ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
78       迷走を続ける有効性審査論議
     (1) 有効性審査は適合性審査とどう違うのか
 <62-01-78>
   認証機関や審査員の目下の気懸かりは、業界の有効性審査論議の行方である。有効性審査とは相次ぐ認証組織の不祥事で揺らぐ社会の認証制度への信頼を回復するためとして、H19年4月に発表されたJAB見解「マネジメントシステムに係わる認証審査のあり方」の中で取り上げられたのが発端である。それから2年半、様々な有効性審査論議があり見解が発表されているが、審査員が最も知りたいし、知らなければならない事項、つまり、有効性審査のこれまでの審査との違い、とりわけ、どのような審査の手法、審査の判断、審査の結論が有効性審査であるのかについては、議論は迷走を続けている。どの議論もJABが最初に論拠とした認証機関認定基準の国際標準ISO/IEC17021の序文の文言から一歩も離れることはなく、発表される見解は表現が少し違うだけで同じことの繰返しのようであり、発表毎にぶれがあり、修正されたりして、議論は同じ所をぐるぐる回っているだけにも見える。11月の東京と大阪でのJRCA講演会での有効性審査についてのJABの結論とも言うべき説明は、流石にJABの意向に従順な審査員にも不評であったようだ。
 
  この2年半の有効性審査論議を追って、その迷走ぶりを明らかにし、最後に、迷走が続き、今後も結論に至ることのないことが予想される背景を指摘したい。社会の認証制度への関心は冷えきっており、業界の有効性審査論議にはほとんど期待も関心もない。しかし、有効性審査を強制される審査員やその影響を蒙る認証取得組織は無関心ではあり得ない。これらの人々には、有効性審査議論の迷走する様子からその背景を読み取り、認証制度信頼性に何の役に立たないこの論議から自身が被る損失を如何に小さくするかを考えることが大切である。
 
