ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
82          迷走を続ける有効性審査論議
          (4)監査の論理を無視した議論が原因
 <62-01-82>
  有効性審査とは何かという2年半の議論は、前報までにまとめたように、なるほど従来の適合性審査では不十分で、有効性審査によって審査はこのように変わり、認証制度はこのように良くなるのだということがわかるところには到底たどりついていない。しかし業界では、昨年8月の経産省ガイドライン対応委員会報告で結論が出されたと考えられているようであり、以降は各認証機関がこれに基づいては有効性審査を行なうのだそうだ。議論がこのように混迷し続けること、それでも有効性審査が何かが明確になったと当事者達が誤解するのは、論点をあいまいにしたままで脈絡のないどんぶり勘定の議論が行なわれていることが原因であり、自然の成り行きである。認証制度の中で登録証を発行するために認証機関が行なう調査活動は日本では適合性審査と呼ばれるが、これは一般の監査の論理と手法に基づく監査活動である。有効性審査の議論が真に効果的で、審査員など関係者の期待に応える明確な結論を出すためには、議論はこの監査の論理に則った体系的なものでなければならない。
 
  一般に監査は、監査の目的のために監査対象事項に関して監査人がその意見を表明する活動であるが、その意見が監査の結論であり、この監査の結論を導くことが監査の目標である。この結論を導くために監査で立証すべき命題は監査要点と呼ばれ(2)、監査人は監査で収集した客観的証拠を所定の基準に照らして判断し、監査要点が満たされているかどうかを確認する。この基準はISO19011規格(3)では監査基準と呼ばれ、監査は監査基準が満たされている程度を判定する活動であると定義されている。それぞれの監査要点が満たされた程度を総合して監査の結論が導かれる。監査基準と判断基準は監査要点の立証のために適当で十分なものでなければならず、監査要点が満たされている程度と監査の結論との間には科学的で合理的な繋がりが確立していなければならない。
 
  監査として最も有名な財務諸表監査では、監査の目的は財務諸表が公正で信頼するに足るものであることを保証することにより投資家など利害関係者の利益を擁護することである(1)。監査の結論として監査員が表明する意見は監査対象の財務諸表が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して適正であるかどうかであり(4)、簡単に言えば粉飾決算など虚偽記載がないかどうかである。この結論を導くために立証すべき監査要点は、取引記録の信頼性、資産と負債の実存性、網羅性及び評価の妥当性、費用と収益の期間帰属性、及び、表示の妥当性などであるとされている(2)。これを立証するために適用される監査基準は所定の企業会計基準であり、収集した客観的証拠によって会計基準に則って間違いなくデータが記録され処理され計算されているかどうかが判断基準である。
 
  これに倣うとISO9001/14001マネジメントシステムの審査では、監査の目的は組織の製品と活動が品質保証/環境管理の点で信頼するに足るものであることを保証することにより顧客など利害関係者の利益を擁護することである。監査の結論として監査員が表明する意見は組織が顧客満足の製品を一貫して供給する能力を有するかどうか、或いは、利害関係者の期待に応えて環境影響を一貫して管理する能力を有するかどうかであり、簡単に言えばとんでもない品質不良や環境事故を出す可能性がないかどうかである。能力を有するとは、経営者にその意志があり、登録証有効期間内は品質/環境マネジメントシステムが機能して、そのような能力が確実に発現されることを意味する。この監査の結論を導くための監査要点は、両規格の記述を引用すると、組織がISO9001/14001規格に従ってマネジメントシステムを確立し、文書化し、履行し、必要により変更し、有効性を継続的に改善しているかどうかである。審査でこれら監査要点を立証するために適用される監査基準は規格要求事項であり、収集した客観的証拠によって規格要求事項が満たされているかどうか、つまり、適合か不適合かの二者択一の判断が判断基準である。認証審査の監査活動を適合性審査と呼ぶのは、監査要点が満たされているかどうかの判定が監査基準に対する適合か不適合かの判断に基づくからである。
 
  審査員は収集した客観的証拠を関係するそれぞれの規格要求事項に照らして適合か不適合の判断をすることによって当該の監査要点が満たされている程度を判定する。そして、すべての監査要点の満たされている程度を総合して、上記のような能力があるかどうかという監査の結論を出す。各監査要点の満たされた程度の判定によって組織が必要な品質保証/環境管理の能力を持つかどうかの結論を導くことができるのは、規格が組織がこのような能力を持ち、発現するための要件を規定しているからである。日本では要求事項と誤訳されているが、規格の規定は要件のことであり、この要件は規格作成者が過去の日本企業を中心とする世界の成功企業の体験に照らして体系化した論理に基づいている。規格要求事項への適合性から判定される上記の各監査要点が満たされている程度と組織が品質保証/環境管理の能力を持ち発揮できる程度に関する監査の結論とは、科学的で実証された関係があるのである。
 
  JAB提唱の有効性審査が適合性審査とどのように異なり、或いは、どのような審査であるのかを議論するなら、議論は有効性審査という監査の目的、審査の目標ないし審査の結論、監査要点、監査基準、判断基準のそれぞれを、適合性審査と場合と対比して明確にすることでなければならない。また、明確にした有効性審査が従来の適合性審査では不十分であったとされる事項をこのように解決できるということを説明しなければならない。しかしながら、前報までの2年半の間の有効性論議のまとめについて言えば、議論でこのような監査の論理が意識された形跡はない。議論に関して明確なことは、議論が専らISO/IEC17021の序文a),b),c)の条文に依拠していることであり、議論が導いた見解が、有効性審査がマネジメントシステムの有効性を審査することだということ、及び、有効性審査では○○を評価する、有効性審査とは○○を見ることだという種類の見解が中心であるあることである。監査の論理に当てはめると前者の見解は監査の結論に関係し、後者の見解は監査要点に関係すると考えられるから、議論がこの2項目に限られていることになる。しかもこの2項目に関してもそれぞれについて適合性審査と有効性審査ではこのように違うというような見解は示されてない。また、どの議論の見解も他の報告や発表の見解との違いを検討し、だから自身の見解の方が正当なのだという説明もない。ただ、こうだと言うだけの見解の表明の結論ばかりである。
 
  このような論理不在の空虚な議論が様々な関係者により繰り返し行なわれて、同じようにも見え、或いは、異なることが明らかな様々な見解が脈絡なく出されてきたというのが、この2年半の有効性審査論議の実態である。認証業界の製品は組織がとんでもない品質不良や環境事故を出す可能性はないという保証であり、製品実現の活動が審査である。認証業界の製品は論理、思考、判断に基づく製品実現の活動の論理的帰結であり、普通の産業界の製品と違って目に見えたり、感じたりできる実体はない。しかし、製品が不良かどうかは組織の品質不良/環境事故の発生の有無という事実によって誰の目にも明らかになる。認証業界は科学的な論理と思考によって生きているのであり、何事につけ大切にしなければならないのは論理と思考であるはずである。この認証業界がどんぶり勘定の議論を続けるだけでなく、これで有効性審査が明確になったとする論理性のない安易な思考にはあきれる他はない。
 
引用文献
(1) 藤野正純:システム監査、http://web.kyoto-inet.or.jp/people/fujino/edpaudit.html
(2) 友杉芳正:スタンダード監査論、中央経済社、H17.12.25; p.78
(3) ISO19011:3.1項
(4) 金融庁企業会計審議会:監査基準、第一、初設定S25.7
H22.1.19 
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