ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
49   ISO登録証の有効性への疑念報道   −不二家の品質不祥事  <62-01-49>
1. 不二家の品質不祥事と業界の対応
   不二家が洋菓子工場で期限切れ原料を使っていた問題は1月10日の報道以降、調査の進捗につれてずさんな品質管理が全社で常態化していたことが浮き彫りになってきた。13日には経産相が同社が取得していたISO9001に関してJAB(日本適合性認定協会)を通じて、ISO9001規定が実際に順守されていたのかを審査登録機関が審査するよう要請したと報じられた。これまで報じられた品質或いは環境に係わる幾多の不祥事で、原因企業がISO9001,14001登録取得企業である事例が続いているが、不祥事と登録取得との関係に直接言及されたのは今回がほぼ初めてである。それだけに業界の危機感は強く、対応も迅速である。
 
  まず、JABは、16日にウェブサイトに釈明の声明を発表した。声明では、不祥事の報道があった場合、審査登録機関には事実調査、臨時審査、不具合への是正要求、結果により登録一次停止、取消しという対応手順が課せられていること、そして、JABはこの対応の適切性を評価し、必要により臨時審査、是正要求を行うという制度上の対応を説明している。また、当該審査登録機関のSGSジャパンもこの手続きを実行中とウェブサイトに発表している。審査登録機関の団体であるJACB(審査登録機関協議会)も17日にウェブサイトに会員機関に向けて声明を発表した。声明は、「不祥事が起こった際の適切な対応も審査機関の社会に対する重要な義務である」とし、各機関が認証・審査の有効性の向上に主体的に取り組むことを求めている。
 
  JAB声明は、民間の制度であるので国の指示を受ける謂われはなく、再審査は言われなくともやっているというものである。JACB声明は「ISO認証の有効性及びISO認証制度の信頼性が問われている」との認識を明確にしているからもう少しまじめであるが、再審査以外の対応を示してはいない。報じられる経産相の要請が実際にあったとすれば、監督官庁の立場からではなく、ISO9001登録組織がなぜ品質不祥事を起こすのかという一般消費者の困惑や疑問を代表したものであろう。
 
2. 品質保証の規格 ISO9001
  そもそも、ISO9001規格は「品質保証に加えて、顧客満足の向上をも目指そう」とする(1)ものであり、規格は「品質保証能力を実証する場合と顧客満足向上を目指す場合」のためにあるとJIS解説(2)は説明している。そして、JABが審査登録機関を認定する条件として課した審査登録機関の審査登録活動の在り方に関する「不適合」の定義(3)は、「一つ又は複数の品質マネジメントシステム要求事項が欠けている、又は、実施及び維持されていないこと、又は、入手できる客観的証拠に基づいた、組織が供給している製品の品質に重大な疑いを生ずる状況」である。審査登録機関が登録証を発行したのは、審査によって当該組織の「製品の品質に重大な疑い」がなかったと判断したからである。JABは認定審査によって審査登録機関がそのような審査と判断基準で登録証を発行していると判断したはずである。これが審査登録制度の論理であるなら、経産相の疑念と要請は理に適っている。不祥事の露顕に際しては、審査登録機関はまず、なぜ「疑いがない」と判断したのかという審査の判断の適切性を検証することが必要であり、JABはこの検証が適切に行われることを監視することが必要であるということになる。
 
3. 品質を保証しない登録制度
 
しかし、日本の登録制度ではこの登録制度の論理は通用しない。日本では、品質保証の規格ISO9001への適合と品質保証能力の実態とは無関係であるという理屈が業界を支配している。審査登録は「製品認証の概念とは異なり、マネジメントシステム審査登録は改善することに意味がある」というJABの解釈(5)の下に行われている。JABや審査機関は、登録証は品質不祥事の起きないことを保証するものでないと考えているから、不二家が不祥事を発生させたことには責任がないと思っているのである。しかし今、これを明言する勇気はないから、各声明は経産相要請の背景を無視し或いは気づかない振りをしている。それなら登録証の意義は何かということになる。
 
