ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
<sunnyhills@mc.ccnw.ne.jp>
57   “要求”か“必要”で大違いの規格取組みと成果
           −五度、“要求事項”の問題点を論じる
 <62-01-57>
1. “要求”か“必要”か
   ISO9001/14001のJIS和訳で「・・すること」と表記される規定(原英語ではprovision)であり、日本では“規格の要求”である。JAB(日本適合性認定協会)は、ISO9001を「顧客が企業などに求めたいと思うことを実現するための仕組みや手順について、顧客に代わって企業などに要求している」ものであると説明している(1)。また、例えばISO14001国内対策委員会の規格改訂説明(2)では、「96年版の4.3.1項、環境側面では“・・・”と要求している。・・・。改訂版DISでは“・・・”と要求することにした。」という具合である。これはJISが規格の標題や規定にあるrequirement を「要求事項」と和訳したことに係わっていると思われるから、“規格の要求”という解釈は少なくとも英語圏ではあり得ないことである。なぜなら、requirementという英語は、必要条件とか必要事項の意味(5)であるからである。ISO9000ではその条文に用いられる「要求事項(requirement)」を、need or expectationsと定義#1しているが、これをJISは「ニーズ又は期待」と和訳しているから、やはり「必要事項」であり、より正しくは、「必要とされるもの又は期待されるもの」の意味である。 すなわち、規格の規定 は、“要求”ではなく“必要”なのである。
 
 
2.“要求”と“必要”で異なる規格取組み.
(1) “要求”と“必要”で変わるもの
   ここで、“必要”だから“要求”していると考えれば“必要”でも“要求”でも規格の条文解釈上で大きな違いは出ないと言われればそうかもしれない。どうせ規格が「・・すること」ということをやらなければならないのなら、“必要”だからでも“要求”だからでも変わりはないのかもしれない。しかし現実には、“規格の要求”であるが故に、組織は「・・すること」という文面をそのまま実現することを考え、文章で表現されていないことは何もしない。登録審査でも規格に書いてあることだけしか聞かれないし、「・・すること」を表面的に或いは形式的にでも満たしておれば登録証が発行される。一方、規格はその狙いの達成のための“必要”を規定しているとするならば、規格の文面をなぞらえて形を整えるのではなく、「・・すること」の意図や趣旨を汲み取って、そのように業務を行わなければならない。組織が“必要”を満たさない限り、規格の狙いである、顧客満足の向上或いは地球環境への貢献を達成できないからであり。規格の文面に直接的表現で記されているかいないかによらず、“必要”なことはやらなければならないのである。
 
  このように、“要求”と“必要”とでは現実には、規格の理解に重大な相違を生じ、規格取り組みと成果を決定的に異なったものする可能性がある。これを、同一事項にもかかわらずISO9001とISO14001とで規定の表現が大きく異なる4つ条項を取り上げて検討したい。
 
(2) 計測機器の管理
   ISO9001(7.6項)では計測機器の管理の手順をa)〜e)の5項目に箇条書きで示す他、規定はJIS規格書で17行にもわたる。一方ISO14001(4.5.1)では「校正又は検証された監視及び測定機器が使用され、維持されていることを確実にし、これに伴う記録を保持すること」と一言で済まされている。規定を“要求”と取扱う登録審査では、ISO9001では規定に則り、校正の基準となった計量標準が追跡できるか、校正有効期限の標識があるか、保管状態はどうか、あるいは、校正不合格の場合の過去の測定結果の評価が行われ適切な処置がとられたかなど詳細が確認されるが、ISO14001では大抵は校正管理台帳の記録があれば良しとされる。ISO9001の規定は、測定値が正当であり、必要に応じた精度で得られていることを確実にするためにはこのように計測機器を管理することが必要であるということを示している。ISO14001でも正当で適切な精度の測定値でなければならない訳であるから、管理台帳に校正の記録があっても計測機器が現場の机上に治工具と一緒に乱雑に置かれているなら問題であり、また例えば、とりわけ法に報告義務が定められた測定値に係わる計測機器が校正で異常と判定された場合に当該計測機器を取替えるだけで済ますことはできない。不良計測機器による測定値が誤りであり、法規制を逸脱していたなら、虚偽の報告であり、その適切な訂正をしなければならない。ISO14001ではそのような記述はなく、そこまでは“要求”されていないが、それも“必要”なのである。
 
(3) 外注の管理
   組織の目の届かない供給者に業務を外注しても、供給者の業務実行や組織が受取る製品は必ず組織の必要を満たしていなければならず、或いは、組織の必要や許容範囲を逸脱しては困る。これを確実にする外注管理の手順をISO9001(7.4項)では、3つの亜条項に分けてJIS規格書で18行にわたって規定されているが、ISO14001(4.9項)では「著しい環境側面に関する手順を確立、実施、維持し、供給者に適用される手順及び要求事項を伝達すること」の一言である。供給者の活動や製品によって組織の製品や活動が悪影響を受けることを避けるためには、供給者にその要求を伝達するだけでは不十分であることは事業界の常識である。ISO9001は、組織が自身で行うのと同じ業務実行と結果を供給者に期待するためには、要求の明確化と文書による伝達、受入れ検証の他、供給者の業務能力の管理などが必要であることを詳細に示している。ISO9001の登録審査では規定に則ってこれらの実施状況が詳細に確認されるが、「伝達」が“要求”であるISO14001の登録審査では供給者への要求の一覧表の確認程度で済まされる。しかし、例えば深刻な公害の原因となる工程を外注した場合、供給者の不始末による法規制違反や現実に発生させた環境影響に対して社会は組織の責任を免除しない可能性があり、実際問題として“伝達しました”では済まない。ISO14001ではそこまでは“要求”されていないが、組織はISO9001の規定を参考にして「伝達」したことが確実に順守されるように供給者を管理することが“必要”である。
 
