ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
87       推測:有効性審査論議の裏側
              (2) それぞれの思惑
             
 <62-01-87>
−−−発表文、公表報告書や雑誌記事などを元に推測される業界内部事情に関する筆者の見方を、
仮想業界人の口からよもやま話風に語らせます。−−−
 

(1) 認証審査での虚偽説明に対する制裁処置
  日本振興銀行の金融庁検査忌避事件で創業者の前会長、現在の社長を初め経営幹部5人が逮捕された。容疑は昨年6月の金融庁の立ち入り検査に対して業務内容隠蔽のため電子メールを削除し、9月には検査官にメール欠落について虚偽の説明をしたこととされる。ISO9001/14001認証組織の不祥事を認証審査で見抜けない理由のひとつに、組織の虚偽説明や事実の隠蔽があるというのが認証機関の主張である。この指摘を受けてJABは昨年、このような組織への対応の指針を、「故意に虚偽説明を行なっていた事実が判明した認証組織に対する認証機関による処置−推奨事項」として定め、公表した。これによると、虚偽説明をしたことが後に何らかの方法や形で判明した場合に、認証機関がこの組織の登録を一時停止、又は、取り消しし、更に、一年程度の期間の再申請を受け付けないようにすることがあってもよいという。これでは不祥事を発生させた組織に対して必要により認証機関がとらなければならないと認証機関認定基準が定める制裁処置と大差なく、しかも「推奨事項」だから認証機関がこれを実践する必要はない。認証機関を意図して騙して登録証を入手する組織があっては認証制度は成り立たない。だから、認証制度での故意の虚偽説明は銀行検査の場合と同様に重罪である。それにしては、このJABの推奨事項は如何にも甘いように見える。
 
(2) 認証機関の想い
  しかしこれは認証機関にとってはありがたい。不祥事の問題もそうであるが、審査を厳しくすると顧客、つまり、登録を取得、維持する組織が逃げるというのが認証制度の現実である。大体、大企業用の複雑なマネジメントシステムを中小企業が構築、運用することは容易ではない。今でも不適合は数多く見つかるが、全部指摘しては登録証を発行できないので、ほとんどを観察事項とか改善事項という形にして不適合指摘の数を絞り、更に、是正処置をとりやすい不適合を選ぶというような操作が、認証審査の現場では広く行なわれている。更に審査を厳しくして、是正処置要求を増やしても認証組織は対応できない。中小企業の多くは、認証制度から脱落していき、新たに認証取得を図ることに二の足を踏むことになる。これでは認証機関は生きていけない。不祥事を出した組織への制裁や虚偽説明をした組織への制裁処置が、登録取得の増加に繋がるか、減少に繋がるかどちらかと言えば、後者であることに間違いない。審査をし、登録証を発行してナンボの認証機関としては、例え騙されたとしても認証組織に厳しく当たったり、或いは、登録証を剥奪するようなことはやりたくない。金融庁はお役所だから正義の味方振ることができるのだ。
 
(3) JABの想い
  認証機関にとって、JABがこのような甘い制裁処置を決め、それも強制ではない推奨事項としてくれたことは実にありがたい。だけど、JABが認証機関のことを慮ってこのような甘い処置を決めてくれたと喜ぶのは早計である。確かにJABは認証機関からのお金で成り立っており、認証機関はお客さんであり、認証機関とは運命共同体である。しかし、この甘い処置はこのようなJABの思惑や認証機関の期待に沿った結果ではない。JABの真の狙いは認証組織、つまり、企業の保護にある。
 
  JABの認識では、日本にはTQCがあり、その結果で世界に冠たる品質競争力を持ったのであり、ISO9001のような西洋文明は不要である。ISO9001規格も認証制度も日本には役に立たない。本質は、日本企業を欧州市場から締め出そうとする西欧の陰謀である。ISO14001も日本のような省エネルギー先進国には必要はない。それなのに西欧は遅れた自分たちと同列の環境改善運動を日本に押しつけ、認証制度によって自分達の方が環境に貢献しているかの評価を作り上げようとしている。下手をすると、日本企業が役に立たない西欧流を強制され、輸出可否を西欧の認証機関によって自在に判断されることになり、日本企業の競争力をずたずたにされてしまう。実際、輸出企業が登録証を取得し始め、この需要を見込んで西欧の認証機関が進出し、西欧の認定機関の管理下で設立される認証機関が現れた。これは大変と、経団連の主導の下に35の産業団体が資金を出して設立されたのがJABである。つまりJABは認証組織が母体であり、認証組織と日本経済を西欧の陰謀から守ることである。認証組織に不利なことは基本的にやらない。
 
