ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
54   (続)登録取得組織も事故、不祥事を引起こす理由
 
             −誤った登録制度運用が根本原因
 <62-01-54>
1. JABの問題意識
  ISO9001,14001登録取得組織の品質又は環境事故、不祥事の発生に対して、審査登録制度を司る日本適合性認定協会(JAB)は問題意識は持っても、発生に対する責任を完全否認している。JABは、審査登録は不祥事発生のないことの保証ではなく、不祥事を発生させた組織に再発防止処置をとらせることが審査登録の趣旨である(8)という立場である。このJABの主張は果たして、規格とその適合性評価制度の目的と国際的枠組みに照らして正当なものかどうかを、ISO9001を例に検証したい。
 
 
2. 品質保証規格と監査の歴史
(1) 品質保証規範順守の監視のための二者監査
  品質保証規格とそれに基づく監査の始まりは1959年制定の軍需産業に対する米国の規格MIL-Q-9858と言われるが、これは国防省が武器の品質を確保するために供給者に課した品質保証活動に関する規範であり、調達先の選定と管理の手段として規格順守の二者監査が実施された(3)。日本製品に刺激されて市場における品質の重要性が高まる1970年代(1)、欧州諸国では購入製品の品質確保のために各顧客企業が独自に制定した品質保証活動規範を用いた二者監査が拡がり、各国ではこれの統一、標準化のために品質保証規格がそれぞれに制定された(4)。これら品質保証規格の目的は顧客企業に不良品が納入されるのを防ぐことであるから、中身は供給者がこれを順守すれば不良品が納入されないと顧客企業が考える供給者の業務方法を定めたものであったに違いない。顧客企業は供給者が規格を実際に順守していることを監査で確認し、供給者を選定し、以降も規格を順守した業務遂行を要求し、監査により監視した。
 
(2) 品質競争力の証明のための三者監査
  このような性格の品質保証規格を企業の品質競争力の向上の手段として活用したのは英国のサッチャー首相であるとされている(2)。すなわち1982年、英国政府は英国の品質保証規格BS5750の適用を企業に求め、同時に企業がこの規格に適合していることを第三者が監査して登録する制度を推進した(4)。これにより不良品を出さないという品質競争力を英国の企業が確立し、そのような業務能力を有することを第三者監査で海外の顧客に示し、英国製品の輸出を促進しようとしたのである。
 
(3) ISO9001と審査登録制度
  更に、国際貿易の促進の観点から品質保証規格は1987年にISO9001シリーズとして国際規格化された。ISO9001シリーズは当初、契約当事者間の二者監査に供せられることが主眼であったが、ISOマネジメントシステム規格の審査登録制度の国際的枠組み確立に関する1989年のISO適合性評価委員会年次総会の決議(5)を背景に、1994年改訂で第三者監査への適用が明確にされた。これは、国際貿易において障害となる見知らぬ供給者から受取る製品の品質への疑念は、有効性を広く認められた品質保証規格とそれへの適合を確実にする、これも有効性を広く認められた適合性評価制度によって解消できるという考え方によるものである。
 
   
3. ISO9001と審査登録制度の枠組み
(1) 安心感の提供
  ISO9001も元を辿るとMIL-Q-9858に基礎をおいているが、その規定の不良品を出荷しないということへの有効性は、新しい考え方と手法を採り入れてBS5750からISO9001の各版へと改善され、2000年版は1980年代の成功企業の体験を反映した現時点における最も効果的な品質保証マネジメントに関する規範であると考えられている(6)。ISOと関係者によると、このようなISO9001に関する登録証は、知らないもの同士の取引において企業が「ISO9001に適合した管理された状態で業務を行っているという安心感」(7)、すなわち、「必要な品質の製品を供給できるという安心感」(11)(9)を顧客に提供することが出来る。 ISO9001適合の証明の登録証が顧客に提供する安心感とは、顧客がこのような不良品を受取らされるのなら取引したくないと考える水準や程度、種類或いは頻度の不良品が出荷されることはないという安心感である。登録証がこの安心感を提供できるが故に、登録証は例えば国際的 サプライチェーンの中で「組織が異なる国に存在する供給者を選択する」指標となり得る(10)のである。
 
(2) 品質事故、不祥事防止への安心感
  ところで一般に、品質事故、不祥事と言われるのは、“組織”たる企業の製品品質又は品質関連業務に関して顧客ないし消費者が強い不安や不満を抱く事柄の曝露であり、過去の多くの事故、不祥事の場合には顧客離れが起きており、経営に深刻な影響を及ぼした事例も少なくない。従って取引開始の段階でこのような事故、不祥事が発生する可能性があることと知っていれば顧客がそのような企業を選定しなかったことは間違いない。顧客は普通、不良品絶無は期待しないまでも、著しい品質不良なかんずく新聞種になるような品質事故や不祥事の発生の恐れのないことは期待して企業や製品を選択している。この顧客の淡い、しかし、切実な期待を正当な安心感までに高めるのがISO9001と審査登録制度の本来の趣旨である。ISO9001と審査登録制度の国際的枠組みにおいては、品質事故や不祥事を発生させる可能性がある場合には登録証は発行してはならないのである。
 
