ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
85       迷走を続ける有効性審査論議
           (6) まやかしの議論と結論
 <62-01-85>
  2年間迷走を続けた有効性審査論議は、信頼回復の道筋が明らかにされないまま、狙いや方法論の具体性のない有効性審査の徹底という結論で決着した。議論が迷走するのは議論に論理というものがないからであり、訳のわからないままでも議論が決着するのは業界の権威主義のなせる技である。しかし、この根底には、このような議論となり、このような決着となる必然がある。社会の期待する認証組織による品質/環境事故、不祥事の抑止を目指した議論では、初めからなかったからである。
 
  有効性審査なるものはJABが意図を明確にせずに持ち出した概念*1であるが、経産省ガイドライン*2-2で認証制度の信頼回復の手段となった。すなわち、認証取得組織の相次ぐ品質/環境事故や不祥事のために認証制度や登録証に対する社会の信頼が低下していると言う事実認識から、認証業界がどのように低下した信頼を回復するかの対応を示したものがこのガイドラインである*2-1。従って、この手段としての有効性審査は、品質/環境事故や不祥事を起こすような組織を見極めることが可能な審査方法であるというのが理屈である。これまでの適合性審査ではそのような組織を見落としてきたが、有効性審査では事故や不祥事を起こす可能性を見極め、その可能性がなくなるまで組織に是正処置を繰り返させるか、或いは、登録証を発行しないか、発行済みの登録証の効力を停止するかの処置をとる。従って、登録取得組織が社会の期待に反する事故、不祥事を発生させることはなくなり、これを継続することで社会の認証制度や登録証に対する不信が解消することになる。
 
  ところが、JABは、認証制度や登録証は組織の品質/環境事故や不祥事のないことを保証するものではないとする立場をとっている。これは2000年前後から欧米で問題となった最初の認証制度の信頼性問題の際のJABの対応の考え方*3として記録に残っているだけでなく、この度の信頼性問題への対応に関するここ数年のどのISO大会の基調講演資料*4*5-1でも明記されている。同時に、講演資料には認証制度の限界と称して、制度には事故や不祥事を防ぐ機能はないという主張が婉曲的に、しかし、明確に記されている*5-2*5-3。すなわち、登録証は事故や不祥事を起こした組織に再発防止処置をとらせることに意義があるのであって、認証制度が事故や不祥事を抑止するという社会の期待は間違っているという主張である。経産省ガイドラインもこの考えに立っていることは、信頼性回復に認定機関がとるべき対応として有効性審査の徹底と共に認証制度の積極的広報が挙げられていることで明らかである*2-3。しかし、この主張をこの時期にあからさまに述べることは、認証制度が社会から完全にそっぽを向かれることに繋がるから出来ない。だから、後になって嘘つき呼ばわりを避けることができる程度に婉曲に述べている。
 
  2007年春に始まり昨年秋まで続けられてきた有効性審査論議は、この前提に立って行なわれてきた。従って、有効性審査を、マネジメントシステムが有効に機能していることを見る審査だと言いながら、有効に機能していることと事故や不祥事を起こさないこととの関係については立ち入ることが出来ない。マネジメントシステムが有効に機能していることを具体的に表現しようとすれば、考えれば考えるほど、組織が事故や不祥事を出さないことだということになってしまう。これは言えないし、これが事故や不祥事を出さないことではないマネジメントシステムの有効性なのだというような理屈は作りようがない。最終結論で、マネジメントシステムの有効性を「構築された仕組みによって期待される結果を出すことができる状態にある」ことし、「期待される結果」と事故や不祥事を出さないこととの関係には口をふさいだままであるのは、それを言うことができないからである。
 
  さらに、JABは有効性審査が必要とする根拠*1-2にJISQ17021:2007の序文の記述*6を挙げ、とりわけ、 c)項(有効に実施されている)が有効性審査を意味するものとしていた。以降の有効性審査論議はすべてこの文言の解釈が中心である。しかし、この規格は適合性評価制度の下のマネジメントシステム認証機関に対する要件を定めたものであるから、その序文の記述が認証審査はこうでなければならないという意味だとするならば、それは適合性審査のあり方を記述していることになる。序文の意図ではa),b),c)を合わせたものが適合性審査であるから、c)項の文言について考えれば考えるほど、適合性審査とは異なる有効性審査など存在しないということになり、認証審査とは適合性審査であるということにしかならない。従って、最終結論では「有効性審査は適合性審査に含まれる」となった。しかし、適合性審査をすればよいというのでは従来と変わらないから、信頼回復という建前に照らして理屈がつかない。だから、「従って、有効性審査をしなければならない」という日本語にならない結論となった。
 