  最初に、有効性審査とは何か、従来の審査と何が違うのかについての、この2年半に発表された見解を順を追ってまとめてみる。
 
@ 適合性審査は不十分、有効性審査が必要*1
まず、これを持ち出したJAB見解では、組織のマネジメントシステムが本来業務と異なる仕組みとして構築、運用されてきたのを認証審査が見逃し助長してきたと断定している。そして、認証制度の信頼確立を示唆しながらISO/IEC17021序文を引用して、審査は「規格要求事項への適合、不適合の確認だけでは不十分」であり、「マネジメントシステムの有効性を審査すること」が必要であると論じている。有効性審査とは何かとの議論はここから始まっている。しかし、認証制度の根幹は適合性評価であり、これについてJABはウェブサイトで「……が、特定の要求事項に適合していること、つまり“適合性”を第三者が保証する」手続きであると説明している。有効性審査を論じるなら必然的にこの適合性評価の原則との折り合いをつけなければならない。有効性審査の議論の目的はここにある。
A 有効性審査を黙殺*2
翌H20年3月のJAB討論会では、認証の最終目標は「マネジメントシステムが規格要求事項を満たしているという信頼を与えること」であり、認証制度は「基準(ISO9001)に照らして適合、不適合の的確な判断をする制度」であるとの見解が出された。有効性審査には言及がなかったことも勘案して、前年のJAB見解の適合性評価の原則に立ち戻った揺り戻しと噂された。
B 適合性審査だけでなく有効性審査が必要*3
ところが、7月の経産省の信頼性回復ガイドラインでは一転、「規格適合性だけ」の判断ではない「有効性審査の徹底」を図らなければならないとなった。
C 有効性審査は適合性審査の一部*4
そして11月のJACBの有効性審査検討報告書で、「適合性審査はマネジメントシステムの目的に適切な有効性を含めるものである」との表現の見解により、有効性審査が適合性審査の一部であることになった。すなわち、JABが根拠としたISO/IEC17021序文記述は「適合性審査で行なうべき基本を示している」とした上で「実体を軽視した適合性審査は形だけの審査で、本当の審査とは言えない」と反省を表明して、有効性審査の意味づけをしている。
D 有効性審査の方が適合性審査より優れている*5
しかし、今年の3月のJRCA機関誌はISMS審査に関連してではあるが、初回認証では適合性評価、時期を追うごとに有効性評価を強めるべきとの見解を掲載している。この見解では、適合性審査も否定されず両審査の共存が認められており、適合性審査よりは有効性審査の方が優れていると位置づけている。
E 有効性審査と逐次審査と合わせたのが適合性審査*6
JABは同月にテーマ「審査を変える」でJAB討論会を開き1年前と打って変わって、有効性審査への変換を主張する見解を明確にした。すなわち、基調講演で従来の適合性審査を「ISO9001要求事項への適合の形式的確認」に過ぎない逐条審査であったと切って捨て、逐条審査という概念をつくり出した。WG1報告では逐条審査に対応するのであろう従来の審査を「規格要求事項の文言に対する適合性審査」だと断じ、「差異(不適合)を指摘する」のが適合性審査、「作られたマネジメントシステムに誤りがあることを指摘する」のが有効性審査であると両審査の違いを明らかにした。しかし一方で、正しい適合性審査とは「ISO9001に適合しているかどうかを見る」審査であり、「規格条項のすべてを満たし、マネジメントシステムが有効に機能している場合」を合格とする審査であるとしており、適合性審査と逐条審査の違いはあいまいである。更に、有効性審査に適合性審査が含まれるのではなく、適合性審査に有効性審査が含まれるとして先のJACB見解を踏襲した。後者については適合性審査が逐条審査と有効性審査とで構成されている図を掲載しており、逐次審査も否定されていない。WG1報告の結論は、認証審査は適合性審査であり、それは逐次審査と有効性審査とを合わせて行なう審査であると言っているように見える。
F 適合性審査は有効性の審査でもあるが、有効性審査が必要*7
今年8月の経産省ガイドライン対応委員会報告では「有効性審査と適合性審査は切り離して扱われるものではない。規格要求事項に適合しているということは有効に機能していることでもある」となった。つまり、2年半前のJAB見解を否定し、規格要求事項への適合性を評価するという適合性評価の原則に戻ったのである。然るに報告書はこれに続けて、「従って、マネジメントシステムの適合性の評価では、マネジメントシステムの有効性を確認しなければならない」と結論づけているからややこしい。これが規格要求事項への適合性だけでなくマネジメントシステムの有効性も評価しなければならないという意味なら、適合性審査と有効性審査の併存論であり、最初のJAB見解への回帰である。先述のJRCA講演会ではこれと同じ結論が、長々とした前置きの後に説明されたが、有効性審査が何かをわかった人はいなかったのではないだろうか。
 
  有効性審査とは何か、適合性審査、或いは、従来の審査と何が違うのかについては、いろいろの見解が発表された。同じようであり、違っているようであり、同じところをぐるぐる回っているようでもある。最後のFも過去の異なる見解との関係を検討することなく、自説を述べているだけであるから、これが業界の結論ということにはならない。有効性審査が必要とは言うが、従来の審査と何が違うのかについては相変わらず正体は霧に包まれ、適合性審査と重ならない姿が見えない。2年半前と何も変わっていない。
 
引用文献 
*1 JAB: 枠灼叺勅獣ムに係わる認証審査のあり方、2007.4.1
*2 JAB: 第14回JAB ISO9001公開討論会資料、2008.3.17
*3 経Y省: 枠灼叺勅獣ム規格認証制度の信頼性確保のためガイドライン、H20.7.29
*4 JACB: ミ会に価値のある有効なQMSの審査のために、2008.11.5
*5上田信男: ISMS審査員への期待、JRCA NEWS、March 2009、p.7-10
*6 JAB: 第15回JAB ISO9001公開討論会資料、2009.3.16
*7 JACB: MS信頼性ガイドライン対応委員会報告書、2009.8.18
 
略称
JAB: 日本適合性認定協会
JACB: 審査登録機関協議会
JRCA: マネジメントシステム審査員評価登録センター
H21.11.27(続編発表のため修正 12.18) 
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