ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
56   (完) 登録取得組織も事故、不祥事を引起こす理由
      −組織の業務能力醸成が最後の難関−
 <62-01-56>
1. 登録取得組織の事故、不祥事発生の理由
  日本でISO9001,14001登録取得組織の事故や不祥事が相次いで報道を賑わす理由についてこれまで3つの視点から検討した。規格は組織が事故や不祥事を引き起こすのを防止することを意図して作成されており、この狙いに関して規格の論理や規定に欠陥はない。問題は日本ではこの狙いを無視した規格解釈が行われていることであり、この故に審査登録の国際的枠組みとは実質的に異なる基準で登録証が発行されていることであり、顧客や社会への安心感の保証という審査登録制度の役割が顧みられないまま誤った規格解釈や登録基準を強制する制度統制が行われていることである。それなら、このようなことがすべて改められれば、登録組織が事故、不祥事を引起こすことはなくなるのであろうか。事はそんなに簡単ではない。
 
 
2. 業務の効果的実行
(1) 知識情報媒体としての規格
  ISO9001は不良品を出さず顧客満足の製品を提供すること、ISO14001は地球環境保全への責任を果たすこと、によってそれぞれ顧客を初め利害関係者のニーズと期待を満たし、以て事業繁栄を図るための経営管理の在り方を規定している。これに則って組織が業務を行えば、製品品質又は環境保全に関して利害関係者のニーズと期待を満すことが出来、逆に、利害関係者の想いを裏切る事故や不祥事は起こさないようにできる。
 
  しかし、規格が示すのは業務の在り方であり、そのrequirement(必要条件)である。“〜でなければならない”“〜しなければならない”とは教えてくれるが、具体的にどうすればそうなるのか、どうすればよいのかについては何も言ってくれてない。規格は、このことを「規格の要求事項に従って マネジメントシステムを実施すること」#1と一言で済ましており、そして、「実施する」は「効果的に」#2又は「適切に」#3でなければならないと、これまた、必要条件を規定しているだけである。規格で「効果的」とは、「計画した活動が実行され、計画した結果が達成される」#4ことであるから、効果的に実行されたかどうかは狙いの結果が達成されたかどうかである。 要するに規格は、どうすればよいかを言わないで、規格が必要だという業務を行い、必要だという結果を出せとしか言ってないのである。
 
  規格は、品質保証を含む顧客満足又は地球環境保全に関連する経営管理の在り方に関する世界の共通認識を記述した情報媒体である。この最新の経営管理情報は世界の誰もが規格書を購入するだけで利用できる。事業発展を図らんとする組織は規格に学び、規格を業務で実践すればよい。しかし、規格を学び、知識を習得することと、規格が意図するように効果的に業務を行うこととは別の問題である。勉強して世界の成功企業の発展の秘訣を知っても、その通りに業務を実行でき、その通りの結果を出せるとは限らず、個々の業務に所定の結果が出なければ、全体としての、つまり、品質又は環境マネジメントシステムとしての顧客満足、環境保全の狙いは達成されない。規格が業務を行うのではない。規格を実践せんとする組織には、そのための業務能力が必要である。これが知識情報媒体たるISO9001,14001規格の特質である。
 
(2) 業務の効果的実行
  規格に従って必要な業務を行っても、必ずしも規格が言うような結果が出ないことがある。例えば、重要な業務を間違いなく行うため、規格の教えに従って手順書を作成し#5、利用できるようにし#6、業務遂行力のある要員に業務を担当させている#7が、作業ミスによる不良や異常が発生し、作業ミス起因の苦情まである。従業員に「認識」#7「自覚」#8をもたせることの重要性がわかり、教育訓練#7,#8やコミュニケーション#9の強化や作業環境#10の整備に手をつけているが、定着の悪さや要員の頻繁な入れ替わりという不安定な職場事情は変わらず、手順の不徹底や未熟による不良や異常が減らない。規格の教える手順に従った帳票で是正処置#11を行っているが、苦情や不良、異常は減らず、同じような原因の問題が繰返し起きている。環境規制に係わる官庁届出を確実にするために届出台帳を作成し#12、定期的な順守評価#13をし、内部監査#14を行っているが、特定の設備の改造に必要な届出を怠ってしまった。
 