  信頼回復と称しながら社会の期待に応えるつもりのない有効性審査論議が続けられ、幕が引かれた。議論も結論も社会の期待に応えるふりをしただけのまやかしである。この見方は、有効性審査論議に参加していない者の憶測に過ぎないかもしれない。しかし、JABや業界が、社会の期待する事故や不祥事の抑止は認証制度の目的でないとか、そのような機能はないとする考えに立っていることは間違いない。この2年半の有効性審査論議がこの上に立っての議論であり、また、事故や不祥事を発生させる可能性のある組織を見極めることを目的としては行なわれてこなかったという事実認識を否定する材料は見当たらない。その最終結論の有効性審査が事故や不祥事の発生防止に繋がると明言されていないことも事実である。この有効性審査論議と最終結論は、社会の期待に真っ直ぐに向き合っていない。これを信頼回復の追求であるとだ主張するのなら、まやかしと言われてもしかたないのではないか。
 
 
引用
*1 JAB: マネジメントシステムに係わる認証審査のあり方、2007.4.13
*1-1 規格の規定要求事項への適合、不適合の確認だけでは不十分です。明示した方針、目標に向けてMSが有効に実施され、一貫して達成できるかどうかのMSの有効性を審査することが求められています。
*1-2 ISO/IEC17021は、MSの有効性の審査に係わる考え方、並びに、要求事項として、次のように規定しております。⇒筆者註釈: この文章に続いて、JISQ17021:2007の序文*6が引用され、記述されている。
 
*2 経産省: マネジメントシステム規格認証制度の信頼性確保のためのガイドライン、2008.7.29
*2-1 ガイドラインの背景: 最近は、MS認証を取得した企業において不祥事が頻発し、MS認証制度がこうした不祥事を抑止できていない点が問題視されるなど、社会のMS認証に対する信頼感は高まっているとは言い難い状況にある。…このような問題意識の下、MS認証制度の信頼性を確保するため、認定機関、認証機関をはじめとする関係者は、このガイドラインに留意してMS認証制度の制度設計及び運用を行なうべきである。
*2-2 有効性審査の徹底: 認定機関は、認証機関の認定にあたって有効性審査の実績や能力を厳格に審査し、認証を受けた組織のパフォーマンスの向上を確実にすること(3.(3))。
*2-3 MS認証制度の積極的広報: 認定機関は、経産省や認定機関と連携しつつ、認証を活用する側や認証を受けた組織に対して制度の基本的な仕組み、認定・認証の効用や限界に関する説明、有効性審査や規格導入のベストプラクティス等の広報を強化すること(3.(4))。
 
*3 JAB: MSS適合性評価制度の信頼性の維持と向上、2004.7.28
マネジメントシステム審査登録は改善することに意味がある(製品認証の概念と異なる)。問題発生の原因をQMSの不具合として指摘し、是正処置を当該組織にとらせること。その不具合あるいは是正処置次第で登録の一時停止等の処置を決める。
 
*4 飯塚悦功: ISO9001認証を考える、良い認証制度とは?、 第14回JAB/ISO9001公開討論会、2008.3.17
基準(ISO9001)に照らし、適合・不適合の的確な判断をする制度。
認証(登録)組織に疑義が生じたら調査・審査し、登録停止等の的確な処置を迅速に行なう制度
 
*5 飯塚悦功: 審査を変える〜QMS認証の価値向上〜、第15回JAB/ISO9001公開討論会、2009.3.16
5-1 制度の信頼性 (今、制度の信頼性が問われている)
基準(ISO9001)に照らし、適合・不適合の的確な判断をする制度
認証(登録)組織に疑義が生じたら調査・審査し、登録停止等の的確な処置を迅速に行なう制度
5-2 2つの期待 (QMS認証制度に対する理解不足も含まれているが…….)
組織: ISO9001認証を通して…………
社会: ISO9001認証されているのだから *公正な組織、悪いことはしない組織なんだろう。 *良い組織、
強い組織なんだろう。 *仕組みが整っているのだから、つまらないミスはしない、きちっとした組織
なんだろう。
5-3制度の枠内で社会・組織の期待に応える (制度の枠内の審査とは?)
ISO9001要求事項への適合性評価
客観的証拠に基づく評価
コンサルティング禁止

*6 JISQ17021:2007 適合性評価−マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項、序文
  マネジメントシステムの認証は、認証された組織のマネジメントシステムが次に示す通りであることの、第三者による実証を提供する。
   a) 規定要求事項に適合している。
   b) 明示した方針及び目標を一貫して達成できる。
   c) 有効に実施されている。
マネジメントシステムの認証のような適合性評価は、それによって、組織、その顧客及び利害関係者に価値を与える。
H22.3.21 
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