ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
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52   混迷を深めるか審査登録制度−審査のあり方に関するJAB新見解  <62-01-52>
1. JABの新見解
   JAB(日本適合性認定協会)は4月13日、ウェブサイトに「マネジメントシステムに係わる認証審査のあり方」という標題の声明を発表した。これは審査登録機関(今後は日本でも“認証機関”と称するとのこと)の認定の国際基準が、ISO/IEC Guide 62,66から ISO/IEC17021に変わることによるJAB認定基準の改訂において、JABが反映しようとしている見解を表明するものである。声明は、改訂によって審査登録制度(認証制度)を「規制当局及び社会一般から信頼され、且つ、組織とその顧客、市場に付加価値の高い」ものとするとの決意で締めくくって、新見解の狙いが登録組織の相次ぐ不祥事で揺れる審査登録制度への社会の信頼の回復であることを示唆している。これが理由なら審査登録機関も新見解には異論を唱えることはできない。声明には、今後のJABによる審査登録機関の統制に新見解を押しつけようとする意図が明白である。
   
   声明を斟酌すると今日の審査登録制度に関するJABの問題意識は、ISO規格かどうかを問わず数々の特定目的のマネジメントシステム規格が発行される中で、それぞれのマネジメントシステムが組織の“本来業務(ビジネス)”と異なる別々の仕組みとして構築、運用されるケースが見られるということである。そして声明は、ISO9001/14001のマネジメントシステムが“有効に機能していない”と認める一方で、その原因がここにあると指摘している。声明は、規格要求事項にばかりに囚われ、また、審査員が専門知識に深入りし過ぎる登録審査の実態がこれを助長してきたと責任を審査機関と審査員に転嫁し、よって、現状を改めるためには登録審査を“ビジネス全体の視点からの審査”とし、“マネジメントシステムの有効性の審査”としなければならないというのが結論づけている。
 
 
2. マネジメントシステムの有効性
 
声明は“有効に機能していない”のは“有効性の審査”をしてこなかったからだとしているが、一方で“有効性の審査”の必要の根拠を新規格ISO/IEC17021の中の認証の条件に関する記述に置いている。すなわち、「認証はマネジメントシステムが『a) 規定要求事項へ適合している; b) 方針、目標を達成できる; c) 有効に実施されている』ことを実証するものである」という同規格序文の一文を引用して、新見解の正当さの裏付けとしている。しかし、この「有効に実施されている」という記述が“有効性の審査”を意味すると言うのなら、これまでの審査も“有効性の審査”であり、何も変わったことではない。
 
  なぜなら、ISO9001,14001両規格とも“一般要求事項”(4.1項)として「マネジメントシステムを確立、文書化、実施、維持、及び、有効性を継続的に改善すること」を規定しており、これを含むすべての要求事項について審査をして、すべてに適合しているとの判断の結果が登録証である。現在の審査も“効果的に実施している”だけでなく、更にこの実施が効果的であることを“継続的に改善している”ことを確認しているのである。更に、現在のJABの認定基準(R300; G.2.1.2)は「組織の品質マネジメントシステムのISO9001への適合について登録することは、組織が品質マネジメントシステムを効果的に実施かつ維持していることを実証するものでなければならない」と規定している。記述上ではこれまでの審査も“有効性の審査”である。然るに新見解は、その新規格記述に依拠する“有効性の審査”が、現在の“有効性の審査”とどのように異なるのかを説明しないで、信頼回復のためにこれからは“有効性の審査”をしなければならないと言っている。
 
  社会の審査登録制度への信頼に関する本当の問題は、“効果的に実施している”“有効に実施している”という状態についての、社会の期待と審査登録業界の見方との間に溝があることである。すなわち、登録証は“事故、不祥事を起こさない”という証だと社会が期待しているのに、JABも審査登録機関も“事故、不祥事場合に再発防止処置をとる”ことなのだとしていることである。新見解は、これをどうするのか、どのように社会の期待との折り合いをつけるのかについて全く語っていない。それどころかJABは、“有効性の審査”がISO/IEC17021で初めて打ち立てられた概念であるかの説明をして、今まではやってこなかったがこれからは“有効性の審査”をやるからと、社会の期待に応える振りをしている。
 
   そもそもISO/IEC17021は、これまでISO9001と14001の両規格に別々に定めていた審査登録機関に関する要件をひとつに統合し、その他のマネジメントシステムの審査登録機関の認定の基準にも使うことを意図して汎用性のある基準としたものである。審査の視点や適合、不適合の定義を変えるものではない。JABの引用する新規格序文の記述の趣旨は、これまでもISO/IEC Guide 62,66を補うIAF指針に記述されていた。JAB自身も同じ記述をR300に取り入れているから、これを審査登録機関の統制に適用してきたはずである。“有効に機能していない”のは“有効性の審査”をしてこなかったからとする声明の主張は、JAB自身が認定基準R300を適切に適用してこなかったと言っていることになる。
 
   
3. 混乱する審査
   声明は更に、「システムのパフォーマンス(アウトプット、指標又は結果)の向上」が“有効に機能している”ことを意味し、「品質の推移」や「環境パフォーマンスの変化」を審査しなければならないとしている。それなら、「組織が当該規格の関連条項のすべての要求事項を満たしているかどうかを決定する」活動(R300; G.1.3.1)である登録審査に対して、パフォーマンスの向上がどの程度以下なら不適合とするのかなど具体的な審査の基準として要求事項が明らかにされなければならない。またJABは、製品や環境パフォーマンスの改善は規格の「要求」ではないとしてきた解釈を変更するのかどうかも明確にしなければならない。声明でJABはこの他にも、“ビジネスの流れに沿った審査”“付加価値のある審査”“プロセスアプローチ的審査”“規定要求事項への適否確認に終わらない審査”の必要を唱えているが、これらに関しても、審査員の専門分野を厳しく特定させたり、確認する要求事項に抜けがあってはならないとし、要求事項への適否以上の指摘をコンサルティングと見做して厳禁してきたというようなこれまでのJABの統制を変更するのかどうかについて何も触れていない。JAB声明は新しい審査のあり方として幾つかの項目を挙げるが、これまでの統制との繋がりや何をどう変えるのかの具体性はない。これでは審査は混乱するばかりである。
 
 
4. 審査登録制度の明日
   
JABの新見解の本質的欠陥は、登録証や制度のあり方への社会の批判を審査のあり方という社会がほとんど期待していない問題に置き換えていることである。こんな新見解で社会の信頼回復はありようがない。加えて、JABの新見解は論理性に乏しく、内容は抽象的で、審査に適用できる判断基準は全く示されていない。新見解の運用はすべてJABの胸先三寸ということになる。今後のJABの認定審査では、例えば「有効性の審査になっていない」を初め、「ビジネスの流れに沿った審査になっていない」というような指摘が行われるのであろうが、そうかどうかの判断はすべてJAB次第である。審査登録機関はJABの意向をあれこれに慮り、審査へのあれこれの形式を審査員に求め、審査員はこれを確認するあれこれの証拠の提示を求めるから、受審組織にはあれこれと余計な形式的な業務がまた増える。JAB新見解 は当面する審査登録制度への不信や規格のマネジメントシステムの機能不全を温存し、更に悪化させることにしかならない。JABの業界支配力の強まりと裏腹に組織の困惑と悲鳴が大きくなり、不祥事は続き登録証への信頼の低下は止まらない。ISOマネジメントシステム規格の審査登録制度のこんな明日は見たくないものだ。

H19.6.18 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所