(4) 法令順守
   ISO14001は地球環境責任の果たし方の国際標準であるが、公害規制を定めた環境法令の他、地球環境保全のための諸法令の順守を基本としている。これを反映して条項「法的及びその他の要求事項」を設けて(4.3.2項)、組織の製品・サービスと業務に適用される法令を特定し、必要な時に参照できるようにし、それらをどのように適用するかを決定する手順を確立し実行するよう規定し、更に、これらの法令の順守を確実にする手段として監視測定とは別の「順守評価」(4.5.2項)を規定し、更に、これをマネジメントレビュー(4.6項)に供するよう規定している。一方、ISO9001では法令順守に関する特定の条項はなく、「製品要求事項の明確化」(7.2.1項)の中に「製品に関連する法令・規制要求事項を明確にすること」と記述されているだけである。ISO14001の登録審査では、関係する法令及びその他の規制の法令、条項及び条文を記述した一覧表を提示させ、必要な規制が網羅され、また、法改正が間違いなく反映されているか、更に、どのように適用され、実際に順守されているかが確認されるが、ISO9001の登録審査では品質マニュアルに現在適用されている法令が記述されていればそれ以上は聞かれない。ISO9001の“要求”は「明確にする」ことであり、ISO14001の要求事項までは“要求”されていないということである。“要求”されていようがいまいが、必要な法令を守らなければ事故や法令違反を起こし、顧客離れだけでなく行政罰や刑事罰が課せられることになる。ISO9001取組み組織がこれを避けたいなら、ISO14001の規定を参考にして組織の隅々まで法令順守を徹底させ、実際に順守できるよう管理し、トップマネジメント自らこれを確認するような業務実行が“必要”である。
 
 
3. 結論
  規格の規定 requirement を“要求”と受けとめるか“必要”と受けとめるかで、規格の解釈が本質的に異なり、規格取組みとその成果に決定的な相違をもたらす。“要求”と受けとめ、規格の文面を追うだけの規格解釈で、書かかれてあることだけ行うという規格取組みでも、登録証を得ることはできる。但しこの登録証は、利害関係者の利益や意向に反する品質や環境不祥事を発生させることがないという安心感さえ保証しない(3)空虚なものである。 “必要”と受けとめ、規格の規定の意図や趣旨を斟酌する規格解釈で、書かかれてなかろうが必要なことを行うという規格取組みでは、規格の狙いである顧客満足の向上ないし地球環境保全責任の全うを実現し、顧客をはじめ利害関係者のニーズと期待を満たすことでその支持を確実なものとして、事業を発展させることができる。
 
  規格の意図が“必要”であることに間違いはない。これを“要求”と捉えるのが、英語の知識の簡単な誤りであるならたいしたことはないのであるが、ISO9001やISO14001の性格や制定の目的に関する無理解に起因しているとすれば深刻である。日本人は今後もそのような無理解を基礎として国際規格づくりに参画し、そのような無理解を基礎とする誤った規格解釈で規格取組みを続けることになる。最近日本で始まった情報セキュリティに関するマネジメントシステム規格 ISO/IEC27001やISO規格ではないが労働安全衛生マネジメントシステム規格OHSAS18001の審査登録も、英文和訳から規格解釈から審査から登録証の発行まで同様の轍を踏んだものとなっている。これらは取組みの結果がISO9001,14001の顧客満足や地球環境責任に比較して遥かに明瞭に現れる性格のものであり、これら規格への“要求”型取組みは、それに必然の破綻の多発によってそれら規格に関してに限らず、マネジメントシステム規格や審査登録制度全体への信頼低下を加速する。
 
  ISO9001規格執筆者のひとり、N.Croft氏は欧米でも拡がる登録組織の不祥事による規格や審査登録制度への不信に関連して、「ISO9001はTC176によって情愛をこめて作成された」間違いない世界最新の論理であるのに、審査登録制度の不始末のために規格そのものの信頼が疑われる状況にあると嘆いている(4)。 ISOマネジメントシステム規格はいずれも、組織がそれぞれの観点で不祥事を出さず、顧客や利害関係者のニーズと期待に応えるための当該分野の世界最新の論理を示すものである。日本ではISOマネジメントシステム規格についての社会の不信に加えて、少なからずの組織がその効用に疑問を抱いている。しかし、これは規格の性格と目的への無理解から規格解釈を誤り、誤った規格取組みをしているからであって、規格の論理が誤っているからではない。優れたものづくりのマネジメントで世界に飛躍した日本産業界が築いた実践の論理と手法を世界が活用して競争力をつけようとするのに、自身は紙切れに過ぎない空虚な登録証の取得ゲームに興じている。
 
 
引用規格条項(旧版のみ版名(発行年)を表示)
#1 ISO9000 3.1.2
 
引用文献 (英文献及び 文中の* 印は著者による翻訳)
(1) JAB: ISO9001って何?、www.jab.or.jp/library/whatsISO9001.pdf
(2) 寺田博: ISO14001、2004年版への移行ポイント、アイソムズ,2003.12, p.32-36; p.34
(3) JAB: “MSS適合性評価制度の信頼性の維持と向上”、第6回管理システム規格専門委員会資料、2004.7.28; p.4
(4) N.Croft: Perceptions of “Good” and “Bad”,IAF Industry Day Presentation, March 2007, s.3
(5) Oxford Advanced Learner’s Dictionary, Oxford University Press
H19.11.9 
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
サニーヒルズ コンサルタント事務所