ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
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53   登録取得組織が不祥事を起こす理由 −誤った規格解釈と規格取組み  <62-01-53>
1. 登録取得組織の事故又は不祥事
   ISO9001/14001の登録取得組織が品質或いは環境に係わる事故や不祥事を引き起こして、規格や審査登録制度への社会の不信を高めている。 そのような組織にも規格適合性の登録証が発行されるなら、規格や審査登録制度とは何なのかというのが、社会の正直な疑問である。なぜ、そのようなことが起きるのか、規格の目的は何なのか、事故や不祥事の防止に何を規定しているのであろうか。規格は組織の事故や不祥事の発生防止に無力なのかどうか検討する。
 
 
2. 規格制定の目的
(1) 不良品出荷防止を含む顧客満足向上 −ISO9001
   ISO9001は、米国軍需産業の品質保証規格 MIL-Q9858Aにその根源を遡ることができるが、品質で遅れをとり競争力を失った欧州諸国が日本製品と同じような良い品質の製品をつくるための企業の業務指針として作成された。良い品質とは、性能や機能が優れていることが無関係ということではないが、この時点では一般に、表示の性能や機能が出ない、直ぐに壊れる、疵がある等の欠陥製品或いは不良製品でないことを意味した。意図しない欠陥又は不良品を顧客に出さない管理を、規格では“品質保証”と呼び、「あるものが品質に関する要件を満たすだろうことに適切な安心感を与える活動」#3 と定義している。
 
  この品質保証の規格ISO9001は、2000年改訂により“顧客満足向上”を図る規格となった。これは、世界的に品質保証能力が向上し、不良品がないのは当たり前になりつつある状況での市場では、不良品でなくとも製品自身及び販売方法、事後サービスなどが顧客のニーズと期待を満たさない場合は顧客は買ってくれない。元来、品質保証は製品を買ってもらうための活動であり、この目的からすると顧客のニーズと期待を満たさない製品や関連する組織の活動は、製品を買ってもらえないという点で欠陥又は不良品と同じである。これが、2000年版が「品質保証に加えて顧客満足向上を目指す」#4ことになった背景である。2000年版ISO9001の目的は、顧客のニーズと期待及び法規制を満たす製品を一貫して提供すること、及び、これによって顧客満足の向上を図ることである#1
 
(2) 持続的発展可能な社会における環境保全責任 −ISO14001
  ISO14001は持続的発展の原理の下で事業組織の地球環境に対するふさわしい責任の果たし方の指針として制定された。その基本は、世界のすべての事業組織が、その製品と活動がもたらす環境影響を利害関係者のニーズと期待を満たす程度に、且つ、技術的に又組織の財務上で可能な限りに削減する継続的な活動を行うことである#2。 世界のすべての組織が規格に則って環境影響低減に取り組めば、人々は豊かな生活を維持しながら次世代にも健全な地球環境を引き継ぐことができるという認識が国際的合意である。このような環境取り組みを行う組織は、環境法規制や公害に係わる利害関係者のニーズと期待の順守を前提として、現にどのような環境を出しているかどうかによらず、社会から国際標準の環境責任を全うする組織と見做される。
 
 
3. 規格の意義
(1) 組織の規格実践の利益
  どの組織も顧客に製品を買ってもらうことで成り立っており、事業遂行には顧客はじめ、消費者、市場や地域社会、一般社会、金融機関、投資家、法律(官公庁)など広い利害関係者の支持が必要である。組織が事業を維持、発展をさせたいなら、顧客やその他の利害関係者のニーズと期待を満たす製品を提供することが必要であり、ニーズと期待を満たすように事業活動を行うことが必要である。規格は、利害関係者のニーズと期待を満たすことで発展を図らんとする組織に、品質又は環境の面で指針を提供する。
 
  すなわち、ISO9001は品質保証或いは顧客満足向上の活動に関する、また、ISO14001は国際合意の環境影響削減取り組みに関する、組織の経営管理の国際標準である。組織がISO9001、ISO14001に則って業務を行えば、組織と製品は顧客やその他の利害関係者に受け入れられ、支持され、利害関係者からそれぞれの利益を受け取ることができる。組織が規格を実践するのは、利害関係者からの支持を確実なものとして、事業を発展させることができるからである。
 
