ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
51   不二家再建の道筋狂わすISO9001登録停止の決定
       −時事問題でISOを考える(番外編-3)−
 <62-01-51>
1. ISO9001登録の停止の決定
   5月2日の新聞各紙は、洋菓子大手の不二家がその菓子3工場と品質保証部などの本社組織に対するISO9001認証の一時停止措置を受けたと発表したことを報じている。報道によると、1月の不祥事発覚の臨時審査で8件の不適合指摘を受け、これに対して不二家が実施した是正処置の内の5件が不十分であるとの審査登録機関SGSジャパンの結論が出たらしい。JABの登録組織リストには品質保証部と工場を範囲とするISO9001登録が見られるが、埼玉工場はじめ問題のあった工場の名がないから、発表のあった登録は既に一時停止状態にあるか、または、問題工場を除外した登録に縮小されたかどちらかであるから、正確には一時停止処置を受けたのではなく、登録の停止処置が解除されなかったということであろう。
 
   ISO9001の審査登録機関はISO/IEC Guide62及びJAB認定基準(R100;2.1.5項)により不祥事発覚などの際の再審査を含む登録授与や停止の手順を定めており、発見された不適合の程度によっては適切に是正されるまでの間の登録を一時停止や範囲の縮小などの処置に付することも定めている。不祥事報道以降のSGS社の一連の処置はこの手順に従ったものであろうから、現行のJAB傘下の審査登録制度の枠組みにおける制度の信頼性の維持を図る処置としては正当なものなのだろう。
 
2.審査登録機関の思惑
   これによりISO9001再登録を条件にしていたセブンイレブン、イトーヨーカドー、ファミリーマートの小売り大手は取引再開を見送った。記事では既に不二家製品販売に踏み切っている各社はそのまま取引を継続する方針のため、不二家への影響は部分的に留まるとしている。しかし、不二家が再建の希望に水を注され、その道筋を狂わされたことは間違いない。SGS社もこの情勢を知っていたはずであるから、この度の登録停止の結論は情実に流されないで筋を通した公正な審査を社会に示したことにもなる。また、日本では審査登録制度は社会制度に擬され、受審組織の顧客や社会のために審査をするものと唱えられているから、SGS社は登録証を裏切った組織にちゃんと制裁を加え、実効ある再発防止対策をあくまでも追求するという姿勢を見せたということかも知れない。
 
3.社会の受けとめ
   しかし、社会が審査登録に不信を抱いたのは、社会制度であるなら品質事故や不祥事を出さないよう企業を監視すると期待していたのに、不祥事が発生したからである。不二家に裏切られた感情はあっても、だからと言って社会が今の不二家に登録停止の制裁を加えることを望んでいるとは思えない。販売再開を見送った小売り各社は、競合他社が販売を横目にしながら、販売再開のための消費者が納得する品質への安心感の保証としてのISO9001登録の回復を待っていたはずである。ブランドに愛着を持つ消費者も、不祥事発覚後の反省や再建に係わる経営の動向の報道を見聞きする中で、品質不安の解消する日を期待していたのではないだろうか。
 
   一方で多くの小売り各社が既に不二家製品の販売を再開している。この状況の中でのSSG社のこの度の決定は、これらの小売り各社や消費者には不二家製品の品質は安心できないとの警告を意味するが、これも意識されていないようである。決定が関係者間で利害の対立する影響の大きい微妙な問題に関するものである以上、SGS社には審査の経緯や結論に関しての説明があってもよい。しかし、一時停止については「結果を明確にすることが望ましい」が「公表する必要はない」とのJABの認定の基準(R300;2.1.5項)に従ったのか、口をつぐんだままである。
 
4.登録取得組織の思い
   また、登録取得組織も恩恵を受けるのが、審査登録制度の本来の趣旨である。登録証は、品質関連業務がISO9001規格の要件を満たして実行されており、出荷する製品の品質に安心感をもってよいということについての第三者による客観的な裏付けである。不二家の当該の品質マネジメントシステムがSGS社の審査を受けて、適合の証明の登録証を得たのは、不祥事報道のわずか半年前の昨年6月である。不祥事が露見した時、SGS社による1月の再審査で適合の結論を得ることを確信し、これで社会の不安の鎮静を図ろうとする当時の同社社長の談話が報道された。次々と“ずさんな品質管理”の実態が明らかにされる状況での談話であったので、同社長の社内業務掌握のお粗末さが目立ったが、同社長が自らでは困難な遠く離れた工場の業務の監視をISO9001登録審査に期待していたとすれば、種々のずさんな実例はあったとしても実際に世間を騒がす品質事故を起こす程の深刻な状況にはなく、また、品質保証業務の実態は国際標準として認められた水準にあるとも信じていたのかも知れない。
 
   わずか半年前の審査で問題ないとの裏付けを得たのに、不祥事の報道が出た途端に数々の不適合指摘が出された上で、是正処置まで問題視される程に状況が深刻だと言われたことに対して、同社のトップマネジメントに困惑があっても直ちにはおかしいと言い切れない。然るにSGS社は、登録審査を含む経緯を顧みた形跡のないまま、再登録に藁にもすがる思いの組織に対して大向こうを意識した登録停止処分を、言い渡したように見える。不二家はISO9001の登録を事業再建の基礎にする意向を再々表明しているのだから、だめという結論を出すのに3ケ月も掛けるのも非情に見える。審査登録機関は日頃“経営に役立つ審査”を標榜しているが、この問題処理においてどうであったのだろうか。コンサルティングとの混合の危険を認めながら、審査登録業界は単なる適合性の判断に追加する審査の価値としての“審査の付加価値”をも唱えている。不二家は一日も早い再建を目指し、その鍵となる品質保証への社会の安心の確立を必要としている。SGS社には審査の公正さを維持しつつ、これにどのように与れるのかの配慮と行動が必要であってもよかったのではないだろうか。
 
5.まとめ
   この度のSGS社の不二家ISO9001の登録停止ないし停止解除否定の決定は、審査登録機関の論理や制度の基準を満たしていても、組織と社会の利益に資するのが目的の審査登録制度の趣旨に適うものとは思えない。不二家は再建の道筋を狂わされ、ISO9001登録に信を置く小売り各社は販売再開の道を閉ざされ、既に購入を再開した消費者は食べている製品の品質に不安があることを匂わされた。
   審査登録制度の信頼性に関して言えば、社会に安心を保証するのではなく不安を煽ることとなった。実際には報道のように販売を再開した小売り各社は販売を続けるから、SGS社の審査結論はいとも簡単に無視された恰好であり、審査登録制度への逆の意味での露骨な不信表明となった。SGS社の不二家不祥事に係わる再審査と一連の処置と決定は審査登録機関の論理に忠実であったが故に、社会の審査登録制度への信頼を回復するのでなく、信用を失う方向に作用したように思える。
 
 
引用文献( *印及び英語文献は筆者の和訳)
H19.5.9 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所