  規格の言う通りに業務を行っても規格の意図の結果が出ていないこれら事例の状況を規格では「業務が効果的に行われていない」と言う。組織は、規格で“〜でなければならない”と言われてもどうすればよいかわからない、わかってもそのようにできない、やっているつもりだけれどいう状況である。或いは、やるための資金、人、設備が不足している状況にあるとも表現できる。つまり、組織には業務を効果的に行う能力が不足しているということである。
 
(3) 業務能力の確立
  規格が必要とする業務を効果的に実行するには、それぞれの業務にそれぞれの考え方、手法や手段の確立が必要である。世の中では、事業活動に係わる様々な考え方、理論、手法、手段、運動、活動が開発され、試され、報告が公表され、講習、研修の場が設けられている。組織には、これらを採入れ、また、自身の経験を積上げて、各業務を効果的に実行する能力を育み向上させる努力が必要である。規格のマネジメントシステムの有効性の継続的改善とはこのことを含む組織の業務能力に関する。
 
  規格は、組織にこのような業務能力があることを、業務に必要な「資源がある」と表現する。組織は品質又は環境マネジメント システムの効果的な実行に必要な資源を用意しておかなければならない#17,#8。 業務能力に関係する資源として最も大切なものは専門性や技術力を含む管理者を初めとする人々の能力であるが、これに関して規格は「要員には力量がなければならない」#7,#8と、これまた必要条件を規定している。この「力量」とは業務遂行力のことであるが、当該業務を効果的に実行できる能力を意味する。規格は、装置や設備などの装備力、必要なものを投入できる資金力も必要になることを明確にしている#15,#8。さらに、業務を単に手順通りに行うだけでなく真に効果的に行うためには、ものごとをやり通す意志と責任感につながる「認識」#7「自覚」#8を要員がもっていることも必要であり、トップマネジメント 初め管理者には組織の発展を目指してその業務を効果的に行い、職責を全うすることに職を賭す覚悟、つまり、コミットメント#16まで必要だと言っている。組織が規格に則って業務を効果的に行うことができるには、これほどの資源に関する要件を満たさなければならない。
 
  業務を効果的に実行し上記の事例のような状況をなくすることは、そのための業務能力を身につける努力という観点でも、必要な資源という観点でも、容易なことではない。特に人的資源に限界がある中小規模企業では容易でない。しかし、規格の規定の業務が簡単に実行できるなら、すべての組織が繁栄するということになる。規格の意図に沿って業務を効果的に実行して組織の事業業績を向上させ、組織を発展させることには相応の高い業務能力はじめ資源が必要であるということは当たり前のことである。
 
 
3. 事故、不祥事の防止
(1) 事故、不祥事防止の障害となる業務能力不足
  規格に従って正しく業務体系を確立しても、諸業務を効果的に実行しなければ、規格の狙いは達成できず、事故や不祥事を防ぐことはできない。今日の事故や不祥事は、事故や不祥事防止は起きるものとする規格解釈と審査登録制度運用に原因があるが、その背景には業務が効果的に行われていないという実態がある。規格は効果的に業務を行うための方法論は何も規定しておらず、必要な業務能力は組織が独自に育み、確立し、また、必要な資源を投入しなければならない。これは簡単なことではなく、特に中小規模の組織には重荷であることは間違いない。誤った規格解釈と登録制度運用が正しく改められても、必要な業務能力の確立が容易でないということが、事故や不祥事の防止の実務的障害として残る。
 
  相次ぐ登録取得組織の事故や不祥事よる規格と審査登録制度への信頼低下は、欧米でも関係者の深刻な問題である。これに関する議論では、昔は コンサルタントと審査の癒着、今日では(2)IAF枠組みに属さない適合性認定機関傘下の審査登録機関の安価、安易な登録証の発行や安価に雇われた審査員による未熟な審査がやり玉に上がっている。日本との違いはこれら議論が、適切な審査で登録証が発行されておれば登録取得組織が事故や不祥事を発生させることはないとの考えが前提となっていることであり、組織の業務能力を適切に評価し、或いは、業務が効果的に実行されているかどうか適切に判断できていない登録審査があることが問題点となっていることである。この欧米の現状は登録取得組織が事故や不祥事を発生させないことを確実にするためには、業務能力が鍵であること、及び、業務能力向上が日本の現状を改めるのに最後の難関となるだろうことを窺わせる。
 
