ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
55   (続々)登録取得組織も事故、不祥事を引起こす理由
   −誤った登録審査基準の適用が直接原因−
 <62-01-55>
1.審査登録機関の問題意識
  ISO9001,14001登録取得組織の品質、環境の事故や不祥事の発生に対して、審査登録機関の団体JACBは傘下の審査登録機関に「認証・審査の有効性の向上への主体的取り組み」を求める声明(1)を発表し、今年の活動方針(2)には「社会財として真に社会に必要とされる方向性を探る」ことを取り上げた。しかし、事故や不祥事の発生と登録証の関係については、不祥事を発生させた組織に是正処置をとらせることが審査登録機関の役割であるとの従来の考えを変えていない。
 
 
2. 適合性評価制度としての審査登録
(1) 登録審査
  ISO規格に係わる適合性評価とは システム、プロセス、製品などを「ある規格、規制又は仕様に対して評価すること」(3)であり、これを行うのが監査又は審査と呼ばれる活動である。監査員は監査証拠#4を評価して当該の「監査基準が満たされている程度を判定する」#1。この判定結果は監査所見#2として一般に「適合、不適合、改善の余地」のいずれかで示されるが、これらを総合して監査目的に対して適否を表明したものが監査結論#3である。登録審査の監査結論とは当該マネジメントシステム が登録証発行に値するかどうかの判断であり、その合否判定基準は、制度の国際的枠組み維持のための機関、IAF(国際認定機関フォーラム)がIAF指針の中で「不適合」の定義(4)(5)の形で規定している。これはJABが審査登録機関を認定する基準にそのまま採用しているから、JAB認定下の審査登録機関はこのIAF指針に則って合否判断をして登録証を発行していることになる。
 
(2) 登録審査の合否判定基準
  これによると、「1つ以上の要求事項を欠き、又は、実施、維持されていない*」状況は監査結論においては「不適合」と見做され登録証は発行されない。IAF指針はこれに引続き、「又は」として「組織が供給する品質」(4)ないし「組織の方針、目標を達成するEMSの能力」(5)に「深刻な疑念が惹起される状況*(4) (5)を挙げて、これも不適合であることを明確にしている。すなわち第一に、登録審査の合否は個々の業務に不適合があるかどうかでなく、 システム として機能しているかどうか、システム が毀損していないかどうかで判断されるということである。第二に、この システム不全の状況は「品質、環境に関して深刻な疑念が惹起される状況」であり、そのような事態を引起こす可能性を有するものと考えなければならないということを明確にしている。第三に「1つ以上の要求事項・・・」でなくとも、審査員は収集した監査証拠を基に「深刻な疑念が惹起される状況」と判断した場合は、登録証発行を否定する監査結論を出さなければならないということである。
 
 
3. 登録証が保証するもの
(1) 品質方針、環境方針
   品質マネジメントシステムは、事業継続に必要な顧客満足を得る製品品質とはどのようなものかを品質方針として、また、環境マネジメントシステム(EMS)は、事業継続にどのような環境影響改善が必要かを環境方針としてそれぞれ決定し、それぞれ方針の実現を図る業務体系である。方針は一般には改善の方向を明示したものとなるが、報道される事故、不祥事のような事業継続に悪影響を及ぼすような問題は起こさないことを明示的に含むか含蓄していなければならない。従って、事故や不祥事が発生した場合は、それが品質、環境方針で取り上げられていて防止が図られるようになっている問題かどうかで、対応が異なる。
   
  方針が明示的にも暗黙的にも当該問題を扱っておらず、対応の手順がマネジメントシステムの中にないとすれば、組織は管理すべき重要な品質や環境影響を見落としていたということである。すなわち、品質方針が組織の目的に対して適切でなかった#6、又は、環境方針が活動、製品及びサービスの、性質、規模及び環境影響に対して適切でなかった#7ことが、発生原因である。方針に係わる要求事項に対する不適合指摘をしなかった審査の妥当性を検分しなければならない。
 
  事故や不祥事が方針で回避せんとした問題なら、方針は適切であった訳であり、問題は方針実現の手順や資源が適切でなかったか、又は、業務が効果的に実行されていなかったかである。事故や不祥事という深刻な事態は一般に、ひとつの業務(プロセス)のひとつの実行不具合が引き起こすことにはならず、様々な不具合が絡んでいる。この状況が システム不全である。 システム不全が「深刻な疑念」を現実化させたことになる。 「深刻な疑念」に関連する監査証拠がどのように収集され、それをどのように評価したのか審査活動の適切性が検証されるべきである。
 
(2) 苦情と事故、不祥事
  如何に効果的にマネジメントを行うつもりでも、意図しない不良製品や有害なちょっとした環境事故を皆無にすることは難しい。IAF指針に則って発行される登録証はこのような不良、異常をも発生させないという保証ではない。このような不良、異常に対しては、是正処置#5を効果的に実施して同じ問題の再発を防ぎ、この繰返しで組織の業務能力の改善を図り、不良や異常を起こさない能力を強化していく。 これが規格の「マネジメントシステムの有効性の継続的改善」の趣旨である。しかし、このような不良、異常でも多数、又は、繰返し発生する場合は、個別の業務、つまり プロセス の問題というより、業務全体、即ち、システム として問題があると考えるのが規格の要求事項の趣旨であり、規格の論理である。この場合は個別問題への是正処置では事態の解決にはならず、組織はシステム不全の問題として対処しなければならない。このような問題や事態はしばしば報道の対象となり、いわゆる事故、不祥事となる。IAF指針の登録審査基準では、システム不全を疑わせるこのような状況の組織にも登録証は発行されない。
 
