ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
75 2008年版で明らかになったJIS版独自註釈の間違いのとんだ後始末
− 用語「リリース」
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 <62-01-75>
  ISO9001/14001認証業界は権威主義の砦である。この頂点に君臨するのは各規格の作成作業に日本を代表して参加する国内委員会であり、その権威は絶大である。この権威の下にJABが認証機関を管理し、首根っこを押さえられながらも要員認証機関と認証機関の権威のお裾分けをいただいた審査員が受審組織に対する。この権威の下達の枠組みの中で上位の権威者ほど思考と見解形成の自由を享受できる。権威者から出た限りは、客観的に筋の通らないような論理や説明でも下位の関係者に無批判に受け入れられ、権威者は疑問を呈されることも批判されることもない。権威者は決して過ちを犯さない。規格の解釈や英文和訳の明らかな誤りを訂正する場合も、密やかに、又は、もっともらしい理屈をつける。例えその理屈が論理に適わず、或いは、客観的に目茶苦茶であっても臆する気配はない。誤ったのではないから、組織や関係者が被った迷惑や損失も存在しない。権威者の辞書には謝罪や釈明の文字はなく、「是正処置」は権威者が行なうことではなく、下位者に課すものである。
 
  この典型的な事例が、2008年版改訂と同時にひっそりと行なわれた和訳条文の変更の中に数多く見られる。このひとつが、3つの条項で「リリース」の説明のため条文中に付されていた4件のJIS独自の註釈の一斉削除である。例えば、8.2.4項では、『製品のリリース』に付されていた()内のJIS註釈が削除された。このJIS独自註釈の削除によって、次工程への製品引渡しに責任者の承認手続きが必要で、その証拠の記録を残すという2000年版の解釈が覆され、2008年版ではこれが不要となった。事実上、規格解釈が変更されたのである。
記録には、製品のリリース(次工程への引渡し又は出荷)を正式に許可した人を明記すること(2000年版)
顧客への引渡しのための製品のリリースを正式に許可した人を記録しておかなければならない(2008年版)
 
  この註釈の削除に関して雑誌アイソムズの最新号(2009.8月号)は、「読者からの質問に答える」との標題の記事の中に国内委員会メンバーらの説明を載せている。この説明は、原文が“release of product”(製品のリリース)から“release of product for delivery to the customer”(顧客への引渡しのための製品のリリース)と変更されたため、『リリース』の対象が『顧客への引渡しのためのリリース』であることが「明確化した」ために「2000年版原文の2008年版ではJIS独自註釈は削除されています」となっている。誤解され易い表現を修正することが2008年版改定の趣旨である。説明は2000年版条文の表現では明確でなかったのでJIS独自註釈のような解釈をしたが、2008年版条文で誤解であったこと「明確化した」ために、JIS独自註釈を撤回したと言っているようにみえる。
 
  実際、2008年版には2000年版と比べて要求事項の何の追加も変更もないと同じ国内委員会も説明しているから、原文記述が変わっても、変更前後の両者の意味するところは同じである。と言うことは、2000年版の『製品のリリース』も2008年版と同じく『顧客への引渡しのためのリリース』つまり「出荷」であったのである。2000年版条文の原文が“release of product”とあいまいであったが、実は「出荷」の意味であったことが「明確化」した。JISが“release of product”を「次工程への引渡し又は出荷」を意味するものと誤解して独自註釈を付けていたのである。2008年版改訂は条文解釈に誤解の余地をなくすための記述変更の目的であり、世界で誤った条文解釈があるから作成されたと言われるが、正にこれがそのような誤解のひとつである。誤解していた、これが2008年版改定の効果であると言うべきであろう。
 
  しかし、同誌の記事の説明は更に、「製品のリリースの意味に中間のプロセスでの引渡しがあることを否定するものではありません」が、2008年版では「必要最低限の要求をしようとした結果」の記述変更であり、「リリース」の対象は2008年版では「出荷に限定されたという解釈が一般的です」と続く。奥歯にものが挟まったような表現であるが、2000年版のJIS独自註釈は正しかったが、2008年版で「出荷」に限定されたと言いたいのであろう。それなら、2008年版で要求事項が変更されたという主張になるから、この説明は要求事項不変という改訂の基本や自身の改定趣旨説明いに悖り、凡そまともではない。
 
  2000年版に付されていたJIS独自註釈は、次の4件である。Cを除く他の3箇所の「リリース」については、何の理由の説明のないままJIS独自註釈が削除されている。
 
 @ リリース(次工程への引渡し) → 製品のリリース (7.5.1 f)項
 A 購買製品のリリース(出荷許可)→ 製品のリリース(7.4.3項)
 B 製品のリリース(出荷)→ 顧客への製品のリリース(8.2.4項)
 C 製品のリリース(次工程への引渡し又は出荷)→ 顧客への引渡しのための製品のリリース(8.2.4)
 
  @Bの註釈により実質的な問題を生じることはなかったが、註釈によって条文が意味不明なものとなり、結果的に意味の理解し難い条文記述の意図を軽んじるという安易な規格解釈態度を助長させる副作用をもたらした。Aは実際の適用は稀ではあったが、認証審査では本当は不要な出荷許可の手続きが機械的に要求された。Cによっては、多くの組織で、次工程への製品引渡しという単なる組織内部の行為に対して責任者の承認手続きを必要とし、その証拠の記録を残すというやっかいな事を認証審査で強制された。組織は2000年版でなんと無駄なことをやらされてきたかのかということである。
 
  @Bの註釈により実質的な問題を生じることはなかったが、註釈によって条文が意味不明なものとなり、結果的に意味の理解し難い条文記述の意図を軽んじるという安易な規格解釈態度を助長させる副作用をもたらした。Aは実際の適用は稀ではあったが、認証審査では本当は不要な出荷許可の手続きが機械的に要求された。Cによっては、多くの組織で、次工程への製品引渡しという単なる組織内部の行為に対して責任者の承認手続きを必要とし、その証拠の記録を残すというやっかいな事を認証審査で強制された。組織は2000年版でなんと無駄なことをやらされてきたかのかということである。
 
  いずれも相当の専門知識と見識の持ち主であるが故に権威者と目される人々であるから、2008年版によってJIS独自註釈の削除に至った上記のような説明は本音ではあるまい。しかし、権威者には非はないのであり、2000年版のJIS独自註釈にも誤りなどあったはずはない。どんな説明をしても、或いは、説明しないで変更しても、おかしいというようなことを言い出す関係者などいない。組織に無意味で不必要な業務をやらせたとの想いは全くないようである。雑誌社が権威者のこんなまやかしの説明を拝聴し掲載するのは、雑誌が売れるからであろう。批判や責任追求と無縁な環境に居ては物事を安易に考える習慣がつくのも自然の成り行きである。権威者が身につけたこの安易さが、「リリース」に関する2000年版JIS独自註釈のような幼稚な誤りの原因であろうし、2008年版についてもおかしな解釈が得々と披瀝されることの背景ではなかろうか。
 
  思えば麻生首相は気の毒である。ISO認証業界の権威者のように、麻生首相が権威に絶対服従の閣僚や党役員に取り囲まれ、やさしくて従順な支持者と、何を失敗し、何を失言しどんなに政策がぶれても批判しない選挙民を相手にし、そして、無批判に片棒をかついでくれる マスコミ が付いておれば、追い込まれ解散で必敗の総選挙に臨まなくてよかっただろうに。
H21.7.21;( 改11.27,修11.29:H23.2.15) 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所