(2) 事故、不祥事防止に焦点をあてた マネジメント
  組織が規格に則って事故や不祥事を発生させない業務能力を確立することは容易でない。しかし、事故や不祥事を起こした組織は顧客を失い、損害賠償で金銭的損失を被り、経営を危うくし、破綻にさえ至っている。顧客や利害関係者の支持を得るための独自の意図でISO9001,14001を実践する組織も少なくないが、大半の組織は顧客の明示又は暗黙の要請に応えて登録証を取得している。いずれの場合も顧客や利害関係者の組織への期待は、自身の品質又は環境に関する ニーズを組織に確実に満たしてほしいということであろうから、その期待の中心には自身が深刻な損失を被る事故や不祥事を発生させないことがあるはずである。
 
  組織は規格に則って業務を行い、登録証を取得、維持するのには相当な資源を投入している。多くの登録取得の規模の組織では、これが規格の意図の最高水準の品質保証又は環境保全業績の達成には不十分であろうことは推察できる。しかし、持てる資源を重要問題に優先投入することは経営の基本である。組織は登録証維持に投入している資源を事故や不祥事防止に集中投入する、すなわち、事故や不祥事の発生の阻止に焦点を当てて品質又は環境マネジメントシステムの諸業務を行うべきはないだろうか。但し、今日のJAB統制下の審査登録の論理との相当の軋轢を覚悟することが必要ではある。
 
 
4. 結論
  日本で登録取得組織が事故や不祥事を引き起こすのは、規格解釈の誤りと審査登録制度の誤った運用の実態が原因である。しかし、これらが正しく改められたとしても直ちには事故や不祥事がなくなると期待することはできない。規格は効果的な経営管理の在り方を教えてくれるが、そのためにどうすればよいかは組織が考え、実行しなければならない。規格に則って業務を効果的に行えば事故や不祥事を防止できるが、効果的に業務を行うことができるかどうかは、組織の業務能力の如何による。組織が登録証を取得すれば事故や不祥事の発生で組織の存立が脅かされるようなことにはならないと考えることは、登録証はそんな意味で発行しているのではないとする審査登録業界の見解が適切でないのと同じ程度に不適切である。
 
 
5. 総合結論
  ISO9001,14001の目的には、組織が事故や不祥事を発生させて経営破綻に追い込まれることを防ぐことが含まれ、規格にはその発生防止を図る要件が適切に規定されている。また、このような組織の能力と実態を保証することも審査登録制度の目的であり、IAFの定める登録審査基準では事故や不祥事の発生が懸念される組織の業務状況に対しては登録証は発行できない。しかし、規格は、事故や不祥事の発生防止を含む最新の効果的な経営管理の在り方の世界標準を示す情報媒体であり、規格を学ぶことと規格の教えを実行することとは別問題である。組織が規格の示す要求事項を効果的に実行する業務能力を育み、確保することは容易ではない。事故や不祥事を発生させないための最後の難関は、組織の業務能力である。
  −誤った規格解釈、規格取組みが背景
  −誤った登録制度統制が根本原因
  −誤った登録審査基準の適用が直接原因
  −組織の業務能力醸成が最後の難関
 
 
引用規格条項
#1 ISO9001; 4.1, ISO14001; 4.1
#2 ISO9001; 8.2.2
#3 ISO14001; 8.2.21
#4 ISO9000; 3.2.14
#5 ISO9001; 7.1 b), ISO14001; 4.4.6 a)
#6 ISO9001; 4.2.3 c), 7.5.1 b), ISO14001; 4.4.5 d)
#7 ISO9001; 6.2.1, 6.2.2 d)
#8 ISO14001; 4.4.2
#9 ISO9001; 5.5.3, ISO14001 4.4.3 a)
#10 ISO9001; 6.4
#11 ISO9001; 8.5.2, ISO14001 4.5.3
#12 ISO14001; 4.3.2 b)
#13 ISO14001; 4.5.2
#14 ISO14001; 4.5.5
#15 ISO9001; 6.3, ISO14001; 4.4.1
#16 ISO9001; 5.1, ISO14001; 4.2 b)
#17 ISO9001; 6.1,
 
引用文献 (英語文献の引用日本文及び*印は筆者の和訳)
(2) L.Smith: The Hidden Costs of Cheap Certification, Quality Digest, May 2007
H19.10.8 
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