  ISO9001と審査登録制度は、組織の品質保証能力の有効性を保証し、それを新規の顧客に証明し、以て組織の事業の拡大発展を助けることが本意である。登録証は第一にISO9001を規範として不良品を出荷しない、顧客のニーズと期待を満たす製品・サービスを提供するというという業務体系が確立し、効果的に業務が実行されているので顧客の離反で経営が窮地に陥るようなことは起きないとの安心感を登録取得組織に保証する。次に当該組織が登録証を顧客に示すことによって、顧客が懸念するような不良品が出荷されることがないという安心感を顧客に抱かし、取引開始の決断を促すことができる。登録証が、品質事故又は不祥事を起こさないという保証でなければ、この枠組みは成り立たない。
 
 
4. 論拠不明のJAB見解
  JABは、審査登録は不祥事発生のないことの保証ではなく、不祥事を発生させた組織に再発防止処置をとらせることが審査登録の趣旨であるという立場である。確かに組織がISO9001に則って効果的に業務を行っても普通は不良品の出荷、或いは、苦情ゼロ ということにはならないし、一般には顧客もここまでは期待してはいない。ISO9001はこのような不良品が顧客で発見された場合に誠実に対応すること、及び、再発防止対策を効果的に実施することが顧客維持のために必要であることを規定している。JABの再発防止処置云々は、このような性格の不良品に関する規格の考え方を指す限りは規格の意図に沿ったものである。しかし、事故や不祥事にまで適用するというのは問題がある。登録証は、顧客がこれだけは困ると思う不良品、そのような不良品を受け取る懸念があるなら組織からは買わない、あるいは、不良品が出れば組織からの購入を取りやめるというような不良品は、組織は出荷しないという安心かを与えるものでなければならない。規格と審査登録制度の目的と国際的枠組みでは、登録証は顧客の購買判断に影響するような問題は出ることはないという安心感を保証するものである。
 
  JABの主張の、事故や不祥事は発生しても再発防止処置はきちっととるというような程度の登録証を呈示されて、顧客が初めての取引、とりわけ未知の相手との国際取引を開始する決断をするとは、まさかJABも本気では考えていまい。しかしJABは一方で、審査登録制度は“社会制度”であると主張し、審査は組織のためではなく、その顧客や社会のために行うものと言う。社会制度であるから、組織の悪行から社会や顧客の利益を擁護する制度ということであろう。また、JABは、ISO9001が「顧客が企業に求めたいことを実現する仕組みや手順について、顧客に代わって企業に要求している」と主張している。それでいて、登録証が是正処置を保証するものだと主張するのだから、顧客や社会が組織に何を求めているのか、組織がどんなことをすれば顧客に逃げられるのがわかっていないのかも知れない。更に疑えば、規格と審査登録制度の目的やその国際的枠組みというものとの関係を吟味しないまま、これらを主張しているのかも知れない。いずれにせよ、JABの見解、主張には論理的ではなく、論拠の説明もなく、こうだと言って、それをそのまま信じろということのようである。 この権威主義で審査登録制度が統制されている。
 
 
5. 結論
  ISO9001,14001規格の制定と審査登録制度の創設の目的、及び、これに関する国際的枠組みの意図からは、登録証は顧客が組織との取引の決断をする安心感を保証するものである。登録証が、事故や不祥事を発生させないという安心感を保証するものでなければ、審査登録制度は機能しない。現に事故や不祥事を起こした組織は顧客に逃げられ、経営に深い損害を被っている。事故や不祥事の発生は顧客や社会の望むところではないことが明らかなのに、JABはこれを許容する審査登録制度を顧客や社会の利益を擁護する社会制度だと主張する。事故や不祥事を発生させた時に確実に是正処置をとることを保証するだけの登録証が、顧客の購買判断に如何ほどの安心感を与えるかなど考えた上でのJAB見解ではないとも疑われる。JABが事故や不祥事を許容する見解を明確にして、この見解を基に審査登録機関の活動を統制している以上、登録取得組織が事故や不祥事を引き起こしても当然である。登録取得組織でありながら事故や不祥事を引き起こすのは、JABの誤った審査登録制度統制が根本原因である考える。
 
 
引用文献 (英語文献の引用日本文及び*印は筆者の和訳)
(1)日本工業標準調査会: 品質マネジメントシステム規格化の経緯、ウェブサイト、www.jisc.go.jp/mss/qms-cir.html
(2) ペリー・ジョンソン: ISO9000、2000年 そしてそれ以降、日本法令、H15.2.20; p.34
(3) G.Hutchins: 企業戦略としてのISO9000、松原恭司郎訳、日刊工業新聞社、1994.10.31; p.47
(4) B.A.Will: A White Paper, Paroxys,LLC, 2001; P.5
(5) 坂本樹徳: 工場幹部のためのISO9000シリーズ入門、日本能率マネジメントセンター、1993.6.1; p.42-43
(6) ISO: 魔法の旅、汎用マネジメントシステム規格、www.iso.ch/iso/en/iso9000-14000/tour/generic.html
(7) ISO: Publicizing your certification、www.iso.ch/en/iso9000-14000/understand/basic/general/basics_91.htm
(8) JAB: “MSS適合性評価制度の信頼性の維持と向上”、第6回管理システム規格専門委員会資料、2004.7.28; p.4
(9) N.Croft(ISO諮問グループ共同議長): ISO Press Release、Ref.:954, 4 April 2005
(10) A.Bryden: What does ISO9001 mean in the supply chain ?、Ref.:954、4 April 2005
(11) ISO: “ISO and Conformity Assessment”、 www.iso.ch/en/comms-markets/conformity/iso+conformity.html
H18.8.17(改:19.10.10) 
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
サニーヒルズ コンサルタント事務所