 
4. 海外での問題取り組み
  欧米でも登録組織の不良製品、環境事故などで登録証の信頼低下が問題視されてきたが、その背景には登録証の安易な発行があるというのが大方の問題意識である。最近のIAF技術委員会の議論(10)では安易な登録証発行の背景には審査登録業界の競争激化による審査料の低下があるとし、とりわけ、IAF枠組み外のいわゆる非認定審査登録機関による安価審査、及び、未熟な審査員、低料金の契約審査員によるいい加減な判断がやり玉にあげられている。
 
  しかし、議論の中では、個々の不良製品への対応を含めて “組織全体の業務遂行”に顧客が不満を覚える状況は不適合と判断すべきというISO(8)の見解、また、「システム 崩壊を示す証拠があれば登録証を発行しない」という米国の審査登録機関の団体IAAR(11) のような見解が明らかにされており、これらの考えが議論の基礎になっている。更に、欧州認定機関協力機構(9)は、法順守に関するISO14001登録証の効用に関して、「法順守の絶対的保証は無理としても環境マネジメントシステムが効果的に機能していることを確認して登録証を発行することで利害関係者の期待に応えることができる」という結論の報告を発表している。事故や不祥事が発生した場合での審査登録機関の対応に関しても、「組織の品質マネジメントシステムが問題発生防止に有効なものとして留まっていることが、登録継続の条件である」というIAARの見解(11)のように一貫している。また、いい加減な審査結論に関する議論においても、例えばISO9001の登録証は当該の「組織が良い品質の製品、サービスを提供する」ことの証明でなければならない(10)というような考え方が基本となっている。
 
  欧米では、システム審査の論理、登録証の効用に関する論理、登録証と事故や不祥事の発生との関係の論理が確立し、システム不全が疑われる状況では登録証発行してはならないという共通理解が形成されており、
登録証をIAF指針の登録審査基準に則って発行するという考えは明確である。それでも事故や不祥事が発生しているので、IAF指針の登録審査基準に実質的に則らない安易な審査結論と登録証の発行が問題視されているのである。
 
 
4. 結論
  IAF指針の登録審査基準では一般論として、システム審査によって事故や不祥事発生の可能性を示す監査証拠があれば登録証は発行できない。しかし日本では、不祥事を発生させた組織に再発防止処置をとらせることに意味があるJAB見解(12)の下に、登録証は「不祥事発生の場合でも根本原因究明から再発防止が確実に行われるということの保証」(13)に過ぎないとの考え方で登録証が発行されている。事故や不祥事の発生防止は審査の目的にはない。しかし審査登録機関はこの考え方が、IAF指針の登録審査基準とどのように整合するかについて説明していない。 IAF指針と関係なくJAB見解を実質的な登録審査基準として登録証が発行されているとすれば、日本の審査登録制度では誤った登録審査基準が適用されていると言わざるを得ない。これが登録取得組織も事故や不祥事を引起こす直接的原因である。なお、不祥事発生防止への責任を否定しながらも、審査登録機関が適切な審査をしていたかどうかの検証は必要という意見が、ある審査登録業界の関係者(14)から出始めたことは注目に値する。
 
 
引用規格条項
#1 ISO19011 3.1, ISO9000 3.9.1
#2 ISO19011 3.4, ISO9000 3.9.5
#3 ISO19011 3.5, ISO9000 3.9.6
#4 ISO19011 3.3, ISO9000 3.9.4
#5 ISO9001 8.5.2, ISO14001 4.5.3
#6 ISO9001 5.3 a),
#7 ISO14001 4.2 a)
#8 ISO9001 4.1, ISO14001 4.1
 
引用文献 (英語文献の引用日本文及び*印は筆者の和訳)
(1) JACB: ISO認証取得企業に関する不祥事報道について、2007.1.17、http://www.jacb.jp/topix.html
(2) JACB: ウェブサイト、トピックス、第15回総会(2007.4.27)、http://www.jacb.jp/topix.html
(3)ISO: ISO and Conformity assessment、 www.iso.ch/ iso/en/comms-market/conformity/iso+conformity.html
(4) IAF GD2:2003,IAF Guidance on the Application of ISO/IEC Guide 62; G.1.3.1
(5) IAF GD6:2003,IAF Guidance on the Application of ISO/IEC Guide 66; G.3.1.1
(8) ISO: ISO 9001?What does it mean in the supply chain? /iso/en/iso9000-14000/explore/9001supchain.html#3
(9) EA: ISO14001認証の一部としての法遵守、EA-7/04、March 2007
(10) L.Smith: Quality Digest, May 2007, The Hidden Costs of Cheap Certification
(11) IAAR: FAQ、www.iaar.org/faq.cfm
(12) JAB: MSS適合性評価制度の信頼性の維持と向上、第6回管理システム規格専門委員会資料、2004.7.28; p.4
(13) 岡 光宣: アイソス、No.115、June 2007、p.8-10
(14) 内田勝也: NIKKEI-NET,IT+PLUS, セキュリティ:最新ニュース 2007.6.26
H19.9.12(改: H19.10.10) 
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