(2) 要求事項
  規格は、学術書、学会誌、特許明細書などと同種の知識情報媒体のひとつであり、ものごとの標準に関する当該分野の合意を表したものである。規格自身は、誰かに従うことを何ら強制するものではない(2-b)。ISO9001,14001の両規格の「〜すること」という“要求事項”は、ISO規格作成ルールにおける“規定(provision)”の種類のひとつの“要件*(requirement)”のJIS和訳である。規格の規定には、これと“説明*(statement)”、“推奨*(recommendation)”の3種類があり、“要件*”は、規格の目的達成には規定の通りでなければならないことを意味し、“推奨*”は他でもよいがこれが望ましいということを意味するとして使い分けられる(2-a)。 規格の公用語の英国英語では“requirement”は、「必要とするもの」という意味(3)であり、他の公用語であるフランス語、スペイン語でも「必要条件」の意味であるそれぞれ、“exigences”“requisiteos”が採用されている。但しロシア語では「要求事項」と同じような意味の言葉が当てられている。
 
  両規格の要求事項とは、組織の発展を図る品質又は環境に関連する経営管理のあり方としての必要条件を意味する。「〜すること」とは、規格の目的である顧客満足、環境保全を実現するためにはそれが必要という意味である。 “推奨*”ではないので、組織が顧客やその他の利害関係者のニーズと期待を満たす製品を提供し、及び、ニーズと期待を満たすように事業活動を行いたければ、規格の「〜すること」からの逸脱があってはならない。必要条件であるから、それをどのようにして満たすかは組織が考えて、満たして各業務を行わないと、規格の目的は達成できない。規格は、効果的なマネジメントの在り方を、各要素業務に関する必要条件として示す知識情報媒体に過ぎず、それを学んだとしても、そのように業務を効果的に実行できるかどうかは組織次第である。
 
(3) 規格の要求事項の有効性
  ISO9001,14001両規格はそれぞれ、組織の繁栄という現実の利益を保証するものである。組織が規格の示す必要条件に則って業務を行えば顧客満足又は環境保全の観点で利害関係者の支持を得て発展し、必要条件を逸脱して業務を行えば利害関係者を失望させてその支持を失い事業継続に支障を来す。両規格の規定がこのような効能を有している、あるいは、有効であるという根拠は何であろうか。 規格は、組織の発展の鍵となる経営課題を適切に抽出、設定でき、かつ、設定した課題を確実に解決することができるという効果的マネジメントの論理に基づいている。この論理は、MIL-Q9858Aの規定に始まり、欧州諸国の品質保証規格を経てまた、ISO9001,ISO14001の版を重ねて進歩してきたものである。
 
  ISO9001の2000年版についてISOは、規格は世界の品質保証の専門家が品質で成功した世界の企業のマネジメント活動を研究し、優れた考えと要素を採入れたものであり、その有用性は実績で証明されていると説明している(1)。 これには、1970〜80年代に品質で世界を席捲した日本の輸出産業のマネジメント が論理と実績の中心にあることは間違いなく、従って、組織が規格に則って業務を行えば当時の日本企業と同じ成功を納めることができると信じてよい。また、ISO14001は、組織が経営上で必要な環境影響削減課題を方針、目標に適切に設定し、これを確実に実現するという国際合意の地球環境責任の果たし方を規定しているが、その論理はISO9001と同じである。従って、こちらも規格の規定の有効性も世界の成功企業の実績で証明されていると考えてよい。
 
4. 事故又は不祥事の防止
(1) 規格の事故、不祥事防止能力
  一般に、事故や不祥事として報道される事態は利害関係者のニーズと期待を裏切る事態である。その証拠に、組織は結果的に罰則を受け、賠償金支払いを強いられ、顧客離れが起き、株価が下がり、収益を悪化させ、場合により事業再編に追い込まれ、また、経営破綻に至らされる。規格の「〜すること」とは、利害関係者のニーズと期待を裏切らないための必要条件であるが、欠陥品や事故、或いは苦情を皆無にするための必要条件ではない。それは大抵の場合は利害関係者のニーズや期待ではない。利害関係者が失望して組織を見限るのは、その想いが著しく裏切られた場合であり、思いもやらない或いはあっては困るとおもっていた事故や不祥事の発がこれに該当する。他にも利害関係者が組織から離れる原因はあるが、事故や不祥事を起こさないことは規格の規定の狙いである。リスクマネジメントの明確な枠組みがあるかないかを問わず、また対象範囲の広い狭いはあっても、どの組織も経営を危うくする事態に備えて業務を行っている。一般に、掲げる改善の経営方針、目標は、それに反する事態の発生抑止を含蓄している。品質方針、環境方針に事故や不祥事を発生許容を明言しない限り抑止は方針であるから、組織は方針実現のための手順が事故や不祥事の防止を視野にいれていることを確実にしなければならない。
 
