ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
76      発展の芽を自ら摘み取る認証業界  <62-01-76>
 
  ISO9001/14001認証業界の焦眉の課題は登録証への社会からの信頼性の回復である。これに関して9月、JAB(日本適合性認定協会)は2つの文書をそのウェブサイトに発表した。ひとつは、昨年、経産省が出した信頼性回復のための指針(1)をどのように具体化するかを業界のMS信頼性ガイドライン対応委員会が検討した結果の報告書であり、他のひとつはISO9001/14001の認証の意義に関するIAFとISOの共同声明をJABが和訳したものである。
 
  「MS信頼性ガイドライン対応委員会」報告書(2)であるが、まず認証に係わる規律の確保として、審査での故意の虚偽説明や認証対象外の業務での法令違反、また、不適切な認証範囲申立ての3つの問題を採り上げ、これら組織への制裁処置に触れている。 次に、審査員の質の向上対策と「有効性審査」のあり方のまとめ、更に認証機関の認定審査結果の情報公開、認証制度の広報のウェブサイト作成が続く。
 
  もうひとつのIAF/ISO共同声明は、IAFでの認証制度の信頼性回復の取組みのひとつとして特別の作業班がまとめたものである。内容は、ISO9001/14001規格と認証制度の意義の再確認であり、趣旨はこれまでの関係機関の理解と説明(3)(4)(5)に合致している。すなわち、社会は、ISO9001登録取得組織が顧客満足の製品を一貫して供給し、ISO14001登録取得組織が環境方針に明らかにした環境影響改善を貫徹するという点でその組織と製品を信頼することができる。しかし、これは品質苦情が皆無であり、環境事故が皆無であり、或いは、法規制違反が皆無であるということを意味しているのではない。このようなことは実際問題として一般に顧客も社会も組織に期待していないから、規格や認証制度の実用性という意味でも妥当な理解である。
 
  ところで、近年の登録証への社会からの信頼性の低下は、登録取得組織が相次いで引き起こす品質又は環境の事故や不祥事が原因である。登録証有無が組織を選び、製品を購買するかどうかの判断基準になると思ってきた社会は、このような事実を前にして登録証や認証制度に裏切られた想いでいる。IAF/ISO共同声明の趣旨では、組織は事業存続のために満たさなければならない品質、環境に関する顧客や社会のニーズや期待を正しく把握し、これを裏切ることのないような経営を行なうことが必要であり、規格適合の登録証は組織がこの顧客や社会のニーズや期待を裏切らない、顧客や社会をがっかりさせるような不祥事は出さないという保証である。
 
  しかしJABは、不祥事を起こした組織に再発防止対策をとらせることが認証制度の目的であるとして、不祥事を引き起こすような組織にも登録証が発行されることに対する認証制度の責任を一貫して否定してきた。9月の2つの文書の発表が、JABのこの主張を社会に改めて確認することを狙いとしたものであることは、IAF/ISO共同声明の「登録証が意味しないもの」として記されている苦情や事故が皆無でないとの記述を殊更に強調して和訳していることでも窺われる。まるでJABの予てからの主張が国際的に認められたとして鬼の首を獲ったかの、これみよがしの和訳文発表に見える。信頼性回復に関連する取組みのはずである「有効性審査」の検討でも対応委員会報告書では、どのように審査が変わるのかさえ全く読み取れないほどに抽象的で空虚な、辻褄の合わない論理が展開され、肝心の不祥事との関係への言及を避けている。「有効性審査」が、社会の期待に反するような品質又は環境の事故や不祥事を起こす組織を見分けることを意図して検討されているものでないことは少なくとも間違いない。報告書にある認証制度の広報の推進は、このJABの主張を社会に周知させることが狙いである。
 
  ISO9001/14001の概念では組織の業務の結果は製品である。認証業界の製品は審査業務の結果の規格適合性の判断であり、その判断を表明する登録証である。しかも業界は顧客は組織の顧客ないし社会であると見做している。 従って登録証への社会からの信頼性の低下の実相は、認証業界の製品たる登録証の信頼性という製品品質に顧客が不満足だということである。一方、これが原因のすべてではないにせよ認証業界の製品は目下売行き不振で、登録組織の数は既に頭打ちからじり貧に向かっている。どのような業界でも製品への顧客の不満足で低迷する需要を回復しようとするならまず、顧客のニーズや期待を満たすように製品を改善することに取り組む。しかるに認証業界だけは、不祥事防止に有効な登録証へと顧客満足向上を図る取組みをしようとせずに、ひたすら、その製品が顧客のニーズや期待に応えるものでないという事実を顧客に納得させようとしている。 まさかこれで製品の顧客満足、登録証への信頼が向上するとは思ってはいないのであろうが、とすれば、顧客満足が得られなくとも認証業界の製品は売れると考えているのであろう。なにしろISO9001/14001の認証制度は社会制度であり、悪徳組織を取り締まる認証機関は社会に存在意義を失うことはないからである。警察も犯人を逮捕すればよく、犯罪の多発はその存在意義を高めることに繋がる。
 
 
引用文献 (英語文献の引用日本文及び*印は筆者の和訳)   
(1) 経産省:マネジメントシステム規格認証制度の信頼性確保のためのガイドライン、H20.7.29
(2) MS信頼性ガイドライン対応委員会 報告書、 2009.8.18
(3) ANAB: http://www.anab.org/HTMLFiles/docs/value.pdf
(4) ISO中央事務局: Press releases, Ref.:954, 4 April 2005
(5) European Co-operation for Accreditation, EA-7/04, February 2007
H21.9.10;(作成);  H21.11.24(76 of sub62から移動) 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所