。また、経営層に固有の責任が規格作成者によって変えられるはずがないのである。 マネジメントシステムを「経営管理業務体系」と和訳されていれば、冒頭のようなおかしな話は生まれなかったはずである。
 
(2) 片仮名英語の採用の真意
   日本語では management は「管理」であったが、戦後に米国から入ってきた quality control が「品質管理」と名付けられ、こちらの「管理」の方が有名になってしまった。元々、control は狙いに的中させるよう制御することであり、management はその狙いの適切さを管理することである。日本の企業では2種類の異なる「管理」が、ある場合は区分もあいまいなまま存在してきた。ISO9001の旧版にも quality management(ISO8402 3.2項) と quality control(同 3.2.4項)の両用語が存在し、どちらも「品質管理」と和訳されていたが、どちらも要求事項の記述の中には存在していなかったので、広義、狭義と註釈をつけて区別することで格別の混乱はなかった。
   
   このような状況でISO14001:1996の標題が management system となり、JIS和訳に「マネジメント」が採用され、ISO9001の2000年版の和訳でも「マネジメント」となった。controlの管理との区別のためやむを得なかったのかもしれないが、片仮名英語尊重の世上に迎合か、はたまた規格理解への自信のなさの故か、規格作成関係者など識者と目される人々の心底にある欧米文化としてのISO規格への抵抗感の一方での、この片仮名英語の採用の真意がわからない。
 
引用文献( *印及び英語文献は筆者の和訳)

2006.4.30 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所