  それでいて各声明は「審査登録制度の信頼性向上に対するご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます」(JAB)、「消費者を含む関係者の皆様の信頼を得られるようなマネジメントシステム審査登録機関として活動していく所存でございますので、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます」(SGS)と社会という顧客へのお願いで締めくくられている。つまり、不祥事も出るのが登録制度だと言いながら、登録制度を信頼して欲しいと言いっているのだ。
 
4. 機能不全のISO9001マネジメントシステムと登録制度
 
毎年のJAB調査(4)でも導入した品質マネジメントシステムが狙いの通りに機能していると評価する組織は50%強に過ぎない。日本のISO9001の登録証は、品質保証の観点からは欠陥商品と言うべき状態にある。しかし先年、これと無関係な「負のダウンスパイラル」と称する別の機能不全が持ち出され、審査機関の倫理性及び審査員とコンサルタントの能力不足が原因とする報告書(7)が出された。これを基に、JABは、認定審査で認定一時停止処置を発動するなど審査登録機関への管理を強めてきた。傘下の審査員登録機関も審査員資格の維持、更新の要件を増やし、規格協会は状況を活用してコンサルタント登録事業を始めた。これらとほぼ同時進行する形で、審査機関の顧客は受審組織ではないとか、登録制度は社会制度であるとかの主張が現れ、今日では業界常識となった。審査や登録は組織の悪行を監視し、組織の製品を購入する顧客を保護することが目的であるから、組織自体に利益をもたらさなくとも意味があるとの主張だが、受審組織の不満を糊塗できる理屈でもある。
 
   しかし、今度は業界が顧客に擬した社会からもあからさまに機能不全が指摘された。これへの対応が、悪行が露顕した組織に対する処分だけである。 幸い、ISO9001の登録証を見て不二家の菓子を買った消費者は誰ひとりいないだろうから、こんな声明に関心を寄せる者もない。しかし、登録証は輸入のように見知らぬ組織の製品の品質に関して顧客の安心を保証するもの(6)だとISO関係者は常々発言している。登録証を信用して実際に重大な損害を受けた顧客があったとすれば、こんな声明にどのように反応するのであろうか。JABは社会制度の監視人だと唱えながら、その齟齬の結果については説明責任を果たそうともしない。市民を犯罪から保護する役割だが犯罪発生に対して責任をとらない警察機構に自らを擬するかのようだ。このような姿勢はいつまでも通用するとは思えない。次には審査登録制度の機能不全の言い訳にどのような理屈づけが行われるのであろうか。
 
5. 登録制度の信頼性向上のために
   論理が一貫しないというより論理不在と言う方がふさわしいのは業界の体質である。その根底には、規格と登録制度の理解や解釈において一握りの指導層が下す判断が、例え説明不足の天啓的判断であっても、筋の通らないご都合主義に思えるものであっても、他の見解との矛盾が明白であっても、絶対的な権威をもつという権威主義とそれを鵜呑みにする無責任主義がある。社会の登録制度への信頼を高め、ISO9001適合マネジメントシステムとその登録制度を機能させるには、ISO9001と審査登録の本来の姿を取り戻すしかない。業界関係者は権威に安穏に身を委ねるのを止め、自分の頭で考えて、社会に貢献するための制度と言うならその運用者としての使命を果たさなければならない。
       
   
引用文献( *印及び英語文献は筆者の和訳)
(1) JISQ9001 0.1項 序文 一般
(2) JISQ9001 巻末解説4.c)項
(3) JAB R300:2006 品質システム審査登録機関に対する認定の基準についての指針 G1.3.1項
(4) JAB調査報告書: ISO 9001に対する適合組織の取組み状況, 2006/04/21、問21
(5) JAB 第6回管理システム規格専門委員会資料、2004.7.28、p.4
(6) ISO: ISOと適合性評価、www.iso/en/comms-markets/comformity/iso+comformity.html
(7) 日本工業調査会:管理システム規格適合性評価専門委員会報告書(案),H15.4.25;
H19.2.2 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所