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86        推測:有効性審査論議の裏側
               (1) 気楽な稼業           
 <62-01-86>
−−−発表文、公表報告書や雑誌記事などを元に推測される業界内部事情に関する筆者の見方を、
仮想業界人の口からよもやま話風に語らせます。−−−

   
  こも3年間業界をあげて繰り広げられてきた有効性審査論議にもかかわらず、認証業界には組織の不祥事を防止する意思は全くない。認証機関は、組織のマネジメントシステムの品質を審査するのであり、製品の品質や環境影響の大きさを審査するのではないからである。製品や環境影響で不祥事を出すのは組織の責任である。登録証を不祥事の発生の可能性のない保証だと社会が見るのは間違っている。恐れ多くて言えないがJAB(日本適合性認定協会)はもっとこれを社会にわからせるようにしてもらわなければ困る。
 
  そもそも不祥事防止が認証制度の目的でないという業界の理解は、JABの考えと指導に基づいている。世間では、会社の製品検査が不良品を検出するために行なわれ、公認会計士の財務諸表監査が粉飾決算に繋がる会計処理の不具合を検出するために行なわれるのと同様、認証審査は不祥事の発生に繋がる不適合を検出するために行なわれていると思っている。登録証についても、製品の検査票が不良品でないことの証明であり、財務諸表の監査報告書が粉飾決算ではないことの証明であるのと同様に、不祥事を起こさない組織であるという信頼の証明だと思ってしまう。しかし、それは違うのだ。JABはそんなことを言ってない。不祥事を起こした組織にその不適合の再発防止処置をとらせることに認証制度の意義があるのである。大きな声では言えないが、JABの論理に則ると、登録証は「この組織が不祥事を起こしたら、再発防止対策をとらせます」という認証機関の約束の表明なのである。
 
  それでも社会から追及されると、捜査権がないので組織が隠した場合は見つけることはできないとか、抜き取り調査なので全部の不適合は見つけることはできないというような言い訳をしてしまう。しかし、この言い訳が軽薄だと言われれば、確かにそうだ。不祥事が組織ぐるみの意図的な隠蔽のために見落とした不適合が原因だったとする具体的な証拠はないし、或いは、認証審査で抜き取り検査だから欠陥品を出荷してもやむを得ないというような回答があれば、審査員は不適合指摘をするに違いない。それに、この言い訳には、例えば日本振興銀行の金融庁検査忌避行為に対する刑事捜査というような騙した組織への怒りが含まれていないのも事実である。それでもこんな言い訳を口走るのは、やはり今の認証審査でよいのかという気持ちが心の底にあるからかもしれない。
 
  しかも考えてみるとこの言い訳では、認証審査の目的が不祥事の防止だと認めていることにもなる。JABが、不祥事が発生すればその原因となった不適合を見つけて再発防止をさせなければならないと言うのも、規格不適合があれば不祥事が起きる可能性があると言っているのと同じだ。つまり、規格に適合なら組織は不祥事を起こすことはなく、不適合があるから不祥事を起こすのである。これは規格の有効性の問題である。JABが認めているのだから、認証機関もここまでは認める必要がある。
 
  JABは認証機関の認定の基準に、認証審査では「意図したアウトプットを達成する組織のマネジメントシステムの能力に重大な疑いを生じさせるような状況」がないことを確認しなければならないと規定している。これは、国際規格ISO/IEC17021(マネジメントシステム認証機関に対する要件)の規定をそのまま採用したものである。JABは、この「状況」と不祥事発生の可能性が疑われる状況との関係について何も説明していない。虎の尾を踏むことになってはならないので、認証機関も例の有効性審査議論において、この規定には全く触れなかった。いずれにせよJABは、不祥事防止は認証制度の目的でないと言っている。だからこの「状況」が不祥事に繋がる恐れのある状況の意味であるかどうかはどうでもよい。JABの考えは、例え認証審査が不祥事発生に結びつく可能性のある不適合を見つけるために行なうものだとしても、すべてのそのような不適合を見つけるまでの必要はないということであると解釈できる。見つけることができた不適合だけを組織に指摘すればよいのである。見落とした不適合によって不祥事が発生したら、認証機関は臨時審査を行い、不祥事発生の原因となった不適合を見つけて、その再発防止処置を組織に要求すればよい。それがJABから課せられた認証機関の仕事なのである。
 
  JAB管理下の認証制度では実質的に、認証審査では不適合を見つければよし、見つけなくてもよしである。不祥事が出ることは問題ではないのだから、認証審査の結果の良し悪しが問題となるような事態が事後に起きることはちょっと想像できない。認証機関は認証結果や登録証発行行為に関して何の責任を問われる心配もない。審査さえすれば認証機関にはしっかりとお金が入ってくる。乱立する認証機関のいずれも、不祥事発生に繋がる不適合を完全に見つける能力のないことをよく知っている。そんなつもりでこの業界に参入したのではない。それに、実際の認証業務においては、どの組織も認証機関の要求には文句を言わずひたすら平身低頭である。認証審査の現場でも審査員は丁重に応対され、その判断や所見はありがたく拝聴され、受け入れられている。認証を受ける組織も、今の認証審査で満足している。マスコミが事あるごとに騒ぐが、認証制度とは何かを知らないからである。審査員への批判の声も耳にするが、審査の現場を知らない人たちの、おもしろおかしの噂話が大半である。
 
  不祥事発生防止が認証機関の責任だとなれば、世間からの苦情に対応しなければならなくなる。悪くすると訴訟にまで発展するかもしれない。このリスクを背負ったとしても、認証組織の数がどれ程増えるというものでもない。それなのに肝心のJABが世間に押されて、不祥事防止に関連して有効性審査をしなければならないと言い出した。どのように理屈をつけるか、この3年間一生懸命考えた。最後にJABが「マネジメントシステムが規格の要求事項に適合しているということは、有効に機能していることでもある。だから審査では有効性を確認しなければならない」と結論を出してくれた。その結論の「システムの有効性」とは「構築された仕組みによって期待される結果を出すことができる状態にある」ことだそうだ。何のことかわからないと審査員から不満の声を聞くが、少なくとも不祥事という言葉はどこにもない。もうこれからは不祥事のことは考えなくて済む。ひと安心だ。
 
  このような認証事業が気楽な稼業だと言われるなら、JABのお蔭である。こんな甘い商売を認め、社会の批判から守ってくれるJABには感謝の言葉しかない。JABは、不祥事発生組織に登録証を発行した認証機関への罰則の創設を含むIAFの制度改革案も潰してくれた。非JAB認証機関が安売りで日本の認証市場を荒らしているが、これはJABの権威と収益の問題でもあるから何とか抑えてくれるであろう。JABには認定審査であれこれ細かいことを要求されるが、そんなことは大したことではない。JAB結論の「適合性審査では有効性を確認しなければならない」に沿うように何らかの形をつけて、JABの社会に対する顔をつぶすことのないようがんばっていこう。
H22.6.27 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所