(2) 不祥事事例の検討
  例えば、耐震性偽装マンションの販売事件(H17.11)では、ISO9001が規定する建築基準法の確実な適用(7.2.1 c))と適用されたことの確認(7.5.2, 8.2.4)、外注設計士が正しく設計を行うことを確実にする管理と確認(7.4)がどのようになっていたかであり、賞味期限切れ原料牛乳の使用など不二家のずさんな品質管理の実態曝露事件(H19.1)では、ISO9001は原料牛乳の使用基準の明確化、確認 (8.2.4)の必要、基準はずれの場合にとるべき処置(8.3)、更にはこれらの記録の維持(4.2.4)を規定しており、管理者が責任及び権限を完遂(5.5.1)しておれば起き得ない事態である。JFEスチール、神戸製鋼、日本製紙の環境測定データ捏造事件(H17.2,5, H19.7)に関しては、ISO14001は法令など規制に関して遵守状況を責任者が定期的に評価し (4.5.2)、トップマネジメント がこれを確認すること (4.6 a))になっており、経営の意に反する他社の改ざん事例が自社で起きないようにする予防処置(4.5.3)の手順を規定している。パロマ工業鰍フ湯沸器による死亡事故多発が発覚した事件(H19.1)では、子会社たる販売会社を顧客とし、且つ、修理保全サービスを規格の適用除外としていたため、事故の処理や対策((8.3)が他人事になっていた。
 
  これら事例では、規格は品質事故、環境事故或いは不祥事を起こさないような管理を的確に規定している。いずれの組織も、規格が規定する業務を行っていた場合でも、それら業務を規格に則って効果的に行っていなかった。規格の必要条件をきちっと満たすように業務を行えば、世上を騒がす事故や不祥事は起こさないで済ますことができた。
 
 
5. 誤った規格解釈と規格取組み
  日本では例えばISO9001が「顧客が企業に求めたいことを実現するための仕組みや手順について顧客に代わって要求している」ものとされるように、規格の規定は“規格の要求”である。これは、規格の規定を“要求事項”と呼ぶことから導かれた考えであるように推察される。 「〜すること」が要求であるから、何が必要かでなく、何をどうすることが要求されているかという規格解釈になる。要求されたことだけをやればよいという誤解を生み、 往々にしてこれは業務の形式として認識されるのであるが、その形だけを満たすことで満足する規格取り組みを生む。 JIS規格書巻末の解説を含み市販の解説書でも、何のために「〜すること」なのかが体系的に説明されることはほとんどない。
 
  組織の規格取り組みは、それぞれの規定の理由や目的をあいまいなままにして、規格の要求は何か、審査員はどういうか、どうすれば登録証が得られるかを判断基準として行われるのが一般的である。ほとんどの組織は審査で不適合だと言われないように“規格の要求”を満たすことを考え、そのように“要求”を満たすよう業務を行う。このようにすれば、審査は円滑に進み、結果として登録証の発行を受ける。登録証の取得が事実上目的となっている。日本の規格取り組みの多くのは、規格制定の目的に対する意識が薄く、規格の意義にあまり深く関心を持たず、事故や不祥事の防止を初めとする規格の効能を活用しようとはしていない。
 
 
6. 結論
   ISO9001,ISO14001規格は、不良品を出荷しないことを含む顧客満足の向上、又は、地球環境保全への責任の全うによって、顧客はじめ利害関係者の支持を得て、組織が発展するための組織の経営管理の在り方を規定している。利害関係者の支持を得るには、組織は製品及び活動に係わる ニーズと期待を満たすことが必要であり、ニーズと期待を裏切ること、例えば事故や不祥事の発生があってならない。規格の規定は、顧客満足又は環境保全に関連しての利害関係者のニーズと期待を満たし、裏切らないための組織の各業務の在り方を、必要条件として表している。組織は規格を学び、示される必要条件を満たすように業務を効果的に行えば、事故や不祥事を発生させて、経営が傾くというような事態を避けることができる。しかし、日本では規格の規定を“規格の要求”と解し、なぜそれが必要なのかをあいまいにしたままで、審査登録を目的化したかの規格取り組みが一般的である。その規格取り組みでは事故や不祥事の発生には焦点があてられていないのが普通である。登録取得組織も事故や不祥事を発生させる背景には、誤った規格解釈と規格取り組みがある。
 
 
引用規格条文
#1: ISO9001:2000; 1.1 a),b)
#2: ISO14001:2004; 序文
#3: ISO8402:1994; 3.5
#4: JISQ9001:2000; 0.1
 
引用文献 ( *印は筆者による和訳)
(1) ISOウェブサイト:魔法の旅、基本、汎用マネジメントシステム規格
(2) ISO/IEC Directive, Part2, Fifth Edition, 2004, ;a-3.12, b-6.6.1
(3) Oxford Advanced Learner’s Dictionary, Oxford University Press
H19.7.13(改 H19.10.10) 
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