  不祥事発生により打撃を受けるのは他ならぬ当の認証組織である。認証組織の代表であるJABも不祥事を遺憾とするはずである。だからこそ、認証制度上の制裁を課することによってこれに追い打ちをかけるようなことは絶対にできないのである。JABは10年近く前までは、不祥事を発生させた組織を安易に登録一時停止処置に付するなとさえ認証機関に警告していた。最近の不祥事多発問題でも、問題を調査して必要なら一時停止等の処置をするのが認証制度のルールであると世間に説明するだけであり、認証機関に一時停止せよとは言っていない。不祥事を発生させた組織への制裁が甘いとして認証機関がJABから指摘され、又は、制裁を受けた話は聞かない。虚偽説明組織への甘い制裁基準も、この一環である。不祥事を出した結果で登録証を一時停止されたら、その間の企業は取引に支障を来し、欧州輸出は出来なくなる。まして、登録取り消しや、虚偽説明だからと言って永久追放などの処置をとられたら、その企業はおしまいになり兼ねない。これでは西欧の思うつぼである。
 
  JABとしても認証審査で不祥事発生を防止できるに越したことはない。しかし、認証組織に圧力をかけて厳しく審査させると、登録証を取得し、維持できない組織が出てくることは間違いない。これでは国際的取引の仲間に入れてもらえない企業が増えるということであるから、JABとしては困る。JABには不祥事発生防止が手段であるなら、認証制度の信頼性の回復に取り組むことはできない。突き詰めて考えるとJABには認証制度の発展に関心がないのである。社会からの不信で認証制度が世界的に瓦解するならこんなに結構なことはない。それは西欧の日本叩きの失敗を意味する。JABは晴れて役割を終え、要員は外圧撃退の英雄として関連団体や出身企業に迎えられる。JABが認証制度の守護者であり、認証制度の発展を目的として認証機関を管理していると考えるなどとんでもないことだ。JABには、認証制度の健全な維持発展の外観を整えることのみが関心事であり、この口実として認証機関の活動に時には難癖のような様々な注文をつけてくるのである。
 
(3) 業界権威層の想い
  西欧の陰謀から日本経済を守るという愛国主義は、ISO規格作成に参画する国内委員会メンバーなど業界権威層の認識と行動規範でもある。これは多分にTQCや省エネルギー・公害対策技術の実績を無視されたとの想いとそれへの照れ隠しと関連する。業界権威層は基本的に規格も認証制度も日本では役立たつものではないという立場である。規格と認証制度は西欧の陰謀であり、日本には自分たちの関与するもっと良いものがある。認証審査で不祥事発生を防止して本当に登録証の信頼性が回復してしまったら、困ったことになる。ISO9001/14001規格と認証制度が日本でも役にたつものとして世間に認められてしまう訳であり、これでは権威が保たれない。業界権威層が社会の期待に逆らってまで、認証制度が不祥事防止と無関係と率先して主張し、有効性審査論議に冷淡な背景はここにある。しかし、その役割と権威は認証制度に依存するから、規格と認証制度の瓦解を望むものではない。この点では業界権威層は認証機関と利害が近くなる。規格の意図を無視した形式的な規格解釈や規格の狙いの実現のために組織がやらなければならないことを軽減する甘い規格解釈は、結果的に登録組織件数を増やし、認証制度を規模的に繁栄させるのを支えている。
 
(4) 登録証信頼回復への道
  業界権威層、JAB、認証機関のいずれもが、それぞれの思惑から登録証の信頼性回復を望んでいない。肝心の認証組織もそのために審査が厳しくなり、罰則が厳しくなることは望んでいない。いわゆる不祥事と認証制度の信頼性回復の問題についてはすべての当事者の思惑が一致している。業界内部から、不祥事の芽を摘み取る認証審査でなければならないと要求されたり、なぜ不祥事発生組織に登録証を発行したのかと追及されるような状況にはなることはない。認証機関としては安心だ。社会の求めるような認証制度や登録証にはならないが、社会が認証機関にお金を払ってくれるのではない。それに、人の噂も七十五日である。登録件数が減り、格安を売り物にした非JABの認証機関に市場を侵食されて、目の前が火の車である。規格や認証制度が瓦解するとしてもずっと遠い先の話である。
H22.7.22 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所